第一四話
本編第一四話です。
紅葉が色鮮やかに見える秋が過ぎ、寒さが本格的に感じる一二月になった。一年が終わるまで、あと一ヶ月という事で一年間を振り返る人は多いだろう。今日も朝から寒い中、週末という事で香澄さんの店に来る人はいる。私もその一人。
あれから皆に元気づけられ、私は両親の死を受け止め個々の整理がついた。スポーツ大会や鍋会、たこ焼きパーティーなど今年一年は楽しく、皆に良くしてもらった。
(いつか皆に恩返ししたいな~。特に香澄さんには)
閉店時間まで三〇分前になった。カウンター席で頬をつきながら、一年間を振り返る私だが、今日もこの一年間で良い思い出になりそうな予感がする。今日は里恵が友人と食事のため店にいない日。
「えっ、どうしたの美幸ちゃん?あ~もしかして私の事を考えていたの。ついに!!ついに美幸ちゃんが私の事を!!」
またいつもの、あれがきた
「もう準備万端だから、返事はいつでも良いよ。知人が式場で働いているから何もかもお姉さんに任せなさい♪たまにはお姉さんの事を頼ってほしいな~」
この人もこの人で、いつも通りに私にアタックしてはダメなのに、何度もしてくるその精神には尊敬したくなる。しかし、店の中でやり取りすると皆して笑うので、雰囲気作りでは心強い。
「もう、この人には学んでほしいものですね、香澄さん」
「・・・」
私は呆れた様子で、香澄さんに話しかけたが、返事がない。
「香澄さん」
「あっ、ごめんなさい」
「どうしたんですか?いつもと違いますが」
どこか虚ろな様子で、顔が少し赤い。
「何でもないわ。最近、肌寒く乾燥するわね。たまには温泉に浸かりたいものわね」
「秋のスポーツ大会で温泉に入りましたよね」
「あらっ、各地の温泉に浸かるのも楽しみだわ」
「やはり歳をとると、そうなるんですかね」
「美幸、それはどういう意味!」
「いえ、すいません」
うっかり口を滑らせてしまった。
「はいはい、閉店までもう少しよ。そろそろお会計してもらうわよ」
そんなこんなで、今日も楽しい時間を過ごすことができた。
(土日は、のんびり寝るとするか。でも、今日の香澄さんは様子がおかしかったが、何もなければよいが・・・)
そう思いながら、帰宅時したが、この時の予感が当たるとはこの時は思わなかった。
「あ~、頭が痛い」
置時計で現在の時刻が一二時だと分かった。カーテンを開け、どんよりとした曇りに気づき、ネガティブな気分になった。どっちみち、今日一日は寝て過ごすつもりだったので、その天気を気にはしなかった。その時、自分の携帯が震えた。どうやら、里恵からのメールのようだ。本文を見ると、そこには『大変です!!助けて下さい!!香澄さんが倒れました』と書かれていた。メールが気になり、急いで電話をし、現状を聞いた。身支度を済ませ昼食を食べずに、里恵から言われた病院へ車で向かった。
病院に着き、すぐに里恵に連絡を取り、里恵がいる場所を聞いた。
「お休みのところ、すいません」
「そんなことないよ。それより、香澄さんは大丈夫?」
「ええっ、今のところは診察中です」
里恵の話によると、里恵が起床して昼食を準備していたが、その時間いつも起きているはずの香澄さんがなかなか姿を見せないので呼びにいったら、寝室で倒れていたようだ。病院までは救急車で運んでもらったと聞いた。
(やはり、昨日の段階で体調が悪かったのか・・・)
診察の結果、疲労による貧血によるものだと言われた。ただ、念には念を入れて検査入院する事となった。入院手続きをするために、一旦里恵と香澄さんの家へ戻った。必要なものを揃え、病院に向かった。途中、店の扉に『臨時休業』の張り紙を張って、再び病院で入院手続きをした。手続きを済ませ、香澄さんのいる病室へと向かった。香澄さん病室は複数人用の部屋だったが、偶然にも入院しているのは香澄さん一人だけ。部屋に入ると、香澄さんはちょうど起きていたようで、私と里恵の事に気づいた。
「あなた達・・・悪いわね・・・」
「お互い様です」
それ以外に言葉を浮かばない
「お店の事は心配しなくても大丈夫ですから。今はお休みください。そして、元気な姿で復帰してください」
「本当にありがとう」
里恵から慰めの言葉を聞いた香澄さんは、涙を流した。自分が見た事があるのは、あくびくらい。人前で涙を流すところを見たのは初めてだ。
「大谷様のご家族ですか。お時間よろしいですか」
「はい。分かりました」
看護婦から呼ばれ、私と里恵は担当医から検査について詳しい話を聞いた。容体の方は回復しているが、検査次第で退院日が左右する。担当医から説明を聞いた頃には一九時になっていた。再び香澄さんの病室に向かうと、すやすやと寝ていた。
ひとまず、ほっとした私たちは病院を出発し、途中、ファミレスで夕食を済ませ、帰宅した。今晩は里恵一人にするわけにはいかないので、香澄さんの家に泊まらせてもらうことにし、着替えを取って香澄さんの家へ向かった。
「今日はありがとうございました。せっかくにお休みを邪魔してしまい、すいません」
「そんな事ないよ。知り合いが大変な時に見て見ぬふりなんてできないよ。ひとまずは落ち着こう」
「そうですね。おつまでも不安でいたら、香澄さんに怒られますね」
「ははっ、そうだね」
少しでも元気を取り戻すことができた。先にお風呂を頂き、明日も香澄さんの見舞いに行かないといけないのですぐに寝る事にした。
「では、おやすみなさいです」
「うん、おやすみなさい、里恵」
就寝前の挨拶をした。客室に敷かれた布団に入ったものの、なかなか寝付けずにいた。布団に入ってから二〇分が経ち、客室の扉が開いた。
「美幸さん、起きてますか」
「里恵、どうしたの」
「お恥ずかしながら、一緒に寝てもらえませんか」
「うん、分かった。おいで」
「ありがとうございます」
私の布団の横に里恵の布団を敷いた。誰かと布団を隣にして寝るのは妹がいた頃以来。
「おやすみなさい」
「おやすみなさいです。美幸さん」
一緒にいるのが里恵なのか、なぜかドキドキして、寝付けなくなった。誰かと一緒にいると安心できるのに大切な人が近くにいるとここまでドキドキするのか。このドキドキは、なかなか落ち着かず、寝れたのは何時だったか分からないまま寝る事ができた。
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