第102話:ベルファスト到着ですの!
女性陣は割と元気そうですわね!
色々と話して情報交換をしていきますの。
んー、まあ元気そうではありますが、それでもちょっと歩き方がおかしいのがいますわよね。まあ、軽い治癒の魔術使えるのは何人かいるはずなので、彼女たちは何とかするでしょう。
わたくしはイアン副長を呼びます。
「調子はいかがですか?肉体的・精神的に」
「問題ありません。あー……昨夜はご配慮ありがとうございます」
わたくしは軽く片手を上げることでそれへの答えとします。
ふむ、イアン副長は普段からお疲れ気味な表情をされていますが……まあそんなに問題はなさそうですかね?
「今日は午前中は休息とし、早めに昼食。昼過ぎに出発としますの」
「はっ」
「ナタリーを通じてポートラッシュ領軍への昼の定時報告をしたら即座に出発できるよう準備を。わたくしはそれまで仮眠を取りますので、11時に起こしてくださいませ」
という訳でしばらく仮眠ですの。ぐぅ……。
ヤーヴォ君に起こされて食事をしてから、ナタリーを通じての定時報告、そして移動開始ですの。
わたくしは全員に〈進軍〉と〈活力〉の魔術をかけると、食料を放出してからになった荷馬車に毛布を敷いてもらい、そこに乗り込みます。
えーと、ヤーヴォ君にしましょうか。荷車へと呼び出します。
「お呼びでしょうか、アレクサンドラ閣下!」
「ヤーヴォ、ちょっと特別任務ですの。荷馬車に乗り込みなさい」
「は、はい!」
「えー、アレクサンドラ様ー、手出さないでくださいよ!」
トリシャですの。周りの女たちが笑い、その言葉にヤーヴォ君が頬を赤く染めます。
「出しませんのよ!」
「え、えっとなんの御用でしょうか」
荷馬車にヤーヴォ君が乗り込んできて、ブーツを脱ぎます。
前方でイアン副長の声が聞こえ、隊列が進み始めました。がたがたと馬車が揺れます。
もう、トリシャが余計なことを言うからヤーヴォ君の腰が引けてますのよ。彼はおっかなびっくり毛布の上に腰を下ろしました。
わたくしは馬車に積んだ毛布の山に寄りかかり、ぐらぐらと身を揺らします。
クロは荷馬車の真ん中でふわふわと金魚鉢ごと浮いていますの。
「ふむ、貴殿の任務はわたくしを寝かさないことですの」
「寝かさない……ですか」
ヤーヴォ君に説明していきます。わたくしは一晩中夜警で起きていて、午前中は仮眠を取りましたが、まだ眠いということ。
ここで座って身体を少しでも休めておきたいですの。
普段のわたくしならこれくらいの肉体疲労は問題ないのですが……。
「眠るわけにはいかないのでしょうか」
「わたくしが寝たら魔術の維持が切れてしまいますのよ」
「あ……」
そう、魔術を使いっぱなしなんですのよね。〈進軍〉と〈活力〉の魔術を切らせるわけにはいきませんの。寝るとさすがに魔力供給が切れて魔術が打ち消されてしまいますので。
だから夜番はしないつもりだったのですが……まあ仕方ありません。
ふあぁ……。あくびが出ます。
「という訳で寝ないようにお話をしていきましょう。ああ、そうです。ヤーヴォ、あなた童貞を捨てましたの?」
「うぇっ!?……えっと、あ、あう」
「ああ、夜の話では無く戦場の話ですの」
「アレクサンドラ閣下ひどいです!」
あははと笑います。夜の話はトリシャから聞いていますもの。抱き合って夜を過ごし、将来の話はしたけど一線は越えていないと。
ヤーヴォ君はまじめさんですからね。従者という立場で責任を負えないという話でしょう。
「で、ヤーヴォいかがでしたか?」
「いえ、先日の戦いではイアン副長の盾持ちとして動いていたため、戦場にはいましたが武器を振る機会はありませんでした」
ふむ、やはり。わたくしは頷きます。
「ヤーヴォ、あなたは一度前に立つべきですの。騎士イアンの従者を続けるにせよ、文官となるにしろ、新たな騎士として立つにせよ。ここで魔族を殺しておきなさい」
ヤーヴォ君は顔を緊張に強張らせました。
「というかですね。あなたはやっている仕事に立場が追いついていませんのよね。あなた役職がまだ従者でしょう」
ヤーヴォ君が頷きます。彼は今14歳でしたかね、ちょうど年齢的にも昇進させる頃合いですのよね。
