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雨と蛙のダンス

 慰霊碑を建立して数日。この期間は薬作りと土地の整備をメインに、オリヒメのパーティーに手伝って貰ってメインクエスト4を終了させた。

 本来ならソロで挑むつもりだったが、ギルドメンバーとなる新プレイヤーが丁度メインクエストの進行が同じだったので誘いに乗った形になった。

 うん、すごく可愛かった。リアル小学生でした。十一歳の女の子。ピンク髪のウサミミキャラ。名前もitikoと可愛い。本当はイチゴにしたかったみたいだけど、残念ながら開始時期が遅く既に使用されていたと言っていた。伸長も僕より低くて嬉しい。まあ、耳の長さとマイナス補整でリアルよりも低くなったと愚痴を溢していたけど。伸長に耳の長さが含まれるから余計に低くなるよね。


「でも、クエストは少しだけ不穏かな」


 メインクエスト4の内容は兵士の戦闘訓練の相手。そして、兵士との簡単なモブ討伐。

 街の入り口や巡回している兵士は見たことはあるけど、こうして訓練しているのは初めて見た。ただ、詳しくはないけど陣形をとっての大規模戦の雰囲気があった。小隊での行動だったが、集団戦や対人戦も初めてで戸惑う事ばかりだった。

 有事の際は緊急クエストとして依頼が来るらしいとは話があったから、これから確実に発生すると思う。

 本来なら兵士──獣士というらしい──とヤオロズは同じ隊に所属せず僕らは遊撃として動くが、隊の動きも知っていれば連携が取りやすい。獣士も色んな戦闘技能を持ったヤオロズと闘い経験を積めるということで、定期的に依頼を出しているみたい。今後はメインクエストではなく、通常クエストとして発行されるとインフォメーションに書いてあった。


「人間やエルフとの戦闘か……」


 今は小康状態だが、領地境界線では小競り合いが現在も発生している。僕が買った土地は防衛拠点として破棄されたけど、他にも防衛拠点はある。そこを中心に防衛と潜行を今も続けている。

 いつか、戦況悪化はあるのだろうか。


「変な事ばかり考えないで、今日からはイベントを楽しまなきゃね」


 そう、今日から十日間は待ちに待った公式イベントなのだ。

 昨日の内に内容が公表され、今日の十五時から一時間のメンテナスを得て晴れてイベントが開始された。

 細かい内容や景品はイベント開始されてから確認出来る。そして、二十時になってログインしたばかりの僕はまだ自分の土地にいる。


「えーと、イベント限定のモブを倒して【雨の雫】を集めるんだね。数によって交換出来る景品が変わるんだ」


 ログインのタイムリミットがある制限で低年齢には不利だけど、これならまだ楽しめるかな。


「交換は素材やお金から始まって……オシャレ装備が高いんだ。武器は……ネタ装備。あ、技能が一つあるけど、五百個もかかるんだ」


 実用的なのは技能しかない。あとは、装飾品かな。

 《雨の舞踏会》:雨天時に素早さ(小)及び運(中)上昇。


「欲しいけど、貯まるかな。オシャレ装備はうん、僕に適用されるのは女の子用だね」


 ジューンブライドだからか、ウェディングドレス。男性ならタキシードみたい。あとは雨合羽は女性が黄色で男性が青色。


『限定技能《雨の舞踏会》:交換数五百個

 限定装備【ウェディングドレス】:交換数四百個

 限定装飾品【涙石のネックレス】:交換数三百六十個

 限定武器【カタツムリ】:交換数二百個

 限定装備【雨合羽】:交換数百二十個

 五万リゼ:交換数八十個

 鉱石箱:交換数五十個

 一万リゼ:交換数三十個

 薬品箱:交換数十五個

 素材箱:交換数七個』


 限定品はやっぱりどれも欲しいね。使わなくても集めたい。表示が女の子向けのファッション装備と装飾品だけど。


「あとはお金と鉱石箱が余れば回すって感じかな」


 だいたい千五百個も集まるのかどうか。最悪、ネタ武器【カタツムリ】は諦めよう。盾と剣のセットみたいだけど。盾から抜いたらナメクジソードになりそうでキモいし。譲渡・トレード不可だし。

