Outroduction
俺は今も、回葬電車に乗っている。運転手として。
——おや。また死に近い魂が乗って来たぞ。今回は花畑に着くまで15分といったところか。
車内放送をするために、車内放送用のマイクに手を伸ばした。そして、放送マイクの押しボタンスイッチを押す。
「この電車は、死の国の手前、花畑行きです。花畑には、15分後に到着致します。この電車は、回り葬る電車と書いて、回葬電車です。もし現世に戻られたい場合は、花畑に着く前に、どのような人身事故に遭ったのかを思い出してください。なお、死の国に行くことを望まれる方は、その旨を声に出してお教えください。皆様のご理解とご協力をよろしくお願い致します」
スイッチから、手を離す。
窓の外をふと見ると、暗闇の中で光り輝く馬車が見えた。それを引くのは、純白の天馬。今頃、あの馬車の中でも、御者が魂に向かって話しているのだろうか。あの馬車が死の国に向かっているということを。今の俺のように。
不意に御者がこちらを向いて、手を挙げた。俺も手を挙げる。
「お互い、頑張ろうな」
そう、小声で呟いて。
隣にいた同僚は、もうここにはいない。
彼女はいない。あのひとつの魂はもう、この世界のどこにも存在しないのだ。
リック様が、消滅させてしまったから。
あの時のことは、忘れない。
乗客のふりをしてリック様がちりかに会いに来た——ちりかを強制的に死の国送りにしようとした、その時のことを。
リック様とちりかのいる車両の隣から、そっと覗き見をし、聞き耳を立てた、その時にあったことを。その出来事を。
『——交換条件だ』
あの時、何度も食い下がるちりかに、リック様はそう言った。
『この話が終わったら魂を消す。この大鎌で、強制的に。つまりそれは、二度と生まれ変わることがないことを意味する』
それを聞いた途端、ちりかの表情が強ばったのが分かった。
『……では、その代わりに……何を約束してくださるのですか?』
そう問うたちりかに、リック様はひとつ深呼吸をして、告げた。
『回葬電車に誰かが乗って来たらこの電車がどのようなものなのかを教えるアナウンスを入れさせよう。その時、どうすれば現世に戻れるかも教え、死の国に逝く選択肢も提示する。回葬電車だけではない。他の魂を運ぶ乗り物全てでアナウンスは入ることとする』
それを聞いた瞬間、ちりかはハッとしたような顔をした。
『——本当ですか』
『私はリック。最上位の死神だ。嘘などついても私の名に傷が付くだけだ。それに、私は嘘は好かん』
リック様は髑髏の仮面を外し、
『私が嘘をついているように見えるか』
ぼそり、と言った。
その目を見たちりかは、首を振る。
『——どうする?』
リック様はちりかの目をじっと見つめ、尋ねた。
『——分かりました』
少しの間の後、ちりかははっきりと答えた。
リック様はうなづくと、大鎌を振り上げる。
『——すまなかった』
リック様がそう言ってそれを振り下ろした時には、ちりかは消えていた。
そして、俺は確かに見ていた。
ちりかの最期の表情はとても穏やかな笑顔だったこと、リック様の表情が本当に申し訳なさそうだったことを。
それ以来、お客様が乗って来た時にはあのアナウンスを入れるようにしている。そうするようにとリック様から直々に言われたのだ。そして、他の乗り物でも俺と同じように指示が出たらしいと、聡美から噂を聞いた。
花籠ちりかは、もういない。
だけど、彼女の想いは残ったのだろうと思う。運転手によるアナウンスという形で。
——おや、お客様はどうやら人身事故に遭った理由を思い出したらしい。そして、現世に戻ることを望んでいる。
——よし。
ゆっくり方向転換をして、現世へと向かう。
「次は、川上です」
そう一言、車内アナウンスを入れて。




