第106話:死闘ですの!
ユージーンたちが手にする剣や予備の剣を置いていきます。
「あなたたち帰り道で魔族と戦う分は取っておきますのよ!」
その場に残ったのはわたくしと義兄様、ディストゥラハリ、そしてユージーンとイアンとヤーヴォ、そして大量の剣。
「わたくしは逃げなさいと言いましたわよ」
「せめて換えの剣が届くまではお手伝いさせていただこうかと。何、なんなら肉壁にでもなんでも使って下せえや」
「ヤーヴォ、あなたは?」
「ユージーン様と同じです!」
わたくしはイアン副長の方に視線をやりました。
「その斬り合いに入れるほどの力はありませんので。せめて、ヤーヴォだけでも護ろうかと」
ふむ。わたくしは頷きます。
「我の前に好んで立ちたがる人間がいるとは驚きだな」
ディストゥラハリがそう言って剣をゆっくりと振りかぶり、それが振り下ろされるより前にユージーンと義兄様が斬りかかります。
義兄様は両手で剣を握り、ディストゥラハリが右手一本で握る魔剣と鍔迫り合いをし、ユージーンが魔族の左半身に突きを放ちましたの。
普通であれば後退して避けざるを得ないところですが、ディストゥラハリは左手の指でユージーンの突きを弾いていきます。……いや腕前とかなんとかいう前に肉体の強度がおかしいですの。ユージーンはあれで岩くらいは剣で叩き斬れる程の豪剣ですのよ。
義兄様の持つ剣がまた斬り飛ばされます。
そこに剣が飛んでいきました。〈念動〉能力!クロの方を見ると違うと思念が飛んできます。……ヤーヴォ君ですのね。義兄様は換えの剣を空中で握り、再び鍔迫り合いに持ち込みます。
……ふーむ。
『戦いに参加しないのですか?』
クロから思念です。
「僅かでも魔力回復に時間を割きたいですの。それと、わたくし実は義兄様やユージーンと共闘した事はあまりありませんのよね。連携に不安が」
そうなんですのよね。わたくしは義兄様と2人がかりで1体にかかるというような戦い方練習したことありませんのよねぇ。あの剣撃の邪魔をせずに入るのが難しいですの。
幾度か義兄様の剣がダメになり、ヤーヴォ君が剣を換装しようとした時でした。ディストゥラハリが何かを投擲する動作を取ります。
向かう先はヤーヴォ君、イアン副長がその前に立ち塞がって盾を構え……吹き飛ばされました。
「イアン様!」
小石か何かを投擲したのでしょう。それでいて盾が割れる程の衝撃。イアン副長自身は大丈夫そうですが、それによりヤーヴォ君の意識がそれ、替えの剣を義兄様が受け取るタイミングが合わず、そしてそれはディストゥラハリの持つ魔剣が自由になったという意味で……。
「スティング!」(いえすまむ!)
