LiLi食材
棟梁と別れて首都から《人化》のまま《獣走》でハジリ村へ駆けていく。
「やっぱりステータス低下してるからか遅いね」
今までよりも遅い速度しか出せないけど、人間に化けている代償なんだろう。《人化》は生産向けみたいなので、そこまで素早さは必要ないのかな。生産速度は技能レベルと器用さが一番重要になるから、手早く行っても品質が下がるだけだと思うしね。
《人化》で《獣走》の移動は首都でもしていたけど、歩きだけだった。走ったら迷惑だしね。歩行では手足の長さが短くなったからだと思っていたけど、村まで走ったことで素早さがやはり落ちていることを実感する。
「フィールドじゃ、やっぱ《人化》は無理があるかなー」
検証も出来たので、今後は転移装置で街間の移動をしようと決める。
「んじゃ、売上金回収してから向かおう」
今回は定期的なマッサージの日。
マッサージとは見守り隊の女性グループ『神癒隊』のメンバーによってベビーマッサージというオイルマッサージをしてもらう日のこと。僕は気持ちよく、向こうは合意の元で触れるのでギブアンドテイクらしい。
今回のレイドボス開放でも見守り隊には非常に助けて貰ったので、何かお返しはしたいけど思い付かない。
その件ではオリヒメやヴィーナスにも助けて貰ったのだけど、二人も僕との触れ合いだけを求められた。僕の何がそんなにいいんだろうね。
さらに小さくなった僕はオリヒメ的にドストライクだった為に別れるのが大変だった。最近は別行動ばかりだし、向こうはパーティーを組んで今はギルドに向けてメンバーの厳選というロリ探しをしている最中なので、久しぶりの交流はお互いに楽しいものだった。縛りテク向上には驚いたけど、嫌じゃない自分に恐怖した。
ヴィーナスとは久しぶりの全裸戦闘……と言いたかったけど、【ヌーディスト】の剥奪と《人化》での能力低下で無理だった。通報の危険性から誰もいないフィールド探しは大変だしね。
だけど、本来の姿にヴィーナスのモフモフ魂が目覚めたみたい。裸でモフモフに埋もれるのは気持ちいいらしく、暫く僕の体毛を堪能してからは普通に狩りをしていた。《仔犬化》ではない通常サイズの戦闘も行えたので貴重な時間だった。
「プレイヤーも大分落ち着いたのかな」
あのレイドボス開放後は本当に大変だった。
インフォメーションで僕の名前は伏せられていたけど、その後に公式サイトで公開されたレイドボス戦の紹介PVが僕らの戦闘の様子を流用したもので、はっきりと僕が映っていた。
僕自身が情報公開でも害獣や露出でも有名になっているから、プレイヤー名が判明するのはあっという間だった。
ログインする度にレイドボスの情報やイベント情報の詳細を聞いてきたり、隠れ里の場所を聞いてきたりするプレイヤーが増えた。あと、なぜ小さくなっているのかとか。
それを助けてくれたのが交流が多いフレンドたちだった。
僕を匿ってくれた見守り隊やプレイヤーの対応にスレッドで知っている情報を代わりに公開してくれたオリヒメやヴィーナス。勿論、隠れ里については伏せている。隠れ里だしね。
見守り隊からは、『プリハ内でのイベント等の様子を本人の承諾なく紹介用のPVやSSで掲載することを了承すること』と言う利用規約があったらしいことを教えて貰った。全部なんて読んでないよ。これで悪質なストーキングや勧誘、PKが報告されれば対象プレイヤーへの処罰と掲載画像の削除は行われるらしい。今の所は、複数ある掲載画像でのトラブルは起きていないとのこと。
今回のように一時的に人が聞いてくることはあっても、インフォメーションに取り上げられるほどのことはスレッドがすぐに建ち情報の公開で殆ど収まっているらしい。
らしいばかりだけど、聞いただけなのでまだ実感が湧かない。いや、さっきまで首都にいたけど聞いてくるプレイヤーはいなかったんだけど、偶々かもしれない。まだ警戒はした方がいいよね。特にギルド勧誘と隠れ里情報の非公開については。
そんな訳で、今から行く見守り隊にも恩返しをしたいとは思いながらも、良い内容が思い浮かばないまま売上金を回収して見守り隊のセーフティハウスと言う名の複数あるギルドハウスの一つに辿り着いた。
