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土地開拓計画(慰霊碑建立)

 昨日は大変な目にあった。

 ううん。あれはきっと夢だ。廃墟に幽霊が出るなんて……。でも、クエスト関連だったのかな?《美術》の先生が住んでいると聞いたのに、とっくに亡くなっていて幽霊になっちゃった?

 一日経過したことで、本来の目的を思い出して考えるけどどんな状況だったのか未だに解らない。

 昨日はなかなか眠れなかった上に、変な夢まで見たので朝は最悪だったが、流石にもう眠気はない。居眠りしてないよ?ホントだよ?


「先ずは誰かログインしているか確認かな」


 空箱にお尻が嵌まって抜け出せない状況だったはずだから、もう恥も外聞もなく、とりあえずフレンドの誰でも良いのでヘルプを頼もうと思いプリハへと意識を移す。


「…………ん」


 ゆっくりと瞼を開けると、あの暗い物置ではなく、緩やかな明るさが部屋を包んでいた。

 さらに、自分の状態を確認して布団に寝かされていたので、首を傾げる。


「美術の幽霊しか……んん、何もいないはずなのに」


 背筋に嫌な思いが駆けていき、気を紛らわす為に改めて周囲を確認してみる。


「どこだろ」


 物置部屋よりも大きいが、煩雑としているのは変わりない、

 至るところに絵の具か何かの極彩色がぶちまけられており、布団すらカラフルに染まっている。

 棚には幾つもの本やノートらしきもの。机には絵筆やパレット。絵の具やペンキなどもある。さらに、石膏で顔らしき物が中途半端に彫られており、彫刻刀やパテなども見られる。

 他には赤い紐や蝋燭、針やガラス片などの危険物。何処からか、火が爆ぜる音がするので炉がある可能性もある。


「ほんとに、ここどこ?」


 見ようによってはアトリエ。だけど、何でいるのだろう。やはり、捜していた人がいたのだろうか。こちらでは、あれから時間が経っているので不審者として僕を移動させたのか。なら、普通は尽き出されそうなんだけど。


