新しいワンコな家族
お盆前にモフモフ成分を充電してから、お金稼ぎに行こうとプリハにやってきたら、ワンコが増えていた。
《仔犬化》した僕に群がるまだヤンチャな三匹。
コーギコリーのイツキとサツキ。マニアドッグのハヅキ。まだまだ遊び盛りな子たちだけど、今ではそれぞれのお仕事を遊び半分で行っている。
牧羊犬のコーギコリーの二匹はシープを中心に他の動物達と戯れてながら、その特徴が少しずつ現れてきている。
収集犬のマニアドッグのハヅキは拠点周辺から小さな素材を持って来るようになった。まだ成犬ではないので小さな素材くらいしか持って来れないみたい。そして、漸く拠点周辺を駆け回るようになったのでまだまだ行動範囲は広くはない。
「えーと、どっから?」
そのマニアドッグのハヅキが何処かから仔犬のマニアドッグを連れて帰ってきたらしい。プリハに来たときにはすでに四匹で遊んでいたので、一応皆に聞いてみたのだ。
なんと、犬妖精になってからは何となく犬種なら感情や言いたい事が漠然と解るようになっていた。今までは遊びでしか使わなかったこの能力を活かして皆に聞いてみた。
「一匹でいたから、声を掛けて呼んだんだね」
毛が汚れて痩せているが、怪我は無さそうなマニアドッグを見つめる。病気もないかな。
「キミはどうして一匹だったの?」
とりあえず、僕兼犬用の餌と水を出して見ると警戒した後に一気に食べ始める。返事は食べた後かな。
「親や兄弟とははぐれた……かな」
何となく言いたいことは解るも、まだ三匹程意思疏通が図れない。悲しそうに鳴くマニアドッグの毛皮をペロペロと舐めて元気付けて上げると、他の三匹も元気付けに参加する。
「や、僕まで舐めなくても。お返し!」
結局、舐め合ったり遊んだりで一時中断はしたが、このマニアドッグの行き先がなくここに受け入れることになった。捜すけど、見つかる可能性は低そうだしね。
「キミは男の子だよね」
遊んでいて雄だと判明。同じマニアドッグのハヅキは雌なので、婿を連れて来たことになるのかな。いや、彼女もまだ仔犬だし、この婿……男の子はハヅキより小さいので生後二ヶ月にもなっていないかも。単に痩せてるかもしれないけど。
「先ずはキミのお名前かな」
ワンコ達の名前は旧月の名称を付けたので、そこから男の子っぽいのを思い出す。神無月、師走、睦月……ムツキ。神無月は流石にないよね。
「キミはムツキ。どうかな?」
「アオン!」
どうやら気に入ってくれたみたいで、ホッと一息。
「お腹がいっぱいになったら、綺麗になろうね」
外で遊んでいた三匹も結構汚れているしね。
そして食事も終わり、温泉まで皆で移動。未だに建築中だけど、今日は棟梁がいないので建築の音もしない。
「それじゃ入ろっか」
僕が皆を洗う為に《人化》で幼女に変身すると、ムツキが驚いて警戒したが、僕の匂いでさっきまでの犬と思ったのか警戒を解いてくれた。
「ムツキ、こっちだよー」
温泉は人間用サイズ以外に、犬や白鴉共同の動物用の浅い湯船を追加で作ってある。こちらは水源から水を結構入れてぬるま湯になっている。
ムツキは湯気の発つ水溜まりに警戒しながらも、他の皆がさっさと入ったので恐る恐ると足を入れて出してをしてから、意を決して湯船へと入ってきた。
「どう? 気持ちいいでしょ」
先に洗って上げるべきなのだが、三匹が先に湯船に突入したのでムツキだけ省くのは可哀想だったから湯船に誘い、その気持ち良さそうに眼を細める様子を見ながら身体にお湯を掬って掛けて上げる。かけ流しの温泉だから汚れも外に流れるでしよ。
それにしても痩せている。水で貼り付いた毛がそれをより一層際立たせる。浮いたあばら骨。皆より小さな身体にまだ弱そうな息遣い。
ムツキはハグレたのか。棄てられたのか。親達が死んだのか。はたまた、獣人に連れて行かれたのか。
僕だって《蓄用捕獲》で動物を捕まえた。ハジリ村のブリーダーも初めは捕獲しているかもしれない。
だけど、真実は解らない。フィールドに出た際は捜してはみる。それでも……。
「ムツキ。キミはもう僕の家の子だよ。僕らは家族だ」
親達が見つかって、ムツキが帰りたいと言えば帰ればいい。
「それまではこの家の一員だからね」
この子も大事な家族。愛情持って遊ぼう。
「先ずは身体を洗おっか」
ムツキを洗い、最終的に四匹に増えたワンコたちに揉みくちゃにされた愉しい一時。お盆に来られない分もたっぷり遊び尽くした。
満足してリアルに帰ってから、お金稼ぎをすっかり忘れていた事実に驚愕する。恐るべしモフモフ。
洗った後のムツキは、ハヅキと同じモフモフなダルメシアン柄でした。やっぱり、ハヅキの婿になるのかな。なんか特に二匹の仲の良さに嫉妬した今日この頃。