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白蟲レイド

 レイド。それは複数パーティーでの共闘のもと討伐を推奨される強さを誇るモンスターに向けられる。俗に言うレイドボス。

 だけど、この『プリズムハート・カルテット』に於いて現在レイドボスは確認されていない。

 メインクエスト然り、ダンジョン然りパーティー単位での攻略となっていた。ダンジョンはインスタンスダンジョンなので中で合流も出来ない。行ったことないけど、そのように聞いていた。


「ふぅー、でもこれレイドだよね」


 ボス白蟲の腹を攻撃してから離脱を繰り返している間にLFが五割に到達した白蟲は急に飛び上がった。

 この戦闘中にも木は攻撃を受けて薙ぎ倒され、さらに広場が拡張された。白蟲が羽根を広げるに十分な程に。


「突進来るぞー!」


 誰の声かは解らない。僕らが参戦してから、さらに人数が増えたので把握出来ていない。

 騒ぎを聞き付けた三組と四組も残りの七組を連れて合流したのと、ボスのLFが五割になったのは同時。

 一組と二組は僕らと正反対を探索していたので気付いていないのかここにはいない。

 それでも三組から六組まで二十人。七組の欠員を抜かして三人。八組は僕を含めて四人。総勢二十七人もここに集まり、ボス白蟲を攻撃している。


「レイドって実装されてたかな」


 人数が増えたのでほんの僅かだが、一息吐くことが出来るようになった。そのお陰で全体を確認することが出来る。


「でも、やっぱりバランス悪いよね」


 白蟲が空に上がったら殆ど手が出せない。これまでの戦闘で矢もMSも枯渇してきている。プレイヤーの様に大量に薬を買い込んで準備万端でボス戦に挑んでいる訳じゃない。所持数限界を持ってきていてもプレイヤーのインベントリには勝てない。故に遠距離攻撃は時間と共に薄くなってきた。

 さらに彼らにはヒーラーがいない。男性はなれないらしい。そして、この場に女性は僕だけ。まあ、プレイヤーは性別関係なくヒーラーになれるけど、彼らの特性上なれないので今は関係ない。回復薬も尽きるのは時間の問題かもしれない。

 おまけに、タンクもいない。真っ先に攻撃を受けて、ヘイトをアタッカーに移らないようにする人物がいない。皆が槍片手での戦闘。こんな戦闘では罠も仕掛けられない。唯一、肉弾戦を行っているドドルが疑似タンクを行っている。専門じゃないので、回復薬はドドルに一番使用されている。


「重要なタンクとヒーラーがいないだけで、こんなに大変なんて。……《パラライズクロー》」


 テレビゲームや携帯端末でのMMORPGは何回か経験している。その結果、その二つの職がボス戦で重要だと学んだ。樹たちの指導もある。


「《応急処置》」

「ありがと」


 遊撃としての僕は現在、ヒーラーの傍ら隙を見て攻撃を行っている。

 《獣化》だと魔術は使えないはずなのに、負傷者が増えて一か八かで使用してみたら使えた。理由は不明だけど、使わないのは愚策だよね?

 さらに、今は身体が凄く調子が良い。完全にこの獣としての身体が馴染んだというか、素早くしなやかに力強く思い通りに動く感じ。言葉にきちんと言えないけど、とにかく今までと違う! 


「《防躱》、《ショックボム》」


 《獣化》には獣系技能ばかり本能的に使う効果もあったのか、久しぶりに《格闘》も使おうと思える様になった。これまでは爪と牙による攻撃ばかりを意識していたのに、防御なども意識しやすくなった。

 《応急処置》でヘイトを集めたのか、迫る脚鎌に尻尾での《防躱》で攻撃を反らし、カウンターとしてノックバック効果がある《ショックボム》を撃ち込み白蟲を後退させる。そこに《突進》からの《頭突き》をお見舞いする。


「はふっ、《ライトインパクト》」


 勿論僕以外も攻撃をしているが、何故か僕の移動先に白蟲が向きを変えて照準される。


「ヘイト集め過ぎたかな」


 攻撃が途切れた瞬間、白蟲が飛び上がって降りてこない。散発的な遠距離攻撃を脚鎌で捌いているが、何発か命中はしている。


「降りてこい、虫っころ!」


 ドドルの言葉に反応したとは思わないが、白蟲がいっそう羽根を羽ばたいた。

 三秒後。白蟲の下に風が吹き荒れた。


「うぐっ」


 突然の事に、僕を含めた数人が逃げ遅れて切り刻まれ吹き飛ばされた。


「嬢ちゃん! おらー!!」


 吹き飛ばされた僕に突進してくる白蟲をドドルがカウンターで殴り飛ばし、ガルが魔術で追撃。着地点にいたジルが槍で滅多刺ししている。流れるような連携を疑似的な痛みに顔を顰めながら見つめる。


