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なっちゃんとあおむし

作者: 幻想売りの十夢

「なっちゃん、お野菜もしっかり食べなきゃだめよ」

その日の晩御飯、お母さんはなっちゃんに言いました

「ええ〜っ、だって美味しくないんだもん」

多くの子供がそうであるように、なっちゃんも野菜は嫌いです

…こんなもの、何が美味しいんだろ?葉っぱの味しかしない。ハンバーグやお寿司の方がよっぽど美味しいんだけどなぁ…

お皿に残った人参とピーマンをフォークで転がしながら、なっちゃんは思いました

「なっちゃん、お野菜を食べなきゃ大きくなれないわよ。体にもとってもいいのよ。なっちゃんは女の子なんだから綺麗にならなくちゃね」

テレビショッピングでは連日、「美容と健康の野菜のジュース」が放送されています。なっちゃんのお母さんも毎日ジュースを飲んでは鏡を見てお化粧をしています。

…大きくならないのは困るけど、野菜を食べなきゃならないなら、綺麗になんなくてもいいや…

野菜なんかキライだ


その年の夏休みの間、なっちゃんはおばあちゃんの家に泊まりにいきました。

おばあちゃんは庭で野菜を作っています

キャベツ、人参、ピーマン、きゅうり…たくさんの野菜が庭に並んでいます

おばあちゃんは毎年収穫した野菜を分けてくれます

…なんで野菜なんだろ?どうせならイチゴとかぶどうを作ればいいのにな…


「なっちゃん、これを見てごらん」

おばあちゃんはなっちゃんを呼び、畑のキャベツを指差しました

「あれ?なにこれ?」

キャベツに小さな虫がついています。

「なっちゃん、これはあおむしだよ」

緑色と黒のストライプのクネクネ

あおむしはキャベツを食べています

もりもり、もりもり

もりもり、もりもり

あおむしはキャベツを食べ進み、まだまだ食べていきます

…こんなに野菜ばっかり食べて、何が美味しいんだろう

「あおむしはこうやって大きくなるんだよ」


次の日も、また次の日もあおむしはキャベツを食べています

もりもり、もりもり

もりもり、もりもり

…野菜、そんなに美味しいのかな?

あおむしは自分よりおっきな葉っぱを一心不乱に食べています

…こんなに一生懸命に野菜を食べて、なんかかわいいな

なっちゃんは気になって気になって仕方ありません

毎日毎日あおむしを観察しました

だんだんあおむしは大きくなっていきました



「あれっ?」

今朝はあおむしの様子が変です。硬い殻に覆われ、全く動かなくなりました

「おばあちゃん、あおむし、死んじゃった?」

…野菜ばっかり食べてるから

「あおむしは死んでないよ。サナギになったんだよ」

「サナギ?」

「サナギになって、大人になる準備をしてるんだよ」

…あおむしも大人になるのか

野菜ばっかり食べてるけど、サナギは綺麗じゃないね


それから数日、サナギは全く動く様子もありません

…死んじゃったんじゃないかな


夏休み終わりが近づいてきました

なっちゃんはいつものようにサナギになったあおむしを見にいきました

「あれっ?おばあちゃん!あおむしがなんか変だよ」

サナギの背中の殻が割れ、中で何がが動いています

ジッと観察します

サナギの背中から羽のような物が現れました

しばらくすると、その羽は綺麗な模様を描いて大きく開きました

「わぁ!」

あおむしは綺麗な蝶々になりました

あのかわいかったあおむしが、こんな綺麗な蝶々になった!なんて美しいんだろ!なんて優美なんだろう!ちょっと悪魔的な妖艶さと優雅さもあって、艶めかしい!

なっちゃんは感動しました


蝶々は優雅に羽を動かし飛び立ちました。

そして、なっちゃんの頭上を旋回し、やがて、飛び去っていきました




その日からなっちゃんは野菜を食べるようになりました

もりもり、もりもり

もりもり、もりもり


「あらっ、なっちゃん。お野菜食べるようになったのね」

お母さんも驚いています

…私も大きくなったら、あのあおむしみたいに綺麗になりたい。かわいくて、優美で、妖艶で、優雅で、みんなに感動を届けるような存在になりたい


なっちゃんはそれからも毎日毎日、野菜を食べました

もりもり、もりもり

もりもり、もりもり

「早く大人になりたい」




数年後


なっちゃんは大きくなり、大人になりました

なっちゃんはキャバ嬢になりました

かわいく、綺麗で、優美で、妖艶で、優雅で、みんなに感動を届けるキャバ嬢になりました

もちろん愛読書は『小悪魔ageha』です


「野菜、大好き❤️」

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