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回葬電車の車掌録  作者: 花籠ちりか
17/21

事情聴取

「行ってらっしゃい!」

 うちは手を振って回葬電車を見送った。

 ついさっき、回葬電車の運転手さんとちりかさんが休憩のためにここ(花畑)にやって来て、今、また仕事に出かける2人を見送ったところだった。

「——さてと」

 うちは川の見張りを続けることにしよう。川の渡し守は、案外忙しいのだ。


「サトミ、久しぶりだな」

「!」

 不意に耳に飛び込んで来た声に、鳥肌が立つ。

 振り返った先にいたのは、間違いない、あの方だ。

「——リック様」

 うちが仕えていると言っても過言ではない、最上位の死神だった。手に髑髏の仮面を持ってはいるが、つけてはいない。黒いローブのフードは被りっぱなし。これがリック様のいつもの姿だった。

「こちらこそお久しぶりです」

 うちは胸に手を当てて、礼をする。死神と会った時の礼儀だ。うちは微笑んでみせる。リック様も最初は笑っていたが、突然、表情を消した。

「……お前に訊きたいことがある」

 突然真剣みを帯びる、リック様の声。

 それはまるで、冷たい鋼のよう。

「……はい」

 嫌な予感しかしない。

「回葬電車に車掌がいるらしいと聞いた……」

 ——まさか。

「……それは、本当か?」

 ——やっぱり。

 リック様に嘘をつくことは出来ない。車掌がいることを隠していたことも、本当は許されないこと。


 ——ごめんね、ちりかさん。


「——はい。たしかに存在しています」

「……そうか。今、どこにいる?」

「回葬電車の……中に」

 リック様はそれを聞くと、うちに背を向けた。

「今から回葬電車に行く。でもその前に、訊きたい」

 リック様が振り返ると同時に、その周りを暗い炎が取り巻いた、ように見えた。振り向いたその目はどこまでも黒く——暗く、底なしの闇だった。

「どうして、隠していた?」

 その言葉は、うちを崖っぷちに追い詰めた。

 ——ああ、怒っているのだな、と理解するのに時間はかからなかった。

 逃げ出したかった。出来ないと知っていても。


「——彼女の言葉が」

 ——あれ?

「彼女の言葉が、頭から離れなくて。『私のように後悔する人を減らしたい』と叫ぶ声が」

 声が、溢れてる——どこから?

「私は定められた寿命を迎えて……それでここに来ましたけれど、だけど」

 早く黙らせないと。誰が喋っているの?

「でも私は……私は、彼女の気持ちが、痛いほど分かった気がして、だから……」

 黙って。お願いだから。

「……私が言いました。『車掌となって回葬電車に乗ればいい』と」

 ああ、この声は……

「禁じられたことと分かっていて……でも、それしか出来ませんでした」

 ……うちの声だ。

 異様に開く間。

「——そうか」

 リック様の声が聞こえた。その声はもう、怒ってはいない。その代わり、悲しげな響きを伴っていた。

 リック様はその場を去ろうとして、ふと、立ち止まる。そして、振り返った時には、リック様は寂しそうに笑っていた。

「——ああ、忘れていた。お前の姉(アキコ)は元気そうだったぞ。『妹によろしくお伝えください』と言っていた」

(——あっこ!)

 うちがあっこのことを考えている間に、リック様は消えてしまった。

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