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パーティー狩り

 リンゴたちが到着するまでにさらにゴールデンフロッグを三匹、ウォーターエスカルゴを一匹倒すことに成功した。

 苦戦したウォーターエスカルゴだが、殻に籠った後に入口に《つむじ風》を放ったら簡単に倒せた。逃げ場の失った風が中を蹂躙して内側から頑丈な殻に皹を入れる威力を見せた。【雨の雫】以外にもドロップ品があって嬉しい。

 【雨の雫】:イベント専用アイテム。数を集めると……。トレード不可。

 【砂金】:金の小粒。量が揃えばインゴット化も行える。

 【金の蛙皮】:伸縮性に長け、軽装鎧に向いた素材。ただし、目立つ。

 【蝸牛の殻】:硬く壊れにくい。防具に向いた素材。

 【蝸牛の肉】:柔らかく、陸貝としての食材に適している。


 まさか【砂金】が手に入るとは思わなかった。河川の採取ポイントや小人領のドロップ品でしか見つかっていなかった。僕が採取した時も非常に稀にしか出ていない。それがイベントモブで出るなんて。金の相場が下がりそう。嬉しいけど。

 蛙の皮は金色。目立つけど、蝸牛の殻と合わせたら良さそう。

 リアルでエスカルゴは食べたことがないけど、こちらも気になる。素材のままで食べたけど、確かに貝だった。持ってて良かった【雑食】の階位。

 五匹を倒した所で【雨の雫】は三つ。思った以上にドロップしてくれた。いままで空気だった【ドジっ子】が活躍してくれたのかな? 運5プラスは低いようで大きい。レベルアップでも上がりにくいしね。運はクリティカルや生産成功以外にもドロップ率にも関連していると噂されている。運営は沈黙しているけどね。


「そろそろ皆がくるかな」


 今回はきちんと装備を整えておく。いくら野生化しかけていても、いつも裸じゃないんだからね!

 それから三分して、視界の端に四人の人影が映る。さらに二分ちょいしてようやく合流。


「LiLiちゃんお待たせ」

「こんにちは、LiLiさん」

「え、服なんてきている。雨でも降るのかな」

「はわわ。これがLiLi様。生はさらに可愛い」

「こんにちは。今日はありがとうね!」


 三人は見知った顔、さらに言えば私にベビーマッサージをしてくれているメンバーでも実力派。マッサージグループには【ヌーデイスト】のことも伝えていることも含めて、すでに私の裸なんて見慣れているはず。でも依頼するのに裸なんて失礼だから装備を身に付けたのに、そんな事を言われるなんて。普段は【戦乙女の聖衣】も無意味な野性児だったから、言われるのは仕方がないのかもしれないけど。

 もう一人は新顔だ。様付けをするなんて新入りだね。マッサージグループには土下座して、さん付けかちゃん付けにしてもらったからね。呼び捨ては流石に受け入れて貰えなかった。


「LiLiちゃん。こっちはこの間ギルドに入ったミーミン。今、パワレベ中なんだけど良い?」

「ミーミンです! LiLi様に一目惚れしてプリハを初めました。レベルはまだ19の基本後衛です。あと、《製薬》も修得したので、是非先輩と呼ばせて下さい!」

「あ、うん」


 なんでみんな僕のことなんて憧れたりするんだろう。さらに、先輩なんて。僕よりも三十センチは高い銀色の犬科。絶対に僕よりも歳上だよね。身長から言って、プラス補正があっても年下とは思いたくない。胸もあるし……。


「先輩、私も神癒(しんい)中隊に入っても宜しいでしょうか」

「え? あ、うん」


 見守り隊の女性陣は皆加入しているけど、神癒中隊なんて初めて聞いた。他の三人は目線を反らしているってことは、僕に知られないようにしていたんだね。


「あー、LiLiちゃん。最高のメンバーって言ったけど、まだパワレベ中の信者を連れてきてごめんね。新顔だし、一度顔見せしようとは思ってたんだけど、先にパワレベさせていてタイミング掴めなくって」

