表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/123

雨中の甘露

 イベント二日目。約束していた時間にログインすると、すでに皆が揃っていた。


「こんばんわ。待ったかな」

「私たちも今さっきログインした所だよ」

「先輩ー。んー、すべすべ。ペッタンコな所も可愛い」

「わっ、ちょっ!」


 僕を発見するなり、ミーミンが抱きつき胸に頬擦りしてくる。昨日のお風呂でもされたけど、いきなりだったので驚いて為すがままに暫く硬直していると、rianoに引き剥がされ正座させられるミーミン。


「LiLiさん、うちのミーがまた失礼なことを」

「大丈夫だよ」


 もう、女性限定なら見られるのも触られるのも慣れてしまった。慣れって怖いね。


「それより雨だね」


 以前の大型アップデート以降はきちんと天気の変化がある。だけど、六月に入ってからはまだ二回目の雨。リアルじゃまだ梅雨入りはしていないので、イベントらしさを感じる。


「情報だと、雨降ってたら限定モブの出現とドロップの確立アップだって」


 ササラが情報収集をしていてくれていたみたいで、大変重要なことを教えてくれた。


「なら、今の間に狩りまくりましょう!」


 いつの間にか正座から復帰したミーミンが気合いを入れている。ミーミンにとって高レベル地帯なので、昨日だけでレベルが24になっている。


「なら、1パーティーでの殲滅速度重視か、別集団撃破による質量戦か意見を聞こうかな」


 やはり指示や纏め役がリンゴには相応しい。こうしてすぐに、対応策を立案してくれる。


「私は別集団ですかね。ミーも後衛なら安全でしょうし」

「ボクは速度かな。やっぱり数が多いと効率下がるし」

「私はまだ弱いから、出来たら一緒がいいです」

「僕も火力低いから分割したら足手まといになるかな」

「それじゃ、暫くは固まって行こうか。ミーのレベル見て、イベント後半でまた相談でいいかな」


 イベント残り九日。それまでにミーミンのレベルは30までは上がる計算らしい。一撃でも入れないと経験値や熟練度は入らないが、後衛で魔術攻撃を行えば安全にレベルは上がるからね。


「温泉の時間を確保しても五時間は休まずに頑張ろう」

「うんうん。今日はボクがLiLiちゃんを洗う番だから張り切るよ」


 ササラが大変嬉しそうに笑う。ミーミンが僕を洗った事で、それを羨ましがった三人。何がそんなに良いのか不思議だったが、争うのを避けるために順番制を提案したら皆が幸せそうにしていた。いいんだ、皆が幸せならこの身体を捧げても。いや、洗われるのが気持ち良いからじゃないよ。無駄な争いを避ける為だよ。


「お手柔らかにね」


 流石にミーミンのようなもみくちゃな洗い方はしないと思うけど、この雰囲気だとササラも暴走しそうで怖い。優しすぎる洗い方より、少し力が入った洗い方の方が気持ち良いから別にいいけどね。


「早く明日にならないかな」


 リンゴがボソッと呟いたのが聞こえた。じゃんけんの結果、明日がリンゴの番。すでに楽しみなのだろう。まあ、リンゴは洗うと言うより舐める方に暴走しそうだから、一番危険なんだよね。何度舐められたか。


「雨がやむ前に早く行こうよ」


 雨が降る法則性は未だに不明。そもそも、法則性があるのかも不明。故に、いつ止むのかも不明なので、このボーナスステージにドロップを増やす必要がある。


「じゃ、陣形は昨日のまま。ただ、限定優先で通常のみはなるべく無視。あとは、索敵時間を減らすためにササラ。残り二体になったら先に離脱して、他の限定モブを見つけて釣って来て」

「わかりましたー」


 ビシッと笑顔で敬礼するササラ。レベルも高いし、索敵系の技能があるなら適任だね。僕も臭いを覚えているから探せるけど、レベル的にまだ不安。


「それじゃあ、今日も頑張ろう」

「おー」

「はい」

「うんっ」

「らじゃー」


 纏まりのない返事。だけど、戦闘に関しては効率良く動く。昨日一日でだいたいの連携は確認したしね。

 前衛三人の火力は高い。その中でも、リンゴは《大剣》と《格闘》を組み合わせた全身を武器とした単体殲滅力が非常に高い。

 ササラは《鎌斧》と魔術と組み合わせた範囲殲滅力が高く、rianoは命中率が低いがノックバック効果が高い《大鎚》の補助で魔術を使用し、場合によっては接近して《短剣》で切り刻む。

