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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
始めてのVRMMORPG
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連続クエスト開始

「なんじゃ、勝手に入ってきおって」

「あ、ごめんなさい」


 ノックもせずにオリヒメが掘っ立て小屋の扉を開けると、そこは六畳程度の一室で今にも足が折れそうな椅子に腰掛けた老人がいた。見た目は猿の獣人だろうか。


「えと、何か困ってませんか?」


 クエストの起点の一つを言ってみるが、老人は手を振って帰れのジェスチャーを寄越した。


「それじゃダメなんだよね。世間話の相手しなきゃいけないんだ」


 すでにクエスト達成したオリヒメがアドバイスをしてくれる。そんなオリヒメを老人は一瞥しただけ。


「わかったよ。お爺ちゃん、良い天気だね」


 いきなり世間話と言われても思い付かない。日本人らしく天気の話題を振ってみる。


「そうじゃな。子どもは外で遊んでなさい」


 返答はあったが、ジェスチャーで帰れと言われてしまう。


「うー、その、お爺ちゃんの昔のこと聞きたいな!」


 僕が困ってる様子を見てオリヒメがホッコリしていた。

 それを無視して、昔語りを今度は促してみる。


「ふん、子どもにはつまらん話しかない。遊んでいたほうが有意義だ」


 また帰れと手を振られ困った所にオリヒメが再びアドバイスをくれた。


「何回か昔のことを聞いてみなさい」

「え……うん。お爺ちゃん、お爺ちゃんのこと知りたいな」

「なぜ聞きたがる。こんな老いぼれのことを。冷やかしなら帰れ」


 今度はハッキリと言葉で返されるが、漬け込む隙が生まれたようだった。


「昔のこと聞いてみたいのは本当だよ。ね、お話しして?」

「そんなに聞きたいのか?つまらん話を」

「うんっ」

「なら、話してやるから、最後まで聞くがいい。寝るとワシは怒るからな」

「あ、うん。わかったよ」


 オリヒメが苦笑しながら、頭を撫でてきた。


「頑張ってね。たぶん、寝たり出ていったらクエスト失敗だから」


 そう言ってオリヒメは出ていった。


「ではそこに座りなさい」

「うん」


 ギギッと向かいの壊れかけの椅子に座る。それを確認して老人は口を開いた。


「最後まで付き合って貰うぞ」


 そう再び忠告をし、語り始めた。

 途中途中で頷かないと寝ているか尋ねてくる。その為、確りと聞いておかなければならなかった。

 語り終わったのは一時間三十分にも及んだ。腰が痛い。あと、眠い。


「だからな、人生最後に最高の作品を作りたいんじゃ。あいつの為に」


 話をまとめると、老人は有名な鍛冶師で主に防具を作っていたそうだ。その老人の常連で親友に依頼されて最高の防具を作ろうとした。だけど、素材が集まらず、期限までに作ることが出来なかった。老人は今まで制作した防具の中で一番の物を渡し、親友はそれを受けとり冒険に出かけた。それが親友との最後の別れとなり、自分のせいで死んだのだと思った老人は鍛冶師を辞めて旅に出た。

 十年も街や村を訪ね歩いたが親友は見つからなかった。もしかしたら、首都に帰って来ているかもと思い、久しぶりに帰郷したが親友はどこにもいない。老人も慣れない旅で心身ともに疲労し、この小屋に住み始めた。元は薪置き小屋だったここを最低限に整え、それからずっと親友を待っているとの事だった。

