転生:1 獣人少女リア
異世界転生、召喚、みたいな話を漫画とかアニメとかでよく見る。俺も異世界にお呼ばれしたいものだ。だが、俺の望みが叶ったことは今のところない。今もこうして世界を冒険することなく、漫画喫茶で炭酸飲料を飲みながらぐーたらしているところだ。
店内は俺含めてほんの3、4人くらいしかいなかった。まあ、平日の真っ昼間から学校にも行かずここに来ているってことは、不登校かなにかなんだろうな。俺は否だ。最近ちょっとした――いやちょっとしてない大事件がうちの学校で起こったもので、俺の学校はその事件の対応に追われていて休校となった。俺にとってはその事件は何の関係もないことで、休みが増えることは普通に嬉しかった。とはいっても、別にやりたいこともなかったので、見たこともない面白い漫画を求めてそこらへんの漫画喫茶をまわってみた。読書する気力がなくなってきたときは、ゲーセンにもちょいちょい行っている。金は持っていても使い道がないので、容赦なくジュース代やらメダルゲームやらに全てつぎ込むつもりだ。でも、メダルゲームはなぜか分からんが得意なので、あんましお金を使わない。ちなみに今の所持金7万円と小銭少し。めんどくさかったので、今年もらったお年玉丸々入った財布をそのまま持ってきている。最初は9万円あったので、2万円消費されていることが分かる。1日で一気に2万円消費したのはいつぶりだろうか。
と、気づけばもう18時。腹が減ってきた――そろそろ帰るか。会計をすませ、漫画喫茶を出る。
*
うわあ、徒歩はやっぱきついわ。なんでこの世には散歩する人がいるんだろう。よく足折れないよな。
俺は家の前で立ち止まった。俺の目に異質な物が映ったからだ。それはドアに寄りかかっている。生き物だ。しかも、けもみみで赤毛でショートヘアの超美少女ロリ。あいにく、俺はロリコンでも何でもないので、何もときめかないが。俺はもっとボインなのが好みだ――俺の好みはどうでもいいとしてその少女だ。眠っている。すやすやと気持ちよさそうに。服装も異質を放っている。ゲーム世界にでもありそうな、オレンジっぽいシャツっぽいなにかに、ベージュ色の革でできた露出度高めのローブを羽織っている。
いやあ、俺を異世界に導いてくれる使者かなにかかなー! ワクワクするなー!――とか思ったりするけど、どうすりゃいいんだこの状況。もし一人暮らしなら、このけもみみ娘を家に入れてもいいのだが、うちにはばあちゃん(祖母)と酔っ払い親父と忌まわしき姉貴がいる。親父はしばらく帰ってこないらしいが、ばあちゃんと忌まわしき姉貴が多分家で夜飯の用意をしているだろう。
外から回って俺の部屋まで運ぶか。自分で言うのもあれだが、俺の家は交通の便はあまりよくないもののすごいデカい家だ。昔ながらの平屋で縁側もある。そして、とにかく部屋が多い。今は亡きじいちゃんの遺産だ。じいちゃんマジ感謝。
少女をひょいとお姫様抱っこして縁側から俺の部屋に向かう。軽かったので運ぶのには問題なかったが、何しろ古い家なので足音を鳴らさないようにするのが大変だった。かすかにばあちゃんと姉貴の話し声が聞こえた。幸いにも、台所と俺の部屋は離れていたので無事運ぶことができた。俺は部屋の襖を閉め、床に少女の体を横たわらせた。本当だったら、すごいムフフな展開になりかねないのだが――少女よ、よかったな俺が熟女好きで。
さて、無事にたどり着いたがこれからどうしよう。少女を起こしてみようか。いや、もしここで騒がれたら困る。いっそのこと、ばあちゃんと姉貴に話すか。いやいや、俺がロリコン扱いされかねない。むう、これはどうするべきか……。
「――むぅ」
やばいな。俺が起こさずともそのうち起きそうだなこいつ。仕方ない起こすか。少女の肩を揺さぶった