 装飾品以外のドロップ装備はトレード不可。しかも、能力にも変動がある。イベント品は能力の変動はないけど、装飾品もトレード不可みたいだね。


「えっと、先行してる人は……」


 目標数が多いのでイベントスレッドでまずは情報を集める。


「強い限定モブの方がドロップ率はいいんだね。あとは、パーティー組めば効率良いんだ」


 限定モブはウォーターエスカルゴとゴールデンフロッグの二種類。エスカルゴは水属性魔術を使う後衛タイプでフロッグは素早さと防御力が高い前衛タイプ。単体から、六匹までの集団が確認されている。勿論、通常モブや限定モブの混合集団もいる。

 パーティーによるドロップの効率化は普段からある。もちろん、貴重品扱いのアイテムなのでトレードは不可だけど。


「ここはパーティー組んだ方が良いかな」


 改めて思う。フレンド少ないです。


「ヴィーナスはギルドとして動いている。オリヒメはパーティー組んでるし。リンゴも見守り隊」


 自由な人がいない。しかも、この場所知ってる人物がいない。荒れ地だから、まだ誰にも話していない。

 色々助けてもらったりしているので、改めて見守り隊の全員とフレンド登録をしたけど、やはり一番知ってるリンゴくらいしかまともに話していないです。


「いや、リンゴなら知ってるかな」


 とりあえずリストを見ると、ログインしている。さすがに初のイベント中だし近くに居ないよね。そもそも見える範囲にはいないし。

 ここはやはりソロで頑張るかな。


「あ、リンゴ?その……いま大丈夫かな?」


 うん、知らない内にチャットボタンに指が触れていた。


「えと、出きればイベント手伝って下さい!」

『えっ! 良いの!? 良かったら上限メンバーで良い?』


 なにか、途中で誰かと話しているのか会話とは違う発言もあったけど、そこはスルーする。向こうも聞かれたくないはずだしね。


「良いの? うん、メンバーは任せるよ」


 きっと見守り隊のメンバーだろうしね。


「あ、いま僕は街にいないんだけど」

『LiLiちゃんの土地だねっ! そこのレベルはどれくらい? 今、ギルドメンバーでイベントしてるからすぐ行けるけど高レベル地帯の方が良いからねっ』

「ここは30レベルくらいだよ」

「なら、大丈夫!LiLiちゃん、すぐ行くから待っててね」

「う、うん。お願いします」


 リンゴは相変わらずかな。炭鉱のときより落ち着いてるけど。


「来る前に単体のモブで特徴掴むかな」


 始めからお願いするのに、まったく情報を持ってないのは悪いもんね。リンゴたちは既に特徴を掴んでいるだろうけど、足手まといにはならないようにしなきゃ。


「気合いいれなきゃ」


 僕は白鴉のセッカを犬小屋に作った巣に返し立ち上がる。

 この近辺のモブは僕と同等。集団だと負ける可能性の方が高い。なので、レベル上げの際にも単体を探して相手をしている。今回も同じだ。気が抜けない戦いになる。


「よーし、画像で姿は確認したし。どこかなー」


 あんまり攻略情報ばかりに頼りたくないけど、期間が限られているので目的の為には出来るだけ情報収集をした。

 期間はプリハ時間ではなくリアルに沿った期間だが、ずっとログイン出来る訳ではない。まして、学校や日常生活優先なので、実質プリハ時間で二時間から六時間が良いところ。土日ならフルの十二時間出来そうだけど。

