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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
始めてのVRMMORPG
8/123

難クエストに向けて

「…………はあー」


 翌日、運営からユーザーにお知らせがあった。

 それは先日報告した脳波の読み取りによる異性アバターになる現象について。

 内容は個別に貰ったものと変わりはなかった。ハードの情報を利用したものであり、対処が行えないとのことだった。


「…………はあー」


 隣ではオリヒメが溜め息を吐いている。

 もちろん、僕が男性と知っての溜め息ではない。いや、公式発表されたのでこの危険人物にさりげなく男性かもと知らせたが、「リリが男の子?そんな訳ないじゃん。全然男の子らしいとこないし」との事で信じて貰えなかった。すごく泣きたい。


「リリが小学生じゃないなんて……」


 オリヒメが落ち込んでいるのはそこだった。

 昨日あれから一度街に戻り、オリヒメはリアルの用事で落ちるとのことで別れた。

 せっかく回復して、まだログインから二時間くらいしか経っていなかったので再びフィールドでの狩りを続行した。

 もちろん、イエロービーはソロでの討伐に不安があったのでフィールラットやグリースネークを中心に採集も含めて行い、成長率とリゼが増えた。


「これで変なことしない?」

「いや、するけどさ。見た目こんなだし」


 何時ものように頭を撫でられる。つまり、幼いから攻略対象であると言いたいのだろう。される気はないが。


「絶対小学生だと思ったのに」


 なぜそう言うかと言えば、始めてパーティーを組んで連続で三時間を超えたからだった。つまり、12歳以上が証明された。

 今日は朝からログインしている。オリヒメも今日は必要な講義がないからサボったとの事で二人してラットとスネークを狩ってからビーに挑んでいた。

 お陰で僕のレベルは10に到達した。ちなみにオリヒメは14になったようだ。そのオリヒメのステフリは攻撃に極振りの様子。僕は相変わらず素早さと命中を中心に上げている。


『LiLi』

レベル10

成長率53

種族:獣人

階位:なし

生命力280

精神力95

攻撃力29

防御力29

 智力14

命中力31

素早さ34

器用さ14

  運10


 防御に不安がありポイントを1振り分けている。

 そして短剣スキルを修得した。


 武器スキル

 ・クローLv1:《スラッシュ1》

 ・短剣Lv1:《スローイング1》《ラッシュ1》


 《ラッシュ》は連続突きで《スローイング》は投剣スキル。予想通り投剣スキルはあったようだが、実はまだ攻略サイトには掲載されていないスキルであるようだ。武器スキルは購入時に表示されていたが、業は修得していなかった。

 《ラッシュ》は短剣を使えば覚えるのに対して、投剣は文字通り投げる事を続けないと覚えないからだろうとはオリヒメの談。

 初期のお金がない現在、消耗や回収を前提にしたことを行う奇特なプレイヤーはいなかった。LiLiは単に飛行するイエロービーとの相性が最悪で苦肉の策として行っていただけである。

 そして、クローという紛失しない武器があるのも投剣を行う上での保険となっていたが、獣人以外はサブアームを準備しないといけないのだから、初期から覚えることは少ないスキルである。

 また短剣という武器にもある。攻撃力やリーチの短じさで購入するプレイヤーも少ないのが発見されていない理由でもあった。


「スローイング覚えて少し狩りが安定したね。でも、私以外であんまり長い時間パーティー組まない方がいいよ」

「ん?なんで?」

「年齢の予測できるから。ま、リリなら敢えて組もうとするのかな」

「あー。でも、情報与えるのもなー」


 ログイン時間から大体の年代が推測できるのは、強制ログアウトシステムの弊害である。持続してパーティーを組めばタイムリミットがバレる。それも何回も同じ人と組めばなおさら。

 未成年との出逢いを求めるプレイヤーはそこを調べようとする。六時間を越えれば19歳以上、三時間を超れば13歳以上と解ってしまうのだ。もちろん、その前に毎回落ちれば解らないだろうが、熱中すればするだけ時間なんて早くすぎてしまうもの。年齢を偽りながら同じ人とパーティーを組むのはむずかしい事だった。

 幼くみえるLiLiにとっては小学生ではないことを証明することになるが、他人に教える義理もない。

 そのタイムリミット内での年齢の詐称は行えるのだし。

 ただ、オリヒメはLiLiのことを小学校を卒業したばかりだと思っていた。

 いくら春休みでも、もうすぐ始業式が始まる。それなのによくログインしているLiLiにそれとなく聞いたら「入学式までは時間あるから大丈夫」との返答があり、オリヒメはにやけた。三時間を超えたショックを緩和するには十分だったようだ。


「そろそろ装備整えなきゃ」

「リリもレベル10になったし、いよいよクエスト受けてみようかな」

「そう言えば詳しく聞いてないけど、メインストーリーとは違うの?」


 討伐と採集クエストのどれも達成条件を満たしたので街へ戻る途中で、恩返しのためパーティーを組むことになった難易度の高いクエストについて詳しく知らない事を思い出して聞いてみる。


