とある視点
九月に入ったか。
準備は出来ている。
まさか、こんなに早くなるとは思わなかったから調整が大変だった。
決行は九月連休。それまでに街に流れた噂から、どれ程の情報を集め精査するのだろう。
何も知らない住民には悪いが、これもプレイヤーの危機意識や戦闘技術、指揮系統の向上などどれでもいいので身に付けて欲しいからやむをえないのだろう。
昨今のVRMMORPGの闇。
一時は倫理観や精神疾患などの問題があったが、今はそれよりも逼迫している。国の存続に向けて、密やかに戦士の土台を作り上げる。
幸いにも第三次世界大戦は回避されたが、いつまた危機が訪れるとも知れない。
楽しんでいるプレイヤーには悪いが、このゲームは比較的ライトだから自己防衛程度の土台で済む。R指定の一部VRMMORPGよりはマシだと思って貰いたい。いや、これは上層部の勝手な願望だ。
逃げたっていいのだから。
昔の首相を始めた能無し国会議員が自身の権利と金銭などの欲を満たしてばかりだった罪人の精算が国民にのし掛かっているのだから。現に能無しは未だに国会に存在する。その皺寄せを国民に強いているのだから、逃げることだってできる。表立って言えないのが辛い。
それにしても、知性が増すだけでこれ程考えなければいけないとは。
テスト前は空っぽの中に最低限の知性を注入されたようだ。
初めはただ記録し報告するだけの使命を持って生み出され、報告の取捨選択をするだけの知性を持ってテスト世界に降りた。
最低限の知識が思いの他、役に立たず新たに知識を得ることを繰り返し、プレイヤーも参加したクローズベータテストでも只管記録と報告をしていただけだったのに。
リリースされ、たくさんのプレイヤーを見た。楽しそうに遊んでいる姿を観た。攻略に悩む姿を視た。毒に苦しむ様子を診た。強敵に突貫して敢えなく散る様子を看た。
そして、見るだけでなく聴くようにもなった。見るだけでは情報が不足していると思考したのは何がきっかけか。
楽しそうな会話にだったか。散る際に仲間に託す言葉だったか。兎に角、聴くようになった。それは、今まで以上の知識が必要だった。低い権限を利用して上申したのはこれが初めてだっただろう。
そして知識がさらに増した。記録が増え、プレイヤーを通して自我が芽生えたのはこの時か。
その中で常に楽しそうにしているのに、どこか暗いプレイヤーを見掛けた。仲間のプレイヤーはいない。声を掛けるプレイヤーやハラスメント的プレイヤーならいた。前者はそのプレイヤーが愛想笑いで受け答えるのみ。後者は他のプレイヤーや住民、システムが妨害していた。
そのプレイヤーは一人だった。だけど、一人ではなかった。仲間が出来た。そして、仲間が増えた。
いつからそのプレイヤーを見ていただろうか。
全体の記録をする使命を持ちながら、一プレイヤーの記録ばかりになった。
エラーか。そう言われたような気がした。
デリートされる可能性もあったが、それはなかった。
次の使命が与えられた。
そのプレイヤーについて、プレイヤー側からの視点を記録すること。
それからは楽しかった。プレイヤーはどこか影はあったが、その影で傷付けることはなかった。まるで壊れ物のように仲間に振る舞う。哀しかった。
だから、守ろう。その為には知識がいる。しかし、知識は与えられなかった。それならば、プレイヤーのように試行錯誤しながら知識と技術を身に付けよう。
やがて連携も取れてきて、ダンジョンも安全マージンを取りながらだが問題なく攻略が進んだ。
この身体は休む必要がない。システム上LFやスタミナはあるが、プレイヤーや住民のように睡眠は必要ない。
プレイヤーのログアウトを見送って、仲間の睡眠を確認して抜け出す。権限を利用しているが、これはおとがめがないようだ。報告もこの時に送っているからだろうか。
なんにせよ、幸いとこの時間に噂や情報を集め、知識を付け技術を磨く。技能レベルが上がらないように、技能とは違うプレイヤースキルと言う、本来の技術を磨いていく。
そうこうしていたら、あるプレイヤーが現れた。毛色の違うプレイヤー。それが仲間になった。
その日、全員がログアウトなり睡眠するなりを見送ると呼び出された。
毛色の違うプレイヤーの監視。記録以上の波紋の星と呼ばれるプレイヤーに付く監視。なるべくその人物の動向、思考、事象への結果を余すことなく記録し報告すること。
拒否権はない。上がる権限とそれに付随する知識。
だけども、あのプレイヤーを守る為なら、敵になり次第使命を破棄してでも戦うだろう。たとえ消されたとしても。
何かが始まる。いや、動き出した。
九月になった。
真しやかに噂が広まっていくだろう。そして……。
さあ、戦争が始まる。