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増援

 白蟲の基本行動は羽根を使った飛翔と、脚鎌を除いた四本の足での移動だ。動きは素早いものの鬱蒼とした森の為、サイズが大きくなるにつれて機敏に方向転換が出来ない所に勝機はある。

 ボス的の三メルスある白蟲は流石に羽根を広げられる空間もなくさらに動きは制限されている。ただし、固体サイズに比例して脚鎌のリーチも伸びるので油断は出来ない。

 攻撃方法はサイズ問わず脚鎌による斬撃や刺突。細い口による吸い付きと突進。何れも背後が死角になるが、ボスはさらに攻撃手段があると警戒はしなくてはならない。ただでさえ羽根を封じられて機動力が落ちているのに、取り巻きよりも下位互換になるとは思えない。今までの経験から、LFがある程度減ったら強化されると思った方が良い。

 だからこそ、取り巻きを早く倒して援護に向かわないとと焦ってしまう。


「《ポイズンクロー》《毒牙》!」


 ジョールさんの風魔術に気を取られた隙に、取り巻き白蟲の背後に周り状態異常攻撃を行う。

 これまでの戦いでも状態異常になる確率は低かったが、ゼロではない。また攻撃自体は少しずつ通っている。身体武器は剣などより攻撃力は低いけど、全くのダメージゼロではない。それに、ジョールさんの魔術と弓術が強い。


「防御が硬すぎますね」


 矢をつがえながらジョールがそう愚痴を溢すも、僕よりは確実に攻撃が通っている。遠距離攻撃で動く的の間接に綺麗に矢を撃ち込むなんてプレイヤーでも難しいと思う。

 彼らのレベルは僕なんかよりも高い。ただ、プレイヤーよりも技能の数は少ないと思える。技能レベルも何故か低いのか、使用している業の種類も少ない。プレイヤーとの均衡を調節しているかのように。


「LiLiさん、また惹き付けます」

「うん!」


 普通は前職が惹き付けて、後衛にヘイトが移らないようにするものだけど、僕自信の戦闘スタイルが遊撃タイプなので惹き付けには向いていない。また、ダメージ量もジョールさんに負けておりヘイトが中々向かない。

 そこで、ジョールさんが弓と魔術で注意を向けさせ、背後からの状態異常攻撃を行っている。死角からの攻撃を嫌がるので、これを行えば暫くは僕にヘイトが集まり、その間にジョールさんが攻撃。それの繰り返しで二割強を削っている。


「矢が尽きた!」


 そう叫んで報告されたのは白蟲のLFを三割削ってすぐのこと。

 彼らは矢筒に容れてきた以上は所持していない。プレイヤーのようにインベントリを使えないらしい。それに似た行動はクエスト等で見たことはあるが、それはそういうものだったのかもしれない。

 ここに来る迄にも矢の消費は激しかった。尽きるのも仕方がない。


「解った! MSは大丈夫?!」

「ああ。まだなんとか!」


 ジョールは脚鎌を躱して、瞬時に僕がこの隙に攻撃を加える。

 MSも自然回復で全快することもなく、回復薬にも限りがある。最近は店売り以外にそう自作しなかった僕の所持量も心許ない。

 プリハ内で集落に来てから時間は経っているので、店の在庫もないかな。やっぱり先に建築を急いで薬を増やすべきだった。売上金で所持金も増えてきていたのに、ゆっくりやろうと思ったツケが回ってきたかな。


「MSも減ってきた!」


 矢が尽きてからは魔術攻撃を行っていたジョールがそう叫んだのは白蟲のLFが五割を切ってから暫くしてから。

 驚いたことに、取り巻きである白蟲ですらLF半減で強化が行われたこと。これにより、防御力も向上してなかなか倒せないでいた。すでにジョールがした回復薬は使い尽くしてしまい、僕のを渡して対処している。パーティーではないのに、アイテムが渡せたことにホッとしたがこちらの所持数も少ないから無駄使いは出来ない。


「仕方ないかな。《獣化》」


 こんな無理ゲーに近い窮地に《獣化》を出し渋ることは出来なかった。暴走することを考えて、人前で使用することを控えていたがもうそんな余裕もなさそう。


「大丈夫。暴走してない……」


 今回も打ち勝った。

 内心安堵して、白蟲に向き直る。

 さて、行こうと四肢に力を込めた時に遠くから矢が飛んできた。


「え?」


 矢は何処から?

