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白蟲の王

 鬱蒼とした森の中を七組五人、八組四人の総勢九人が枝葉を掻き分けて歩く。みんな顔には疲労の色が出て来ている。


「もう少ししたら今日は引き返すか」


 昼食から早二時間歩いている。この間に五匹もの白蟲を倒しており、軽傷とは言っても少なからず怪我を負った者が数名。


「LiLiちゃん、これが夜に光源として使えるライ茸だよー」


 索敵を交代で行いながら、僕はガルから色々と教えて貰っている。

 チャラいくせに知識と技術が相当あり、かなり頼もしい。まあ、知識は彼ら皆が身に付けているようだけど。

 教えられた知識で驚いた一つに、採集ポイント以外からも採集出来ること。採集ポイントのように様々なアイテムを数多くは採れない。見える種類で見えるだけしか採れず、それを採り尽くしたら再び実ったり生えたりするまでは当然のように採集は出来ない。

 ただ、この方法でのみでしか採集出来ない物がある。先の【ライ茸】や【白骨】などだ。うん、動物の骨も拾えました。肥料用かな。他には大量の【腐葉土】や何故かアイテム扱いの【ミミワーム】と言うミミズ。焼けば美味しいけど、開拓地に放つ予定です。


「あんまり離れるなよ」

「あいあい」

「うん、ごめん」


 僕と索敵を組んでるガル。白蟲が強くなって来ているから、あまり離れないように言われているけど、つい採集に夢中になり離れ易くなる。現在、ガルはジルに強く説教されており、僕は何故か猫を持つように軽々と首をドドルに掴まれ持ち上げられている。うん、力持ちさんだね。ごめんなさい。


「つい珍しくて」

「集落の周りにもあるんだ。終わったら採ればいい。しっかし、嬢ちゃん軽いなー。しっかり食わんとでっかくなんないぞー」


 流石に強敵が周囲にいる状況で油断して採集に夢中になってしまったので、素直に反省。

 話をすれば材木までくれることになった。ただ、ガルには付き合うなと言われてしまった。ガルって、集落の人にも信用されてないのかな。僕は少し信じてあげるからね。


「いたただっ!」

「LiLiちゃん、なんか失礼なこと考えてなかったかなー」


 いつの間にかジルの説教が終わったのか、ガルに両頬を摘ままれてしまう。


「おっ、柔らかい」


 ガルに(もてあそ)ばれている内に、皆は休憩に入ったようだ。各々木筒から水を飲んだりしている。助けてー。


「おい、ガル。お前ばっかりずるいぞ」

「ドドルもやる?」

「おう! ガル、ここを持つとお嬢さんは大人しくなるみたいだ」

「へー、どれどれ」


 あの、別に大人しくなった訳じゃないからね。力が入りにくいだけだからね。だから、ニヤニヤしながら腕を伸ばさないで?

 そんな思いも虚しくドドルにまで弄ばれた。もうお嫁にいけない。


「どうだお嬢さん。これで反省したか?」

「ふぁん。ふぁんへいひたほー」

「おー、伸びる伸びる」


 説教の代わりに体罰派のドドルに休憩が終わるまで頬で遊ばれた。伸びてないかな?


「そろそろ行くぞ」


 溜め息一つしてからジルがそう言い立ち上がる。

 解ってる。ずっと気を張り詰めていたらいざと言う時に疲労で反応出来ないって事くらい。休憩と息抜きが必要だって事くらい。だからって、僕が供物にされるなんて。そんな被害妄想を抱きながら頬をモミモミする。


