土地再開拓(転移装置設置)
打ち上げの翌日からは薬品作りに追われていた。
それと言うのも、イベント期間中は納品をしていなかったから。委託店には予備も置いていたが、プレイヤーたちもイベントモブ狩りの為に品質の良い物を買い漁ったために終盤は品切れを引き起こしていた。そして、改めて薬の効果の高さが周知になり納品がまだかとフレンド経由でメールがくる始末。フレンド登録したけど、交流がなく忘れたフレンドからいきなりメールが来て驚いた。彼らも愛用者らしい。
二週間近く薬品作りにハジリ村の見守り隊セーフハウスに滞在させて貰った。
そして、イベント期間中とこの二週間でとうとう借金返済完了。僕も棟梁も予想以上に早く完済して驚いた。生産は初めは金欠だけど、顧客が付けば一気に儲かるみたいだしね。さらに、このプリハは生産の偏りが存在している。徐々に各領に生産職は増えているが、獣人領で《製薬》のレベルが一番高いのが僕らしいのでよりプレイヤーが僕の商品を選んでいる。まあ、生産職もギルド所属が多いから出回る量が少ないのも理由ではあるけど。
「んー!」
「LiLiちゃん、お帰り」
「ん、ただいま」
納品をしてセーフハウスに帰る生活も普通になってきたけど、そろそろ僕の拠点も何とかしないと。幸いにも、動物たちによりかなり雑草が減っている。草刈りもしたからね。刈った草を放置していたら【枯れ草】となって肥料や餌、土壁の材料になることには驚いた。まだ半分近くは雑草が残っているので、草刈り必須になった。
拠点は草刈りをしたら採取ポイントが当然のように消えた。まあ、何かを栽培するのに採取ポイントがあったら邪魔になりそうだし元からそういった措置がされていたんだろうね。
「LiLiちゃん、今日行っちゃうの?」
「うん。家も建てたいし、セッカの翔ぶ練習もしなきゃだしね」
この二週間、雛のセッカは僕と共に暮らしていた。初めは雛らしかったが、今は産毛が抜けて大人らしい白い濡れ羽だけになっている。飛行練習の仕方は解らないけど、まずは枝から僕に向けて飛び降りる練習をする予定。
「また遊びに行っていい?」
「うん。またお風呂にでも入りに来てね」
この二週間、リンゴは三度僕の料理で死にかけたけどレベルが上がる事はなかった。代わりにリンゴが《毒味》と言う経口摂取時に状態異常が軽減する技能を修得した。毒じゃないのに。
「さて、まずは……」
直ぐに帰って簡易転移装置を設置したいが、イベント前にしようとしたことをしよう。
「えっと、ここだっけ」
ハジリ村での生活は長く顔馴染みばかりになったけど、流石に家までは覚えていない。
ちなみに、移動は相変わらず《獣走》を使っている。と言うよりも、移動は《獣走》しか使わなくなった。もう、首都の住人もプレイヤーも知ってるし、態々不便な二足歩行なんて面倒でしかない。相変わらず、手足の長さが違うのにきちんと歩けてることは不思議だけどね。
「こんにちはー」
「はいよ」
一件の農家のドアをノックして、暫くすると家主のカイリーさんが出て来てくれた。羊の獣人で、羊飼い。動物の羊とは仲間意識はないらしい。
「えと、こちらにコーギコリーとマニアドッグがいるって聞いたのだけど」
「ああ、いるよ。あんた、ゼメスのとこのだったね」
何日もゼメスの家に寝泊まりしたので、家族や嫁、隠し子なんて噂が一時流れた。今はそんな噂も消えたはずなのにカイリーはその噂を信じているみたいだ。
「んで。成犬か、仔犬か? 犬のブリーダーもしてるから、そこそこいるよ」
「えーと、じゃあ。一回見せて貰っていいかな」
犬系の販売をしているとは聞いていたけど、まさかブリーダーなんて職種があるとは思わなかった。
初めは成犬を引き取り、即戦力を考えていたけど仔犬がいるなら見てみたい。だって、可愛いだろうし。
「こっちだ」
カイリーに着いて行くと、大きな部屋が二つある前に案内された。
「右がコーギコリーの犬舎で左がマニアドッグの犬舎だ。どっちから?」
「じゃ、コーギコリーから」
カイリーさんと共に右側の部屋に入ると硬直する。
「か、可愛い」
成犬が六頭。仔犬が二十近く。名前の通り、コーギーとコリーを足したような犬たち。牧羊犬だからって、その系統を組み合わせるだけの名前は安直だが、そんなものは可愛いさの前ではどうでもいい。
「わぷっ」
