事情聴取
「行ってらっしゃい!」
うちは手を振って回葬電車を見送った。
ついさっき、回葬電車の運転手さんとちりかさんが休憩のためにここにやって来て、今、また仕事に出かける2人を見送ったところだった。
「——さてと」
うちは川の見張りを続けることにしよう。川の渡し守は、案外忙しいのだ。
「サトミ、久しぶりだな」
「!」
不意に耳に飛び込んで来た声に、鳥肌が立つ。
振り返った先にいたのは、間違いない、あの方だ。
「——リック様」
うちが仕えていると言っても過言ではない、最上位の死神だった。手に髑髏の仮面を持ってはいるが、つけてはいない。黒いローブのフードは被りっぱなし。これがリック様のいつもの姿だった。
「こちらこそお久しぶりです」
うちは胸に手を当てて、礼をする。死神と会った時の礼儀だ。うちは微笑んでみせる。リック様も最初は笑っていたが、突然、表情を消した。
「……お前に訊きたいことがある」
突然真剣みを帯びる、リック様の声。
それはまるで、冷たい鋼のよう。
「……はい」
嫌な予感しかしない。
「回葬電車に車掌がいるらしいと聞いた……」
——まさか。
「……それは、本当か?」
——やっぱり。
リック様に嘘をつくことは出来ない。車掌がいることを隠していたことも、本当は許されないこと。
——ごめんね、ちりかさん。
「——はい。たしかに存在しています」
「……そうか。今、どこにいる?」
「回葬電車の……中に」
リック様はそれを聞くと、うちに背を向けた。
「今から回葬電車に行く。でもその前に、訊きたい」
リック様が振り返ると同時に、その周りを暗い炎が取り巻いた、ように見えた。振り向いたその目はどこまでも黒く——暗く、底なしの闇だった。
「どうして、隠していた?」
その言葉は、うちを崖っぷちに追い詰めた。
——ああ、怒っているのだな、と理解するのに時間はかからなかった。
逃げ出したかった。出来ないと知っていても。
「——彼女の言葉が」
——あれ?
「彼女の言葉が、頭から離れなくて。『私のように後悔する人を減らしたい』と叫ぶ声が」
声が、溢れてる——どこから?
「私は定められた寿命を迎えて……それでここに来ましたけれど、だけど」
早く黙らせないと。誰が喋っているの?
「でも私は……私は、彼女の気持ちが、痛いほど分かった気がして、だから……」
黙って。お願いだから。
「……私が言いました。『車掌となって回葬電車に乗ればいい』と」
ああ、この声は……
「禁じられたことと分かっていて……でも、それしか出来ませんでした」
……うちの声だ。
異様に開く間。
「——そうか」
リック様の声が聞こえた。その声はもう、怒ってはいない。その代わり、悲しげな響きを伴っていた。
リック様はその場を去ろうとして、ふと、立ち止まる。そして、振り返った時には、リック様は寂しそうに笑っていた。
「——ああ、忘れていた。お前の姉は元気そうだったぞ。『妹によろしくお伝えください』と言っていた」
(——あっこ!)
うちがあっこのことを考えている間に、リック様は消えてしまった。




