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へペペ軍はこちら。  作者: しらその さほ
責任持つ気はサラサラ無い。
4/7

決意されても嬉しくないし、お貴族様からの話は碌なモンが無い

 外は雷雨だった。

 窓を背にした影が言う。

「あぁ、あの日の子供だったのか……。」

 酷く掠れた声が、思い出すように余韻を残す。そして、醜い声で笑い始めた。

 彼が笑いだす要因となる報告をした配下の男は、主の余りに酷い様相に背筋が凍り、しかし退出を許されていないのでそのまま留まっていた。

「ああ、そうか!奴がそうだったのか!!しかもそうとは、なんという好機だ!」

 とても耳障りなその笑い声は、部屋を支配するように響き続けていた。



 数日続いた雨も止み、余すところなく日が降り注ぐ、そんなある日。

「ガーフィルレード公。」

 ソリュエレィーズ国王の数居る王弟の一人である彼に。一日の間に三人の人間が、同じことを願い出てきた。

 朝早くから現れた一人目は、過日失態をしでかし、その座を追われた御側衆筆頭。

 次いで、昼を過ぎるころに訪れた二人目は、元筆頭である彼と懇意にしていた、国軍の一角を担う将軍。実は彼も…というか彼の親族がその失態に深く関わっていたのだが、そこは表に出ていないようで、将軍の地位はそのままである。

 そして、夜も更けて屋敷に帰って来た彼を出迎えた三人目は、自身の末息子。

 一人目と二人目がその願いを申し出るのには、過日の失態を知っているので納得がいくのだが。三人目である息子は、それに深く関わっていない筈なので、彼は首を傾げて問うた。

「どうしたのだ。お前は彼らのように先の失態に関わっていた訳ではないのだろう?」

「はい。私の願いは、彼らとは主旨が違います。それでも、願う内容は同じようですね。」

 そう言って息子は苦笑し、しかし今一度同じ言葉を口にした。


「どうか、彼の人物とまみえる機会を、私にお与えください。」


 さて困ったと、彼はため息をつきながら息子を見た。願いを叶えても良いのだが、それはもれなく先の二人の策略にも乗るという事になる。ほぼ絶対という確率で、まともな結末にはならないというのが、彼の予測結果なのだが……。

「敢えて問うが、彼らに利用されるという事を覚悟しているのか?」

「むしろ私が彼らの策に便乗させてもらっているつもりですよ。多少の痛手を被る事は、覚悟の上です。それに…」

 にっこりと笑って、息子は言った。


「もしかすると、父上の憂いの元がひとつ、解消できるかも知れませんよ。」


 そんな取引とも思えるような返答を聞き、自身の息子の行く末を心配しつつも、ようやく彼は諦めた。

 翌日、彼は懇意にしている貴族の邸宅を訪れて、とある話を持ちかけた。その話は次に違う貴族へと持ちかけられ、やがて隣国に住まう縁者へと伝えられた。

 日を追うごとに、着々と進行していく企み事。その様子と此方でしなければならない準備に追われつつ。

(確かに、抱えている問題の一つは解決できるだろうが………それ以外は恐らく、イヤ確実に、碌な結果にならないだろう……)

 そう思うと、ガーフィルレード公は、かかりつけの医師に胃腸薬を求めた。




-○○○- -●●●- -○○○-



 内乱も終わり、どうにかこうにか王城も再建されたアレムゼナート国。ある日の早朝。


「 冗 談 じ ゃ な い ッ ッ ! ! 」


 そんな叫びと共に、フィセードは起床した。

 その叫びに驚いて、窓の外の樹に止まっていた雀たちが一気に逃 げ飛んで行った。隣の部屋からうるさいと文句を言われていたが、本人にはそんな声全く聞こえていなかった。

「最悪………」

 相当に酷い顔色で低く呻く姿は、仕事に疲れ果てた揚句、転職考えそうな中年の雰囲気を醸し出し、とてもじゃないが十六歳の嫁入り前娘には見えなかった。尤も彼女の場合、職業も『普通』とは言い難いのだが…。

 先の内乱で暴君を倒し、国を平和へと導いたへぺぺ軍。特攻部にある幾つかの隊、その中でも『鬼の軍勢』と名高い面子が揃うフィセード隊の隊長が、その肩書である。

 ちなみに数か月前迄は、

「内乱終らせる為に参加してただけなので、職業軍人になる気ないです。」

 という本人の希望もあって軍から離れていたのだが。とある事件と経 済 的 理 由 によって(本人非常に不本意らしいが)復帰していた。そんな訳で、くたびれた中年っぽくなるのも頷けるのだが……将来がとても心配になる状態であった。