「あの、今日は私が無理を言って参加させて貰ったんです! ですから、御姉様を責めないで下さい!」


 いま、信者って聞こえたような。気にしないでおこう。

 リンゴのことは、女性陣からは御姉様と呼ばれている。現ギルマスがリンゴをギルマスに復帰させようとしているが、一度ギルマスから外れると六十日は再度戻れないらしい。サブマスは三十日。そして、リンゴ自体は昇格してもサブマスまでにしかならないと言ったらしい。現在はミーミンが加入して最大人数となったギルドなので、ギルマスを変更させたら混乱を生む。それでも、リンゴが僕との交流の架け橋となった功績は大きい。それ故にリンゴを慕う人は増え、面倒見が良いこともあり御姉様と言うギルマスと同等の発言力を持った。そう、メンバーから教えて貰った事がある。なんなんだろうね、ほんとに。


「タイムリミットもあるし、早く狩る?」

「あの、先輩はいつも裸がデフォらしいですけど。なんで今日は服着ているんですかっ!? ワンピースも可愛いですけど! あと、ツーショットで写真良いですか!」

「う、うん」


 なに、この押しの強い人。今までも暴走する人はいたけど、この人はさらに押しが強いような気がする。


「ありがとうございます!」


 何枚かスクショを撮り、結局装備を解除して再び撮影会。

 【戦乙女の聖衣】は強いけど、【ヌーデイスト】は全体的に強化してくれるから、出来れば僕も【ヌーデイスト】での戦闘の方が楽。慣れたとも言うけどね。

 それよりも、女性相手になら抵抗なく裸になれるようになった僕も僕だね。ミーミンも【ヌーデイスト】取る発言には、レベルが低いし何より男性もいるギルドだからって諦めるように伝えたけど。さすがに男性相手だと恥ずかしいもんね。


「それじゃ、パーティー狩り。LiLiさんは慣れていないと思いますし、ミーはまだ弱いから……」


 前衛:リンゴ/レベル44/メイン:大剣/サブ:格闘・爪術。

 前衛:ササラ/レベル42/メイン:鎌斧/サブ:爪術・魔術。

 前衛:riano/レベル41/メイン:大鎚/サブ:短剣・魔術。

 後衛:ミーミン/レベル19/メイン:魔術/サブ:爪術・槍。

 遊撃:LiLi/レベル36/メイン:獣系/サブ:魔術・短剣。


「火力主体だね」

「ええ、ミーミンにはオールラウンダーとして育成中」


 見守り隊の全員がメインかサブに爪術(クロー)か短剣を使ってるけど、もう僕は短剣使う機会が無さそうで罪悪感が。また、使う日はくるのかな?

 魔術は購入しているので、ほぼ全プレーヤーが修得している。種族補正でエルフ以外はサブ扱いが多いけど、中にはメインに使用している人物がいる。ミーミンはまだどれをメインにするか決めていないらしい。パワレベ中は危険回避に魔術が多いらしいけど、クローも槍もそこそこ扱えるとの事。今度、弓にも手を出すつもりとも聞いた。


「僕は遊撃でいいの?」

「うん、LiLiちゃんは好きに動いてね。ボクたちがフォローするから」


 僕を真似て一人称をボクと名乗るのがササラ。さん付けでクールなのがriano。二人ともレベル40台と上位陣に入っている。僕は最近、薬品作りや土地の整備にばかり時間を使い全然レベルが上がっていない。


「あ、ログアウトはそこの柵の中で出来るから」


 プレーヤーやギルドが所有している土地には細かく立ち入り制限を設けられる。僕の土地には特定プレーヤー及びパーティーメンバーを設定している。交流のあるフレンド少ないけどね!

