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第二八話

本編第二八話です。

四月△日月曜日 一九時

 本日、香澄さんの家で食事することになった私。以前から、いろんな場面でお邪魔していたが、やはり他人の家ということで慣れない気持ちにある。それに加え、今年の春に居候することになった琴音ちゃんも居る。これ以上、他人の家にお邪魔することに気が引けるようになっている。だからと言って、香澄さんから招待されているにも関わらず、来ないと後々、『なぜ来なかったのよ』と怒られる。嫌々行っているわけでなく、まだ香澄さんの家に居る事を許せない自分がいる。頭の中で悩んでいる内に香澄さんの家に着き、私は玄関前のインターホン押した。インターホンから聞こえてきた声は長い間聞いていた香澄さんと里恵とは違う女性の声だった。

「はい」

「美幸です」

「あぁ、美幸さん。今、開けます」

 インターホンの通信が切れてから直ぐに、足音が少しずつ大きくなり、ついに玄関の扉が開いた。

「あっ、美幸さん。ご足労くださいまして、ありがとうございます」

「ううん、こちらこそ招いてくれて、ありがとう」

「いえいえ、美幸さんのことは香澄さんからお聞きしています。お入りください」

「お邪魔します」

 琴音によってリビングに案内され、リビングでは里恵が食事の支度をしている。それに対し、香澄さんはテーブルでワインを飲んでいた。

「あらっ、美幸、いらっしゃい」

「香澄さん・・・」

 里恵は香澄さんの姿を見て何も言えない私にこの状況の経緯を話してくれた。

「私と琴音が支度をするという事で先に飲んでしまったのです」

「それはそれは」

「でも、いつもお店のことでお疲れですから、気を休めて頂いた方が私は嬉しいです」

「里恵、優しいね」

「いえっ、それほどでも・・・。ささっ、美幸さん、お座りください」

 里恵私が褒めた事で顔を赤くして、私を席につかせた。テーブルにはパエリアやサラダ、オードブル、ミネストローネが並んでいた。以前、来た時より腕に磨きがかかっている。

「では、頂きましょう」

 里恵の言葉に琴音と里恵が席に着いて、食事を始めた。

「美味しいわね。里恵、腕を上げたわね。次回からバーの食事を担当してもらおうかしら」

「そうね。里恵の作った料理なら、みんな喜んでくれますよ」

 私と香澄さんが里恵の料理に絶品する。

「でも、手料理となると原価が課題だわ。美幸、あんた食品メーカーに勤めているわね」

「はい、そうですが。私のところでは、飲食店向けの食品も取り扱っていますよ。私は個人向けの食品を担当していますが、同期がいるので今度、カタログをお持ちしますね」

「頼むわ。いや~、そろそろメニューを見直そうと考えていたのよ。同じメニューでは顧客が離れていくことが想定されるから、常に顧客やサービスには目を光らせる。これはビジネスの鉄則よ」

(さすが香澄さん、ビジネスに強いお方だ。しかし、香澄さんについては分からないことがいっぱいだ)

「琴音には分からない事だけど、お店で働くといえども意識すること」

「はい、頑張ります」

 琴音は笑顔で返答した。私はそれにつられて、琴音に話しかけた。

「そういえば、琴音ちゃんは大学生だけど、楽しい?」

「はい、楽しいです。でも、慣れていなくて戸惑うことはあります」

「そうよね、入りたてはそうなるわね」

「でも、この子が大学に入るなんて想像しなかったわ。うっかりしていて、控えめなこの子がね」

「ははっ、香澄さんの言う事には反論できないです」

「でも、琴音は昔から良い子で私に付いているので妹にように私は可愛がっていました。言う事を聞いてくれて、面倒見が良かったです」

「お姉ちゃんは頼もしかったので、安心できる存在です」

「いや~、琴音から褒められるなんて嬉しいな」

 楽しく、賑やかな時が過ぎ、いつしか時計の針は一〇時を指した。

「今日はありがとうございました」

「気を付けて帰るのよ。例の件はよろしく頼むわ」

「はい、かしこまりました」

「美幸さん、またお越しください」

「うん、里恵、お店で会いましょう。琴音ちゃん、これからもよろしくね」

「はい、美幸さん、今日はありがとうございました」

「里恵、少し美幸を見送ってきなさい」

「えっ、良いですか」

「私が言うんだから行きなさい」

「はい」

 私は香澄さんの家を出て、里恵と途中まで一緒に歩いた。

「里恵、今日はありがとう」

「いいえ、こちらこそ楽しかったです」

「そう言ってもらえると、嬉しい。でも、気になるの。私は里恵や香澄さんと違って家族ではないのに、ここまで良くしてもらって良いの・・・」

 私が不安を打ち明けている時に私の口が何かで塞がれた。そして、時間が経って塞いだものが里恵の唇であることに気付いた。

「美幸さん、そんなこと言わないでください。私や香澄さんは美幸さんを家族だと思っています。いや、家族と断言してもいいくらいに思っています。だから、そんな事を言わないでください」

 里恵はつぶらな瞳をしながら、私に言った。そして、私は嬉しくなって、里恵にキスをした。途中、人の気配がして、確認すると中年の男性が歩いてきたのでキスを止めた。男性が見えなくなったあたりで、もう一度キスをした。

「うん、ごめんね、変な事を言って・・・」

「いえ、美幸さんだって不安や弱音を言ってしまうことはありますよ」

「ありがとう。では、ここまでで大丈夫だから。じゃあ・・・」

「はい、お気を付けて」

 そして、私は一人で帰路を歩いた。里恵の言う通り、時には不安や弱音を言ってしまう。それでも優しくしてくれる存在がいてくれる私はなんて、幸せだろうか。途中、人が来てキスを止めたが、今思うと恥ずかしい。里恵の唇は柔らかい上に温かく、時間が経った今でもその感覚は残っている。これからも大切な人といられる自分があり続けられることを願い帰宅した。


読んでいただき、ありがとうございます。

本日3月17日付けの活動報告にて、今後の執筆活動についてご報告いたしました。

「」

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