友人たち
昨日は散々な目に遭ってしまった。
始めてのフレンドに街中で脱がされ、身体を弄ばれたのだから。
「もう、お嫁いけない」
冗談半分に呟いた発言を聞いた友人の樹が変な顔をしながら身体を離した。
今日は朝から樹の家に遊びに来ている。もう一人の友人佐伯満光も僕をマジマジと見てきた。
「嫁って……え、なに、ユーリは実は女の子だったとか?確かに女顔だが」
「そんなことないだろ。中学の修学旅行で一緒に風呂入っただろ」
「ああ、可愛……じゃない。分かんないくらいのアレだったな。タオルで隠さなくても女の子に見える位には…………いや、やっぱ女の子か?」
「確かめるか?」
二人が僕の身体に熱視線を向けてくる。
「いやいやいや。男に脱がされるなんてヤダヨ」
「ああ、俺も嫌だ」
「はは、そうやってすぐ慌てるからユーリはからかわれるんだぞ。なに、涙浮かべてるんだよ」
だって、昨日の今日で再び脱がされるのは御免だ。しかも、親友の男になんか。
…………あれ、なら昨日は知らない女性だったからセーフだったのかな。
「ユーリ、そんな隅に逃げてないで来いよ。お前が人間領を見たいって言ったんだろ」
そう言って樹は画面を顎で示す。
今日は人間領の映像を録画したと樹に聞き、興味を持って参加させてもらった。
本当は樹と満光の人間キャラを操る二人での会議だったようだ。
画面を見ると樹のキャラである『フォレス』の背後から映された映像が流れている。他にも三人の男性プレイヤー。一人は満光の『glow』であるが、残り二人は知らない。
いずれも身長が170から190cmはある大柄。リアルでも二人との身長差は10cm以上あるので、やはりデータの反映はされているのだろう。女の子キャラじゃないけど。
四人パーティーがフィールドで狩りをしている。開始したのも早く僕とはレベルが違うのでとくに手こずってはいない。
だが、連携がいまいちであるのは素人眼でも分かる。それが、今日の会議だったようだ。
ちなみに見ているのはハードに録画機器を接続した記録映像。他にもパソコンでネットに繋げて実況プレイをしたり、モニターに繋いでプレイヤー以外がリアルタイムでの見学も出来る。いずれも、来るイベント対策との噂もあった。
「やっぱ、他のメンバー探すか?」
「まあ、話題も限られてたしな。どうしようか」
現在まだギルドは実装されていない。もしくは条件が満たされていないので、みんなフレンドや募集をかけてパーティーを組んでいる。序盤なので野良も多いが、やはり醍醐味の一つなので色々と組んで見ようという感じがあった。
「ユーリは首都に着いたんだったか?誰かとパーティー組んで見たのか?」
「え、うん。でもすぐタイムリミットだったから何もしてないよ」
「それ、相手も知ってたのか?冷やかしならどんなトラブルになっても知らないぞ」
「大丈夫だよ。時間伝えた上で向こうが申請してきたし」
実際に強制ログアウト機能が出来て、タイムリミット間近にパーティーを組む冷やかしが行われたらしい。そして、マナー違反としてブラックリストに入れるべきだと掲示板には書き込まれていたと満光が話す。この二人は攻略サイトも掲示板も上等主義だ。僕はシステムの知識を見るだけなので、そこまで深く情報を持っていないので、二人の助言は有りがたかった。
「獣人領も見てみたいけど、録画してくれないか?女の子可愛いんだろ」
「ああ、不遇種族でも可愛さ目的で女の子が多い所だしな」
「それに群がろうとする蝿もいるがよ。ゲーム楽しめっての」
「で、録画してくれ」
結局二人も女の子とは親しくなりたいらしい。
僕の事情も知らないで呑気なものだ。
「えっと、いま壊れてて」
苦しい言い訳だったが、困った表情を勘違いしたのか二人は納得してくれる。
「アップされてるスクショで我慢するか。で、ユーリはどうなんだ?」