「害獣の扱いじゃないみたいだけど」


 こんな変な部屋は知らないけど、少なくてもあの状態から助け出してくれたと思われる。

 そう結論付けて、ベッドから出ようとした所で影が射した。

 なんだろうと思い、顔を背後に向けると……。


「ぴゃっ!」


 黒い何かがいた。眼だけは紅く染まった何かが。そう思い、僕の意識が現実を否定した。


「……、……んんっ」


 なんだか変な夢を見ていたような気がする。

 極彩色の部屋で黒い怪物が現れた夢を。


「……ここ。ひんっ!」


 夢じゃなかった。極彩色の部屋。そして、目の前には何かが僕を見下ろしている。


「目覚めたんじゃね」

「ひゃうっ! あ、あああ。あの、僕、美味しくないきゃら!」


 喋った。男性とも女性とも言える声で。紅い眼をこちらに向けて話したが、口はないのか見えなかった。


「失礼な子供じゃね。勝手に入って来ておいて、私を見るなり気絶するなんて」


 勝手に入ってきた? 辛うじて頭を働かせてなんとか意味を探る。

 それはこの家に入ってきたと言うことか。怪物の棲みかに間違えて進入して、罠に嵌まって抜け出せなくなったんじゃないか。

 《美術》の先生はこの怪物に食べられてしまったのだろうか。考えるだけで、恐ろしい。


「あの、その、ごめんなさい。だから、食べないで」


 震える声で何とか懇願をすると、怪物が溜め息を吐いたような気がした。


「ま、見た目がこんなじゃしね。私はルノ。獣人じゃ」

「…………へ?」


 相変わらず眼だけしか認識出来ないが、怪物らしき怖さを感じさせない声音でそう答えてくれて、落ち着いて相手を観察する余裕が少し出てくる。

 紅い眼。黒い何かは毛が異常に長く、尚且つ手入れをしていないのが一目で解る。

 よく嗅ぐと、ベッドはこのルノと言う人の物らしく、既に臭気登録されていた。手入れをしていないからか、かなり臭いです。ううっ。


「あんたは誰じゃい?」

「あ、僕はLiLiです。その、ここで《美術》を教えてくれると聞いたから」


 そう、この人が怪物でその人物を食べたのじゃないなら、この人こそその人物だと思われる。


「変わりもんか」

「いやいや、僕は変人じゃないよっ!」


 こんな人と一緒にされたくないよ。


「暇潰しの娯楽なんじゃろね?わざわざ捜してまで習おうなんて変わりもん意外おらんじゃろ」

「だから違うよ。僕は棟梁に聞いて習いに来ただけだもん」

「棟梁?」

「大工の棟梁さん。たぶん、あなたに習った人だと思うけと」

「…………。知らんなあ」


 あれー? どうなってるんだろ。


「そんな昔の事は知らん。五日以上昔の事なんて覚えとらんわい」


 ただの物覚えの悪い人だった。


「あんたは習いに来たんじゃね」

「うん。あと、僕はLiLiね」

「知らん。どうせ忘れるんじゃし、覚えても意味ないわい」


 すごく潔く切って捨てられた。


「善は急げじゃな。すぐ教えてやろう」

「あ、うん。お願いします」


 初めは幽霊や怪物と思ってしまったが、どうやら良い人だったみたい。物覚えの悪い変人だけど。あと、臭い。

 意識を失っていたのは三十分にも満たない時間だったようで、まだ習う時間は沢山あるので早く教えて貰えるのは嬉しい。

 そう思い、ベッドから身体を下ろし立ち上がる。


「……なんじゃ、既に芸術を身に付けているじゃないか」

「え?」


 何を言っているのだろう。何かをした覚えがないんだけど。


「ふーむ。おねしょアートか。中々奥が深い」

「っ!」


 振り返り布団を見ると、布団が濡れていた。ああ、そうか。怪物と思って意識を失う時に……。


『階位【おねしょアーティスト】を授かりました』


「なに、そのアーティスト!?」


 てか、この人が階位を付けてる人?違うよね。どんな悪い冗談かな。

 

 【おねしょアーティスト】:おねしょやお漏らしによる芸術性を最大限に発揮し、全ての生物を魅了する。また、作品は高値が付く。作品はアート一覧に自動保存される。


 なに、この無駄に高性能なの。それよりも、誰得! 

 アート一覧を見ると、過去の粗相した物まで保存されていた。写真のようにサムネイルのように整理されており、実体化すると濡れた土や布団、服の感触が高クオリティで確認出来る。あと、匂いも。なに、この無駄クオリティ。他に力を入れる箇所があるよね!

 恥ずかしい黒歴史なんて誰にも教えないよ! 細かく、誰が何時、何処で、どんな状態で作ったかまで記載されてるし!

 《マーキング》以上にオリヒメ達に言えないよ。そう言えば、その技能を修得してからお漏らしするようになったような。


「おねしょアートに関しては、私が教えることはないようじゃね。いや、逆に教えてほしい」

「教えないよ!」


 泣きたい。まだ、目から汗しか出てないよ? え、目から聖水? なんのことかな。


「それよりも、《美術》教えて!」


 困った時の話題反らし。

 ルノはまだ教えて欲しそうだったが、無視だよ無視。

 そうして二日に渡って《美術》を修得することが出来た。

 《絵画》や《彫刻》。《硝子製作》や《着色・染色》などなど。その多さや幅は生産技能となんら変わりがない。それなのに生産技能には分類されない。さらに、修得した際にスクショやムービーの追加機能が開放されたのには驚かされた。

 スクショなどににフィルタやフレーム設定が出来るようになった。チャット文字も幾つか開放されていた。なに、この高汎用性のある技能。

 この二日でルノとは色々話せた。どうやらルノは黒羊で、毛を切ってなかったので毛むくじゃらになったみたい。だけど、性別や年齢は不明なまま。あと、お風呂嫌い。臭いから入ってほしいよ。


「おね巨匠、これで私が教える事はないんじゃね」


 呼び名があんたから、おね巨匠に変わった。おねしょアーティストの巨匠だから、敬意を込めてらしい。敬意込もってないよ! 名前を呼んでよ!