「被害妄想じゃないけどねー」

「きゃうん!」


 ニタッと意地悪そうな笑みを向けるガルに飛び上がった。口に出てたかな。


「ほら、行くぞ」

「はーい」

「あ、うん」


 ガルなんて信じない! と、内心思いながら《獣走》で着いていく。

 地面に近いので枝葉はそれほど邪魔ではないけど、(うね)って隆起した植物の根が移動の障害としてかなり歩きづらい。


「LiLiさんは、ずっとそんな風に歩いているのですか?」

「うん? そうだよ。こっちの方が歩き易いからね。ジョールさんたちは枝葉も避けないといけないから大変そうだね」


 背後から声が掛かった。七組リーダーのジョールさんが僕の後ろを着いて来ているので、気になったらしい。

 食事や休憩中に七組の人とも会話をして、一通りの匂いを覚えたので名前は間違えないで済む。


「こう鬱蒼とした場所はそうした歩行が有利なんでしょうか。先祖返りなんて噂に聞いただけなので」

「うーん、どうなんだろ。二足歩行の方が遅いし、踏ん張れないし色々と面倒なんだよね。先祖返りは他に知らないからなんともかな」


 実際、僕が先祖返りに分類されるのかも不明なんだよね。《獣化》が完成したらなりそうな気もするけど。まだ四割は本能に負けるけど。

 そんなことをジョールさんと話、ガルにからかわれながら更に奥地に向けて歩いていく。


「みんな止まれ!」


 突如の停止命令。偵察に出ていた七組の男性が慌てて木から降りて来て、全体のリーダーでもあるジルに報告している。


「皆さん、静かに。この先に一際大きい白蟲が居るようです」

「親玉か?」

「解りません。私と彼で様子を見てきますので、皆さんはここで待機をお願いします」


 プレイヤーならここでざわつきそうなのに、流石戦士としてもいる彼らは落ち着いている。


「お、俺は無理だ!」


 だが、初実戦でもある若者は今まで堪えていた恐怖を爆発させて、逃げようとする。


「この、馬鹿!」


 それを若者を庇って軽傷を負ったビルが腰に飛び付き逃げないように取り押さえる。


「冷静になれ! お前だけ逃げても、まだいるかもしれない白蟲の餌食だぞ!!」

「やだ、死にたくない!」


 若者が恐慌に陥ったのか仲間の言葉を聞こうとせずに、なんとかこの場から逃げようと叫びながら暴れる。

 その光景を見て、逆に僕らは冷静になっていく。


「困りましたね」


 その言葉にジルを振り向けば、奥地を睨んだまま臨戦体勢にはいる。

 バキバキと連続する音が大きくなり、皆もそれに気付き各々武器を構えて足場の悪いことも構わずに陣形を整える。


「あ、おい!」

「追ってください!」

「お、おう。すまん、直ぐに捕まえて戻ってくる!」


 拘束が弛んだ隙に若者が脱け出し、元来た方角に一目散に逃げていく。それをビルが追い掛けて二名離脱した。


「厳しいですが、なんとか頑張りましょう」


 もう音はすぐ近く。先程の二人の声に気が付いただろう白蟲が迫ってきている。

 報告では今までのよりも規格が大きな固体らしい。ここまで来る迄に何匹か倒して、大きさに比例して攻撃力も防御力も上がっていることが解っている。

 一匹を相手にパーティー単位での戦力が必要だったのに、更に大きいと一パーティーでは手に終えない。そして、必ずしも一匹でいる確率は低い。

 ハグレのように一匹で会敵はしかこともあるが、基本は二匹以上だったことから、最悪のことも考えられる。


「来るぞ!」


 陣形の先頭に立つドドルの声に思考を戻す。


「小型を七組とLiLiさんでお願いします!」


 ここまで冷静だったジルの余裕がない指示。

 現れたのは三メートル──メルス以上もある巨大な白蟲と、護衛の様にその上を飛ぶ一メルスはある白蟲二匹。

 取り巻きでさえ、これまでに倒した大きな固体と同程度。一パーティーで当たる機動力もある。

 周りは足場が悪い鬱蒼とした草や根が生い茂り、遠距離攻撃を邪魔する木々が伸びている。

 敵は飛ぶことも出来る。ボス級の白蟲はサイズ的に飛べないだろう事だけが救いと思えるが、二人抜けた上に怪我をして、ここまでの探索と戦闘で疲労もある。正直、最悪と言える。


「LiLiさんは、私と一匹頼む!」

「うん!」


 七組三人に僕を含めての四人。白蟲が二匹なのでそれぞれ二人で対処する必要がある。


「ジョールさん、とりあえずボスから引き離そう」

「ああ、賛成だ」


 もうボスと言って良い巨大な白蟲から僕とジョールさんは乱戦を避ける為に小型白蟲を背後に引き連れて距離を取る。

 ジョールさんの口調は戦闘時に力強くなるけど、今はそんな事はどうでも良い。一刻も早く取り巻きを倒して救援に向かう必要がある。


「私は基本後衛なので、前頼んでも?!」

「解った!」


 始めにタゲを取って、ジョールさんに狙いを付けて追ってくる白蟲に向けて、僕は踵を返して飛び掛かる。


「《スタッブ》!」

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