樹がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「え、なにが」
「それくらい分かるだろ、なー、ミツ」
「そうそう。女の子とは知り合ったのか?お前が出逢い目的じゃなくドMプレイ目的で獣人選んだのは知ってるけど。な、可愛い娘いたのか?」
ドMプレイ目的でもないが、なぜかそう評されてしまっているので、すでに諦めている。
「え、その……」
「おい、まじで知り合ったのか?」
樹が身を乗り出して聞いてくる。顔が近い。キスしそうな距離に樹の顔がくる。
そう思ったら、顔がぶつかった。鼻と額が当たりかなり痛くお互い蹲る。
「外したか」
「てめ、ミツ……」
危ない!?最悪キスしそうだった。
「それよりも、可愛い女の子だったのかユーリ」
「おい」
「樹も気になるだろ」
「……ちっ。ユーリどうなんだ」
「うー。……なんだか怖い人だよ」
ある意味において怪しく怖い女性なのは間違いない。あのオリヒメという人は。
「そ、そうか。でも、もう会うこともそうないだろ」
「フレンド……いま、パーティー組んでる」
そう、今日のお昼からもタイミングが合えばオリヒメと組むことになっている。恩返しの前提らしいので、逃げるのも気が引けた。
「御愁傷様」
「でも、案外手が早いんだな」
「樹。さっき向こうから申請したって言ってただろ。だが、ユーリ。色々気を付けろよ。色々とな」
何か含みがある言い方をされたが、想像がつかなかった。
「あ、そだ。ユーリ」
録画を止めてパソコンを操作し始めた樹が思い出したように話し掛けてきた。
「ちょっと聞きたいんだが、昨日獣人領に全裸の幼女が現れたって掲示板に書かれてあったけど、お前何か聞いたりしたか?」
「ああ、それ俺も見た。プレイヤーらしいけど、とんだ露出狂だよな。他には別の女性プレイヤーと何かしてたとか」
え、それって……。
時間が、思考が停まる。
「結構目撃証言があって、デマや噂じゃないかもしれないんだよな。スクショもあるにはあったが……」
樹が述べた露出狂幼女の特長は僕、LiLiとほとんど一致していた。
そんなに大勢に見られていたのか。お昼に街を歩いて大丈夫だろうか。
「これがスクショなんだが……他にもアップされてたけどな」
そこに写っていたのは無人の木箱に向かって何かをしている女性プレイヤーが写っていた。
「え?」
「これのせいでデマの可能性もあるし、逆に証拠にもなって話題になってるんだ。複数のプレイヤーが似たようなスクショ撮ってるわけだしな」
「だけど問題は下着か全裸の状態の異性はスクショに反映されないんだよ。くそっ。まあ、だから証拠にもなるんだけど、見たかった」
「このロリコン」
「ふん、年上趣味のお前に言われたくないね」
そっと樹から離れる。もし、真実を話したらどうなるのだろう。
そして、問題の複数のアングルから撮られたスクショは拡散されているのも問題だ。
獣人領だけに留まっていない。もし僕が街で見つけられたら襲われそうで怖い。
「樹、ちょい貸して」
そう言い、樹をどかして満光がパソコンをいじってある画像を呼び出した。
それはLiLiそっくりなアバターだった。
「他の検証サイトにあったものだけどな。噂の特長をモジュールで製作したものらしい。これは獣人の初期装備も含めたやつで、こっちが……」
次に呼び込まれたLiLi似のアバターは全裸だった。
「ま、装備は後付けだからこっちが先に作られたみたいだな」
「俺、恋していいか?」
「犯罪」
「うんうん!反対だよ!」
「なんでユーリが全力で反対するんだよ」
「嫉妬だろ。旦那が浮気してるんだから」
「違うよ‼」
こんなにはっきりと特定されるとはネットは怖い。本当にお昼から大丈夫だろうか。
そして、樹とは付き合いかたを考えよう。