 戦闘をしながらも少しずつボスから取り巻きを引き離す事には成功していた。もう一匹の取り巻きも反対側に引き離すことに成功した様子だった。木々に邪魔されて辛うじて見えるボスを相手しているガルは此方を向いていない。それどころか弓を手離しているようにも見える。


「LiLiさん、避けて!」

「えっ?」


 ガルたちボス組を見ている間に白蟲が接近していた。

 迫る脚鎌。強化によって細い幹回りの木は無抵抗に斬られる斬撃が迫ってくる。


「くっぅ!」


 咄嗟に《獣化》によって強化された身体によって斬撃を躱す事には成功したものの、着地点を意識していなかった為に木に激突した。


「つーっ!」

「大丈夫ですか! 《風扇》」


 ジョールが魔術を放ち白蟲の意識を自分に向けている間に、僕は体勢を立て直して一旦距離を取る。

 そこに、木々を掻き分けて別の部隊だった人達が駆け付けてくれた。


「大丈夫か!」

「俺たちはジル達を手伝う。お前らはジョールたちと協力しろ」

「おう!」


 確か五組と六組の人達だったように思う。そして、どちらの組か不明だけ片方の組がボス達に向かっていった。


「六組、気合い入れて行くぞ!」


 「おー!」と言う雄叫びと共に前衛、後衛に分かれて攻撃に移っていく。


「LiLiさん、大丈夫ですか。どうやら騒ぎを聞き付けて駆け付けてくれたようです」

「うん、大丈夫だよ。……よかった」


 二人で相手にどれだけ掛かるか不安だった。ジョールも短槍を携帯しある程度は使えるらしいが、遠距離攻撃を得意としているらしいので接近を共にするのも不安だったところだ。それでもMSが尽きたら接近を任せるしかないと思っていた時に彼らが来てくれた。


「私もすぐ援護に回ります」

「僕も行くよ!」


 白蟲は現在、彼らの攻撃によって注意が此方を向いていない。

 だけど彼らもここに来る迄に疲弊しているのか、やや動作に精細さが見られない。怪我だってしている。

 いつの間にか《獣化》が解けてえり、再度発動。成功。

 なんで解けたのか詳しく解らないも、彼らがきて安堵して気が弛んだ後に解けていたことに気付いたので、勝手にその辺りに原因があると推察してから四肢を動かして参戦。



     ***



 先程よりも時間を掛けずにダメージを蓄積していった取り巻き白蟲が倒れた。

 人数が増えた事でヘイトが分散して一人を集中して攻撃されることがなかった。

 だが、魔術から短槍による攻撃に切り替えるしかなくなったジョールさんが右腕を骨折した。他の人も切り傷から流血しているのを見かける。


「《応急処置》」


 回復魔術を使えるのは僕一人。流血は止められたが、骨折までは治せなかった。回復薬も同様。


「少し自然回復しましたらすぐに行きますので、皆さんは……」


 右腕に添え木をして吊っているジョールさんと六組の一人を残して僕らはボスに向かう。まだ、戦闘は終わってないようだ。


「おぉぉらぁぁぁ!」


 ドドルさんの気迫ある雄叫びと共にボスの後ろ足が一本吹き飛んだ。

 僕以外の七組と先行した五組皆はまだ健在立ったことに安心して、また《獣化》が解ける前に気合いをいれる。ここで暴走する訳にはいかない。


「待たせた!」


 六組リーダーがそう合図してから戦線に加わっていく。僕も遅れないようにジルとドドルの間に入る。


「LiLiさん無事でしたか」

「嬢ちゃん、大丈夫だったんだな」

「うん。でもジョールさんが骨折した」

「そっか」

「私達もなんとか致命的な攻撃は躱してはいますが……」


 二人とも服が出血で赤くなっている。ドドルのむき出しの腕には打撲痕まで見られる。


「鎌は躱してるんだが、後ろ足や枝で掠り傷負ったり吹っ飛んできた幹をぶつけられたりな」


 僕の視線に気が付いたのかドドルが説明してくれる。

 そう、このボス広場はすでに木がどれも伐採されて開けていた。取り巻きも細いながら木を斬り倒せていたので、ボスはそれに輪をかけた結果がこの広場なのだろう。


「僕は隙があったらお腹の下に潜るね」


 まだボスのLFは六割弱ある。

 昆虫系の弱点の一つは腹部。ただ、この白蟲の腹部は硬い。それでも羽根等の外殻に比べるとまだ幾分はダメージが通るのは確認済み。

 今までは翔んできた所にカウンターとして攻撃するしかなかったが、このボスの大きさだと四足歩行の体高の低さなら潜り込める。僕が二足歩行を止めた理由には、普通だと潜り込めない隙間にも潜れることもある。まあ、一番は楽だからなんだけどね。

 人数が増えて、取り囲む陣形なのでそうそう移動出来ないボス。だからこそ、腹部への攻撃が用意になる。

 さて、ここからが僕のボス戦だ。少しは役立たないと!

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