大鎌と光の糸
私は、信じられない思いでそれを見ていた。気づかぬうちにローブのフードを被り、髑髏の仮面をつけていたその少年——陸くんを。
その姿は、よくある子供向きの怖い本に出てくる死神の挿絵そっくりだった。
すっくと陸くんは立ち上がる。胸に手を当て、そのあと一礼するなり、はっきりと言った。
「私の名はリック。最上位の死神である」
その声はさっきまでの幼い声とは違う。若くても私と同年代ぐらいの声だ。
私はあっけにとられながらも、胸に手を当てて、一礼した。陸くん——いや、リックさんがしたように。
「——チリカに会うために、ここに来た。どうやら私から隠れて車掌をしている者がいるらしいと聞いて」
——そうか。
死神なら……しかもそれが、最上位の死神なら、私が『死の国にいなければならない』ことを知っていてもおかしくないのかもしれない。そして、私が死の国に行くことなくここで車掌を続けているから……そうか。だからさっきはあんなことを言ったのか。『僕に黙って車掌をやってるなんて』——つまり、最上位の死神である、リックさんに黙って車掌をしているなんて、『勇気あるよね』なんてことを。
リックさんはふっと右手を挙げた。
「そしてこれからどうなるかは……分かっているな」
その右手には、緩やかな黒い炎が舞っていた。そしてその炎が消えた時……
そこには、大鎌が出現していた。
それを死神様が一振りすれば、全てが無かったことになるのだと思った。勘が、第六感と呼ばれるであろうそれが、そう言っている。
きっと私は、死の国に強制的に送られるだらう。もしかしたら、もう完全に私というものは消えてしまうのかもしれない。
死神様は大鎌を両手で持ち直した。鎌を構え、振り上げ、ゆっくりと私に向かって振り下ろそうとする。その動作が全て、酷くゆっくりに見えた。
(運転手さん、聡美さん……)
思わず、目をつぶってしまう。
——パチン!
甲高い音が聞こえ、目を開ける。
足につけていた糸が、聡美さんがつけてくれていた糸が、切れていた。
「——そうか。光の糸か」
死神様は驚きつつも、納得がいったような声で言い、うなづいた。
一方私は、訳が分からなかった。ただ、聡美さんが私を守ってくれたのだと感じた。
死神様は再び大鎌を持ち直す。
「もう光の糸の守護はない。これで最期だ」
そして、ゆっくりと振り上げたのだ。
「——待って!」
振り下ろされるその直前。
私は叫んでいた。
私は肩からかけている鞄の中に片手を突っ込んでいる。鞄の中には、聡美さんからもらったミサンガ用の糸。完成しているミサンガもあるし、ただの糸もある。でもそんなことは関係ない。きっと、私の足についていたものと同じ。私を守ってくれるはずだ。
それを握りしめ、心の中でつぶやいた。
聡美さん、少しだけ力を貸してください。




