新境地凱旋?
夏休み終了まで僅かとなった。あと数日で皆と海水浴を含めたお泊まりもあるので、プリハでも今までと違った事をして思い出を作りたい。
ホームの《聖域化》を行った翌日から三日間はお薬作りやワンコたちと散歩したり、見守り隊のマッサージを受けたりして過ごした。だけど、これじゃ今まで通り。
「やっぱり、違うこともしたいね」
相変わらずの金欠なので、定期的に薬品の開発と店舗に卸すことはしないといけないけども。
そうこう考えながら露天風呂でワンコたちとのんびり《犬かき》をして遊んでいたらレベルが4に上がった。
「あと1レベル上がったら新しい技能覚えるのかな」
《犬かき》は単に水の抵抗が減り速く泳げること、泳いだあとの乾燥が早まることくらい。あとは、少しだけ潜水も出来るけど《水泳》や《潜水》の専用技能程ではないと思う。水中戦なんてもっての他。
「……あ」
思い付いた。変わったことが出来るかもしれない。変わったことと言うよりもチャレンジ。失敗したら死ぬけども。
今いる露天風呂は家に隣接した場所とは違い、自然を感じる為に始めに設置した川沿いの露天風呂。こっちは稀に有翼馬も入るし、家に隣接した露天風呂よりも広いので泳ぐには最適。寛ぐなら家、遊ぶなら川沿いと使い分けている。
「レベル4なら川泳いで渡れないかな……」
ただ問題は、川に棲息している水棲モブも高レベルであり、過去に場所は違うけど人間が獣人領に泳いで渡ろうとして喰われたとスレッドで見たこと。領は隣接していても、どこも簡単には渡れないような地形や高レベルなモブが配置されている。現に未だに交流が持てない一因である。
「スレッドも確か六月くらいにみたから、その人の技能レベルも低かっただろうし。でも、まだこっちに来ていないなら失敗し続けてるか、チャレンジ諦めたかだよね」
《水泳》レベルが上がってからも失敗しているなら、僕も失敗すると思う。なにより、《水泳》と《犬かき》の差異がどれ程かも不明。
改めて川を見る。川幅は広いとは言え、流れは緩やか。狭い場所を探せば渡れるか。でも狭いと流れが速くなっていそう。
「なにより、ここは人間と獣人が争っていた場所なんだよね。あっちも、朽ちていたとしても防衛施設の残骸はあるよね」
堤防が残っていたならば、例え渡れても上陸が出来ないかもしれない。ただ、これも上陸さえ出来れば拠点になりそうな場所も残っているかもしれない。
「取りあえず明日かなー。よーし、また競争するよー!」
レベルが上がったんだから、確認しないとね。
「いい場所ないかな」
翌日、拠点から川沿いに渡河出来そうな場所を探して移動する。もし良い場所があればそのままチャレンジするので、僕一人での移動。
移動中は《マーキング》を使用するようにもなった。レベルが上がれば関連技能と合わせてかなり有用になるので、《聖域化》してからは移動時に使用することを心掛けている。
「あ、この辺が良いかな」
流れは緩やか。川幅は岩などで多少は狭くなっている。なにより、中洲がある! 遠目に見ても木がポツポツある程度で強モブの影はない。イベントで出現したらアウトだろうけど、初めのチャレンジには絶好の渡河ポイントじゃないだろうか。
「よーし、んじゃ、さっそく」
藪と岩を掻い潜って河川敷に到着。ここで《仔犬化》を解く。身体が大きい方が推進力がありそうだし、なにより本来の姿なのでステータス低下もない。《犬かき》を発動しながら河に入り、先ずは慎重に泳ぎ出す。
暫く泳ぐと魚影が近付いて来たけど、直に離れていった。なんか慌てて逃げていったようにも見えたけど、数度の接敵はあったが無事に戦闘もなく中洲に上陸。
「休憩ー」
しかし、やっぱりモブはいるんだよね。戦闘がなかったから強さは解らなかったけども、逃げてくれて良かったよ。ノンアクティブなモブだったのだろうか。
この中洲も遠目に見た通りに敵影はなく、危険はなさそう。あ、珍しい薬草発見。
インベントリから見守り隊特製サンドイッチとハニーミルクを出して、暫く河を眺めながらまったりと過ごす。一度、巨大な魚影が見えたけど、きっとレアモブだよね。人間領に行くまでに出会わない事を祈ろう。
「それじゃあ、行こうかな」
スタミナも全快したのでそろそろチャレンジの続きでもしよう。中洲までも十分以上泳いだし、この中洲から人間領までの距離の方が長いのは上陸してから気付いた。
中洲の対岸まで採取しながら歩くと、再び巨大な魚影が通り過ぎた。
「巡回型のレアモブかな」
レアモブには四種類いる。
極狭い範囲を移動する定住型レアモブ。これはプリハを始めた時にイベントで戦ったグランラットがこれに分類する。
広大なエリアを移動する徘徊型レアモブ。これは隠れ里を発見するキッカケにもなったランサーピグがこの種類。
一定の範囲を往復や周回する巡回型レアモブ。鳥型や魚型に多いらしいので、この巨大な魚影も恐らくこれに分類される。
最後に同一エリアにて一定数の特定モブの討伐で現れる発生型。特定モブの上位個体だが、かなり強化されており同一の対処では倒せない。毎回ステータスや技能もランダムで完全ユニークモブでもあるらしい。
「と、言うことは。今通過したんだから、暫くは来ないよね」
あんな巨大なのとまともに戦闘なんて出来ない。いくら本来犬妖精が子牛サイズだからって、それ以上巨大なモブなんかとソロでなんて話にもならない。まして水中戦なんてもっての他なんだから。
「急いで行こう。さっさと行こう」
善は急げ。鬼の居ぬ間にとかの諺に倣って《犬かき》で水を掻いていく。露天風呂で鍛えた《犬かき》を見よ!
「と、フラグ回収なくて良かったー」
無事に二十分近く掛けて人間領の河川敷に上陸。小さい魚影は相変わらず近付いては離れていった。河川敷で休憩していると、再び巨大な魚影。だいたい三十分間隔で巡回している感じかな。危なかった。
『獣人が人間領への浸入に成功しました。これより、全種族領にて定期的に侵攻イベントが発生します。なお、侵攻の敵は現地住民ではなく侵攻専用の敵となっています。侵攻イベントでは拠点の防衛により、街の破壊や衰退が反映されます。敵からは貴重な物資を入手することが出来、これより街の繁栄に役立てられます。詳細はヘルプを参照して下さい』
『階位【一番槍】を授かりました』
『階位【渡河の達人】を授かりました』
……また大変な事をしたみたいだ。侵攻イベントなんてヤバいよね!! ごめんなさい、こうなるとは思わなかったよ。
思ったよりも簡単に渡れたと思ったらこれなんて。て言うか、これだけ簡単なら誰かチャレンジしてなかったの!
そんな文句をブチブチ言いながら、人間領の防衛拠点に入ろうとしたら入れなかった。売却地への売却許可がないと入れないらしい。ここも売ってるんだね。はあー、今日はここに【犬小屋】出してログアウトかな。精神的に疲れた。
階位【一番槍】:他領へ最初に到達した者の証。《槍術》の熟練度上昇。刺突耐性(大)。
階位【渡河の達人】:河での泳ぎ・潜水に補正(中)。河での戦闘に補正(攻防・移動に水抵抗負荷無効)。技能《水中呼吸》付与。