 後衛のミーミンは魔術攻撃が主体だが、他もある程度使えると言うだけあって接近の《クロー》と中衛で《槍》もきちんと使い分けしている。まあ、レベル以外にもオールラウンダーとして満遍なくステータスを振り分けているので、どれも器用貧乏な所がある。後衛寄りの中衛としてが一番活躍出来そう。

 僕? 動物らしく周囲を引っ掻き回すよ。いや、基本は背後からのヒット・アンド・アウェイ。モブの数が多いと、囮としても活躍するから充分遊撃タイプだよね。


「蝸牛4、蛙3!」


 そして、情報通りに昨日以上に限定モブが多い。街周辺は半々なのは変わらないらしいので、レベルの低いプレーヤーやイベントに興味のないプレーヤーにはさほど影響はない。低プレーヤー向けに街周辺の限定モブもかなり弱いから倒しやすい。ただ、ドロップは非常に悪い。まあ、当たり前の措置だけどね。


「次、鳥1、蛙5だよー!」


 倒し終わる前に離脱したササラが新たな集団を引き連れてくる。本来は単体で襲ってくるが、一定範囲に固まっていたり同時に発見されると集団として襲ってくる。こういうのをリンクと言うみたい。最近知りました。


「休む暇ない!」


 《戦士達の安らぎ》を修得してからは、全力で撃破して休んで回復のサイクルが早くなったが、こう休みなく戦うと回復が追い付かない。まあ、前衛三人が強すぎるから負担じゃないんだけど。


「《応急手当》」


 蛙の背後へ回り込む過程でrianoと交差して、その瞬間に回復を施していく。前衛も回復手段があったとしても、攻撃に専念していたら回復が疎かになるしね。ここはパーティーとして、後衛や遊撃がきちんとサポートしないといけない。

 今まではソロまたは二人での戦闘だったので、完全な攻撃主体のプレーヤーはいなかった。リンゴと組んだ時も、こんな間断なく戦闘は行わなかったし、オリヒメやヴィーナスは魔術で自己回復の余裕は取っていた。


「追加だよー。蛙2、蝸牛2、芋1、蝶1ー!」


 雨だから限定モブが多いが、リンクの比率も高い。昨日よりもその集団の規模が大きい。最低でも五匹。


「次で一旦休憩しようか。流石に回復しないと!」


 こう連戦していればLFやMS以外にもスタミナの消費も激しい。


「ふぅ。一時間ちょいは戦っていたのか」

「流石に疲れるね」

「自然回復は非戦闘時だけみたいですしね」

「お腹減ったー」


 スタミナの数値は表示されないが、ミーミンはすでに空腹域まで来ているらしい。


「んー、なにか皆持ってる?」


 そう聞くと、各々が頷きインベントリから屋台で売っている食べ物等を取り出す。


「ボクはお手製【サンドイッチ】」


 ササラは《料理》持ちみたい。僕は未だに手を付けていない生産だから興味がある。


「LiLiちゃんは、どんなの作る?」


 ササラも同じ生産職が気になるのかそう尋ねてくると、他三人も一斉に視線を僕に向けてくる。怖いよ。


「僕は修得しただけで、まだ作ってないよ」


 【雑食】持ちだから、料理をせずに素材をそのまま食べる事が多いんだよね。この拠点に料理店なんてないし、調理道具もまだ買っていない。街まで態々戻るくらいなら、ワームの肉や卵でも食べた方が楽。美味だし。

 そう思いながら、インベントリの一覧を眺めて疲れたので【蜂蜜】を取り出す。蜂系モブからドロップするので、買い取りも楽なのでかなり量がある。本来なら水薬の味付け用に買っていたが、【雑食】のお陰でスタミナ回復にも利用している。


「……先輩」

「ん?」

「それ、蜂蜜ですか?」

「そう、だけど」


 なぜか眼をギラ憑かせている。うん、何か憑いている。


「僕を食べてって事ですか? そうなんですね」

「へ?」

「自分を料理にするなんて。私も見習わないと。それじゃ、《料理》向上の為に味見しないといけないね」

「LiLiちゃんがそこまでしてくれるなんて」

「LiLiさんのお言葉に甘えさせて頂きます。ええ、甘そうです」

「あ、あの」


 肉食獣四人に囲まれてしまった。一体全体なんなのっ!


