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害虫駆除開始

「オラー!」

「《隼》!」

「《パラライズクロー》」


 畑を過ぎた辺りでさっそく白蟲が三匹も現れた。それを七組と協力して対処することになった。

 一番大きい固体が五十センチもある。それは七組が取り囲んで攻撃を加えている。

 七組に二匹は厳しいと判断した結果、残り二匹は僕ら八組が対応している。二匹なので小振りな固体を引き受けた次第。

 その内の一匹はジルの槍捌きによって牽制しながら一人で対処を行い、僕ら三人で一匹を速攻処理しようと作戦をたてて現在に至る。


「おい、ジル! 大丈夫か!?」

「……つ! なんとか」


 僕ら三人で相手するような敵に一人で回避と牽制をしているジルの負担は想像に難くない。早く行ってあげたいけど、先ずは此方を片付けないと。


「「《つむじ風》!!」」


 ドドルが足鎌を躱し距離が開いた所に、僕とガルの風属性の魔術が決まる。僕よりもガルの方が威力その他が上だ。チャラそうなのに、実力が上なんてなんだか悔しい。


「これでどーだーー!」


 《つむじ風》で脚鎌の一本が吹き飛び隙が出来た所に、ドドルが飛び上がり頭を目掛けて拳を叩き込んで潰した。格闘技能の業を使ったのだろうが、何を使ったのか不明。プレイヤーみたいに態々名前を叫ばないみたい。

 緑の体液が周囲に飛び散り、ドドルにもかかるが幸いにも体液には睡眠効果はなかった様子。睡眠効果はどうやら脚鎌にだけあるようなので、少しは安心出来るかも知れない。


「ジル、そっちに行く」

「おう」


 顔に掛かった体液を手で拭いとり、直ぐにジルに加勢する。まだ一匹残っているので気を弛めるのは早い。


「《水球》」


 ジルが槍で脚鎌を弾き、先ずはガルが水属性の魔術を放つ。実力が上なのに、さらに二属性なんて反則だよ。ぐぬぬ。

 初めは疑問に思ったが、彼らは獣人とエルフの混血なので使っても不思議じゃないと思う。開幕直ぐにガルが放って不思議に思ったけど、獣人のしなやかで強靭なドドルと、弓と魔術で精密で威力の高いガルを見て一人で納得した。彼らに聞く暇なんてないしね。


「どっせーい!」

「《スピアー》」

「《毒牙》」


 この白蟲の弱点が未だに解らない。虫なので火に弱いのだろうけど、どうやらガルも火属性までは使えないみたい。

 外殻が硬く、羽根もあるので翔ぶ可能性もある。細い口による吸い付きと、睡眠効果の分泌液がある攻撃力にも長けた脚鎌。攻撃はこの口と鎌だけだが、柔らかそうな腹部は潜り込めないくらいに地面に近い。いっそ翔んで欲しいとも思えるが、そうしたら脚鎌の餌食にもなりやすくもどかしい。


「七組はそろそろ終わりそうだな」

「だなっ! なら俺も強力なのいくぜ!!」


 ドドルは笑みを深めて、ジルが咄嗟に後退する。


「ふぁ?」

「我流マッスルダスター!」


 そして僕にも白蟲の体液が降り掛かった。


「…………」

「お、わりい。ちっさくて見えなかったわ。がははっ」


 ドドルが悪気なさそうに高笑いしている。爆心地をみると小さなクレーターが出来ていた。


「もうちょっとで僕も危なかったじゃん!」


 高威力の攻撃を目にして茫然としていたが、我に返り僕が抗議する。張本人のドドルも避けたジルも、お腹を抱えて笑っているガルも皆嫌いだ! あ、この体液酸っぱい。


「LiLiさんすみません。咄嗟だったもので声を掛けられませんでした。ドドル」

「あー、すまんな嬢ちゃん。つい七組に負けたくなくてな」


 競争している訳ではないのに、ドドルには対抗意識があるようで七組よりも早く倒したかったらしい。精鋭に入る自分の自負が負けることを拒否したと。

 いや、精鋭なら感情も抑えないといけないでしょ。


「それで、LiLiちゃんは何でさっきから体液をペロペロしてんのー」

「ん? 身体に良さそうだから?」


 身体中に掛かった体液を舐めているとガルが引いた笑みを浮かべて聞いてくる。だって、お酢関連の酸味なので、動いていた後に舐めれば身体に良いと思っただけだと伝えると、ジルとドドルも何故か引いた。むー。


