土地再開拓(農林業関連)
時間は刻々と過ぎていく。
初夏から夏本番へと移り変わり、汗が滲む事も少なくない。もう少しすれば夏休み。だが、夏休み前には試練もある。
「ねえ、ユーリ。これ教えてー」
ウサミミが泣きついての勉強会。そう、期末試験目前。ゲームの時間も一日二時間未満に抑えている。
この試練を乗り越えないと夏休みにはならない。夏休みには、部活動の一貫で、お泊まり保育の補助があったりもして楽しみなので、なんとか僕たちは補習にならないように共同戦線を立ち上げた。
「お茶貰うよ」
この日はウサミミの家での勉強会。ウサミミと二人だけど、ただ勉強をしたり、息抜きに雑談して異性としての変な空気が流れる事はない。
それと言うのも僕の姿に原因の一つがある。ゲームで着用しているワンピースに似た物を購入してからは、こうして女性の衣類を着ることも増えた。もちろん、いや最早抵抗感や違和感なんて感じない。ゲームの影響がここまでリアルに響くことは稀にあるらしいが、僕としては原点回帰しただけにも感じる。
同じ市内に住む従姉妹の姉に保育所のころ迄は真似してばかりで、その時期は御下がりで女の子の服を着たりは普通だった。
現在、デザイン専門学校に通っている姉に母親がワンピースに関する事を報告したことで、再び大量の御下がりと実習などで作った衣装を貰って、今日もその中から選んで着ている。最近は、姉の着せかえ人形となりつつある。
衣類は姉から、下着は母親が買ってきた。なんなんだろうね、この連携。お正月以来会わず、メールや電話での繋がりしかなかったのに、最近は休日には何かと姉が家に遊びに来る。今日はウサミミとの勉強会を伝えていたので、たぶん来ていないはず。
「少し休憩!」
何度目かの休憩宣言に、僕は苦笑する。だって、全然進んでいないのだから。
服装については特に言われないのも苦笑するしかない。自然に受け入れられている。まあ、トランスジェンダーや同性婚なんて今じゃ珍しくない世の中だし、小学生の性の授業とかでも普通なこととして習っているからなのかもしれない。
「ユーリ、今日泊まって勉強教えてー」
「そこまでは面倒見れないよ。それに、さっきから休憩ばっかだし。あと、勝手に膝枕に使わないで」
「いいじゃん、別に」
男性として見られてないのは理解しているけど、流石に無防備すぎだよね。
そんなグダグダな勉強会が朝から夕方まで続いた。ちなみに、ウサミミの母親は僕を女性と思い込んでいるよ。
***
勉強会が終わり、夜には少しだけプリハに行く。
どうやら七夕イベントはないみたいで、まったり薬品製作と土地の開拓を行っている。セッカがそろそろ自力で翔べる兆しが出て来ているようにも感じる。親バカかな?
「んじゃ、今日は果樹園かな?」
すでに畑も小規模だが完成した。薬草園と同じように作ったので、二回目とあって初回よりも早く出来上がった。
畑には、芋類と根菜に葉物野菜が少しずつ植えられ、片隅には莓畑も作った。
畑以外には川沿いに等間隔で根深い若木を植えてある。もしもの氾濫時にはこれで被害が抑えてられると期待する。
この若木の種類は幾つかあるが、どれも森や雑木林で極々稀に若木が採取ポイントから手に入る。自分で手に入れたのは二本だけだが、残りはプレイヤーから購入した。活用先がなくて、店売りしか行えていなかった所に、僕が購入することをフレンド経由で拡がり必要数が集まった。何種類もある若木には、建築素材になるものもあり、観賞用の若木もある。
特に嬉しかったのが、【サクヤの若木】と言う大きくなれば八重桜にそっくりな花が咲く木があったこと。三本あり、何れも露天風呂周辺に植えてある。絶賛募集中です。
「厩舎もしなきゃダメなんだけどね」
先に果樹園よりも厩舎を作ろうと思ったけど、建築素材は高い。また以前廃材を全て購入したからか、現在は建てる程の廃材がないらしい。少量ずつでも購入しているが、まとめ買いよりは高くなっている。やっぱり、この世界にも流通量があるんだね。
そんな訳で、厩舎はしばらく待って貰い果樹園に着手する。
「何処が良いかな」
土地中央に家を建てる予定で、現在は仮設小屋が建っている。玄関前は花壇を作る予定なので開けてある。
北側には氾濫防止に土手と放牧地の予定で、今も動物たちが草を食んでいる。
西の川沿いには若木を植えて、中央付近に露天風呂がある。まだ、土地は余っている。
東側は玄関周辺の花壇に、北東の放牧地に南東の慰霊碑で土地が少ない。
南側には薬草園と畑がある。川沿いには、敢えて二ヶ所採取ポイントを残すように手を付けていない。放牧地も手を付けていない感じなので、採取ポイントがある為ポイントを消滅させれば土地が少し確保できる。慰霊碑周辺には花壇を作る予定。
「うーん、露天風呂と放牧地の間が一番スペースあるかな」
一キロ四方の北側に当たる半分は土手と放牧地に使うので、思ったよりも土地がない。薬草園とかの増設予定地が広いかな。でも、僕の生命線なので拡大することはほぼ確実だと思う。そう考えると、やはり露天風呂と放牧地の間くらいしかないか。
成長すると当然大きくなるので、間隔も広く取る必要があるので、南側の採取ポイント区画だけでは足らない。
「取り合えず場所は決まりかな。でも、そのまま植えて良いんだっけ?」
一部の果樹と言うか食用木の実を収穫出来る若木は森の採取ポイントで採れるが、基本は農家から買うしかない。
今回購入したのは、成長が早いものや挿し木が可能な品種。ベリー系と柑橘系。花屋さんで、鉢に入った蜜柑の木が実を付けていたので多分大丈夫。事前に聞けば良かった。
プレイヤーから購入した若木には柘榴みたいな実が付くらしい木が一本と柿みたいな身が付くらしい木が二本あったので、それらも此方に植える。説明文頼りなので、食用だとは解っていても不安ではある。
「一番北側に柿と柘榴。南側に柑橘系で、中央にベリー系でいいかな」
柑橘系は南側の地域だよね? なら、少しでも陽当たりの良い方に植えたら良いんだよね。
「うーん。まあ、取り合えず植えてみようかな」
失敗は怖いけど、植えてみよう。スレッドでも木を植えてるようなプレイヤーは殆どいないみたいだし。
広大な土地を所有しており、《農林業》を修得して、購入する資金もあってとなると、植えているプレイヤーは限られるよね。
ん? 金持ち的なステータスになるのかな。いや、僕は現在も金欠なんだよね。
薬品の売上のほとんどを素材買取りと開拓費用に使っているからね。装備すらほぼ初期のまま。
ギルドで購入したなら開拓も早く資金も集まり易いだろうけど、広大な土地をソロで所持しているプレイヤーがどれほどいるだろう。当然、出費が大きい。まあ、街中の土地だとさらに税金もあるらしいことを見守り隊から聞いたので、税金がない分気が楽なんだけどね。
「時間もないし、早く植えてこ」
明日は日曜日だけど、ウサミミにまたも帰り際に泣きつかれたので二日連続での勉強会が決まったからね。僕も一年の一学期で赤点は取りたくないから、参加することは良い。ただ、ウサミミのサボり癖というか、飽きやすく甘えてきて進まない問題があるけどね。
「じゃ、セッカ。三ツキ、頑張るよー!」
鴉と仔犬たちは遊んでるだけなんだけどね。そんな光景を見て癒されながら、今日も頑張って開拓を進める。