「確かにライブラにいた頃もセーラムにいた頃も従騎士にあがる機会が無かったのはわかりますが、騎士団のお仕事を役人より理解し、戦場で仕える騎士のための盾持ちまでしているのですから。
そこまで有能な人物を従者にしておくほどポートラッシュには人材に余裕がありませんのよ?」
「か、過分なご評価ありがとうございます!」
「ここで箔をつけておきなさいな。悪魔殺しの箔を」
「なぜアレクサンドラ閣下はわたしを気にかけていただけるのですか?」
「決まってますのよ。ここの集団でわたくしより年下なのあなただけですもの。
それにね、あなただけは立場が違うと思ってますの」
「立場とは……?」
ヤーヴォ君は前半は納得したように頷き、首を傾げます。
ふーむ、自分でも説明し辛いんですけども。
「ヘンな話なんですけどね、翠獅子騎士団って好むと好まざるに関わらず、ここしか居場所がなかった者達ですの。あなたのお仕えするイアン副長も含めて。
でもあなただけは違う。あなたは自らの意志でここにいますのよ」
「……イアン様の従者として付いてきているつもりだったので、自らの意志というほどのものでもない気がしますが?
あ、ここが嫌と言う訳ではないですよ!」
わたくしは頷きます。
「でも、あなたはまだ従者なのです。イアン副長が第六騎士団に入ったとき、別の騎士に鞍替えするという選択肢はあったはずですし、恐らくイアン副長からもご両親や他の方からもそういう話はあったでしょう。
翠獅子騎士団が結成され、アイルランドに行くとなったときもそういう話はあったのでは?」
「はい、ありました」
「あなたの有能さならライブラの官僚なども狙えるはずです。……ついでに言えば、あなたの実家の身分は高いのではと思っています」
「ご慧眼お見それします。……分かりますか」
「ヤーヴォは所作が美しいのですよ。従者はそれを上から習う立場なのですが、まわりはアレですからね。イアン副長より上位の貴族の家系かなと」
「あー……まぁ。でもイアン副長にはご恩がありますので。離れる気はないんですよ。ここが、わたしの居場所です」
ヤーヴォ君ははにかんだように微笑みます。
…………ブロマンス!
わたくしは頷き、ポケットからトリフォイル、三つ葉を出して彼に渡しました。
「御守りですの。戦場では手にしていなさい」
とまあそんな感じで話してなんとか夕方まで寝ずに進軍。その日以降は特に大きなトラブルはなく進んで行きましたの。
ああ、もちろん戦闘がないという意味ではありませんのよ。戦闘自体は毎日何度も発生しましたけど、大物が現れたり、組織だった戦いというものが無かったという意味ですの。
翠獅子騎士団のみなさん、動きに芯が通りましたわね。今までの訓練が実戦を通じて花開いたか、愛する者を得たからか。見違えるようですの。
そうしてとうとうベルファストが見える位置まで到着いたしましたの。
ここはベルファストの街より北に5km程、ケイブヒルの丘の上。ここをねぐらとしていた魔獣、ワイバーンの群れを滅ぼし、布陣します。
西暦時代にはここにベルファスト城なる美しい城が建っていたと言いますが、今はその面影はありません。一面の草叢の中、外壁の一部が地面からはえていたり、砂色の煉瓦の破片が地面に散らばっているのみです。
わたくしは丘の南側へと移動します。
「義兄様、ついにきましたのよ」
「グルルルル」
高さ100m程の丘からはベルファストの街並みを一望できますの。
左手側、東には美しく青きベルファスト湾。正面、南には魔族の砦と化した我らが故郷、ベルファスト。
「お母様……」
義兄様がわたくしの頭に手を置きます。わたくしは目を閉じて頭を下げ、振り返りました。後ろには今回の義勇軍として付いてきた女性たちのうち、元ベルファスト脱出組だった者たちが前に出ています。
目を赤く腫らす者、頬に涙を零す者。
わたくしは彼女たちを一人一人抱きしめてから全員に告げます。
「明日、取り返しますのよ」
「「「はい閣下!!!」」」
ξ˚⊿˚)ξ <噛ませとしてのバトルシーンすら省略されるワイバーンさん……。




