第一話:歯車は回り出す
実に、二年ぶりの更新……;
覚えてくださっている方はいらっしゃるのだろうか;
どうして。
どうして私なの?
ねえ、誰か答えてよ。
右手と両足に、どこか懐かしい刺激を感じる。
これは確か、ずっと昔、周囲の目や世間体といった鬱陶しいモノを気にしなくても良かった頃、裸足で駆け回った大地――草原の感触だ。
……ここは、何処?
頭に浮かんだ疑問の答えを見つけようと、私はゆっくりと瞼を押し上げる。随分長く眠っていたのだろう、乾いた涙で睫が固まっていた。
「……え……何で……?」
確かに目は開いているのに、見えるのは無数の小さな光のみだった。
青い空が広がっているとばかり思っていた私は、驚いて両肘を支えに体を起こす。慌てて辺りを見回すが、ただぼんやりと木々の輪郭が浮かぶだけだった。
「ここ、何処……?」
よく目を凝らしてみると、辺りには幼い頃に読んだ絵本の挿絵のような光景が広がっていた。何本もの大樹が枝葉を覆い茂らせ、その太い幹には沢山の蔦が絡み付いている。
「森?」
幾重にも重なり合った葉に遮られ、日の光さえ届かない為に薄暗いそこは、薄暗く陰鬱な雰囲気を漂わせていた。
「……何で私、森にいるんだろう……」
私は日本でごく普通の高校生をやっていた筈だ。それなのに、何故こんな場所にいるのだろう。思い出せる限りの一番最近の記憶を辿ってみるが、心当たりは無い。
「まさか、誘拐!?」
脳裏に浮かんだ最悪の可能性を、首をぶんぶんと振る事で否定して、私は立ち上がった。
「いつまでも考え込んでたって埒が明かない!とりあえず、ここが何処か確かめ――」
「アリス?」
突然背後から聞こえてきた声に振り向くと、黒く人影が見えた。薄暗いせいでよく見えないが、その声と体格から、それが男性だと分かる。
「えっと、どちら様?」
そう尋ねると、男は屈んで目線を合わせてきた。木漏れ日が彼に降り注ぎ、彼の頭部を照らす。
そこからは、真っ白な耳がぴんと伸びていた。
「初めまして、アリス。“白ウサギ”ディール=ハーゲンデイツです。以後お見知りおきを」
にこりと笑った彼に、軽い眩暈を覚えた。