「おーい。起きてちょんまげー」
「んん、あと24時間……」
一日も待ってられねえよ。ほっぺをつねってみる。ん? すげえプニプニしてる。ほっぺをつねったままぐるぐる回してみる。
「って、痛いわ!」
「ぐはぁ!」
腹パンを一発きめられた。少女は上体を起こす。
「くっ――やっぱ獣人というだけあって力あるのな」
「じゅーじん? 君が何を言っているのか分からないが、ここはどこ?」
「俺の部屋」
「もしや君っ! 私にあんなことやこんなことを――」
「してないし、これからする気もない」
すごいテンション高いな。その寝起きのよさ俺にも分けてほしいわ。
「とりあえず、自己紹介してもらってもいい?」
「見知らぬ君にそう安々と個人情報を教えるわけにはいかない」
「へえ、偉いね」
「逆に聞くが、君は誰?」
「それは名前ってこと?」
「そうだ」
「えっと――トーマって呼んでくれ」
「そうか、トーマか。珍しい名前だな」
ちなみに漢字で書くと灯真。苗字は望原。まあこの少女には通じないだろうが。
「珍しいといえば、この部屋もそうだな。見たことの無いものがたくさんある」
少女はパソコンを指さす。
「これなんか特に分からない」
「ああ、それはパソコンという便利な道具だ。ところで、故郷ってどんなところ?」
「だから個人情報だってば」
「あ、そう」
少女は立ち上がり部屋の中を見定めるように歩き回る。
「これも見たことない。これも、これも――この四角いのは何だ」
「それはタンス。服とかを入れるんだよ。お前の故郷には無いのか?」
「いや、あるにはあるんだがこんな形のものは見たことが無い。タンス? という名前でもないしな。私の故郷ではドランと呼んでいる」
少女は不意に立ち止まる。すると、窓に頭を突っ込んだ。
「痛っ!」
少女は自分の頭をさすった。ああ、もしかして彼女の故郷とやらには、ガラスも存在しないのか。
「ちょっとどいて」
俺が窓を開けてやる。少女は礼だけ言うと、すぐに窓の外をのぞいた。
「何だここは」
えーっと彼女にとっては異世界召喚されちゃった身なんだよね。じゃあ、俺は案内役の妖精っぽい立ち位置なのかな。俺の場合妖精じゃなく妖怪だけど。
「とりあえず、ようこそ異世界へ」
*
「なるほど、私は寝ていたのか――嘘、全然状況が理解できないのだが」
「こっちのセリフよ、それ」
「ところでこの食べ物おいしいな」
少女は柿ピーをもぐもぐ食べている。
「お前これからどうするの? 元の世界への帰り方とかわかったりするの?」
「いや、さっぱりだ。だから私から頼みがある」
少女は柿ピーを一旦食べ終え、姿勢を整えた。
「――私が元の世界へ帰るまでの間、寝床と食料を分けてほしい」
「いや、俺は別にいいんだけどさ。うちにはばあちゃんと姉貴がいるから無理なんだよね」
「訳を話せばいいだろう」
「ばあちゃんショック死するって。姉貴だって他人にペラペラ話すかもしれないし」
「事前に口封じをしておけばいい」
「信じてもらえないって」
「私が納得させる」
「でも、そんな姿出歩いたら一発で面倒なことに――」
「変装すればいい」
「変装つっても、そのけもみ……その耳はどうにもならないって」
「耳なんてしまえばいいだろ」
すると、少女の頭から耳がひょこっと消えてしまった。
「!?」
「ん? 何かおかしなことがあったのか?」
……けもみみってしまえるのかよ。
「てか耳どこいった」
「いやだからしまったんだよ」
「ほ、ほう……」
「まあ、音が聞こえにくくなるから基本的には出しておくがな」
ひょこっとまた耳が生えてきた。いやぁ、謎が多いなけもみみは。
