親友とのお出かけ
陽が昇るに連れて気温が上がる中、僕はショッピングモール前の広場に設置されている時計台で周囲を観察する。
この広場は子ども連れの家族を集客する為に遊具が置かれており、数人の子どもが親に見守られながら遊んでいる。もうすぐ暑さも強くなるので、直にここも閑散とすると思う。
「まだ十分くらいあるね」
久しぶりにセーラーワンピースを着ているけど、ジワジワと肌を焼く。日焼け止めしといて良かった。
ハンカチで浮き出てきた汗を拭きながら、周囲を再度見回してまだ待ち人が着ていないことを確認する。
「現地集合にしなきゃ良かったかな」
それでも、待ち合わせ時間よりも早く来た僕がいけないね。こんなんなら、モール内で待ち合わせしたらよかったよ。そうしたら涼しいしね。
「わりー! ……ん、まだユーリ来てないか?」
予定より二分遅れて待ち人がやって来たのに、僕に気付いていないなんて。
待ち人、樹とは何ヵ月ぶりに会う。学校が変わってからは、なかなか会わないことが増えた。メールも減ったのは悲しいけど、こうやって再び会ったりは出来るので良しとしよう。
「樹。ここだよ」
「ん? えと、ユーリか?」
「そだよ」
ああ、そっか。女の子の姿を見るのは初めてだっけ。
学校の友だちや部員には普通に女の子として接してくれていたから、すっかり忘れていた。髪も少し伸びたし、久しぶりだと解らないよね。
「あー、えーと。まあ、ユーリなら似合うとは思ってたけどな」
冗談半分で女の子扱いしたことはあるけど、こんな風に格好も変わっていたら反応に困るよね。周りが違和感なく自然に受け入れてくれていたから、なんにも問題に思わなかった。
「どう、かな?」
「いや、まあ、可愛いな」
「うん、ありがとう」
聞いておいて誉められるとやっぱり照れるね。樹もなんだか顔が紅い。
「聞きたいことはあるけど、取り合えず時間もないし行くか」
「うん」
今日は午前中に映画を観る予定。内容は樹に任せているけど、開幕時間三十分前に待ち合わせをしたので、早く行かないと良い席が埋まってしまう。初回上映は時間が早いからって断られた。
「ほら、行くぞ」
「あっ」
然り気無く手を引かれる。うん、皆によく手を引かれるから別にいいけどね。男子は樹くらいにしか引かれたことないけど。これが、男女のスキンシップの差かな?
「満光が来れなくて残念だったね」
「まーな。毎朝のようにテニスの練習あるみたいだしな」
流石、県内でのテニス強豪校。全国的には中間くらいの成績だけど、やはり訓練は確りとやってるんだね。
「お前はテニスしなくて良かったのか?」
「前も言ったかもだけど、そこまで真剣じゃなかったしね。楽しかったし、やるからには全力で頑張ったけど」
テニスコートを使用していない時に、桜と稀に打ち合うし。今は、保育所訪問とかボランティア活動的なのも楽しいしから、後悔はない。あと数日でお泊まり保育のお手伝いだから、それも楽しみで仕方がない。
「ところで何の映画観るか聞いてないんだけど」
確か今はVR没入型のハリウッドのアクション映画が一番人気だったかな。
「俺が観たいのなんてユーリなら解るだろ」
「んー、アニメ?」
真性のロリコンと同時に自他共に認めるオタクだったよね。
堂々としており、明るく色んなことにも詳しいから友だちは多いけど、恋人の話は聞いたことがない。
「正解」
「春休みなら人気のアニメが何個か映画化してたはずだけど、今はなんかあったかな」
「高校生男子は観に行きにくいな。ユーリと一緒だから、変な眼で見られないだろ」
「??」
高校生男子ってことは、恋愛系のアニメ? 実写化したのはあったとは思うけど、それなら観たいね。
結局、樹が購入したチケットを渡されるまで内容は教えてくれなかった。もちろん、お金は後で渡したよ。
「うん、樹らしいね」
小学校低学年までが観るような魔法少女物だった。
アニメもだし、視聴する客層は幼女が多いね。樹らしい。
「ユーリも貰えたんだな」
チケット購入で子どもにはステッカーとステッキ形キーホルダーがプレゼントされるみたいだけど、何故か僕も貰った。
樹が言うには子どもか、子どもがいないなら女性にはプレゼントするらしい。大きな男性のお友達は血涙を流しているとか。樹も欲しそうにしていたので、ステッカーを渡すと頭を撫でられた。キーホルダーは可愛いから貰っておく。
「ユーリはユーリだな」
そう言って頭を撫でられたけど、意味が解らない。
子どもの声が聞こえる中で観た映画は、結構社会問題を反映したものだった。普通に面白くもあったね。
視聴後は、売店で樹の買い物を少し待ってからモール内のファミレスへ。樹はアニメのブックレットとかグッズとか、僕に代理で購入を頼んできた。お礼に僕もブックレットを貰った。
「ステーキセットにするけど、ユーリは?」
「オムライスとハンバーグセットで迷う。……うん、ハンバーグセットかな」
セットが来るまでにオレンジジュースを飲みながら、久しぶりに樹と色々と話をする。
「ユーリはいつから、そんな格好してんだ?」
