花籠ちりかの使命
私よりも小さい子を見かけると、なんだか悲しくなる。
(こんなに、小さいのに……)
逆に、私よりも大きい人を見かけると、羨ましくなる。
(私よりも長く生きられたのが、羨ましい)
同じ年代の子を見かけると、自分の過去を思い出す。
(——ああ、あのぐらいの時だった)
でも、最後に考えることは同じ。
(現世に帰さなきゃ。この人に、後悔はさせない)
今回やって来たのは、小さな男の子。
「ねえ、どうしてお姉さんは車掌さんになったの?」
「——知りたい?」
「知りたい!」
無邪気に笑ってそう言う男の子。
私は目を閉じる。
この話は、この子にとっては難しいことかもしれない。怖いことかもしれない。
でも、話そう。
一つ深呼吸して過去を思えば、私はすぐに高校一年生に戻る。
「そうだね。少し、昔話をしようか——」
「私がまだ、高校一年生だった時の話だよ」
「お姉さん、高校生なの? いいなあ。僕はまだ、小学校3年生だよ」
「そうなんだ。小学校3年生なら、最後まで私の話を聞けるね?」
「うん!」
男の子が元気よく返事したのを聞いて、私は続ける。
「私はその日、電車の線路に落し物をしたの。それで、もうすぐ電車が来るって分かってたのに、拾うために線路に降りちゃったの」
「危ないじゃん! だめだよお姉さん!」
「そうだよね。私もその時の自分に言いたい。だめだよ、そんなことしたらって。だけどね……私、電車に轢かれちゃったの」
「えっ⁉︎」
男の子は、目を丸くする。
「それでね、いつのまにか電車に乗っていたんだ。この電車にね」
「この、電車に? おんなじ、電車に?」
男の子は、食い入るように私を見ている。
「そう。それでね、そのまま私、花畑まで行っちゃったんだ。この電車で」
「お姉さん……死んじゃったの?」
私は何も言わずに、うなづいた。
「この電車に乗ると、死んじゃうの?」
「……そうだよ」
がしりと強い力で、腕を掴まれた。
「嫌だよ!僕は……僕はまだ死にたくない! もっと長く生きていたいんだよ!」
ぼろぼろと両目から涙をこぼしている。
生きたいという思いが、力がそこにはあった。
「大丈夫。そのために私はここにいるの」
私は男の子を安心させようとして、言い聞かせる。そして、ふと思いついて、
「ほら、最後まで私の話を聞けるんじゃなかったの?」
私は冗談ぽく男の子に言った。
男の子は涙を荒っぽく拭いて、叫んだ。
「聞ける。聞けるよ!」
その姿が可愛らしくて、おもわず笑ってしまう。
「それじゃ、続けるね」
「私は、花畑で初めて、死んだこととこの電車から降りる方法があることを知ったの。だから私はこの電車の車掌になった。ここに乗って来た人に、降りる方法を教えるために」
私は、男の子の目を真剣に見つめた。
「この電車は回葬電車。電車の事故で死にかけた人が乗る電車。行き先は花畑。そこに着く前に、どうして事故に遭ったのかを思い出せれば、もっと長く生きられるのよ」
男の子は少し考えた。頑張って、思い出そうとしていた。
そして、思い出した。
「思い出したよ! 僕もお姉さんとおんなじだったんだ。宝物を落として、拾おうとして、轢かれたんだ……!」
「そうなの? 一緒だね。でももう大丈夫だよ。これで、もっと長く生きていられるからね」
私は安心させるように男の子に言う。
『次は、浜間です』
運転手の聞きなれた声。
「浜間で、事故に遭ったの?」
「うん。家の最寄駅だよ」
帰る先は、事故に遭った駅。
そこで強く祈るのだ。もっと生きていたい、と。
そうすれば、まだまだ生きていける。
「そっかそっか。じゃあ、これから浜間に帰ろうか」
「うん!」
その元気な声を聞きながら、私はいつものようにミサンガをつけてあげる。
「これ、なあに?」
「お守りのミサンガだよ。もう二度とここにくることがないようにっていう、おまじない」
本当はただの糸で作ったものだから、なんの効果もない。だけど今のところ、このミサンガをつけた人が電車に乗ってきたのを見たことがない。
ちゃんとお守りに、なっているのかな。
男の子は浜間で降りていった。
「ありがとう、お姉さん! 僕、生きるよ! お姉さんの分まで生きるからね!」
その言葉が、とても嬉しかった。




