地下室完成
おそくなりましたー
「………」
「おう、お嬢」
神癒隊を訪れた日から三日が経った。
隠れ里の拠点を中心にホームの素材集めや犬妖精形態二種での戦闘を慣らす訓練を行い、久しぶりにホームに戻って来ると棟梁を入れて六人の大工が丁度休憩している所だった。
「あれ、建設はもっと後じゃなかった?」
「ははは。待ちきれなくてな!」
悪びれることなく棟梁が僕の背中を叩いてきた。痛いよ。
確かに今週中に建設に入ると聞いて、ここに案内した後に簡易転移装着の設定を変更したけど。基本は棟梁一人でちまちま造ると思ってた。掘削と補強だけでも時間掛かるしね。
「他の仕事は?」
「他の奴に任せた!」
「えー」
見ると、他の大工たちはかなり疲労しているみたい。皆、休憩と言うより倒れている。死屍累々。
如何に無理をさせているのかが分かるね。ブラック企業だよ。
「大分出来てきたぞ。でももっとやりたいな。どうだ、お嬢。任せてくれないか。材料費や人件費諸々俺が出すから」
いいのかなー。他のお客さんを放置して、趣味に走るなんて。いや、放置はしてないのか。
「頼む! なんなら、本宅の一階部分を軽くだが造るから! 勿論、俺の金で!」
どんだけ隠し部屋とか造りたいの。忍者屋敷にならないよね。男のロマンって理解不能だよ。
「まあ、それなら……」
「よっしゃー!」
僕も建設が遅れてるし、お金もないから助かるけど本当に大丈夫かな。他の大工達が睨んでるんだけど。
「お前ら、気合いいれていくぞ! 終わったら特別賞与も出してやる!」
「よっしゃー!」
「頑張るか!」
「終わったら何日か休みも!」
「分かった。今受注している仕事全部終わったら、五日間の連休を入れよう!」
「棟梁、最高っす!」
「親方、抱いてください!!」
なんか皆やる気になったみたいだし良いのかな。最後、なんか変なのが聞こえた様な気がするけど。
「とにかく、任せて大丈夫かな」
「お嬢、安心して任せてくれ」
大丈夫だろうか。
「ただ、な。地下や一階の建設中は煩いんだよな。お嬢のペットたちも厩舎に逃げて行ったからな」
トンカチの音とか煩いよね。地下の掘削は技能で煩くはないんだけどな。
「なら、僕も厩舎で寝るから大丈夫」
隠れ里の拠点でも良いけど、暫くモフモフから離れてたから厩舎で一緒に寝よう。
「あ、そだ。棟梁」
「ん、なんだ?」
「僕ね、犬になっちゃったから。こっちの姿でも居ると思うから」
そう言って《人化》を解き、そのまま《仔犬化》を発動。幼女体型は前回の打ち合わせで見せていたけど、こっちの姿も見せていた方がいいよね。犬じゃなく、犬妖精だけど《仔犬化》なら普通に犬にしか見えないもんね。
「え。お嬢?」
「うん、僕だよ」
「……《獣化》。いや、違うか?」
「えと、妖精かな? 犬妖精だよ」
「そか。えーと、なんか聞いたことあった気がするが、思い出せないな。お嬢なんだよな」
「だから、そうだよ」
棟梁が僕の前足の下に手を入れて持ち上げ、目の前に持ち上げた。ぶらーん。
「なかなか可愛いな」
「あ、その。あう……」
そんな真っ正面からそんな風に言われたら、照れちゃうよ。
「犬でも雌なんだな」
「どこ見てるの!」
見られて恥ずかしくないのに、改めて言われると恥ずかしいってなに!
「ははは。すまん、すまん」
「うー」
地面に降ろされてから、頭を撫でられる。
「もう少し優しく撫でて」
「あー、すまん。動物を撫でると逃げられたり引っ掛かれたりするのは、力が強かったからか」
「あと、雑」
「あ、はい」
なんか落ち込んだ。
「棟梁、やりますよー!」
「お、おう! お嬢、頑張って凄いのを造るからな!」
そう言って僕をおいて棟梁が気合いを入れて仕事仲間の元に戻って行った。なんか、不安しかない。
「んじゃ、皆と遊ぼう」
僕も犬になったし、犬同士でも色々遊べるね。追いかけっことか?