全員の身体にわたくしの髪を巻き付け引き寄せ、ディストゥラハリの剣の軌道となるその線上から退かせます。
魔剣が振るわれました。わたくしの身体の横を通る明確な死。そして轟音と衝撃波。大きく吹き飛ばされます。
剣は広場を断ち割り、その背後にあった家屋を斬り、轟音と共に倒壊させていきますの。
わたくしたちは瓦礫に埋まり倒れました。
「はっ!」
魔力を放出させて瓦礫を吹き飛ばします。路上に唾を吐き、口の中の砂埃を落としました。
「みなさん大丈夫ですの?死んでたら返事なさい」
……よし。
「グルル……」
「……死んでたら……返事できません」
「ヤーヴォ、戦う意志があれば死んでても返事くらいできますのよ」
わたくしはディストゥラハリの方を見ます。
「ふむ、避けたか」
彼は再び剣を振り上げます。竜族の膂力、剣撃の一瞬のみ放出された濃密な魔力、そして恐らくかの魔剣の本領。
……ヤバいですのよ。
剣が振り下ろされました。
「〈短距離瞬間転移〉!」
わたくしは剣撃の方向から2mほど右に避けます。5人分移動するとなると結構重いっ!特に義兄様大きいですし、ユージーンたちの甲冑の重量もかかりますからね。魔力消費がばかになりませんの。
背後の街並みが吹き飛ばされていきます。ユージーンとイアン副長が義兄様に自身の剣を渡し、義兄様は二振りの剣を以てディストゥラハリに斬りかかりました。
「グアァァッ!」
「二刀か……悪くはないがそれでは一撃が軽いな」
剣が交差し閃きます。
「クロ、何か有効な手段はありませんの?以前お父様の騎竜のザナッドに勝利していましたが」
『あれは結界の中での戦いですからな。あの魔族を結界の中で水責めにしようにも、その結界ごと斬られるでしょう。なんとか間接的に介入してみましょう』
クロが魔力を集中させます。わたくしはその間にユージーンたちのもとへ。
「レオ義兄様の補助をしますの!遠隔で介入する手段あれば使用を!」
「「「イエスマム!」」」
ユージーンとイアン副長は懐から何やら取り出します。
『我、クロは水底の守護者なり。字に含まれる底という言葉もまた我が権能の及ぶ範囲、汝が運勢は底である。[運命改竄]』
クロが思念にて詠唱を行いました。運勢や運命に介入する術式……もとい神術ですの!?
義兄様が双剣でディストゥラハリの魔剣を抑え込んでいます。呼吸の音、今!
「〈戦声〉!」
「グオオオオォォォォ!」
義兄様の叫び声の声量を数倍に拡大します。それこそ竜の咆哮のような音量がディストゥラハリに叩きつけられ、そこにイアン副長が〈閃光〉の呪符を、ユージーンが〈爆裂火球〉の込められた魔石を取り出し、ヤーヴォ君がそれを〈念動〉で操作し、直接ディストゥラハリの身体に叩きつけましたの。轟音と閃光と爆発。クロが咄嗟に水の壁を義兄様の前に展開し、爆炎から義兄様を保護します。
(やー!)
わたくしのアホ毛が爆炎の中に突っ込み、ディストゥラハリの足元に巻き付き彼の身体を引き摺り倒します。
「ぬうっ!」
咄嗟の連携が上手く決まっている……クロが彼の運勢を悪化させているからですの?
「殺って!レオ義兄様!」
義兄様が双剣を振り下ろしました。
……………………。
閃光と爆炎が収まった後、義兄様は剣を振り下ろした体勢で、完全に地面の上のディストゥラハリに剣が突き刺さっているように見えました。
「人間どもよ、なかなかやる」
ディストゥラハリの声が響きます。
「だが我は言ったぞ。尋常の武器では役者不足とな」
義兄様が剣を持ち上げます。その剣は半ばより断ち切られて……いや違いますわね。先端が黒く泡立ち溶け落ちていますの。
わたくしは舌打ちします。
「瘴気、毒、酸、熱……触れたものそのものを殺し壊す身体ですの?」
「それも言ったであろう。我が力を振るえば周囲の同胞とて死ぬと」
義兄様が飛び退き、ディストゥラハリはむくりと起き上がりましたの。
彼の服の腹には義兄様が撃ち込んだ事による穴があき、首元には剣の跡が残っています。ですが血も出ておらず傷にはなっていませんの。
地面に吹き飛んでいた魔剣が引き寄せられ、再び彼の手に収まります。
そして今までは完全に隠匿されていた魔力が、瘴気が漏れ出してきましたの。濃厚なる毒と死の気配。
拙いですわね……。
「さて、では終わりにしようか」
その時わたくしの脳内に声が響きました。
『お姉様!準備できました!』
「〈物質招来〉!」
わたくしは虚空に右手をやると、術式を発動させます。
姿が見えて無くともナタリーの座標は分かりますの。わたくしの右手に現実か錯覚か彼女の柔らかい手が触れた感触、そして右手の上に硬く冷たい無機物が置かれた感触。
そして右腕を振るうと、わたくしの右手には一本の巨大な大剣が握られていましたの。




