第三三話
五月一〇日 一〇時一七分
大学とは学術研究や高等教育機関のことを指す。
これは誰でも知っていること。
受験という競争を勝ち抜き、自身の進路や興味のある学問に二年から四年間学ぶ場。大学近くを通ると、私服で楽しそうに通う姿が見れるし、飲食店では友人と食事をする姿、そして常連の中にも通っている人もいる。大学という場所は私とって楽しい場所だ。
しかし、私は大学というものをよく知らない。それもそうだ通ったことも無いのだから。
「まったく、琴音ったら、忘れるなんて!」
事の始まりは一時間前。琴音から『急いで机の上にあるUSBメモリー持ってきてー!! 着いたら電話ちょうだい!!』という急ぎの電話が来た。どうやら、今日発表のデータが入っているUSBメモリーを忘れてしまったようだ。昨晩も琴音の部屋に明かりがついていたので、徹夜明けということもあったのだろう。
大学の場所は知っていたし、たまに近くを通るので道中で迷う心配もなかった。仮に迷っても、スマホという現代機器を駆使すれば悩む心配もない。
「う~ん、着いたものの琴音はどこかな。電話は繋がらないし」
大学の校門前に立ち尽くす私。敷地が大きいこともあり、ヘタに動いて迷子になるのも何かと嫌だ。
「でも、焦っていたから、う~ん」
どうすればいいか分からなくなった。
「あれっ、里恵ちゃん?」
後ろから自分の名前を呼ぶ男性の声がした。
「んっ!」
驚きを隠せなかった。それもそうだ。
「里恵ちゃんだ!」
「星野......君......」
昔、付き合っていた人がいたのだから
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「うん......元気にしてたよ。星野君は?」
「元気にしてたよ。今、この大学に通っていて、今は四年生。高校以来だね......」
「そうだね......もう五年は経ったね......」
いじめにあって、香澄さんの勧めで他の高校に移った私。
「うん......急に里恵ちゃんが転校するなんて。最初は耳を疑ったよ。里恵ちゃんが転校した後、知った......。ごめんね気づけなくて......守れなくて」
彼は頭を下げて、私に言った。
「昔の事だし、仕方がないよ。星野君、周囲から人気あったし、当時の私は浮かれていたから......」
「それでも男として守れなかったことに変わりはないよ」
「私に優しくしてくれたことは感謝しているよ」
「......」
「ただ、私、今とても幸せだよ。あの辛い過去を乗り切って、今大事にしてくれる人に出会えた」
清々しい表情で彼に言った。
「もう昔のことに縛られていては前に進めない。もう昔の『大谷 里恵』ではないよ」
「里恵ちゃん、強くなったね」
「うん♪ いろんな人に優しくしてくれて、出会った人のおかげで強くなれたよ。時々、泣いちゃうけど(笑)」
「良かった......」
やっと昔にピリオドを打つことができた。
「♪♪♪♪♪♪♪♪」
いい雰囲気を他所に、自分の携帯が鳴った。
「ちょっと、ごめんね」
「もしもし、お姉ちゃん!」
「あっ、琴音、今大学の校門前にいるよ」
「校門じゃ分からないよ!」
「目の前に『第三棟』と書かれた建物があるよ」
「ちょうど良かった。その建物三階に来て!」
琴音がそう言いって電話が切れた。
「じゃあ、私行くね」
「一人で大丈夫?」
「うん、大丈夫。またね、星野君」
「じゃあ、里恵ちゃん」
彼に手を振りながら私は指定された場所に行った。
「強くなったね里恵ちゃん。そして、さようなら、大谷さん......」




