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少女、そして

「……、んぅ」



 あれ、僕どうしたんだっけ。

 眼が醒めてきて徐々に先程の出来事が思い出される。そうだった、裸の凶鳥に追われてスタミナが尽きて……それから精神的にも疲れて気絶したんだ。

 視界右上に浮かぶ時計を確認しても然程時間が経っている訳ではないと思う。寝落ちからのログアウトになってないし、そもそも三十分も経っていないと思う。あの時は逃げるのに必死で細かい時間なんて気にしていなかったので、大体の当たりをつける。

 ああ、風が気持ちいい。草原に吹き抜ける風が目覚めた頭をクリアにしていく。と、同時に地面とは違う柔らかな上に居ることに気付いた。

 キョロキョロと頭を動かしていると、柔らかな物が動き、声が降ってきた。


「あ、起きた? おはよ、ワンちゃん」


 そちらを仰ぐと影で解りづらいが可愛い女の子みたいだ。緩くウェーブのかかった淡い金髪が木漏れ日に煌めいている。


「あ、……わんっ」


 危なかったー。思わず人語を話すところだった。今は人間領にいるのだから、無害な犬になりきらないと。


「元気みたいだねっ。こんな所に倒れているからどうしたのかと思ったよ」


 その後に小声で、「なにかのイベントだと思うけど」と言っていたけど聴覚が強化されているので聞き取れた。

 そっか、イベントだと思って優しくしてくれてるのかな。人間領に僕みたいな犬がいるか解らないし、イベントだと思われてるなら、それに便乗しよう。それで攻撃されないだろうし、首都にもいけるかも。

 イベントと言われたので、こちらも打算的になる。善意じゃなく、イベントだと思って優しくされたらね。


「あ、もうミーケ嫉妬しない」


 突如何かに身体を押されて、膝と思う場所から転げ落ちた。そして、ツンッとした可愛い生物が目に飛び込んできた。いや、可愛いすぎる。

 白い毛並み。スラッとした身体に胸元だけモフッと柔らかそうな毛。艶を反射して妖艶な猫のような尻尾。ピクピクと動く兎のような長い耳。獣人領にはいない可愛い生物が横目で僕を見下ろしてくる。あくまでも興味がないように横を見ながら観察するツンデレな猫? 兎?


「もー、ミーケは。よしよし」


 少女が頭を撫でると機嫌が直ったのか、少女のしゃがんだ足に身体を擦り付けている。うん、匂い付けだね。

 そうこうしていると、今度は鼻先に蝶々が停まった。くしゅん!


「バーミルも挨拶? 仲良くね」


 どうやら蝶々も少女の知っている生物みたいだ。

 黒渕に蒼く透き通った翅が美しい。だけど、その大きさは少女の顔くらいある。くしゃみをしたら翔んで少女の頭に停まった。

 その少女も動いたからか、その顔がきちんと見れた。まだまだあどけない顔だが、均整がとれた美少女だった。頭に赤いリボンと蝶々がいるので、さらに幼く見える。僕のような例がなければ、中学生か小学生くらいかな。低身長にマイナス10cmの補正を僕だけ受けている訳ではないから一概には言えないけど。


「あ、ワンちゃん。私はアリスン。このラヴィキャットがミーケ、セイランチョウのバーミル。あとは、おいで!」


 少女、アリスンが頭上に合図を送ると一羽の黒い鳥が枝から滑空して、少女の伸ばした腕に停まった。


「この子が、ブラックピジョンのクールさん」


 紹介されたクール、クールさん? は挨拶するように右の翼を挙げてくる。それに驚いてキョトンとすると、頚を左右に振って呆れられたように見えた。なんで!?


「ね、ワンちゃんはどうしてここにいたの?」


 僕らのコミュニケーションを無視してアリスンが聞いてくる。だけど、人語で答える訳にはいかないよね。


「うー、わんわんっ」


 とりあえずこれでいいかな。


「そっか、お母さんと離れて迷子になったんだね」


 なんでそんな解釈になるの! 特に意味があって言った訳じゃないからあの言葉は適当なのに。


「親を探すイベント? それとも、テイマー限定の特殊使役クエスト? まだ確認されてないはずだけど、他のゲームにはあるし」


 アリスンは独り言なのか、僕が理解できないと思ったのか首を傾げながらブツブツ言っている。だけど、その中に少女の情報があった。

 テイマー。人間にのみ確認されている技能を使い、使役したモブと戦う人の総称。まあ、他のゲームやラノベにも登場するから変に考えるほど変わり種でもないし、説明も特にないや。

 ちなみに、エルフはエレメンターと言うテイマーと同一だが精霊に限定される人たちもいる。


「とりあえず、親を捜してみようか。ワンちゃん、おいで」


 少女が立ち上がって僕を呼ぶけど、いない親をどうやって捜すのだろう。

 とりあえず宛もなく散策しながら、近くの人達に目撃情報を聞いて回ること三十分。どうやらここはダンジョンの一つみたいで、ヤオロズ……人間で言う冒険者ばかりがいる。その中には数人テイマーも見掛けることが出来た。


「いないねー」


 然程捜してはいないけども、アリスンが立ち止まる。


「よし、気分転換にオヤツにしよう」


 なんて言いながら近くの木陰に腰を下ろし、ミーケやバーミルたちもアリスンの周りに集まる。


「ほら、ワンちゃんも」


 自分以外にも果物を配ってから、僕にもリンゴを差し出してくる。食べ物は獣人領と同じ素材なのかなと思いながら近付くと持ち上げられた。


「そう言えば……あ、メスなんだね。はい、リンゴ」


 股間の部分を確認して満足したのか、地面に下ろしてからリンゴを渡してくれる。犬状態でじっくり見られたのは初めてだから、なんだか恥ずかしいよ!

 とりあえず恥ずかしさを誤魔化すために、シャクシャクと地面に置かれたリンゴをかじる。うん、甘酸っぱくて美味しいです。


「親いるか捜したいけど、もう一時間ちょいでログアウトになっちゃうし、どうしよう」


 リンゴを食べながらアリスンが悩んでいる。その傍で各々ミーケがかじり、バーミルが果汁を吸い、クールさんがつついている。って、バーミルのリンゴがどんどん萎れているんだけど。


「ね、ワンちゃん。私の所にくる?」


 バーミルのリンゴに戦慄を覚えていると、親捜しからテイムに思考が変わっていたらしい。犬だけど、一応プレイヤーでもある僕ってテイム出来るのかと思ったら、突然メッセージウインドウが開いた。


『プレイヤー:アリスンがあなたをテイムしたいようです。仲間になりますか? YES / NO  (現在の親密度5)』


 ……え、テイムできるの?

 そう思って思考が停止していると、アリスンがなんだか怖い笑顔で呟いた。


「ワンちゃんの親捜しで時間使っちゃったし、さっきリンゴ食べたよね。ね、ワンちゃん?」

「…………わん」


『プレイヤー:アリスンにテイムされました』

『階位【従魔】を授かりました。これにより、プレイヤー:アリスンの配下として一部ステータスの閲覧が主従共に解放されます』


 怖かったからじゃないけど、いつの間にかテイムを許可してしまった。

 ああ、この先どうなるんだろ。人間領って色々怖い。

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