現在、見守り隊はギルドメンバーの上限に達している。まだメンバー上限の開放条件が判明していない中で加入希望が後を経たないみたい。ギルド方針を公開しているにも関わらず。むしろ、本人公認と言うことで加入希望が多いとか冗談を言われた。本人公認って見守っていると言うのかな。
その為、見守り隊は男女で別々のギルドを立ち上げる計画があると聞いている。部外者であり、当事者でもある僕はそのことを匿っている中で聞いた。
今のギルドは女性グループ『神癒隊』が引き継ぎ、新たに男性グループ『神護隊』がギルドを立ち上げる。始めて『神護隊』なんて聞いたよ。
そして、ハジリ村のセーフティハウスが『神癒隊』の本拠地になるとも。ここは今現在も女性限定の入室許可がなされている。それは、僕がここでマッサージを受けるから。何度かイベントの打ち上げとかでのみ男性も入れるが、基本は女性のみ。僕が裸になってもいいようにらしい。あとは、《建築》を所持している女性メンバーが可愛く改築していっているので男性には入りづらいと思う。
『神護隊』は首都のセーフティハウスを引き取るみたい。他の拠点は聞いていない。
身辺警護兼癒し担当が女性で、周辺警護とその他外部担当が男性だったけど、ギルドが二つになってもそこは変わらないみたい。一枚岩じゃなくなるから、今後はどうなるのかは不明だけど団結力が凄いから案外大丈夫な様な気もする。
僕は男性グループとも生産とかで訪ねるからね。料理とか、料理とか。雑談やスクショもよく撮ったりするから実験台ばかりじゃないよ?
分岐点にある見守り隊だけど、僕には関わる権利も特にない。僕は求められるマッサージを受けるだけ。恩返しは別に考えないといけないけど、聞いた方が早そうなのでこの後聞こう。
「こんにちはー」
そんな事を考えながらセーフティハウスの扉を開けると、女性リーダー兼現サブギルドマスターのリンゴを始めとした女性プレイヤー総出の歓迎を受ける。うん、もう慣れた。
「さっそく?」
「LiLiちゃんに任せるよ」
そう言われたので、さっそく装備を解除していく。街中ではアップデートで全裸にはなれないようになったけど、ホームや宿屋などでは関係ない。さらに、僕はハラスメントコードをoffにしているからね。【ヌーディスト】がなくなっても、自分のホームじゃ服は着たくないと思うようになったしね。僕って、ヴィーナスに汚されたのかな。でも裸でモフモフに埋もれたり草原に寝転がるのは気持ちいいんだよね。
「LiLiちゃん、やる気充分だね」
「時間なくなっちゃうからね」
思ったより地下室の設計に時間が掛かったからね。棟梁の隠し部屋の暴走がね。男のロマンってよく解らない。
「じゃ、何時もの部屋に」
改築でマッサージルームとなった部屋に通され、代わる代わるローションを手にマッサージをしてくれる。
「前よりもぷにぷに」
「さらに赤ちゃん肌なんて羨ましい」
僕のフレンドは幼女好きが多いのかな。いや、ヴィーナスはモフモフ優先だったね。彼女たちは肌への羨望かな。やっぱり、ロリコンはオリヒメだけだね。
「LiLiちゃんはもう満足そうだね」
「ふぁいー」
ミーミンもマッサージはもう慣れた感じだねと、快楽の海で思う。
「LiLiちゃんをお風呂に入れてから、オヤツルームへ」
「はい!」
「了解しました!」
このあとのコースは、ローションまみれの身体を洗ってもらい、僕を食台に乗せられることになっている。
「いただきます」
【蜜体】を持っている僕は、マッサージのお礼に甘味を差し出している。僕の身体なんだけどね。自分でも無意識に舐める程には甘くて美味しいんだよね。あっさりなのにクセになる甘さは何時までも舐めてられる。
【蜜体】は色んなモノを引き付けると説明文にある。この恩恵は僕としてはモブを集めて狩りがしやすい事だと思っているけど、彼女たちは微量のスタミナ回復効果のある甘味に意味を見出だしている。まだ、オリヒメにはバレていない。
マッサージとは違う快感を味わいながら、彼女たちのオヤツタイムは過ぎていく。
「LiLiちゃん、ご馳走さま」
「うんー」
「この後は、地下室でいいの」
「うん、お願いします」
増築されたこのセーフティハウスには地下室もある。彼女たちは自力で造り上げたので凄いと思う。
その地下室には『お仕置きルーム』何てものがある。日毎に生産技能で制作して増えるSMな拷問グッズに処刑グッズ。何人かがSMに目覚めたらしいけど、その発端は僕にある。これについては、とくに話そうとは思わない。とにかく、痛みと快楽は紙一重だと思う。別にドMじゃないけど、ゼメスとキンリーにはある意味感謝しておく。