「そんな格好って。たしか、五月か六月くらいだったかな」
「化粧もしてんのか?」
「たまにね」
ファンデーションやリップなども親や従姉から教えて貰った。素材がいいから、軽くで良いと言われたので気付かれるかどうかってくらい軽くしかしていない。
「それに、お母さんが学校に話してるみたいだから、その内セーラー服になるよ」
「まじか」
二年になる頃には僕は女性として学校生活が出来るように話をしてくれているみたい。それには病院で診断書がいるみたいなので、近々受診予定。夏休みは本当に忙しい。
「お、来たか」
僕のことを話している内に、それぞれのセットが来て食べる。うん、チーズが入っていて美味しい。
「そういや、プリハは何処までいった?」
「どこって、マイペースにやってるよ」
本当にマイペースにやってるね。いま、メインストーリーどこまでやってたか記憶にない。
「ギルドは? 俺らはギルド中心にやってるが。あっちなら満光とも会って話せるしな」
「満光とは会いたいけど。ギルドにも入ってないよ」
「ずっとソロか。んで、まだLiLiちゃんとは会えてないのか? はやくスクショ欲しいんだが」
「えーと、ははは。まだ、だよ?」
まだ樹たちには僕イコールLiLiとは気付かれていない。身の危険を感じるし。
「やっぱトッププレイヤーは忙しくて、街にも長くいないのかもな」
「トッププレイヤー?」
「そりゃ、レイド解放とか進化解放とか色んなことしてるだろ。前も住民の法律を聞き出したり。レベル関係なくトッププレイヤーの実績あるしな。しかも、進化してさらに幼女になったって噂だしな。いいなー、お近づきになりたいわ」
街に行くときは《人化》するから、その時の姿から噂になったみたいだね。LiLiスレッドが加速して、二つ名とか属性も増えているみたい。最近は怖くて自分のスレッドは見ていないので、内容は知らない。
「早く他の領に行けるクエストでも解放して欲しいよな」
「あー、うん。そだね」
樹とは向こうで会いたくないね。
未だに領間はそれぞれ障害があって行き来できない。唯一繋がっている砂漠地帯は高難易度で立ち入り出来ないしね。
「それに、ユーリとも遊びたいしな」
「う、うん。そだね」
樹たちにはアバターを見せていないが、yuuriと偽名を伝えている。じゃないと、《獣走》を使用しているプレイヤーなんて直ぐに特定されて、僕がLiLiだと気付かれるしね。樹は僕のアバターを男性だと思ってるので、そこまでアバターを見たいとは言わなくなった。
食事をしながらプリハの事で盛り上がり、僕の見た目や学校での扱い等の話はそのあとなかった。気を使ったとかじゃなく、「ユーリはユーリ」と思ってくれているみたくて嬉しい。
「ありがとね」
「なんだ?」
「なんでもないよ」
不思議そうにする樹に笑顔を向けて答える。
「そか」
ファミレスを出てからはゲームセンターで対戦などして遊ぶけど、ゲーム好きな樹には勝てない。VR筐体のゲームは高いのでそちらは避けているので、尚更勝てない。VRでも微妙だけど、反射神経などは樹には勝っているので、良いとこまで行くと思っている。
「久しぶりにクレーンでもするか。ユーリ、好きなヌイグルミ選べよ」
「うん」
僕の部屋にある大量のヌイグルミは、誕生日プレゼント以外には樹がクレーンの景品で獲得したものばかり。もう恒例になっているので、遠慮なく好きなものを選ぶ。
「犬のヌイグルミか。位置が難しいな」
長年朝の番組で登場する犬のマスコット。最近はどの犬も僕と親近感が湧くので以前よりさらに好きになった。
「あー! やっぱブランクあるか」
良いとこまで行くが結局取れないこと四回。高校生になってからやってないことと、配置がシビアみたい。
「しかもこれ。アームが弱いな」
結局、台を変えてテナガザルとナマケモノを会わせたような巨大ヌイグルミをプレゼントしてくれた。一回辺りの値段は犬よりも高いけど、二回で取る腕前。
このマスコットは幼児向けの短編アニメに出てくるキャラクターらしい。夕方からの幼児向け番組内で放送しているとの事だけど、樹が詳しすぎる。まあ、樹だしね。さすが真性のロリコン。
「ヌイグルミを抱っこしたユーリも子どもっぽいな」
「う、うるさいよ」
胴体が隠れるような巨大なヌイグルミを取る樹が悪い。でも、モフッと顔を沈められるくらいに柔らかくて素敵。抱き枕代わりのチンアナゴからこっちに抱き枕係は変更だね。
「ちょっと休むか」
カフェでイチゴパフェを食べて、本屋等を回っていく。
ファッション系は僕がレディースを着るようになったし、雑貨店は樹が興味なく、音楽はダウンロードが主体なのであまり一緒には回らない。男子だとあまり回る場所ないね。ウィンドウショッピングもあまりしないからなー。
「んじゃな。また遊ぼうぜ」
「うん、ありがとうね」
最後は家まで送って貰った。
ヌイグルミを持っていない手は終始繋いでいたけど、改めて思うと、他人から見たらどう見られてたんだろう。やっぱり、そう言う関係にしか見られないのかな?
心は女、だけどまだ恋愛対象は女性なんだよね。