 特定プレーヤーはそのままプレーヤー一人ずつを任意に設定できる。他にフレンドや特定ギルドなど設定できる。時限付きの招待許可も行える。

 まだこの土地にはない、建物や部屋などにもエリア毎に設定出来るので安全だね。買った土地だから、荒らされるなんて駄目だしね。


「ここがLiLiちゃんの城なんだね。広いね」

「私たちの建物は狭いですしね」


 見守り隊は各街や村に小規模の安い建物を随時買ってセーフハウスにしていく計画らしい。そのうち、本部の大型拠点を設けるが、セーフハウスを一通り購入してからだと聞いている。


「やっぱりボクたちの本部も土地ありがいいよねっ」

「各生産が揃いましたしね」


 生産職揃ったの? たしか、一人一芸を身に付ける計画も立案中とは聞いていたけど。そっか、なら色々相談とか共同開発出来るかな。


「先輩。あそこのちっちゃいの何ですか?」

「ちっちゃくないよ! 立派な僕の家だよっ」


 あの大きさが落ち着くんだよ。最近はセッカが居るから狭いけど。セッカや他の動物の家も早く建てないと。セッカはまだ雛だから、暫く同居だけど。


「犬小屋ですね」

「可愛いー」

「LiLiちゃんにお似合いだね」

「先輩って、貧乏症?」


 みんな我が家を誉めてくれて嬉しい。だけど、この後輩は毒舌だね。たしかに、広い土地にポツンとあるけど 。


「まだ整備中だもん」

「わっ、綺麗な馬」

「この雛も白くて可愛い」

「ピンクのモコモコだ!」

「あっちは牛かな」


 みんな僕の話を聞かずに、我が家の仲間に和まされている。


「ワンコが動物を飼っているなんて」

「皆だって動物だよね! ほら、早く狩りに行こう! 温泉に入れないよ!」

「温泉!?」


 皆が食い付いてきた。まあ、共同浴場が二ヶ所しかないしね。

 この土地で温泉があることを話すと、皆が羨ましがった。まあ、気持ちは解るよ。まだまだ納得出来る雰囲気じゃないけど、温泉二ヶ所は入る事は出来る。ここ数日は一日の終わりにどちらかに入るので、整備は温泉周辺から行っている。


「入りたいなら早く狩りお願いします。温泉入るなら今日はもう五時間も出来ないし」


 リアルで夜の八時から十一時の三時間を予定してログインしている。こちらから頼んだけど、明日は月曜なのであんまり夜更かしは出来ないもんね。


「そうだね。つい、脱線しちゃった」


 リンゴを先頭にようやくフィールドへと戻る。なんか、すでに疲れた。特に、ミーミンの視線が何度も身体を舐めてきた。


「温泉で先輩のこと洗わせて下さい! 素手で!」

「あ、うん」


 なんか、つい勢いに呑まれて許可を出してしまう。それを他の三人が羨ましそうに見て唸ってる。まあ、洗われるのにも慣れたから別にいいんだけどね。初心(うぶ)だった時が懐かしい。


