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森の住民

「うきゃー!」


 草原に少女の悲鳴が響く。いや、僕なんだけどね。

 現在、僕は必死に逃げている。装備を更新したので試しに拠点周辺での戦闘をしていたら、レアモブが現れてそのまま追われていた。周辺のモブとは互角だった戦闘も少し余裕になったのだが、レアモブ相手なら負ける自信がある。

 ちなみに、所持金の幾らかを払い更新した装備がこちら。


 武器:クロー

 武器:クロー

  頭:白毛鼬のリボン

 胴体:戦乙女の聖衣

  腕:鋼鉄入り白毛鼬グローブ

 下肢:戦乙女の聖衣

  脚:鋼鉄入り白毛鼬の脛当て

 装飾:葉風の小指輪

 装飾:鉄の指輪

 装飾:なし

 装飾:エンゲージリング(ファッション装備欄)

 装飾:涙石のネックレス(ファッション装備欄)


 【白毛鼬のリボン】:頭装備。防御力8。素早さ5。

 【鋼鉄入り白毛鼬グローブ】:腕装備。防御力13。素早さ4。

 【鋼鉄入り白毛鼬の脛当て】:脚装備。防御力11。素早さ6。


 白椰子から引き続き、白毛鼬の装備シリーズで全身白統一となっている。このシリーズは防御力は低いが素早さがどの装備にも付与されているので、僕の戦闘スタイルを考えてこのシリーズを購入した。

 だけど、この装備もレアモブとの戦闘には心許ない。素早さが上がったので振り切れると思うが、攻撃を受けると死ぬだろう。

 この近辺のレアモブである角を有する豚、ランサーピグ。突進力と攻撃力が高いモブで未だに討伐情報がない。

 それを言えば、ハジリ村近辺のグランドラットも高レベルパーティーでなんとか討伐出来るレベルだったらしい。以前のイベントで討伐した時は、イベント限定のモブ扱いだったんだね。じゃないと、決して討伐なんて出来なかった。


「はあ、はあ。……な、なんとか、逃げ切れたかな。はあー」


 全力で《獣走》を駆使して、草原を駆け抜けて逃げ切れたようだ。かなりの距離を走った様で、川がない代わりに前方に森が見えた。初めて見る森だ。


「それより、ここどこ」


 逃げるのに必死で現在地が不明だ。つまり、迷子。

 かなり広いフィールドを徘徊できるレアモブだったようだ。今まで拠点周辺で見掛けない訳だ。てか、どうしよ。

 このプリハには、他のゲームのようなマップ機能がない。土地勘は実際に行って覚えるしかない。必死で駆けたので、覚える余裕なんて当然なかった。


「どうしよ……」


 唯一、迷子になっても一瞬で首都に帰還する方法は死に戻り。進んで死ぬつもりはない。

 知らない土地。装備更新で浮かれてた気分も既に沈んでいる。森と反対に走っても戻れる保障がない。かなり無茶苦茶に走っていたし、トレインのマナー違反も犯していた。首都からかなり離れていたので被害は無かったと思う。思いたい。ごめんなさい。


「とりあえず森に避難かな」


 もう大丈夫だとは思うが、いつまたレアモブがフィールドに現れるか不明なので、恐らくフィールドが変わる森に移動する事にする。森のレアモブが出ませんように。


「あ、知らない素材出た」


 早く移動したい気持ちもあるが、やはり採集ポイントを無視するのが勿体ない。


 【ジョール】:蔓性植物。乾燥させると丈夫なロープとして利用出来る。


 薬素材じゃないけど、これは開拓に使えるかな。そう言えば、最近オリヒメに縛られてないな。縛られたくないけど、技能が成長してるのかな? うん、怖いから忘れよう。

 

「それにしても、本当に何処だろ」


 寂しくなんてない。怖くなんてない。泣いてなんかないもん。不安を採集で粉らわせている訳じゃない。違うったら違うんだから。ぐすっ。


「森に入って休もう」


 採集で何種類かの野花も手に入り、《採種》で種に変換も出来たのでいよいよ森に踏み込む。怖くない、怖くない。


「敵が強くありませんように」


 現在も《獣走》で移動している。使っていれば、レベルが上がるようだし、もう移動はこれじゃないと落ち着かない。夏休みになったら、リアルでも練習しなきゃね。

 時々採集しながら歩いて行くと、何かが足に引っ掛けてしまった。


「ひみゃーー!」


 なんかデジャブが。右前足と右後足が縛られて、そのまま宙に浮いてしまった。また、害獣指定?