「うぅ…よりにもよって『フレイ・フラウ』が出てくるなんて………」

 悪夢は人にしゃべれば正夢にならないとは言うが、この部屋にはフィセードしかいないので完璧独り言だった。しかし声に出しておかないと現実になりそうなので、虚しさを無視して喋る。

「冗談じゃない…ホントに笑えない。何が悲しくて『フレイ・フラウ』に娶られなきゃならないんだ……」

 ほんの小さな子供の頃に出会った、黒髪巻き毛で水色の瞳をした、大層口の悪い美少女。そこで一寸人格捩じれそうな仕打ちと共に爆弾発言を喰らい。その結果フィセードは、『黒髪に水色の瞳をした人間』が人柄関係なく大嫌いになっていた。

 そんなトラウマを植え付けてくれた『フレイ・フラウ』が、口の悪さはそのままで外見だけは素晴らしい美女に成長を遂げ、更にはこう言ってきたのだ。


『お前も良い年頃だろう。だから迎えに来てやったぞ、花嫁♪』


 夢の中でも態度は変わらず、とても尊大な口調と、満面の笑みだった…。

 それを思い出すと吼えずにはいられない。夢は一種の願望とも、記憶の再生とも言われているが、フィセードは力いっぱい否定のツッコミを入れていた。


「年頃関係無いだろがっ!!誰が迎えに来てほしいなんて言ったか!!しかもウェディングドレスにベールとブーケなんて用意良いコト誰がしろと!!一番おかしいのは自分の性別考えて無い所だっっ!!そもそも私に同性愛嗜好(そういう趣味)は無いっっ!!!」


 一通り怒りを吐き出したので、もう一度突っ伏して寝てみようかとも思ってみたが、何時の間にやら窓の外は普段通りの朝だ。諦めたフィセードは、何だかすっかり疲れ切った気分で、ベッドから降りた。

「はあぁ~~~~………………」

 幸せが物凄い勢いで逃げそうなため息を吐き出すと。

(いくらお得意様だからって……流石に恨むよ、エマネレグさん………)

 体格も顔つきも茶色の巻き毛も笑い声までたっぷりゴージャスな中年婦人の顔を思い出して、内心毒づいた。



 昨日の晩往来で出遭った彼女は、フィセードを弟と間違えた揚げ句とんでもない爆弾を落としていったのだから。

 そして慌てて帰宅したフィセードを待っていたのは、微妙な表情をした両親と弟で。

『セイ。』

 妙に力を込めた声で母親がフィセードを呼び、こう言った。

『お見合い、しなさい。』

『一寸、お母さんっっ!普通そこはお断りするところじゃないの?!』

『あのエマネレグさんの話が、ハイ無理ですと断れると、お前は思うのか?』

『お父さんまでっ?!』

『やっぱ、そうなるよなぁ……』

 両親に食ってかかるフィセードとは対照的に、弟――フィセルヴァインは諦めた口調で結論付けていた。



「はあぁぁぁ~~~~~~…………」

 昨日の回想を終えて、やはりため息を吐きながら、フィセードは身支度を整えて。ある事に気付いた。

(そーいえば、『お見合いしなさい』とは言われたけど、『嫁に行きなさい』とは言われなかったな……)

 もう一度確認するために、フィセードは居間へと足早に進む。

「おはよう、お母さん。昨日の話で、一寸聞きたいんだけど…」

「何?」

「私、『お見合いをする』だけで良いんだよね?『速攻嫁に行く』訳じゃないんだよね?」

 念押しするフィセードに、母親はこくりと頷いた。

「うーん、そういう事になるかね……まぁ、向こう様があんたを気に入ったとか、あんたがその気になったら話は別になるけどね……」

(先ず私が『その気になる』事は無いから…)

「よしっっ!!」

 拳を握り、フィセードは喝采を上げる。

(アルフェスト様だってリュレーナだって…へぺぺ軍に居る女性の殆どが結婚してないってのに、よりにもよってエマネレグさんの押しに負けて嫁になんて行くもんか!!このお見合い、何が何でも絶っ対に破談へ持ち込んでやるっっ!!)

「ふ…ふふふ……」

「何野望に燃えてんだか……」

 決意に燃えて低く笑うフィセードを、起きてきたフィセルヴァインは微妙な表情で眺めていた。

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