「レベル上げも兼ねて見つけ次第、通常モブも狩っていくよ。基本は限定優先で」


 プリハのモブは家畜用になる動物以外はアクティブばかり。《忍び足》などの隠密系がないと、発見され次第戦闘になる。

 だけど、元々ストーキング紛いのことをしていた人たちなので、隠密系が一つ以上あるだろう。新人にも教育していると思う。じゃなければ、こんなこと言わないもんね。


「早速発見。蛙1、鳥2」


 蛙はゴールデンフロッグ、鳥はこの辺のクルドゥーと言う大型の飛行モブ。素早さ問題ないが、飛行型と分厚い嘴による攻撃に風魔術が厄介なモブだ。


「ササラとリアは鳥の迎撃。ミーはその補助! LiLiちゃんは出来れば蛙を」


 リンゴが手早く指示を出して、それぞれに向かう。僕も言われたようにリンゴに追随する。接近中心の僕を考えての采配だと思う。

 《獣走》を発動して、リンゴの反対であるゴールデンフロッグの背後に回る。


「LiLiちゃんは出来れば隙を付いて魔術で援護お願いね」


 《両手剣》の派生である《大剣》での戦闘は初めて見る。リンゴとの共闘では《格闘》と《クロー》しか使っていなかったけど、今日は本気なんだね。


「LiLiちゃんと二人でウエディングドレス着て挙式する邪魔しないでねっ!」

「御姉様、狡い!」

「抜け駆けは赦しませんよっ!」

「また裁判に賭けるよー」


 なんか皆欲望垂れ流しだね。そんなとこも素敵って、いつか言えたらいいなと、生暖かい目でつい一団を見つめているうちに戦闘が終わった。


「LiLiちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

「あはは、大丈夫だよ。大丈夫」


 結局一撃を入れる事もないほど、呆れていた。インベントリをみると【雨の雫】が増えており、罪悪感が残る。

 寄生はしたくないので、次から頑張ろう。


「大丈夫だよ。次行こう、次」

「もう見つけましたよ。あっちに蛙2に蝸牛2、芋1」


 今度はさらに大きな集団だ。


「まずは私とリアで蝸牛を引き攣る。ササラは迂回して蛙を。ミーはその援護。LiLiちゃんは出来れば芋虫を」

「らじゃー」


 こうして、組み合わせやミーミンの経験を積む戦略を変えること四時間弱。

 芋虫のイルムやその成虫の蝶イルフライ。地中からの襲撃が怖いファングワームなど通常モブを含めてかなりの数を倒した。この辺はレアモブを見かけないので、そこは安心できる。

 そのかいあって【雨の雫】を五十七個手に入った。普段より通常モブが少ないのはイベント期間中だからだろうか。

 それでも、パーティーを組んでも十日で六百個くらいしか集まらないんじゃないだろうか。


「かなりキツいね。もっとレベル帯が上の所でもいいけど、マージンを取るとこの近辺が丁度なんだけど」

「ごめんなさい」

「御姉様、ごめんなさい」


 僕とミーミンが謝る。


「僕が誘ったから」

「私のレベル上げで、足ひっぱって」


 僕は同時に謝り、二人して顔を見つめ合う。


「二人とも大丈夫ですよ」

「そうだよ。イベントは楽しむ」

「うんうん。私たちはLiLiちゃんとイベントを楽しめて嬉しい。ミーのことも仲間だから邪魔でもなんでもないよ。むしろ、仲間に頼られて嬉しいよ。LiLiちゃんに毒舌なのは後で教育だけどね」

「ひえっ」

「あはは。んじゃ、まだ作りかけだけど温泉に案内するね。完成したらきちんと招待するけど、もし明日からも一緒ならいつでも使っていいから」

「いいの! イベント中ずっとパーティー組んでもいいの?」

「うん。僕からもお願いしたいかな」


 これには他の三人も喜んでいた。本当に僕のどこが良いんだろうね。


「じゃあ、まずは約束通り私が洗いますね!」

「優しくしてね」

「かなり広いわね」

「川が見える露天風呂なんていいね」

「少し熱めだけど、気持ちよさそう」

「右側の方から水を取り入れてる、熱いなら右側が良いよ」


 皆がそれぞれ温泉の大きさや風景に感想を漏らしている間に、雑貨屋から買った【牛乳石鹸】を手で泡立てているミーミンの鼻歌が聴こえる。


「先輩、準備出来ました」


 すでに皆、装備を外してインベントリにいれている。やはり僕が一番胸がない。負けない!


「LiLiちゃん、セッカちゃん洗ってもいい?」

「優しくしてあげてね」


 温泉に入る前に皆も身体を洗う準備を終えていた。

 うちのセッカは鴉だけど、毎日一緒に温泉に入る事ですっかり温泉好きで綺麗好きになった。白い濡れ羽根が光を反射して美人です。女の子か知らないけど。


「では、いざ覚悟」

「本当に、優しくしてね?」


 結果から言えば、ミーミンに蹂躙された。怒った三人によって正座させられていたミーミンは自業自得だね。


「ごめんね、うちのミーが」

「大丈夫、慣れてるから」


 少し乱暴だったけど、それもまた気持ち良かったしね。別にMじゃないよ?マッサージ的な意味だよ?本当だからね?


「わふぅ」


 そのあとは反省したミーミンも交えて、温泉に楽しく浸かった。僕が《犬掻き》すると皆和んでいた。はて?

 まだまだ改造の余地があるけど、こうして温泉を楽しんで貰えて良かったかな。ますます遣り甲斐が出来た。

 こうして楽しく会話してイベント初日が終わった。

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