表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第5章 119年3月~義兄の魂を奪還に
127/148

第118話:大乱闘ぶん殴り兄妹

 Kill’em All!と言いはしましたが、いくつか攻撃力を強化する術式を外してますの。実際殺す気はありませんからね。

 構えも拳は不要ですかね。開手で構え、広場の中央で義兄様に背を互いに預けるような形で立ちます。

 ふふ、この安心感は素敵ですわ。



 まずはこちらに駆け寄ってきた男性の拳を払って懐に潜り込み、手のひらで脇から掬い上げるようにかちあげて体を崩し、逆の手で押して転ばせます。

 その後ろから、襲い掛かろうとしていたのが転んだ男を避けようとしてバランスを崩したところに踏み込んで突き押し、吹き飛ばしましたの。

 ふーむ。



「どすこーい、と言いたくなりますわね」



 せっかくなので次に来たのも張り手で倒しますの。どすこいどすこい。

 義兄様も平手でぶん殴ったり、ベルト掴んで放り投げたりですわね。



「囲め囲め!」「魔術使え!」「使い魔呼び出せ!」



 と周囲では声が上がっています。

 体高3mほどの巨大な黒山羊が召喚されて突っ込んできましたが、義兄様はその角を掴み、咆哮すると横倒しに投げ捨てました。

 〈火球〉の魔法が飛んでくるのをいつぞやの婚約破棄の際のようにクロが打ち消します。というか、大規模な術式を詠唱されているのを全て阻害してくれてますわね。

 わたくしは接近戦に近づいてくる男たちを片っぱしから吹き飛ばし続けます。中には優れた体術の使い手もいますの。正直、わたくしより技術面では優れているものも多いですわ。わたくしは魔力で身体能力も知覚も大幅に強化してますから、そもそもの出力で上回ってしまうんですけども。



「はは、その程度ですのハイランダーの末裔たち!」



 じつはわたくし、今回喧嘩売って乱闘おこしているのはわざとなんですけども……。

 ちらりと義兄様と周囲に目をやります。

 わたくしにも義兄様にも弱体化系統の魔術が飛んできますのよ。主にこちらに殴りかかってきてはいない観客たちから。

 〈麻痺(Paralyze)〉、〈盲目(Blind)〉、〈疲労(Fatigue)〉……。

 わたくしは魔力が高く、そうそう弱体化は効きませんし、たとえかかったとしても直ぐに反系統の強化魔術か治癒魔術で打ち消すことができますの。

 例えば〈疲労〉は〈活力〉で打ち消せますわ。

 問題は義兄様。義兄様に弱体魔術が有効かを期待(・・・・・・)していたのですが、ダメですわね。効いてませんの。


――パン!


 そのとき銃声が響きました。

 喧騒が鎮まります。

 わたくしの顔の横、縦ロールが一部解け、銃弾を摘むように受け止めていますの。



(むー、えだげになっちゃう)


「後でお手入れしますのよ」



 さらに数発の銃声。髪が広がり、同じように弾を止めていきます。



「ふふん、無粋ですわね」


「効かない……だと」



 ダネルの配下でしょうか?彼の横に立つ男の手に硝煙の上がる拳銃。



「〈矢返し〉で反射しなかったのは慈悲ですのよ!」



 と言って手首を叩きながら懐に入り、銃を取り落とさせつつ鳩尾に掌底を叩き込みます。

 ゲロ撒き散らしつつ吹き飛ばれました。ばっちい。

 以前学校でのハミシュとの決闘から、弱体化術式と体術及び銃がハイランドの戦術とわかってますからね!当然銃の警戒はしてましたのよ!

 静かになっていて乱闘が中断されていますの。わたくしはダネルの前に立ちます。



「ダネル・ファーガス。あなたはこの場にいるハイランドの住民の中でガヴァンお祖父様の次に魔力が高い。お祖父様はご高齢ですし、もしかするとこの集落で最も強いのかも知れません」



 ちらりとお祖父様とハミシュの方を見ます。



「じじいのがまだ全然強いと思うが、少なくとも3指には入ると思うぜ」



 ふむ、まあそうですかね。やはりお祖父様はかなり力を隠しておられるのですか。わたくしは頷き、言葉を続けます。



「ですが、勇と義がありませんの。わたくしになら勝てるかもと思っても、義兄様には勝てないと思って代理を立てたり、決闘の約束を破るようなものに信頼はできませんのよ」


「わ、わたしは……ただハイランドの存続のために。お前を血族に迎えようと」



 ダネルが呆然と呟きます。

 まあ、そうなんでしょうけどね。この集落も子供が多くは見えませんし、ハイランダーの血族を残すのに、わたしという若い娘、それも外部の血が半分入り、魔力が多いという娘は喉から手が出るほど欲しい存在なのかもしれません。お祖父様も最初はそう思っていたのでしょうしね。