今回はミーミンのデビューだったみたいで、物足りなさを感じて消化不良だった。もっと精進すると謝罪されたけど、始めは皆そうだったから大丈夫と伝えておく。
あ、別に変なことはしてないよ。ペンペンしてもらうだけだよ。痛いのにたまに欲しくなるの皆も解るよね。
うーん、たまに自分が何処に向かっているのだろうと思う。プリハを始めてから、知らない自分や昔の自分に出会うようになってきた。でも、驚きや困惑はあっても不満はないね。今の方が楽しいし、可愛い物を着たりするのがやっぱり好きだって知れたからね。全年齢で性癖が目覚めるのは怖いけど。
「あ、そだ。前にお世話になったお返ししたいんだけど、何がいいかな?」
当初の予定通りに、代表のリンゴに匿ってくれたお礼を改めて伝えて恩返しは何が良いのか尋ねる。
「お返しなんていらないよ。それに、この間から貰ってるしね。さっきも採取させてもらったし」
そう言ってリンゴがインベントリから複数の瓶を取り出す。
【犬妖精の汗露】:犬妖精LiLiから採れた素材。料理や製薬等に使用すると……。ほんのり甘い香り。
【犬妖精の口噛み酒】:犬妖精LiLiから採れた素材。料理や製薬等に使用すると……。甘酒風味。
【犬妖精の黄金精強水】:犬妖精LiLiから採れた素材。料理や製薬等に使用すると……。ややしょっぱい。
【犬妖精の蜜】:犬妖精LiLiから採れた素材。料理や製薬等に使用すると……。中毒性あり。
【犬妖精の落涙】:犬妖精LiLiから採れた素材。料理や製薬等に使用すると……。甘しょっぱい。
【犬妖精の出汁】:犬妖精LiLiから抽出した素材。料理や製薬等に使用すると……。旨味増強。
匿って貰っている時にも進化について色々な実験をしていた。その中で【蜜体】によって僕の身体から素材が採れるようになったのを発見。
素材名に種族が入ってるのは、その種族だからなんだけど、なんで説明文に名前が……。採取部位は秘密です。出汁は間接的に採取できたとだけ。
効果は標準で運上昇とスタミナ回復があり、あとはそれぞれの追加効果があった。だけど、一度の採取量が少ないみたいであまり研究出来ていない。セルフ素材が嬉しいけど、なんか腑に落ちない。
ちなみに、体臭や発汗に涙はプレイヤーやNPC共通に実装されているけど、【蜜体】はさらに唾液などの体液も特殊追加されている。また、《マーキング》する動物素体の獣人は排尿も可能みたい。海外サーバーだと《マーキング》合戦なんてやってるとか。ただし、《マーキング》自体は支点や範囲指定を行うので、排尿の必要性はないんだよね。
日本プレイヤーでは聞かないけど、そもそも初尿の条件が不明。僕の場合は嬉ションだしね。うん、気にしないでおこう。
とにかく、リンゴはそんな貴重な素材を【蜜体】提供時に採取させてもらえるだけ助かっているという。
「うーん、でも……」
「それなら、定期的に採取させて貰えればいいよ。口噛み酒は甘酒風味だけど、他の果物と混ぜたらチューハイみたいになったから大人は嬉しいんだよね。度数は上げられるか研究するには量が少ないから沢山採れたら皆喜ぶから」
「うん、ならそれでいい……のかな?」
口噛み酒は江戸時代? もっと前か知らないけど存在した酒造方法みたいで、テレビでは何処かの部族が今もしているのは見たことがある。でも、これ瓶に溜めるとしたら口渇になるので溜めるには時間が掛かる。他の素材もだけど、無意識に出している場合もあるんだよね。涙とか汗とか色々。
「それじゃあ、これからは時間が出来たら来るようにするよ」
「採取なくても遊びに来てね」
結局、恩返しは定期的な素材提供に決まった。
見守り隊は男性側にもお世話になったのでリンゴたちとは別れて、首都に戻り男性グループの料理人と料理を作ったり話したりして別れた。男性グループの恩返しは、ギルド紋を僕のミニキャラにする許可で決定した。今までは人形に犬耳尻尾の簡易的な物だったけど、こちらの紋はリンゴ達が紋変更時クエストが出るまでそのまま。複数のプレイヤーがギルドの拡張や設定変更の要望を出しているみたいなので、近いうちに何か動きはあるのかな。
さて、タイムリミットも近いし今日はリアルに帰ろう。