「ところで、私に合う服はあるか? お前の様子を見る限りこの服は普通じゃないのだろう」
「服もそうだけど、できればその髪の色もどうにかしたいな」
「え? 髪の色もか?」
「ああ、俺の世界じゃその色は目立つ――」
と言ったところで、ガラガラという音とともに襖が開く。
「帰ってたなら言えよ! てかあんたを待ってたんだから早く来いよ――って、え?」
俺と少女を交互に見ながらすごい困惑した様子の姉貴だった。
*
そんなこんなで結局は姉貴、のちにばあちゃんにも姉貴にバラされてしまった。俺は二人に事情を説明した。そして、今俺たち4人は食卓を挟んで座っている。ちなみに事情を話してもばあちゃんはショック死することはなかった。
「私はいいけど」
事情を聞き終えた姉貴の第一声はそれだった。
「別にこんなデカい家に一人の女の子が増えたところで問題ないっしょ。おばあちゃんも大丈夫でしょ?」
話を振られたばあちゃんは、そっと微笑むと
「賑やかになることは悪いことじゃないわ。いつまででもいていいから、ゆっくりしていって」
「ありがとうございます」
少女はニコニコと笑う。
「ところでお名前は?」
「リアって言います」
個人情報じゃなかったのかよ!
「リアちゃんね。可愛らしい名前ね」
ばあちゃんが心底嬉しそうに笑う。
って
「いいのかよ!」
「はぁ? 何言ってるの? 困ってる人がいたら助けるに決まってんじゃん。ましてや女の子だよ?」
「いや、人じゃなく正しくは獣人だからね!? てか一般人に見つかったらどうするの!?」
「ここそんな人住んでないし大丈夫だって。ごちゃごちゃうるさいなぁ」
あぁ、忌まわしき姉め。
「まあまあ、とりあえずご飯を食べましょ」
ばあちゃんもばあちゃんだよ。こんな漫画っぽい展開を受け入れちゃうあたり、ほんとすごいと思うよ。
「今日はカレーよ。癒波も手伝ってくれたからとってもおいしいわよ」
「ゆは?」
リアが首をかしげる。
「あぁ。私の名前よ」
「ユハさんよろしくです」
「敬語じゃなくて大丈夫だから。普通に気軽に話してくれていいよ」
「分かった」
うわあ、完全に俺置いてかれてる。
「おばあさんのことは何て呼べばいい?」
「私は、登美ばあちゃんと呼んでちょうだい」
「分かった。トミばあちゃん」
リアは笑ってはいるものの、すごい緊張しているのが一目でわかる。
「それじゃ、いただきます」
と、まあそんなこんなで、よくわからん獣人少女リアとの生活が始まる――とか言ってみちゃったりするけど、転生はリアだけではないことに、その時の俺は知る由もなかった。
初めまして!宴時黒華というものです。
前々から小説を書いてみたいなぁと思っていて、いくつか(投稿はしていませんが)小説を書いております。それらも追々投稿していきたいと思います。
さて、今回投稿させていただきました「~ようこそ、異世界(現実)へ~」は、もし、主人公が異世界転生するのではなく、異世界の住民が現実世界に転生されたら、という話です。転生された人たちは私たち人間の世界を見て何を思うのか。この物語では異世界転生の物語の立場がまったく逆転しています。普通なら主人公が異世界でその世界の問題や苦難を乗り越えて英雄になる、なんて展開が一般でしょう。それが、主人公は助けられる側で、転生された人――思えば、人ではなく人外ですね(汗)――が主人公を助ける。なかなかないスタイルではないかと思います。
今回は初めての投稿なので、少し様子見として短めでしたが、次からはもっともっとボリュームアップしていきたいと思います。これからも、獣人のみならずどんどん現実世界に転生しちゃっていきますので、これからも読んでくださるととても嬉しいです。
読んでくださりありがとうございました!