 ガヴァンお祖父様が声をかけます。



「ダネルよ。それに皆よ。よく聞け。

 儂はハイランダーを継承して生きよと良く伝えてきたかと思う。

 それは単に血を残せという意味ではない。父祖より受け継ぎしこの土地を守れ、あるいは栄えさせよという意味でもない。

 それをどうも上手く伝えられていなかったようだ。すまぬ」



 お祖父様が頭を下げられ、その声に皆が耳を傾けます。



「それは生き様であり、魂の問題なのだ。わかるか」



 何人かの人とわたくしは頷き、お祖父様が目を細めます。



「ディアドリウの娘、アレクサンドラ。ハイランドに住んだことがないお主がわかるか」


「ええ」


「教えてくれ、ディアドリウはお主にハイランダーを何と伝えた」



 わたくしは幼い頃、お母様が教えてくれた昔話を思い起こします。



「昔、遠い昔。世界が滅びかけた時。世界の人々は滅びに抗える強大な力を持つ者や組織の元に身を寄せ合うしかなかった。例えば魔術都市ライブラのように。

 ですが世界のあらゆる場所で。僅かに、自らの住居を捨てずに生き残った者達がいて、その1つ、ロイヤルスコットランド連隊の第四大隊、ハイランダーズを中核とした民はこの地に残り続けた。

 同盟暦以前よりここハイランドに住まう、まつろわぬ民、戦士の末裔。

 自らの命運を自身の力によって切り開くもの。それがハイランダーの魂と教わりましたの」



 お祖父様はゆっくりと大きく頷かれ、天を見上げました。



「なあ、アレクサンドラ。お主は立派なハイランダーの末裔よ。

 幸いなるかな。ハイランダーの魂はアイルランドにしっかりと伝わっている」


「光栄ですの」


「ダネル、お前はアレクサンドラと戦え、胸を貸して貰え。アレクサンドラ、手数だが汝の全力を見せてやって貰えぬか?そしてそれで手打ちとしてくれ」



 全力……なるほど。わたくしとミセスの決闘をクルーアッハ通じて覗いてましたわね?いいでしょう。



 そういう訳で改めて広場の中央にわたくしとダネルが向かい合います。わたくしの斜め後方にはクロが漂っています。

 ダネルはわたくしを見下げることなく、真っ直ぐこちらを見つめてきますの。



「ダネル・ファーガス、参る」



 魔力が噴出します。火山を思わせるような火と地の力、特に地ですかね。雄大な山が襲いかかってくるかのような圧力を発します。

 ふふん、やればできるじゃないですの。



「アレクサンドラ・フラウ・ポートラッシュ。……解放」



 周囲の景色が蒼く染まり広がっていきますの。その蒼がダネルの魔力とぶつかって景色を歪め、ダネルの魔力を呑み込むように覆っていき、さらに広がって周囲で見守る人々の多くが圧に膝をつきます。

 クロが皆にも伝わるように思念を放ちました。



『“泳がぬ海の王”たる我、クロはここに宣言する。彼女、アレクサンドラこそ我が主にして我が巫女、“地上にありし深淵の姫”なり。――[権能貸与]』


「[神域展開]」



 嵐が鎮まります。

 お祖父様が呟きました。



「……これほどか」


「Go Ahead!」



 わたくしはにやりと笑ってダネルに突撃しました。

 え、勝敗?無論わたくしが勝ちましたわよ。

 あの時のように9人のわたくしのコピーと共に全員で一発ずつ殴って差し上げましたからね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
設定集や裏話もあるんですよ! 「なまこ×どりる」設定集はこちらから! i360194
― 新着の感想 ―
[良い点] 『大乱闘ぶん殴り兄妹』 こんな面白いタイトルを見逃していたとは! やはり読み直してみるもんですな! 9人で一発ずつ! [一言] もしかしてこの時って『大相撲令嬢』を読まれた時ですか!?…
[一言] アレクサンドラ&レオナルド 参戦! ↓必殺技で突撃しそう
[気になる点] ◯しちゃえばいいのに こんなクズども、お嬢様とお義兄様で皆◯しにできますよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