第13話 冬至祭・上
それからの数日は慌ただしいものでした。日々の訓練として体を動かし、クリスたちと買い物に出かけ、冬至祭の贈り物を仕上げ、学校から出された課題を進め……気が付くともう冬至祭の日となってしまいました。
朝には2mはある大きなモミの木がホールの中央に設置されました。下級生たちの手で飾りがつけられていきます。リボンやモールが巻かれ、雪を模した綿が乗せられ、紙で作られた薔薇や、硝子の球、鈴などが取り付けられていきました。 調理担当の生徒たちは杖型の飴を飾っていきます。
付与魔術専攻の上級生たちにとっては見せ場でしたわね。イーリーさんを筆頭に、〈光〉の術式をたくさんの色で固定化し、硝子球の中に入れていきました。幻想的ですの。
最後はミーアさんが脚立に乗って、星を先端に飾ると、みなさん歓声を上げていましたわ。
わたくしも柊とドライフラワーで花輪を何個も作って寮中に飾りましたのよ。
そしてツリーの下にはわたくしたち贈り物担当と寮長のミセス・ロビンソンからの贈り物が山となって積まれていて、カラフルな包装とリボンで華やかです。うきうきとした気分になりますね。
ただ、わたくしの言えた義理でもありませんが魔力の込められた品物が多すぎて、魔素が濃くなっているのがちょっと怪しい雰囲気を醸し出していますわね。
贈り物が、えーと6人が用意して各50人分ですので300個ですからね。
「ねえねえ、アレクサ。ちょっといい?」
クリスが玄関で手招きしています。
「はいはい、どうしましたの」
と、表に出ると冬至祭の飾りつけを担当していた生徒たちの大半が外に集まっていました。みなさん、制服の上からコートとマフラーで、もこもことしておりますの。
「みなさん暖かそうな格好ですわね」
今日は雲一つない晴天でしたの。もちろん寒いのですが、12月の末にしては暖かいくらいかとも思います。
西の空は夕焼けで赤く染まり、東の空には1の月、中天には3の月が薄く輝いています。 2の月はまだ昇っていませんわね。
「突然ですがアレクサ!」
クリスが言います。
「はい」
「これから寒くします」
「なんと。寒くなるではなく、寒くするのですか」
寒く……してどうするのですかね?
「ホール見てもらえれば分かるけど、みんな冬至祭のツリーの飾りつけ好きすぎて、飾りつけ担当が追い出されてるの」
「あー、まあ毎年そうですわよね」
ツリー見るとみなさんテンション上がっちゃいますからね。仕方ないですわね。
「そこで、夏ごろにみんなで会議して考えました。そこで、ここにいるみんなでちょっと頑張って大きな規模の飾りつけをしようかなと」
わたくしはきょろきょろとあたりを見渡します。
「なにも用意されていませんわ」
クリスはどや顔で自分の頭を指さしました。
「ここに用意したのよ」
「あー、魔法ですの?」
「そう、冬至祭と言えば雪だよね!
という訳で、今からみんなで雪を降らせます」
「気象系術式ですの?なんとまあ」
いや、これは驚きましたの。天候とか規模の大きい術式は難しいんですのよ?しかも〈降雪〉ですからね。水霊系上位の氷雪系ですし、風霊系も知識が必要ですわよね。
「いや、さすがに、〈降雪〉を使うのはわたしたちだと難しすぎるので発想を変えたのよ」
というと、クリスは後ろにいる子を順に指さしていきます。
「温度を下げます」
「わ、わたしも温度を下げます!」
「水蒸気を作ります」
「上昇気流をつくります」
「〈雲〉の術式担当」
「〈雨乞い〉の術式を使うわ」
わたくしはぱちぱちと手を叩きます。
「素晴らしいですわ。難易度の低い術式で代用して分業しますのね。考えましたわね。……あれ、クリスは何をするんですの?」
「全体の進捗の調整と、あと計算したんだけど魔力が足りないので、その受け渡しなのよ」
「ああ、なるほど。確かに魔力は不足するでしょうねえ。……ん、でもクリスが入ったところでそこまで大きくは変わらないのでは?」
クリスの魔力量は10代の魔術師としては平均的な部類ですからね。
「何言ってるの、アレクサの魔力をわたしがみんなに渡すのよ?」
んー?