僕を仲間と思ったのか、仔犬が群がってモフモフに包まれる。成犬が替わるがわる僕のお尻の臭いを嗅いでくる。お返しに嗅いで臭いを覚えた。それですっかり仲間として受け入れられた。
「わふ、しあわせ」
たまに耳や尻尾が甘噛みされるけど、子供のじゃれあいなので怒る気にもならない。
「そろそろ決まったか?」
「……あ」
どれだけ遊んでいたのか。カイリーがやや困惑顔で聞いてきた。
そうだった。この子たちの誰かを家に連れていくんだ。でも、ここに住むのも捨てがたい。いや、無理だろうけど。
「んーと、えーと」
迷う。みんな連れて帰りたい。だけど、そんなお金がない。
「えと、それぞれの値段は?」
「コーギコリーの成犬だと雄で十三万、雌で十万。仔犬なら、雄で七万、雌で六万だな。マニアドッグは後で説明する」
値段も安いし、仔犬のほうが良いね。なら、あとは。
「この子とこの子で」
ずっと僕にじゃれてくる二頭を選ぶ。
「仔犬の雄と雌一頭ずつか。なら、次はマニアドッグの方に行くか」
選んだ二頭をそれぞれ片腕に抱えるカイリー。 そんな持ち方したら怖いよ。お尻も支えて上げて。
そう思っていたら、小さなケージに二頭を容れて避けてくれたみたい。それでも、ブリーダーならもっと丁寧にしてよ。
「ほら、こっちだ」
「うん」
よくこんな性格でブリーダーなんて出来るね。
トコトコと四つ足でカイリーに着いて行き、左隣のマニアドッグの部屋に入る。
「こっちも可愛いー」
見た目はダルメシアン。それをモフモフにした感じのワンコたちと、再び臭いを嗅ぎあってから遊ぶ。こちらは、成犬と仔犬を合わせて十頭しかいない。
「決まったか?」
「うん、この子で」
やはり、一番なついてきた仔犬を選ぶ。ちなみに、雌です。
マニアドッグは成犬の雄が二十万で、雌が十五万。仔犬の雄が十万で雌が八万と高かった。
「この三頭でいいか?」
「わんっ! じゃないや、うん」
わんわん言いながら遊んでいたので、つい言い間違えてしまった。
「二十一万だ。あるか?」
「はい、確認お願いします」
薬の売り上げで完済してもかなり売り上げが良かったのか、手持ちの三十万から支払う。だけど、水薬の蝸牛味は不評だった。スレッドでは、度胸試しのアイテムとして名前が上がる始末。美味しいのに。
「確かに」
そう言って三頭を引き渡された。今度は一頭ずつ小さなケージに分けられており、雄には黒い首輪を雌には茶色の首輪が付けられていた。首輪かー、いいな。
コーギコリーの雄はレッドと言う毛並みで、雌はブラック・タンと言う毛並みらしい。マニアドッグはそのままダルメシアンだけど、モフモフなのと白の比率がやや多い。あとは、コーギコリーは断尾されていないので、尻尾もモフモフだ。僕の尻尾には負けるけどね!
確認していたら、三つのケージが消えた。どうしたのだとおもったが、そのまま拠点に移動したようだ。この辺は連れていく手間の軽減を考えてなのかな。まさかインベントリに入れる訳にもいかないしね。入るかも不明だし。
「まずは名前も考えて……そのまえに、建物だよね」
名前を考えるのが苦手だから逃げる訳じゃない。
元から建築のことも考えていたのだ。かなりお金に余裕が出来たと思ったが、予想外に出費が嵩んだ。だけどそろそろ拠点の開拓を再開させないと、いつまでもセーフハウスを使わせて貰うのも悪い。本来なら、宿屋を借りなければならないがハジリ村に宿屋がないことで見守り隊が気を利かせてくれた。何時までも善意に甘えてられない。
「まずは棟梁のとこ行かなきゃ」
今回、拠点に戻る際に簡易転移装置を設置する話を棟梁に伝えるのと同時に、その場所に小屋位でも休憩スペースを造る予定。
僕自身はお気に入りの犬小屋でセッカと共に寝泊まり出来るが、仔犬の小屋も兼ねて訪問者の休憩スペースを作ろうと思った。また、露天風呂に入りに来るだろうしね。
簡易転移装置は早々に設置が必要。郊外も郊外なので移動時間が半端ない。ある程度の除草と整地が出来たのでいよいよ本格的な拠点制作に乗り出すつもりでもいる。
「こんにちはー」
《獣走》でハジリ村と近い首都にあっと言う間に到着し、人々の隙間を《獣走》を駆使して棟梁のいる場所までやって来る。やはり移動にはこの技能無しではもういられない。
「お嬢か。今日は何の用だい」
会うなり頭を撫でられるのも慣れた物だ。借金を返済して一週間振りの再開。プリハなら二週間ぶりになる。倍速二倍はプレイ時間が増えて助かるけど、少し合わないだけで状況が変わったりするのが弊害だよね。
