孤児たちの行方
キンリーから相談を持ち掛けられた内容は、今回の出来事で生まれた孤児たちのことだった。
「元から片親しか居なかった子や、両親共に今回亡くなった世帯があってね。まだ、どれだけの孤児が出たかは正確には分かってないがね、獣人は多産さね。元の孤児院は今回のせいで半壊になって、養育者の代表は子どもを守って死んだと聞いたからねー」
キンリーが言うには、元の孤児院の子どもと今回の戦いで孤児となった者が相当数になるだろう。孤児院は崩れて雨風は凌げず、孤児院の代表となる養育者は亡くなった。
更に、街が半滅していて孤児を養う余裕もなく、住む建物は限られている。大人なら野宿しながら復興活動も可能だが、子どもにそんな体力はない。また、この街に居るのは心的負担が多い。
出来れば家族を亡くした老人も移住出来る環境があれば、集団で移住したい。首都などは少数なら可能かもしれないが、全員の受け入れは厳しいと思われるとの事だった。
「首都でも孤児の受け入れは全員駄目なんだね。炭鉱街は労働者の男性がほとんどだし、村はそもそも自分たちの生活で一杯。元から村に住んでいたなら家族ぐるみの付き合いで面倒見てもらえるかもだけど、今回は望み薄いって……」
これ、どうにか出来るのかな。隠し里が一瞬過ったけども、そもそも交流を絶って暮らしている人たちだから論外だよね。
「んー、リリ。これって、ギルドハウス持ってる人向けのクエストかしら? でも、私たちのは村にあるし」
「僕も郊外だよ。そりゃ、一人にしては広いけど建物なんて一件だけだし」
では孤児や住む場所が無くなった老人はどうしたらいいんだろ。子どももだけど、家族も家も無くなったお年寄りも野宿は厳しいよね。被害に遭っていない家に間借りにしても限度があるんだよね。そもそも、今回の死者や被害状況はインフォメーションでおおよそ公開されたけど、孤児の人数などは公開されなかった。
「キンリー、まずは孤児や住む場所がなくて移住が必要なお年寄りの人数調べない?」
親戚の家などに行ける人もいるはずだ。オリヒメが言ったようにギルドハウスなど所持していることが前提のクエストなら、収用人数が解らないなら要請のしようがないんだよね。それでも、バラバラになりそうだけど。
「出来れば、子どもはあんまり離ればなれにはしたくないけど、仕方ないさね」
多産なので兄弟姉妹が多く、唯一の家族が離れ離れは望ましくない。心的外傷の緩和を考えて、友人がいればそこもまとめて移住したい。元からの孤児はすでに家族のように協力して生きているから、集団が望ましい。
「リリ、普通のギルドハウスは可哀想だけど無理だと思う。私たちの所もだけど、ギルメンの規模で拠点選んでるからね。増築は可能でも、土地代と建設費か家の購入。家具などでも出費してるから、急に増築も難しいわ。最悪、兄弟ですら離れ離れに分散するしかないかも」
確かにギルドハウスへの移住は問題があるよね。増築するにもお金がかかるし、メンバーが全員ログアウトしていたら、彼らが勝手に使用することも問題になるかも。いや、知らない人が勝手に使うのは精神的に嫌だもんね。彼らは生きているのだから、衣食住は必要なはず。テイムされてログアウトすると同時にスリープ状態になるペットとは違うんだし。
僕みたいに広い土地があれば、何人来ても大丈夫な事もある。でもやっぱり、他人に住まわれるのは嫌がられるよね。そもそも家が複数ないと、それも難しい。
「……んーん。そうじゃないよ」
「リリ?」
少しでも力になりたい。助けたい。僕が切っ掛けで始まったんだ。自己満足だろうと、そう思ったんだ。
ならば、やっぱり人数の確認が必要だよね。
「僕が、僕の土地が受け入れるよ。でも人数が解らないと、分けなきゃだから……」
家には客室数室に僕の人間形態での主寝室と屋根裏部屋、広いリビングとその真下のリビングより少し広い巨大地下収納の部屋がある。
棟梁が未だにダンジョン遊びするお詫び兼半人前の実地研修の許可を出して、格安で本宅はほぼ完成した。まだベランダやウッドデッキは完成していないが、先に離れとなる石造りの鍛治や細工等に使用する作業小屋──平屋の一軒家並みの広さ──の建築をして貰っている。新人やまだ見習いを伴い、木造の家屋と石造りの建物を教えながら実際に建てられて棟梁も満足らしい。僕もデメリットないしね。研修でも、人が住むのできちんと監督しているので不良建築にはならないし、人手も多いので教える手間があっても棟梁一人で建てるよりも断然早い。棟梁以外にも数人が教育係りでベテランも来ていたしね。
そんな訳で、部屋はかなり空いている。地下収納部屋に外光は入らないけど、光を点ければ十分明るいし地下だからか適温に保たれている。作業小屋も状況によって住めるとは思う。
僕はワンコたちと本宅の動物部屋でも、手作り犬小屋でも厩舎でも眠れる場所は多いしね。棟梁に言えば、新たに建ててくれるかもしれないけど、既に格安で建てて貰っても所持金は寂しい状態。
「ありがとうさね。チビばっかりに負担は掛けんようにするからね」
畑も果樹園もある。乳や湧水と飲み物もある。羊毛で服も作れる。家もあるけど、確かに大人が他にいないと子どもだけで生活は厳しい。僕もログアウトするからね。
キンリーが口利きしてくれたら、移住するお年寄りが子どもの面倒を見てくれる。そもそも、子ども嫌いだったら一緒には住めないけど。僕も面倒は見るつもりだけど、キンリーみたいな人たちなら面倒を見られる側になりそう。
なんにせよ、人数の把握からだね。
これが落ち着けば復興のお手伝いしないとだし、慰霊碑は絶対に建立するつもりだ。