「あっ!」


 逃げようかと思うが、座ったままだと即座に動けない。片手に【蜂蜜】を持ったまま下がろうとして、すぐに背後のリンゴにぶつかり、【蜂蜜】が手から放れた。

 あとは簡単だ。

 全裸な僕に掛かる【蜂蜜】。極上の餌を目の前にした肉食獣たち。逃げることなんて叶わず補食されるだけの仔犬。


「ひゃん、そこ、だめっ! あふつ、そんなとこ舐めっ、きゃん!!」


 全身を蹂躙する舌と指。指はともかく、舌の感触はまだ慣れない。いくらリンゴで多少なれたとしても、こんな同時責め。恥ずかしいし、くすぐったいし、気持ち良くて声と涙が出るのを抑えられない。


「わふんっ、や、らめっーー!」


 システムのリンクに継ぐリンク先で見つけたセクシャルハラスメントコードをオフにしていた事で脱出不可能。だって、マッサージとかの際に毎回出るのは邪魔だもんね。

 ああ、でも今出ても通報なんて出来ないや。だって、こんなに…………。


『…………階位【蜜体】を授かりました。』


 へあ? なに、それ。と言うか、初めの無言なに。簡易ログの残っているから間違いないじゃない。


「満足満足」


 三十分は責められてました。もうお嫁いけない。


「なんかスタミナ回復している」

「ほんとだ」

「LiLiちゃんを舐めるだけで回復するなんて」


 皆恍惚としながらも驚いている。だけど僕は疲れたよ。スタミナ減ってるし。


 【蜜体】:階位所持者の身体が甘くなり、スタミナ回復効果が付与。ただし、対象がスタミナ回復中は所持者のスタミナが減少。また、甘い香りに釣られて様々なモノが寄ってくる。


「なに、これ」


 僕が餌になりました。舐める事でスタミナ回復するの?あ、甘い。僕自身が舐めてもスタミナは回復も減少もしないみたいだけど。

 様々なモノが寄ってくるって、モブ? いや、四人を見るとモブだけじゃないのかな。

 それに舐めるとは書いてないや。スタミナ回復中ってなに?食べるとか? 僕、食用? 確かに犬鍋なんて聞いたことあるけど、僕不味いよ? いや、甘いけど。しかも、嫌な甘さじゃない。あっさりとしているけど、物足りない訳じゃない。何時までも舐めてても飽きない甘さ。なに、これ。中毒性てこと?


「LiLiちゃんが自分の手をペロペロしてる」


 はっ! いつの間にか自分を舐めるのに夢中になっていた。これはヤバい。非常にヤバい。永久に自分をペロペロしていられる。


「LiLiちゃんのお陰でスタミナは回復したし、頑張りましょうか」

「また減ったら舐めればいいしね」


 こうして、舐められるだけの簡単なお仕事が追加された。いや、まあ。嫌じゃないんだけどね。嫌じゃないんだけど、もう戻れない気がする。


「あ、また自分をペロペロしてる。可愛い」


 ちなみに、五時間頑張ったお陰で【雨の雫】は二百二十七個も増えた。

 四時間だけ雨の恩恵を受けられたが、驚異的な増え方。これなら雨次第で目標数まで貯められるね。

 服なんて人間が着るような物なんて着ないので、雨で身体は冷えたけど、適宜皆のスタミナ回復によって身体が温まったのは良い副産物か。

 それにしても、この身体は甘くて美味しい。自分の身体だけど食べたくなるね。本当、ヤバいね。

 温泉に入った後は、ルーンを始めとした我が家の動物達までこの身体が魅力させた。これなら、家畜用動物の捕獲も楽になるね。うん、様々なモノの一端を見た気がした。あと、セッカ、そんなとこ突付いたら痛いよ。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