 よくあるクエスト設定だと思いながら、老人に向かってこう言う。


「作りましょう。お手伝いします!」


 すると老人は目を見開いてから、首を振る。


「ありがとな。だが、そんな簡単に集まるもんじゃない。ワシとて探したんじゃが、どうしても幾つかは……」

「大丈夫!何が必要かな」


 幾つかと言うことから連続クエストであるのが伺える。それがどういった物かは分からないが、定番と思いつつも老人の無念を晴らしたいと思えた。クエストとは関係なく。


「本当に手伝ってくれるのか?」

「うんっ」

「かなり昔だから素材も一から集めないといけないんじゃよ。いいのか?」

「大丈夫!僕がお爺ちゃんをお手伝いするから」

「ありがとう。では、一つ頼まれてくれるか」


 老人の顔から険が薄れる。


「うん。何を集めればいいかな」

「ハジリ村に行ってソイがいれば、白岩を貰って来てはくれんか?ワシの名前を言ってこいつを渡せばくれるはずじゃ」


『白椰子の酒を入手しました』


 老人から受け取ったお酒は貴重品に表示されて、手から消える。


「えと、お爺ちゃんの名前って……」


 名前も知らない人の昔話をせがむなんて異常だが、話のなかで老人の名前も親友の名前も分からなかった。


「……それじゃ、頼むぞ」

「えと、名前」


 どうやら教えてくれないらしい。

 困りながら小屋を出ると壁に(もた)れながらオリヒメが何かを食べていた。


「おつかれー」

「何、食べてるの?」

蜜蝋(みつろう)の樹。食べる?」

「うん、欲しいかな」

「んじゃ、はい」


 今までオリヒメがかじっていた樹を口に突っ込まれた。


「私の分しか買ってないからね。食べ掛けだけど、まだ味はするはずだよ」


 間接キスだと思いながら、口一杯になるくらい太い樹を噛んでみると、ほんのり甘く感じる。


「サトウキビみたいだろ」

ほう(うん)はまい(あまい)

「…………」


 オリヒメの指が動いていた。あれはスクショを撮る動作だ。


「リリ、最高だ」


 気持ち悪くにやけていた。


「あ、ところで……」


 口から樹を離して、老人の事を聞いてみる。


「ああ、それならクエスト名に書いてあるさ。見ず知らずの他人に昔話を話すのはおかしいから、きっと知り合いかなんかの設定なんだろ」

「うーん。辻褄合わせが慣れないよ」


 クエスト名を調べる間に蜜蝋の樹を奪われオリヒメが噛んでしまった。


「ああっ‼」

「泣きそうな顔するなよ。ほら、オシャブリだぞー」


 口に樹を戻された。オシャブリなんて年齢じゃないのに、蜜を吸うとそんな感じに見えるのかもしれない。


「で、分かったか?」

「うん。エンテの交換品てやつだよね。エンテが名前?」

「ああ、そうだ。始めの村に行って雑貨店に行けばいいんだが、話が長かったからな。リリは村に着いて落ちないといけないか?」

「えーと」


 オリヒメと狩りや買い物で四時間になろうとしている。老人の話で一時間三十分。街道から外れなければ三十分で村に着くだろうが、そこで六時間になってしまう。もちろん三十分で着く保証もない。

 そう考えていると、強制ログアウトの三十分前アラートが鳴った。


「いま、三十分前のアラートが鳴ったよ。走れば間に合うかな」

「ギリギリかな。エンカウントしても無視して突っ切れば二十分くらいだろうね」

「なら、走ろう」

「分かったよ」


 蜜蝋の樹をインベントリに閉まって二人して駆け出す。【蜜蝋の樹】はすぐに消費して消えないらしい。耐久度があと30残っていた。

 そしてエンカウントを無視して走ること十五分。村に到着した。幸いMPKにならずに済んだが、下手をしたらかなりたちの悪い行為なので、今後は気を付けようと胸に誓う。


「ふー、着いたか。リリは小さいから歩幅狭いのに、さすがに素早さに振ってるだけあるな」

「お姉ちゃんも速いじゃん」


 僕がやや先行する形になったが、オリヒメの歩幅の広さと獣人の補正で素早さが強化されていたお陰で、少しペースを緩めるだけでオリヒメは着いてきた。

 現在の僕ならば本気を出せば十分位で移動出来るかもしれなかった。


「どうする?」

「んー、余裕出来たけど……どれくらいで終わりそうかな」


 もうすぐ十分前のアラートが鳴るのだ。余裕はあってもクエスト完了までの時間が分からない。

 たとえタイムリミットになっても、キャプチャーみたいに細かく分割されているので直前の話から聞き直せるはずだ。

 だけど、それは雰囲気をぶち壊す。こういうのは、雰囲気も含めて楽しまなければ面白くない。


「十分はかからなかったはずだけど、時間なんて計ってなかったからな」

「んじゃ、今日はここまでにしておくよ」

「そっか。私は少し稼いでから落ちるわ。こいつにも慣れないといけないしな」


 そう言って新調した両手剣を引き抜く。以前のより刃渡りが広くなったように見えた。長さは変わらないのだろうが、重量や感覚を覚える必要がある。

 VRならではの苦労だが、それがないと実感がなくなってしまうのだ。武器新調は感覚のリセットと同時に新たな世界を見せてくれるファクターなのだ。多少の苦労はむしろ望むものだった。


「じゃ、これでバイバイかな。明日も何時入れるか分かんないけど、またねお姉ちゃん」

「ああ、またなリリ」


 十分前のアラートが鳴った。アラートを止めてからLiLiはログアウトし、オリヒメの前から粒子となり消えていった。


「よし、頑張るか。これから宜しくな相棒」


 両手剣の腹を一撫でし、オリヒメは村を出ていった。

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