そう思って厩舎に行くと僕だと思われなかった。鴉のセッカにはツツかれるし、馬のルークには頭を食む食むされるし。《人化》してようやく僕だって気付いたみたい。
ワンコたちは始めから遊ぼう! て言う感じで群がって来たから追いかけっこや甘噛みしあったりして楽しく遊んだ。単純な遊びでも楽しい。
それからは動物の種類問わずと遊んで満足して、ログアウト。
翌日は《人化》して軽く薬品作りして納品。だけど、製作中もトンカチや鋸の音が煩くて注意散漫になった。一定リズムなら、眠れそうなのに。
納品が終われば、再び《仔犬化》して遊ぶ。戦闘は一旦休憩。だって、大工達の癒しとしてモフられるようになっちゃったし。干し肉とかくれるから大人しく撫でられるよ。撫でるのが下手な人にはそれとなくアドバイスだってする。これで他の動物相手でも大丈夫でしょ。
それからさらに二日。
「よし、お嬢。地下室は一先ず完成だ!」
僕の顔をムニムニしながらそう棟梁が笑顔で報告してくれた。
説明してくれると言うので、棟梁の足を追いかけてキッチンとなる予定の簡易小屋兼資材置き場にやって来た。
「取り合えず、近いしこっから降りるか。後でここも立派にするからな」
棟梁の計らいで一階部分も建設してくれるけど、水回りとなる部分は確りと整えてくれるらしい。大変そうな場所をしてくれるので、嬉しいね。
「ん? ここから?」
「おう。はじめは床板を蓋にする予定だったが、普通に降りれる方が便利だと思ってな。なんなら、床板を嵌めるが」
「ん、大丈夫。でも、調薬室はそうして欲しいかな」
各部屋にも入室設定が出きるけど念のためにね。調薬室は狭い造りだし、間違えて落ちたくもないし。
「取り合えず、始めに設計した感じで造ってある」
案内してくれたのは確かに設計通り。リビングの下の大広間には木製の滑り台やトンネルなどドッグランみたいになっていて心がわふわふする仕上がりになっていた。移動出きるので邪魔なら片付けて置けばいいと、大広間の横に物置部屋まで増設されていた。
「薬草とかの部屋は見た目じゃ解らないようにした」
野菜などの保管室の通りには薬草以外に毒草などの危険な物も保管する部屋がある。入室設定はあるけど、棟梁に話したら壁と同色の回転扉で入り口がカムフラージュされていた。やっぱり忍者屋敷に。
「これでも密閉性に優れてるんだ。まあ、小さな換気口は言われた様に中に設けてあるがな」
部屋の空気も循環させないと品質が落ちたり、カビたりするのできちんと取り付けてくれたみたいで安心する。ちゃんと仕事はしてくれたんだね。
「ここは暗室なんだね」
薄暗く、光源がないと碌に見えない。
「お嬢、こっちだ」
棟梁に言われて、別の回転扉を回して向かう。犬だと、回転扉がキツい!
「こっちだ」
明るい薬草保管室の一角に木棚があり、棟梁がその前で手招きしている。
「なーに?」
「この棚を動かすとな」
軽々と木棚を横にずらすと、そこには大人が屈まないと入れないような扉があった。
「棚にはタイヤが付いているから、このレーンの上なら楽に動かせる。んで、この隠し扉を開けると……」
「おーー」
四畳半くらいっていうのか、そこは明るい部屋があった。
「上は全面天窓だ。丁度調薬室の真横になるな。外は煉瓦で囲ってるから、土は入らないが落ち葉とか入ったら暗くなるのが難点だな」
「それくらいなら掃除するよ」
ここは寛ぎ空間かな。陽が入って暖かく眠くなるね。
「あとは、通路に落とし穴を作ろうかと……」
「それはダメ!」
間違えて僕が落ちたらどうするんだよ。抜け出す自信なんてないよ。
「やっぱりか」
落ち込んだ棟梁を何とか引き連れて、通路まで戻る。さっきから気になってたことも聞いておこう。
「この小さな穴はなに?」
この通路や野菜保管室に大広間に僕くらいの仔犬なら入れそうな小さな穴があり、両方に持ち上がる木の板が付いていた。
「気付いたか!」
「こんなの気付くよ」
木の木目のままなので普通に目立つよ。
「これはお嬢専用通路だな。人間は小さすぎて入れん。広げた穴を埋めて行くのは大変だったがな」
そう言われたら入ってみないとね。
「行ってくる!」
若干狭いのは仕様なのかな。細長い通路は薄暗いけど、真っ暗でもないので問題ない。どんな風に作ったんだろう。
暫く歩いて行くと、広い部屋に出た。ここなら《人化》しても大丈夫そう。四方に同じ小さな穴があるから、《仔犬化》でないと入れない本当の隠し部屋だね。でも、これじゃ、碌に物も置けないかな。《人化》での幼女体型なら頭はぶつけない天井高だけど、ジャンプなんてできない。爪先立ちしたらギリギリ天井に頭が着くか着かないか。これじゃ、低い机や収納様の箱を置くくらいかな。それか、宝物庫とか?
「取り合えず、戻ろ」
何時までも待たせるのは悪いもんね。
《仔犬化》して穴に向かう。
「どの穴から来たっけ?」
何か目印がないと迷ってしまう。
「何処かには繋がってるよね」
そう思って一つの穴を進んで行くと、緩やかに曲がっており更にジグザグな通路や匍匐前進みたいに歩くしかない狭い区間があった。
「どこまで続いてるの」
ここまで来たら引き返すのもなんなので、さらに石が敷き詰められていたり、登り坂だったりを進んで行く。
「…………、うがー!」
辿り着けいた先は行き止まり。そして、『残念』の文字。ハズレの通路なんて作ってたの!
何とか引き返して大広間に辿り着き、走って棟梁の元まで戻って抗議。
「四択でハズレを引いたか」
「笑ってないでよ!」
「落とし穴や天井が落ちるとかの仕掛けないだけマシだ」
「マシって!」
ガブガブと棟梁の靴を噛んで抗議しても棟梁は笑ってるだけ。
うー、確かにお任せしてたけど酷いよ。
「取り合えず、一先ずこれで地下室は完成だ。たまに手を入れさせて貰うがな」
「落とし穴とかはダメだよ」
「ダンジョンとか造ってみたいんだがな」
地下室の改造を受け入れるのを条件に安くしてもらったけど不安しかないよ。
「さて、明日からは一階の建設に取り掛かるわ」
「変にはしないでね」
後から大工に聞いた話だと、棟梁は《罠作》の技能なども修得しているみたいで、落とし穴などの罠は簡単に作れるとか。天井が降りてくるとか、壁から矢が放たれるとかも出来るのではと教えて貰い、今後の建設が不安でしかなくなった。これも、男のロマン?