第一話
「こちらのお宅のアレサ嬢には、次期レガンダルシア侯爵の奥方として来ていただきたい」
ある日、うちにやって来た女騎士は私が玄関の扉を開けるなり言い放った。確かに見たとおりの貧乏だけど、うちはこれでも貴族なんだけど。
なんかひしひしと上から目線な空気と、蔑みの視線を感じる。早く目当ての人物を呼べとでも言わんばかりに。私を下働きか何かとでも思っているのだろう。この格好だから仕様がないか。
「あの、私がそうですが……」
でも、私の何が気に入らないのかは知らないけど、その態度はないと思う。
私がお目当ての人物だと分かると上から下までスーッと目線を動かして、再度顔まで戻ってきたかと思ったら、ハンッと誰が見ても馬鹿にした顔で笑ったのだ。
使いだかなんだか知らないが、主人が主人なら部下も部下だ。
求婚の筈なのに本人は来ないし、部下のはずの女騎士は如何にも馬鹿にした態度。これで求婚に来たと言われても、何の冗談だとしか言えない。
「あの、間に合っていますので。お断り……」
「あなたの家程度の爵位で、あなたの方から断れると?」
バカにしている私が嫁いで来ないならこの女騎士としては万々歳の筈なのに、何故か一気に不機嫌顔。バカにしている私程度がこの話を断ろうとしているから?
確かに、私の家は男爵だし歴史だけはあっても経済的にはいつもカツカツだ。だけど、私はこの話を断れる。家系が古く遡れるからこそ、例え侯爵様であろうとも、私を簡単に娶ることは出来ない。私の家系の結婚には、王家の了承と何より本人の強い希望があってこそ結べるものという暗黙の了解があるのだ。