「やだ、やだ」


 僕今回は何も悪いことしてないのに。変な体勢で力が入らないが、自由な左半身でなんとか縄から脱け出そうと格闘した結果、左後ろ足も絡まって身動きが取れなくなってしまった。

 どうしよ。それに、ファッション装備もセットしとかなきゃ、見られちゃう。

 普段は【ヌーディスト】で活動しているので、ファッション装備は全解除している。だから、大事な部分も聖衣が捲れて見えてしまっているはずだ。なんとか左前足を使いファッション装備を整えようとして、手が止まる。

 慌ててたが、もう成るようにしかならないと二度目の僅かな余裕も消えた。今、そこがガザッと音がした。


「な、に?」


 動きを止めてジット見つめる。プレイヤーなら、恥ずかしいけど助けを求められる。だけど、レアモブや高レベルのモブだと無抵抗な僕は格好の獲物だろう。もう手遅れかもしれないが、恥ずかしい姿で死に戻りなんかしたくない。


「……、…………」


 現れたのは二つの首がある蛇だった。見たことがない。見つからないように息を殺していると、地面から巨大な黒い蜘蛛が蛇を糸に一瞬にして絡めて再び地面へと蛇を連れて消えて行った。


「な、なにあれ」


 捕食だよね。こんな捕食まで再現されていたっけ。縄張り争いはあるみたいだけど、ここまで食物連鎖を再現していたかな。

 そんなことよりも、蜘蛛が消えた場所だ。土で出来た蓋があるのか、観察しても見分けが付かない。僕もあと少し進んでいたら、餌食になっていたよね。

 見た目的に蛇が強敵に見えた。それを簡単に捕まえた蜘蛛の強さは未知数。しかも、ほぼ真下が蜘蛛が消えた穴だ。うん、死ぬ自信しかない。


「どうしよ……」


 これで下手に脱出も出来なくなった。プレイヤーもここまで踏破しているのか不明だし、例え踏破していてもこの時間にログインしている可能性もそう高くないと思う。


「……そうだ、メール!」


 不安定な姿勢だけど、なんとかメニューは開けた。だけど、文字が打ちにくい。しかも、現在地が不明な事にも気が付いた。


「うー、帰りたいよー」


 涙が出てくる。もうお手上げだ。誤字りまくったメールも開いたまま。チャットも考えたけど、一斉送信のSOSメールを先に作成して問題が見付かったので、チャットで助けを求めても場所を伝えられない。

 一度ログアウトしても、また戻ったらここからだ。巣穴がある以上状況は変わらない。


「……死に戻りかな」


 場合によっては勝てるかもしれない。もうその選択しか思い浮かべられずに、半ば自棄になって左前足だけで無茶苦茶に拘束を解こうとしてついに、自由な左前足すら絡まった。しかも、何処の猟奇的な縛り方だっていう全身が絡まった頭が下位置の海老反りみたいになって痛い。


「うー、だれかー!」


 結局、音声入力によるログアウトを宣言してリアルに帰還する。



   ******  



「どうしよー」


 リアルに戻って来ても、それしか言葉がない。

 罠みたいなので、誰かが設置したのは確かだと少し冷静になって気が付いた。だけど、その設置者が誰か解らない。プレイヤーならPKの心配も出てきたし、ヤオロズなどの住人ならば何れは降ろしてくれると思う。

 罠ならば、バグとして処理はされないと思うので気長に待つしかないのかな。

 サイトを見ると、罠を利用したPKもあったみたいだし解決策は用心しかない。ちなみに、そのPKは犯罪者として処刑されたらしいが。

 一度フレンドに相談してみた方が良いかな。でも、マップがないと場所の説明が出来ない。真っ直ぐ拠点から進んでいれば楽だが、始めは攻撃を避ける為に兎に角無茶苦茶に走っていた。

 あんな場所だから害獣とはならないはず。ならないと良いな。

 結局、今日はもう時間も遅くなっていたので不安を抱えながらも眠った。蜘蛛に糸で絡められて、二つ首の蛇に頭と足から同時に食べられる悪夢に魘されて。



   ******



 日中は特筆することもなく過ぎて行って、夜にプリハにやって来る。

 プリハだと二日経っている計算なので、状況は変化している可能性もあり怖かったが把握する必要はあった。

 結局、場所が解らない以上はメールも無意味なので出していない。調べたらギルドに加入すると、大まかなフィールドが解る機能があるらしいが生憎ソロなので、その機能は使えなかった。


「んあ」


 プリハに意識を完全に移すと、その瞬間身体が痛い。身動きが取れない。

 恐る恐る眼を開けると、天地逆転現象が起きていた。

 「何事!」と一瞬思うが、手足が何か棒に縛られているのを確認して、逆さに棒に縛られて吊るされているのを理解する。確か、獲物を縛って前後二人でその棒を持って移動する光景を思い出す。昔のアニメだっけ?