「違うよ。あれは族長が始めのフラグだったけど、今受けるのは他の人から。始めのクエストだけやったけど、それはお使いクエストだったし」

「え、クリアしたなら……」

「お使いクエストからの連続クエストだよ。だから、リリにはまず始めのお使いはすぐに攻略してもらうよ。ま、連続クエストと言うより複数のお使いクエストの集合体って感じだけどね」


 連続クエストは幾つものクエストを繋いだストーリー性の長いクエストだが、こんな初期にそんな物があるとは思わなかった。


「私も知らずに受けたんだけどね。攻略サイトでは人間領で発見されてるからこっちにもあるんだろうとは思ったんだけどね」

「どんな話し?」

「攻略サイトのも、私のも似たような内容でたぶん防具制作クエストかな。報酬でくれるのか知らないけど」

「んと、まだ誰もクリアしてない?」


 発見してどれだけ時間が経ったのかは分からないが、パーティーを組めばある程度早く攻略は出来るだろう。それはオリヒメも今現在LiLiと組んで行っていることだ。それだけ長い連続クエストなのだろうか。


「始めのはまだ割りと簡単だよ。ソロでも出来たし。次のはドロップ素材集めかな。イエロービーより強いから今のレベルだとキツいんだよ。その後もあるみたいだね。ダンジョン系のクエスト。ほんとはメインストーリーをある程度進めてから始めるんだろうね。だから、人間領も攻略が止まってるんだよ。敵が強くてね」

「そんなの、僕のレベルで大丈夫かな」

「最悪デスペナだね」


 悪触れずに簡単に口にする。


「推奨レベルって分かるかな」

「たぶん最低20かな」

「倍じゃん!死んじゃうよ!」

「でも、だからこそ冒険って感じじゃん。せっかく見つけたんだし、もったいない」

「ハイリスクすぎるよ!……ちなみにお姉ちゃんはメインしてるの?」

「まだだよ」


 二人ともメインストーリーすら受けずに、難易度の高い連続クエストをしようとしている。

 いったいどちらが真性のドMなのだろうか。

 ただオリヒメの言うことも理解出来るのだ。難しいから挑戦したくなる。しかも、話を聞く限り獣人領では未発見クエストで、全体を見てもクリアしていないクエストなのだ。どこにも最後までの攻略を知らない。それは怖くもあるけど、なによりワクワクする。


「リリ、エロい顔してる」

「してないよ!せめて、ゲーマーの顔って言ってよ!」


 ゲーマーてほどゲームにいままでのめり込んだことはないが、このゲームは、いやVRだからこそ刺激があり楽しいのだろう。それをエロい顔なんて言われたくない。


「ま、本人だけは気付かない真実なんて世の中溢れてるからね」

「真実でもないよ!」


 難しい問題に直面して興奮するなんて、そこまでドMではない。そう思いたい。


「さて、まずはクエスト報告してから買い物かな。私も更新しようかな」


 オリヒメと共に街を移動しながら次々にクエスト報告をして報酬を受けとる。

 相変わらずの視線が絡まるが、もう無視することを覚えた。


「リリ、いまどれだけ持ってる?私は二千リゼ位だけど」

「えっと……五千ちょいかな」


 昨日今日と回復アイテムは全てオリヒメが負担してくれている。寄生みたいで断ったが、頑として譲ってはくれなかった。その為、所持金は減ることはなかった。また、1ランク上の装備を買うために更新もしていない。


「少し心持たないけど、大丈夫かな」

「回復アイテムは……」

「だから気にしない。これが終わるまでは私が養うっていったでしょ」

「でも……」

「子どもがお金のことなんて気にしない!」


 これじゃ、恩返しとはいえないがオリヒメが良いなら今はそれで納得しよう。まあ、オリヒメも役得なのだし。


「えっと、どうしよ」

「まずはその紙防御だね。次に武器だよね。普通は」


 それは防御を捨てて素早さアップの帽子を買った当て付けなのだろうか。


「短剣が五百に上肢も五百。腕が四百五十……」


 始めの村よりも装備アイテムは増えて、上位装備も売ってるがやはり高い。全部揃えるには半分以上のお金が飛ぶ。だけど、貯めておくのはさらに勿体ない。


「んー……武器、武器かー」


 すでに買っている短剣と頭装備。それも更新するべきか。


「どしたの?」

「んー、ちょっと」

「まさか、全額水筒につぎ込みたいとか…まさかね」

「その手があった!」


 今なら五千リゼもする水筒が買えるのだ。村まで戻って井戸水を汲めば飲める‼


「え、まじ?リリって本当に残念な子?」

「残念じゃないもん!水筒はほしいけど…うーん。取りあえず防具は買うよ」


 そう言ってウインドウを選択して次々に購入していく。所持金が減りアイテム欄に装備が表示されたのを確認して装備していく。

 アバターの変化は見られない。装備を他人に教えない為にほとんどのプレイヤーは非表示にしている。ただし、武器とファッションアイテムだけは設定出来ない仕様になっている。