 日曜日の今日夕方からではなく朝からイベントだったらさらに時間を使えたのに。



「えーと、いた」


 《忍び足》を使用しながら通常モブに見つからないように移動して、ようやく一匹だけのゴールデンフロッグを発見することが出来た。


「接近タイプなら、セオリー通り遠距離からまず攻撃だね」


 フロッグに向けて《つむじ風》を撃ち込むと、こちらに向けて素早い動きで跳ねてくる。


「くっ!」


 接近されるまでに三回は魔術を使えたが、まだ八割もLFが残っている。やはり、防御力も高い。


「《ポイズンクロー》」


 こちらも素早さ重視なので一方的な攻撃は受けない。だけど、僕の攻撃力の低さとフロッグの防御力の高さに差がありほとんど削れない。

 幸いなのが智力が低いからか、魔術の方が通りやすい。魔術防御は防御力と智力に依存している。その二つの平均値が魔術防御力として表れることから、フロッグの智力がかなり低い事が伺える。


「《痺牙》!」


 最近は噛みつく事にも抵抗がなくなったけど、やはり虫や蛙なんかは気が引ける。だからか、あっさり躱されて反撃の舌攻撃がくる。


「《防躱》!」


 それくらいの攻撃なら、自慢の尻尾で防げる。けど、お互いに決め手に欠ける。端から見ると蛙と犬のダンスというか、蛙にじゃれつく犬に見えるんだろうな。


「《つむじ風》《スタッブ》」


 風魔術でフロッグの攻撃を妨害して、クローの刺突で止めを刺すことに成功。


「はあ、ふう。やっぱりまだ時間掛かる」


 一匹倒すのに五分から十分。同レベルなら五分くらいだけど、やはり火力不足で通常よりも時間が掛かってしまう。


「地道にレベル上げるしかないよね」


 自前のクローやファングの強化は、専用の強化素材がないと無理なので他の武器よりも簡単に更新なんて出来ない。


「指抜きの手甲とか頭装備買わないといけないかな」


 この間に【戦乙女の聖衣】を手に入れたが、それ以外は未だに初級装備と次のクラスしか持っていない。つまり、紙装甲。

 だって、借金返済が優先だったしね。でも、流石に更新しないとモブが強く危険だね。


「と、あれはウォーターエスカルゴかな」


 この周辺で見かけないモブ。スレッドに貼られていたモブとも一致する。


「接近迄が大変だよね」


 遠距離モブは大体防御力が低く、懐にさえ入れば対処がしやすい。その分、連射や範囲攻撃で接近しにくい。


「《獣走》《獣化》」


 まだ七割での成功率でしかない《獣化》。だけど、かなり成功率が上がったと思う。遠距離モブに対してなら、魔術が封じられても接近で一気に競り勝てると思って発動させる。


「グルゥ」


 《獣化》すると、暴走せずとも唸り声しか発っせなくなるのはどうにかしてほしいね。


「ガァッ!」


 それでも、能力の底上げには重宝するから練習は欠かさなかった。今もきちんと制御出来ているのを確認して脚に力を入れて大地を蹴りあげる。

 まだ距離があるのに、こちらに気づいて口から水鉄砲を発射するエスカルゴ。


「ワキュ!」


 連続の速射が思ったより間隔が狭くて回避のタイミングが難しいけど、階位も含めた獣ブースターでやや余裕を持って躱していく。

 僕なら、ウォーターエスカルゴを相手にした方が効率はいいね。


「ワォー」


 そう思い、回避を繰返し前進をしていく。当然、射程が短い分着弾までの間隔が短くなるので大変。だが、近付けば面のような速射から線の速射になるから攻撃圏が狭まり、近付く事に成功。

 すると、危険を感じたのか殻に籠るエスカルゴ。


「ガァッ! グルゥ!」


 フロッグよりも高い防御力。クローで傷が付かない。より攻撃力のあるファングで咬んで少しLFが削れる。ならばと、ヘッドによる《頭突き》をかますと吹っ飛ばされそのまま転がって行ってロスト。


「…………くぅーん」


 なんか悲しい。あのエスカルゴは何処まで転がって行ったのか。

 《獣化》を解除して立ち尽くす。


「とりあえず、次探そ」


 とりあえずは、フロッグの方を選んで戦い、皆が来るのを待とう。

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