「簡易転移装置の設置をお願いと、八万で買えるだけの建材をお願いかな。あ、廃材で使えるのがあればそっち優先で」
お金は有限だし、廃材で節約しないとね。今建てる小屋は完全に仮の物なので安ければ安いだけ助かる。
「お、ようやく設置か。まってろ、今用意する。あと、廃材は前の所のやつなら好きなだけ持って行け。全部でも二万でいいから」
「本当! ありがとー」
どれだけあるのか見てないが二万で全部買えるなら願っても無いことだ。依然より安くしてくれているんじゃないかな。
「お嬢はいい客だからな。中には脅して値切ろうとする奴や、借金を返せない奴が最近増えたからな」
それはプレイヤーのことだよね。今までは土地の購入さえ少なかったのが、ギルド導入から後先考えないで購入したり無理矢理な値切りをするプレイヤーが問題になっているらしい。ただ、借金が返せないと権利剥奪と、支払った分がそのまま棟梁たちの物になるから損はないらしいけど。
僕も後先考えてなかったけど、生産で稼げるようにになったのと、ギルド導入前の安い時期に購入したから今がある。ご利用は計画的にだね。
「こっちは準備出来たが、お嬢は?」
「廃材は全部。取り敢えず、かなり量があるから追加はないかな。ただ、釘が五箱」
「あいよ。しかし、お嬢は金持ちだな」
「全然だよ。かなりギリギリだよ」
お金を払いながら、所持金の少なさに嘆く。確かに稼げてはいるが、家を建てたり生産道具を揃えたりを考えると全然足りない。素材買い取りも引き続き行っているので、その余裕も必要。ああ、最近はあまり料理も食べてないな。薬品作りの最中に素材を食べてスタミナを回復させている毎日。もう、虫だって毒物だって食べるのに抵抗がなくなった。LiLiは野生を取り戻した、ってメッセージが流れても可笑しくはない。セーフハウスの中じゃリンゴ達に餌付けされていたので半野生だけどね。拠点御披露目時には、僕の料理でおもてなししなきゃ。
「よし、支払いも完了したし行くか」
「うん」
簡易転移装置は購入してもプレイヤーで設置が出来ないので、棟梁たちの職人に任せないといけない。また、設置したら簡単に移動は出来ないらしい。特殊な技術や道具使うので、撤去や移動には五十万も掛かると説明された。
だから、今まで簡単に設置に乗り出せなかったのもある。
歩いて移動する間は何故かモブが襲って来なかった。イベントの一環として指定されているのかな。
「どこに設置する?」
「えと、中央の温泉近く」
棟梁がこの場所にやって来るのは、購入前。雑草が減り、家畜がいるのに関心しているが、小屋すらないアンバラスさに苦笑している。
「お嬢、順番が滅茶苦茶じゃないか」
「別に良いんだよ。寝泊まりは犬小屋あるし」
やりたいことが多すぎて、何から手を着ければ良いか解らないせいで思い付く端からやっていたらこうなっただけだしね。
「へー、風呂は立派だな」
「まだ改築する予定だけどね」
露天風呂の隣に水風呂も作りたいし、マッサージする場合も作りたいからね。
「それで、何処に置く?」
「お風呂の近く……この辺かな」
土地の中央には、三つのケージがあり仔犬たちがいたので取り敢えずケージから出してあげると、僕の足にまとわりついてきた。なんか、親になった気分だ。
「お嬢の子供か?」
「ち、ちがうよ」
確かに僕は犬だけど、流石にねえ。棟梁も仔犬が可愛いのか、設置する手を止めて仔犬たちを撫で回している。可愛いから、仕方ないね。
「と、仕事しないとな」
我に返った棟梁が、設置作業に戻っていく。それを尻目に仔犬とセッカと共に遊んでいると、程なくして完了した旨を知らせてくれる。
「ありがとー」
「いや。んで、俺らが建てなくていいのか?」
「自分で頑張ってみるよ」
何度か建築もするとは言ってくれたが、材料だけ買って作った方が安いしね。さらに、既存のデザイン以外だと追加料金が発生するので、好きなように出来ないのもある。
「まあ、お嬢なら出来るだろ。俺は仕事に戻るが、困った事があれば何時でも来ていいからな。建材も、廃材も何時でも言ってくれ」
「ありがとうね」
最後に僕を一撫でして棟梁が拠点を後にする。モブに襲われないか不安だったが、きっと来た時のようにイベントとして保護されるかなと思い、まずは仔犬たちと戯れた。
名前考えないとね。どうしよう。