「本当に獣なんだな」


 引き吊った笑みのままにドドルが頭を撫でてくる。

 まあ、今までも《獣走》で移動していたし、爪や牙に尻尾を使用しての攻防を繰り広げていたしね。今は猫よろしくな感じで身体を舐めていたし、獣扱いも仕方がない。


「おーい、そっちは大丈夫かー」


 そうこうしていたら七組も討伐を終えて合流。七組リーダーと八組リーダーのジルが何かを話している。


「……そうか。わかった」


 何やら二人が難しい顔をしており、七組の仲間は少し距離を開けている。


「ありゃ、怖じ気付いた奴がいるな」

「んー、ビルが怪我してるかなー」


 七組に誰がいるか不明なので、僕には状況が掴めず、ジルたちの会話を終えるまで毛繕いして待つ。ちゃんと警戒もしてるよ。


「皆、七組は後続として背後の警戒をして貰うことになった」


 そして報告を聞くと、七組の一番若い男性を庇う際にビルと言う人が右腕に軽傷を負った。行動に支障がない程度の怪我だったが、今回が初実戦だったこともあり若者が怖じ気付いたらしい。

 だけど七組も一人抜けると戦闘が厳しくなり、八組も七組が不在だと何かあった時に不安が拭えない。

 七組の若者以外は集落の危機もあり退く気はないが、今回の戦闘で自分達の実力も理解した。

 七組が欠ければいざという時の選択肢が減り、七組がいても一匹を相手にするだけの戦力が現状に不安がある。若者が少しでも実戦経験があれば良かったが、それは今言っても意味を為さないことは僕を含めて全員理解できた。

 結局は、後方の警戒をしてもらい不意討ちのリスクを減らすことと、複数現れたらの為に足止め要員として同行することになった。三十センチくらいの小さい白蟲なら七組四人でも対処が可能だとの双方の判断結果でもある。


「《応急処置》」


 軽傷でも戦闘には支障が出るので、ビルの怪我を僕が治療する。

 どうやらこの一族の男性は神秘属性が扱えないとのこと。女性なら問題ないそうだが、いざ戦闘と言うならそれだと不便だと思う。その代わり、男性は体力や精神力に筋力も高いらしく、力で今までゴリ押しでなんとかなっていたらしい。戦闘民族かっ!

 とりあえず行動しなければいけない。夜になる前にある程度の結果を残さないといけない。夜は危険があるので、暗くなる前に集落に戻ってくる予定である。昼食にも時間があるので、もう少し進むとジルが言う。


「さて、行くか」


 ジルとドドルを先頭に僕とガルも続く。その後方に七組が続いてくる。

 畑近くなのでまだ二列にあるけるが、この先はジルを筆頭に一列になるので奇襲に警戒しなければいけない。


「よし、ここらで食事にするか」


 僕以外はちゃんと二足歩行での行進を続け、時折数人が木に登り周辺の索敵。これまでに白骨化した生き物が二匹いたが白蟲の被害かは不明らしい。喰い掛けならば、その痕跡で判断出来たが白骨化していると判断しずらいらしい。途中で小さい白蟲一匹と戦闘はあったものの、単体であり弱かったので危なげ無く討伐に成功した。

 七組と八組が少し離れて車座となり保存食を食べる。僕の分も用意してくれたらしい。また木の実や果実も木に登った際に集めており、お裾分けしてもらえた。うまうま。


「嬢ちゃん、本当に動物なんだな」


 畑近くに流れていた小川と源流は同じで枝分かれした支流である小川に直接顔を近付けて水を飲んでいたら、背後からドドルに声を掛けられた。

 川面に人影が映ったから驚かずにすんだけど、そうじゃないと川に顔からダイブした自信がある。えっへん。


「だって、この方が飲みやすいもん」


 四肢を着けているので、顔を直接着けた方が飲食がしやすい。ちゃんと犬まっしぐらなのは自覚してるよ。直すつもりはないけど。


「さて、皆準備はいいか?」


 食事中に各組のメンバー同士やリーダー同士でさらに話は進めていた。

 どうやらこの小川の先はさらに木々が密集しており、足場が不安定でもあるらしい。

 より警戒を怠れなくなり、精神的にも疲労は増えていく。

 ただでさえ足場が悪く体力を消耗する上に、自分より格上になる白蟲の襲撃に備えないといけない。だけども、白蟲の駆除を行わないと集落だけでなく、この森全域に被害が及ぶ。それだけに留まらないかもしれない。

 忸怩たる思いを抱え、彼らは弓を槍を手にする。

 僕も少しでも力に成るため四肢に力を籠めて森の奥深くを見つめる。このままなら、彼らだけの問題じゃなくなるかもしれない。

 本番は始まったばかり。

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