「聞いてないですわよ?」
「今言ったのよ」
クリスがぽふぽふと手を叩きます。すると玄関から椅子とひざ掛けや毛布と机を持った下級生たちが現れ、玄関の脇にセッティングしていきます。
最後に茶器と可愛らしい焼き菓子を持った子が机の横にスタンバイしました。1年生のサリアですね。金髪のおかっぱが可愛らしい子なんですが、今はちょっと緊張した様子ですの。
「ア、アレクサ先輩、わたしとお茶していただけませんか!」
クリスの方を見やります。
「……くっ、卑怯ですの」
「せっかく弱点があるんだから責めていかないとね。『同郷の民を守る。特に地位の低い者を慈しみ、見捨てず、招きは断らない』だっけ。“誓い”立てるのはいいけど、同郷人がみんな知ってるほど有名なのはどうかと思うわ」
サリアはわたくし以来、3年ぶりにアイルランドからサウスフォードに入学した子なんですのよね。しかも平民であり、特待生として通っている神童ですのよ。
わたくしは大きくため息をつきました。
「“誓い”ではなくて“誓約”ですわ。まあ似たようなものですけど」
わたくしはサリアの元へと近づくと、片手で頭を掴みます。
「サーリーアー……、ばらしましたわね」
「ひぃぃぃ」
「まあ、クリスに口八丁で丸め込まれたのだろうとは想像つきますわ。別にポートラッシュなら誰でも知っていることですけどね。もうこちらでは言わないこと」
「申し訳ありませんー……」
わたくしはサリアの頭から手を放し、ぽんぽんと軽くたたくと椅子に座りました。
「給仕してくださいな。お茶に招いてくれたんでしょう?」
「はいっ!」
サリアはにっこりと笑うと紅茶を入れ始めました。
クリスたちはわたくしの後ろで魔法を使い始めます。結局わたくしは雪が降りだすまで1時間近く、外で魔力タンクをやらされていましたの。
やれやれですわ。
さて、みなさん雪が降ってきたことに気が付き、外に飛び出してきてひとしきりはしゃいだ後は、部屋に入っていよいよ冬至祭のパーティーですの。
ホールの壁では暖炉で火が暖かく部屋を照らしています。
燭台には蝋燭が灯され、卓上には冬至祭りのごちそうが並んでいますの。巨大な猪の腿肉、七面鳥の照り焼き、牛乳粥などのごちそうにシャンパンが立ち並び、最後に丸太を模したチョコレートケーキが運ばれてくると、みなさん歓声をあげました。
料理担当の子たちが音を立ててシャンパンを開栓し、グラスに注いでまわりますの。
皆にいきわたると、監督官のベリンダさんの音頭を取ります。
「乾杯!」
「「「乾杯!」」」
冬至祭の夕食です!
今日はわたくしも部屋からクロを連れての参加です。金魚鉢に入れて、卓上に置かせてもらっていますの。
ナタリーが「クロさんにもプレゼントです!」と言いながら金魚鉢の首の部分に赤と緑のリボンをしていき、クロも『〔領域作成〕』と言って、金魚鉢の中にマリンスノーを降らせていますの。
下級生の子たちが「アレクサ先輩すごーい!どうやってやるんですか?」と聞いてくるんですが、どうやったらできるんですのこれ……。
でも、だんだん皆さんクロの見た目にも慣れてきましたね。好意的なのはナタリーくらいですが、ネガティブな反応をされることは少なくなってきた気がしますの。
ふふふ、クロの友達を増やそう作戦ですからね。
料理は素敵でしたわ。見た目もいかにもパーティーという感じでしたし、味の方も本当に素晴らしかった。
食後は机をどかして、ミーアさんのギターによる伴奏で、みなさんで『きよしこの夜』などのキャロルを歌ったりしましたわ。
昔は、冬至祭のことをクリスマスといって、キリスト教という宗教のお祭りだったのですよね。
キリスト教は失伝していますが、歌などの文化はわたくしたちの生活に強く残っていますの。
この歌も2番以降の歌詞は失われていますが、1番の歌詞は昔から伝わるものですし、2番以降も新しい歌詞が作られて、歌い継がれているのですよね。
その後は食堂がボールルームになり、ダンスパーティーになりましたの。ワルツやトロットを踊りましたわ。なぜかわたくしとベリンダさんとミーアさんは、男性パートばかり踊らされていた気がしますの。解せぬ……。
ミセスですか?さすがにもう歳で踊れないと言って、〈騒霊〉を多重使用して一人で楽器を5つくらい演奏していましたわ。
途中、ミーアさんが随分とアップテンポな曲も入れましたけど、最後は『私を月まで連れてって』でしめましたわ。
ラスト・パートナーはナタリーでしたわね。冬至祭を心から楽しんでいるのか、蕩けるような笑顔が印象的でしたわ。
さて、いよいよ最後に私も用意した、贈り物の時間ですの!
まあ、ここまで書けば遠未来地球感出てくるのではなかろうか!
現代の曲が遠い未来にも残っている設定とかキリスト教が断絶してる設定です。
それはそれとして、
めりくり(I Wish You A Merry Christmas)!
でもこの作品だとクリスマスじゃなくて冬至祭(Yule)だからね。
めりゆる(I Wish You A Merry Yuletide)!
ξ˚⊿˚)ξ <めりゆるですの!




