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第三四話

五月一五日 二一時一七分



 今日も散歩がてら香澄さんに頼まれていた食材を買いに出かけていた。

(この風景も見慣れて来たな~)

 香澄さんに引き取られて間もない頃に通った道。何もかも懐かしい。そう思える。この瞬間が良い。

(そういえば、あの人もこう言っていたな~)

『気の向くまま赴くまま』と。






「私の事、どんな人に見える?」

 ある常連が私にそう問いかけて来た。

「そうですね。とにかく笑っていて、周りを盛り上げようと気を回す方というイメージです。あとは香澄さんが無鉄砲で、飲みすぎる方だとおっしゃってました」

「香澄さん!! そうなんですか!」

 その方は驚いた様子で、急に立ち上がり、香澄さんの方を向いて言った。

「当り前よ。あなたが何かする度にみんな、私に愚痴るのよ。毎回、誰にでも可愛いねと言うし、他人に優しくするし、それ以上に関係が進展しないものだから、みんな悩んでたわよ」

「それはそれは(笑)」

「そういう悪気のない態度もね(怒)」

 その方は苦笑いしながら、ロックのウィスキーが入ったグラスに口を付けた。

「だから里恵、あなたも気を付けなさい」

「香澄さんのそういうところ嫌いじゃないですよ♪ でも、無意味に言っているわけではないです。私ね、幼い頃から複雑な家庭で育ったのです。家族なのに喧嘩ばかり。悪口を言い合ったり、睨み合ったり。学校に行けば、人間関係という しがらみもあるし、大人でも上下関係や組織で気疲れするし......。今思えば自分を褒めたいです(笑) だから、少し我が儘ですが、周囲には笑顔でいてほしいです。睨み合っていても、得は無いし、周囲を不幸にします。自分のおかげで周囲が幸せになれるなら望みです。そして、難しいことは考えないで、気の向くまま赴くまま、可愛いものには可愛いと言うことにしています」

「よく分からない子ね」

 香澄さん、あきれ返っていた。

「ごもっともです♪」

「でも、面白い人です♪」

 私は笑って言った。しがらみのある社会で強く正直でいる、その人の姿が、どこか良いように見えた。

「というわけで、私にあきれ返っている香澄さん、ウィスキーお代わり♪ 加えて、こちらの可愛い里恵ちゃんに、このメニューのケーキとアイスティーを」

「ほほう~(怒) あなた飲みすぎ......よ。そして、何、私の前で里恵に口説いているのよ(怒)」

 香澄さんは、手をパキパキしながら言った

「怒った香澄さんも美しい♪」

 こういう人がいるから、私こと里恵の日常は充実している。

「里恵ちゃん、幸せになりなさい。美幸さんや香澄さん、そして常連のみんながあなたの味方よ」

 常連は笑顔でそう言った。

「もう幸せです♪」

 私は満面の笑みで返事をした。

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