「いやいやいや。僕、獲物じゃないし。動物だけど」


 服は剥がされてないみたいで安心したが、状況が状況なのでやはり安心出来ない。

 他に情報源がないか首を動かして周囲を確認すると、視線の先に火が焚かれており、その火に炙られている棒に縛られた蛇らしき物が見えた。

 ど、どうしよ。原住民みたいな人がいるのかな。罠に掛かった僕って、やっぱり食料!?


「…………おい」

「ひゃわ! あ、あのあのぼ、ぼくおひしくひゃしゅ!」


 驚き、その反動で舌を噛み痛みに悶える。こんな傷みリアルに再現しないで。

 痛みに悶えていると、首に剣が宛がわれた。もう少しで首が切れる所だった。

 あ、そか。首を落として血抜きするんだね。


「やだー! 死にたくないー!」


 ガタガタ暴れるも、頑丈に縛られた四肢はほどけず、棒が撓むだけ。


「落ち着け」

「美味しくないです。ごめんなさい、ごめんなさい」


 リアルに首が落とされ、逆さにして血抜きされるシーンを想像して混乱する。股間が濡れていくも、この原住民に対しての恐怖しか湧いてこない。


「仕方ない」

「うごっ!」


 暴れていたら、お腹なのか背中なのか不明ながら痛みが走りそのまま意識を落とす。


「…………ん」


 なんだか怖い夢を見ていた様な気がする。

 ゆっくり意識を覚醒していくと、四肢が動かない事、天地逆転していることが徐々に認識していく。


「夢じゃ、ない?」


 視界の先に火が焚かれていた。その上には何もない。蛇は?

 さらに視界を移動して行くと、誰かの胴体が目に入る。


「ひっ!」

「目が醒めたようだな」

「いきなり暴れるからどうしよっか迷ったよ」


 何とか首を動かして見るが、顔まで確認出来ない。自分の稼働範囲限界まで動かして見えない事を考えると、かなり大きい人みたいだ。

 声は落ち着いた者と、まだ若そうな声がした。どっちがどっちかまでは解らない。


「安全が確認出来るまでは縛らせて貰っているが、安全だと解ればほどいてやる」

「あー、嘘は付かないでねー。じゃないと焼くから。返事は?」

「わ、わん!」


 つい本能的にそう返事をしていまう。絶対的強者なら逆らっちゃダメだよね。食べられたくないし。


「お前はなんだ?」

「あ、あにょ。LiLiでしゅ! ヤオロズひてます!」


 噛み噛みだが、素早く答える。焼かれたくないよ。


「この森にはなんの様だ?」

「レアモブ……」


 あれ、プレイヤー以外にこれで通じるのかな。なら、モンスター? 魔獣? なんて住人は言っていたっけ。


「ん、なに? 言えない?」

「あの、モンスター! モンスターから逃げていたら、この森があって、それで隠れる為にきまひた!」


 また噛んだけど、うん、仕方ない。


「うわ、また漏らしてる」

「それは言ってやるな」


 だって、怖いんだから仕方ないじゃない!


「それは本当か?」

「うん! ランサーピグってモンスターだよ!」


 果たして知っているか疑問だが、証明出来る物がない。

 こっちだって、食べられないように必死なのだ。


「この森が、我らの住処だと知っていたのか?」

「知らない! こんな離れた所に住んでるなんて情報無かったよ!」


 情報があったら余計に助けを求めて逃げ込んだ可能性もあるけど、そんなことサイトにも載ってなかった。はず!


「……最後に、道すらない場所。正確には獣道を利用したことは?」

「それこそ知らないよ! たまたま逃げた当たりに細い道があったからそこ使っただけだもん!」

「…………今の言い方だと、我らの事は知っていると言っているが?」

「知らないもん! そんなこと書いてあるのなんて見てないもん!」

「書いて? まあ、いい。ならば、今から長の判断を仰ぐ」


 そう言うなり、二人が前後に移動して身体が持ち上がる。どうやら、棒を二人で担いだみたい。


「ほどいてー!」

「それはならん」

「そそ。獲物なら、焼かれて食べなきゃだし。あははっ」

「おい」


 やっぱり食べる気なんだー! ()を食べても美味しくないよ!

 そんな叫びも虚しく、僕は吊るされたまま運ばれていく。

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