土地再開拓(薬草園作り)
さらにリアルで一週間が経過した。
この期間はログインしてから、草刈りや建築をしてからハジリ村に移動して薬品作り。仕上げに見守り隊女性グループ『神癒隊』によるマッサージを受ける流れで日々を過ごしていた。
「セッカ、おいで」
この一週間で枝からの飛び降り訓練や、野生の鳥の飛行見学、有翼馬の飛行を背に乗って見たお陰で短距離の滑空が出来るようになった。また、有翼馬のルーンが自分の子供と一緒にセッカの飛行訓練も見てくれている。羽ばたくがまだ自力で飛び上がれないセッカだが、自力で翔べるのも時間の問題だと思う。
「どうかな? 新しいお家は」
産毛が抜けて大きくなったセッカは、僕と二人で犬小屋に寝ると窮屈となってきた。
そこで、仮設小屋だがセッカの家をこちらに移すことにした。
廃材を利用した平屋小屋。簡易転移装置を隔てる壁を設けて、休憩スペースには仔犬たちが走り回っている。
「イツキ、サツキ、ハヅキ。セッカと仲良くね」
名前も頑張って付けたよ。コーギコリーの雄がイツキで雌がサツキ。マニアドッグの雌がハヅキ。別にイツキと樹の名前が一緒なのはこれと言って意味がある訳じゃない。ないったらない。
毛皮で作った三つのクッションとケージ。流木を利用して作ったベンチ。壁に取り付けられた脱衣用の棚。天井近くにはセッカ用の小さな出入り口。その横に毛皮と流木で作った巣。
問題は仔犬がセッカを食べたり虐めたりしないか心配だったけど、仲良く遊んでいる。床からセッカだけで登れるように、これまた流木で天井までスロープを取り付けている。流木は丸いままでそれほど太くもないので仔犬は登れない。天井近い枝分かれ部分はそのまま切断しないで宿り木として活用したのでセッカも喜んでくれるかな。これが、仮設小屋の全容。場合によってはそのまま本邸に取り込む予定でもある。
「ん、気に入った? 良かったー」
キャワーと可愛く鳴いたセッカが可愛い。よし、ここに僕用のクッションも置いとこう。ワンコたちとも眠れるしね。
因みに、人間用の出入口以外に小さな犬用の出入口も設置している。セッカ同様、マニアドッグは収集癖があって勝手に出歩くようになるしね。毛皮の垂れ幕で温度も逃げないようにしている。次いでに僕も基本こっちを利用している。ドアの明け閉めの手間が省けて楽です。
「さて、次は本邸とか厩舎とか建てたいけどお金ないしな」
残りの荒れ地も草刈りでほとんど採取ポイントが無くなった。今は一ヶ所に纏めて乾燥させている。
「やっぱり素材を増やさないとね」
お金がないから薬品を売って稼いでいる。その薬品の素材は基本買い取りで手にいれている。売り上げの三割、変わった品や貴重な品があれば五割近く素材に飛ぶ事もある。
それでは、何時まで経っても自宅の完成に目処が着かない。だけど、素材買い取りは止めたくない。これは僕にも、販売者にも利益になることだし、今では買い取りの顧客が見守り隊以外にも数人固定で存在している。
「やっぱり、薬草の安定供給と薬品の量産だよね」
買い取りには安定性がない。欲しいものが常にある訳ではないし、必要ではない時に大量に持ち込まれることもある。インベントリがなかったら枯れたり腐ったりしていただろう。
また、一番売ってくれる見守り隊の面々もギルドメンバーで生産を修得したプレイヤーに回すようになった。そうして貰った。
「そうと決まれば、畑仕事だー! おー!」
僕の声に釣られて吠えてくれる三匹。やる気はあるけど、掘ってくれるのかな。まあ、いいや。
「まずは道具買って……それから…………」
首都経由でハジリ村に移動して、【鍬】や【スコップ】に【肥料】と【腐葉土】を購入する。インベントリにあるアイテムもあるが、予備として購入。
続いて薬師ファルの家に行き、一万リゼで【基礎入門製薬道具】のセットを買う。ファルの家でお金を払った方が品質の良いアイテムが作れるが、流石に毎回移動も大変。このセットでも店売り商品よりも質が良い物が作れるみたいだしね。店売り品とブランド品の中間商品も作ろうと思う。
「やっぱりポータルは便利だね」
ハジリ村までの往復に二十分も掛からなかった。なかなか《獣走》がレベル5にならないけど、レベルが上がったらさらに時間短縮になりそうだ。
「みんなもどんどん掘っていってね」
牛や羊たちは除草に協力してくれたしね。まだ仔犬の三匹なら遊び重視で適当にやって貰おう。うん、追い駆けっこしているが気にしない。むしろ癒される。
「ここ掘れわんわんー!」
畑を作る予定地のさらに薬草を植える場所を中心に耕していく。
時には流木や骨をどかして、岩を砕いたり退かしたりもする。