 もちろん僕も帽子以外は表示していない。見た目はほぼ初期装備のままだ。


武器:草鼠の骨剣

武器:クロー

 頭:羽根つき帽子

胴体:蛇腹の胸当て

 腕:白椰子のグローブ

下肢:蛇腹のズボン

 脚:白椰子の脛当て

装飾:なし

装飾:なし

装飾:なし


 武器の更新は止めておいた。少し考えがあって、攻撃力を犠牲にする。上位の短剣でもそこまで上がらないのもあったためだ。


「何買ったか分からないけど……武器は更新しないの?」


 必ず表示される武器に変化がないことにオリヒメが首を傾げた。

 そのオリヒメは両手剣が変わっていた。


「さすがに初期武器は厳しいと思うんだけどなー。リリがそこまでドMさんとは思わなかった」


 オリヒメが若干引いている。しつれいな。

 確かに難クエストに低威力の武器は役にたたないだろう。しかも、攻撃に不安のあるステフリと獣人の特性が合わさっているのだから。


「大丈夫、このあと魔導店いいかな」

「……え、まさか今買った振りで水筒狙い?」

「だから違うよ!すっごく欲しいけど我慢するもん」

「さすがに待てが出来るワンコだよね」

「むー」


 自分の見た目は犬系なので間違いではないが、なんだか不満だ。ちなみにオリヒメは猫系。他にも兎やハムスターみたいな感じの人たちもいる。


「取りあえず行くね」

「着いてくよ!また迷子になったら大変だし」

「だからなってないよ‼」


 二人でかしましく騒ぎながら店を移動し、目的の魔導店に到着する。


「水筒じゃないなら、魔導具?魔導書?」

「グリモアの方だよ」


 魔導具は確かに補助に最適だけど、まだ高い。前回来た時にはなかったが、何故か今は売っていた。

 それに引き替え魔導書は高くても使い込めば威力が上がったりしていくので、早めに覚えておきたいのもあった。

 魔術はMSを消費するので乱用はできないが、スキルと組み合わせて戦うスタイルにしていこうと思ったのだ。


「ちょい、足りないけど……」


 オリヒメにゴメンと心で謝り、回復アイテムをまず売り所持金を増やす。軟膏二つでなんとか所持金で買えるだけになった。

 オリヒメの軟膏を充てにする訳ではない。むしろ、軽減するために回復アイテムを犠牲にする。


「これと、これ」


 購入を済まし、アイテム欄の貴重品から魔導書二冊を使用し修得する。


《つむじ風1》消費MS5

《応急手当1》消費MS8


 獣人は風属性が得意らしく、初級魔術もその系統しか置いていなかった。

 そして回復魔術をもってオリヒメの浪費を抑える。軟膏は徐々に回復するが魔術なら発動さえすれば一瞬で回復する。もちろん裸になる必要もない。


「ね、リリ?ひょっとして回復覚えた?」


 なんだか不満そうな声が背後から聞こえる。振り返るのが怖い。


「う、うん。やっぱりお姉ちゃんばかりお金使わ、きゃふっ」

「話すならちゃんとこっち向いて話そうね」


 背後から胸を揉まれる。周りのプレイヤーが硬直して見ている。


「子どもがお金のことなんて心配しないって言わなかったかな?ん?」

「や、ごめ、なさい。やめ、みられ」

「観られたいんでしょ?露出狂のリリちゃん」

「ちが、んー」


 周囲のプレイヤーが納得した顔をしている。やだ……。しかも、今ので完全に名前まで周りに確り聴かれたはずだ。


「もう、お姉ちゃんの楽しみとって満足なのかね」

「ごめん、なさい」

「それにしても、ペッタンコすぎて揉みがいないね。そこがいいんだけど」


 ようやく開放してくれる。


「うー」

「覚えたのは仕方ないけど。ま、覚えて損はないしね。でも、リリのステじゃろくな効果ないでしょ」


 オリヒメは不満そうな顔のままだが、的確な事を聞いてくる。

 エルフみたいに種族補正や、ステを智力に振っている訳でもない。攻撃、回復ともに効果は低い。長い目で見るなら効果は期待出来るようだが、難クエストを控えている以上は短剣を更新したほうが幾らかは効果があるだろう。


「そこは技術と気合いだよ」


 周囲の視線から逃げるように店を出て、オリヒメと歩く。始めのお使いクエストを受ける為に。


「まだイエロービーで泣きそうになるのにね」

「泣いてはないもん」

「泣いてはないね。キャーキャー悲鳴上げてるけどね」

「ふぐー」


 発言のように頬を膨らませると、そこに指がめり込み息が漏れた。


「さて、そこがクエストの依頼人がいる場所だ」


 街の隅にあるボロい掘っ立て小屋をオリヒメは指指した。

 いかにも何かありそうだが、路地裏の奥、死角になるような場所にそれは建っていた。

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