「大丈夫か」

「うん、ありがとう。《応急処置》」


 自分を回復させ、さらに回復薬も飲む。どちらも無駄使いは出来ない。バランスを考えて使い分けないと。


「今の《つむじ風》じゃないよね」


 見た目は《つむじ風》だった。だけど、あれは単体攻撃魔術。


「同じか知らんが、それの全体版だな。たしか《竜巻》だ」


 …………そのまんまだね。


「奴もあと少しで倒せる。無茶しない範囲で嬢ちゃんも回復したら助力してくれ」

「うん」


 見ると白蟲のLFが三割を切っている。さっきの魔術は三割以下で発動なのかな。


「あと少し。僕も頑張んないと」


 そこからの白蟲の行動に変化はなかった。

 回復薬が尽き、皆満身創痍だがなんとかボス白蟲を討伐する事に成功。止めは名前を知らない青年が刺したみたい。

 あれから《竜巻》はLFが二割、一割の節目に放つくらいだった。

 死者は幸いいないが、《竜巻》で腕を失う者が出た。ジョールさんも骨折したまま。他の者も切り傷から出血をしている。


「とりあえず帰りますか」


 ジルの一声で一団は帰還することになった。

 満身創痍だが、ボス白蟲の死骸は皆で埋めた。インベントリにはこれまでの白蟲と取り巻き白蟲以外にボス白蟲の素材が大量にあったので、これはイベントの一貫なのかもしれない。


「おお、無事だったか」


 長や女性陣に迎え入れられ、報告前に怪我の処置をさせられた。

 僕だけは別室で服を脱がされて、秘伝の軟膏と言う青臭くて緑色のドロッとした薬を全身に塗られてから回復魔術を掛けられた。その後は薬草と似た葉っぱで作った患衣を着せられた。凄くエロい。葉っぱの服だよ? 裸に葉っぱを貼り付けたようなものだよ? 全裸を見られるのは抵抗なくなったけど、これはなんだか恥ずかしい。


「うーん」


 治療の為だから仕方がないのかな。その服装のまま、長がいる場所に行くとジル達の比較的怪我が軽い者だけが先に来ていた。皆同じ葉っぱの服を着て。


「LiLiさんも来られましたか」

「うん」


 僕が来てからジルが事の流れを報告し始める。来るのを待っててくれたのかな。

 長からは、既に一組と二組が帰還して現在は集落周辺にまだ居ないか確認に行っているらしい。逃げ出した青年も強制的にそちらに組み込まれた。


「皆が戻って来ましたら、今日は宴にしましょう」


 長の一言で、各自が休養や宴の準備に戻る。


「LiLiさんはこちらに来て下さい」

「うん」


 僕も休もうかと思っていると、ジルに呼ばれた。長と八組の皆がいる。


「この度は本当にありがとうございました」

「うん」


 こんな時、どう返せばいいのかな。


「まだ暫くは警戒しないとなりませんが、貴女の助力のお陰で大元は倒せたと思います。本当にありがとうございます」

「僕なんてあんまり役にたたなかったよ」

「いえ、LiLiさんが惹き付けてくれたお陰で私達は攻撃しやすかったです」

「そうそう。あんないろんな事が出来る奴なんてここにはいないしねー」

「嬢ちゃんのお陰で回復も出来たしな」


 口々に感謝されて、恥ずかしいやら泣きたいやら複雑な感情になるね。


「ジルたちに聞きました。お礼と言ってはなんですが、この周辺で採れる素材を集めさせます。それと、こちらは私から」


 どうやら素材や苗などを明日貰えるらしい。さらに、長が茶色い巻物を渡してきた。


「それは《水属性》の魔術書を記したものです。私たちは獣人とエルフの混血ですが、もしかしたら活用出来るのではと。それと、何時でもここに訊ねてきて下さい。ここにも石の円環がありますので」


 石の円環の事を聞くと、首都などにある転移装置(ゲート)のことらしい。


「先ずは宴だがな」


 ドドルが猫持ちで宴会場に連れていく。まだ、一組たちは戻ってきていないし、宴の準備も終わってないのに。

 結局、準備に二人して駆り出された。客人扱いじゃなく一族認定されたようで、使えるなら使おうという逞しい? 発想の下に休む暇なく手伝わされた。ドドル恨むよ。

 全員が揃った所で宴が始まり、おおいに盛り上がった。お酒はなかったが、場の雰囲気に皆が酔っていた。片腕を失った人も笑っていたけど、その治療痕は痛々しかった。


「一緒の部屋で済まない」

「いいよー」


 まだ男性陣は騒がしいが、僕は疲れたので休む。

 次来たときは、僕の部屋と言うか家を用意してくれるらしいけど、今はジルの家にいる。

 寝床はひとつなのでジルは出て行こうとしたけど、彼も疲れているので一緒に寝るように伝えて、今はジルの腕の中にすっぽりと収まっている。


「ありがとうな」

「うん」


 戦闘のことか寝床のことか。ただ、優しく頭を撫でてくれて安心したのと、疲れていたことで僕は眠りに落ちた。


「おやすみ」



『獣人領のプレイヤーによりレイドボスが討伐されました。これにより、エリアにレイドボスが出現します。また、ダンジョンにレイドモードが選択出来るようになりました。詳しくはヘルプを参照してください』

『公式サイトにレイドボス戦のPVが公開されました』

『プレイヤーにより各領の隠れ里に関するヒントを特定人物から得られるようになりました』

『プレイヤーにより特殊進化が解放されました。詳しくはヘルプを参照してください』


『《獣化》の完全支配に成功しました。階位【先祖返り】を授かりました』

『特殊条件を満たしました。進化が始まります』

『《犬妖精(クー・シー)》に進化しました。階位【始祖】、階位【始精獣】を授かりました』

『《獣化》から《人化》に変化します。これにより技能が一新されます。詳しくは技能一覧を参照してください』

『特殊進化に伴い【ヌーディスト】が削除されました』

『特殊進化に伴い……』

『特殊進化に伴い…………』

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