以前見つからなくて、今回出てきた骨は一ヶ所に避けて後で慰霊碑の横に埋めて上げる予定。
「わんわんーおー!」
どう言う意味が昔あったか覚えてないけど、かつてこんな言葉があったみたい。犬関連の用語集にあったけど、気合い入れるにはなんだかこれが一番。
「おーえい!」
持ち上がらない巨岩は【ツルハシ】で砕いて避ける。これは温泉や花壇の仕切りに使ったり、家の内装にも使う予定。釜とか暖炉とかにたぶん使える。使えるといいな。
二日掛けて耕して、【肥料】と【糞】と【腐葉土】を混ぜてから低い畝を作る。
【糞】は馬糞に牛糞に羊糞など様々。彼らはこういう形でも貢献してくれているが、まだまだ子供の犬や鴉は仲良く遊んでいる。元気なのはいいことだね。一緒に遊びたいけど今は仕事をしよう。
「んじゃ、《採種》」
《農林業》の中にある《採種》技能は、種が採れる植物に限り素材を種子に変換できる。種は植物の種類により数が変わり、薬草はだいたい五個から十個が採れるみたい。
ただ、【トリノ花】など毒や麻痺に掛かる毒草系は種がなく、そのまま植えて増やすと良いとファルから教わっている。球根や枝があれば、それを植えて繁殖も行える種類もあるらしいのでこの辺は追々実践と共に勉強していくつもり。
「やっぱ、毒草は皆が食べないように柵で囲んだ方がいいよね」
薬草園の周りにも石と木柵で囲っているが、さらに念を入れておくべきだろう。仔犬は好奇心旺盛で、食べたら困るしね。
廃材がないので、流木や石で毒草園を囲っていく。流木の素材は良くない物が多いが、この拠点には大量に石や泥と共に流れてきているのは、かつての氾濫が原因だと思う。中には、この近辺で自生していない植物が採取ポイントでそこそこ採れたしね。
「こんな感じかな。あー、イツキ。そっち入っちゃメっだよ!」
毒草園に入ろうとするイツキを抱えて避難させる。
これでもまだ足りないかな。いや、確かギルドハウスなど入室設定機能あったよね。それ、使えないかな。
「えーと、あった。プレイヤー拒否、ギルメン拒否、フレンド拒否、住人拒否、住民拒否、家畜拒否、パートナー拒否」
なんか多いな。住人と住民て何が違うんだろ。パートナーてなんだろ。とりあえず、僕以外は入れないようにしてさらに薬草園本体にも同様の設定を行う。細かく設定出来て嬉しいね。
「あ、僕の労力無駄になった……」
柵や石を設けなくても良かったんじゃないか。いや、でも見た目的にこれはこれで分かりやすいから良いかな。結果オールライト。
「さて、薬草関係はこれでいいかな。これで、少しは素材にお金使わないで済むかな」
今回植えたのは、この採取ポイントを含めて集めた素材と、プレイヤーから買い取った素材に、ファルから何種類か手に入れた物たち。
内訳は、薬になる薬草が四品種と、毒草など危険な薬草が六品種。
【滋養の葉】:軟膏及び水薬の基本素材。これ単体では効果が期待できない。
【福滋の花】:軟膏及び水薬の基本素材。滋養の葉より効果は高いが、これ単体では効果が期待できない。
【福滋の実】:軟膏及び水薬の基本素材。これ単体でも極微量のLF回復効果がある。
【精滋の四葉】:軟膏及び水薬の基本素材。これ単体でも極微量のMS回復効果がある。
【サンカイ草】:弱いながらも状態快復効果があるが、そのままでは意味がない。
【斑紫茸】:出血毒茸。見た目からご理解を。
【セイドク草】:神経毒を持った草で、葉の裏に細かい棘がある。
【ビルル草】:麻痺毒を持った草だが、麻痺が弱く、美味なこともありスパイスとして用いられていたことがある。
【幻映茸】:幻惑効果のある茸。食用茸と見た目が似ているため注意が必要。笠の裏に襞があれば食用。
【砂水花】:食すことにより、口渇になり水分を補給しても暫く渇きを覚える。また、渇き時にスタミナを常時消費。
「……毒系が多いよ」
【福滋】系は一つで二種類が採れるが、品種的に毒が多い。
【斑紫茸】は流木から菌繁殖し、【幻映茸】は腐葉土がある場所に自生し、貴重な【砂水花】は砂漠エリアにある植物らしく、氾濫時に流れてきたらしく、砂地か水捌けが良い場所でしか自生しない。砂漠地帯が怖い。【砂水花】は云わばサボテンの一種で、肉厚の花の部分も水分を含んでおり、大変美味しかった。うん、食べたよ。サボテンステーキを。
「次は薬品作りながら、畑と果樹園かな」
家も建てたいが、食糧の自給自足と家畜の餌の確保。また、果樹などで薬品のフレーバーにも期待しているので、早く取り組みたい。
今は草刈りで出来た【干し草】があるけど、餌の問題が出るのは時間の問題だしね。
そうと決めれば、早速薬品作って納品したら何かを買ってこよう。