「ありがとうございました、ルノ先生」

「同じ穴の狢。いや、おね巨匠の方が偉大じゃい。私は概存の芸術しかやってこなかったんじゃが、おね巨匠は新たな扉を開いたんじゃからね」

「開きたくなかったよ!」


 色々な事を教えてくれたのに、ルノは自分のことを過小評価している。無から有を生み出すのが芸術家の誉れだが、自分は新たなジャンルを開拓出来なかった。だから、僕が新たなジャンルを開拓したことを評価してくれている。ただの、おねしょなんだけどね!


「……なんか、疲れた」


 この二日で、僕の過去作品をせがまれ渋々見せたら凄く興奮していた。変態だよ。

 もう、精神的に疲れてしまった。


「はぁ。ありがとうございました。僕は用事あるから行くね」

「おね巨匠なら、何時でも訪ねて来てくれて良いんじゃよ。玄関は直しておくから」


 この家が老朽化しているのは本人も知っているらしい。初めて来たときに床が抜けたのも、罠ではなくて単に老朽化して床が腐っていたから。他にも至るところに穴が開いていた。

 ルノの生活空間は、地面を掘り横穴から居室空間を作っていた。なんでも、静かな環境を求めた結果らしく、ここで《建築》技能が使われていたので棟梁とは技能を教えあったんだと思う。

 家が老朽化しており、本人はそちらを使わない。居室空間から先に通路を作り、直接フィールドに繋がっていた。樹木の根元に穴があったので見つかりにくい場所に出入り口が作られていたのでプレイヤーにもそうそう見つからないはず。食料はフィールドモブ。羊なのに肉食だった。てか、肉しか食べてなかった。

 何もかも規格外な人物と別れて、僕は地下を通りフィールドに出る。


「ハジリ村で仔犬買うより先に慰霊碑だよね」


 まさかこんなに建てるまでに時間が掛かるとは思わなかった。

 販売する薬品も補充しないといけないので、明日は薬品作りで一日が終わりそうだ。


「ポータルも早く設置して貰わないと」


 移動だけでもかなり時間が掛かる。まあ、移動に不便なことも地価が安い理由なんだけど。

 安定の《獣走》でフィールドを駆けて、途中から【ヌーディスト】でさらにスピードを上げる。なんか、変態階位のほうが、チートだよね。

 有翼馬と全裸の女の子が並走している絵面がカオスだよね。


「ふう。んじゃ、まずは岩探しかな」


 元は街だったが、防衛拠点だっただけあり岩も川沿いに多くあった。きっと、矢避けの壁として使っていたのだろう。


「んー、どれがいいかな」


 今は流されて点在している岩を一通り確認していく。余った岩は堤防として活用する予定。インベントリに入る事は既に確認しているので、候補な岩と建築に邪魔になる岩を仕舞いながら見ていく。


「これ、いいかなー」


 黒く立派な岩。角が丸みを帯びておりいい感じの物を見つけた。


「次は埋葬かな」


 南にある予定地へと移動する。慰霊碑の周りには薬草や花を植えて安らげるようにしようと計画している。少しでも戦いと悲劇を忘れさせてあげたいしね。


「この辺だったね」


 さっそく、《建築》の《掘削》を使用して穴を掘っていく。次いでに近くに井戸も掘ってみる。小川があっても井戸もあれば便利かなと思う。


「こんなもので良いかな」


 次にインベントリから遺留品と言うか、生活道具など集めた物を穴に並べていく。《跳躍》がなかったら梯子を作る必要があった。

 並べ終わり、土を被せていく。本来のやり方を調べていなかったので、こんな簡単な感じしか出来ない。


「岩を出して、加工かな」


 土の上に先ほどの黒い岩を置く。次いで《建築》の《石工》で文字を彫る場所を平らにしていく。置く前に加工するべきだった。


「文字は……」


 《美術》の《彫刻》を使用して大きく慰霊碑と彫る。迷いながら、下にも文字を彫っていく。


『英傑たちの安らかな眠りを。この地の平和を祈る』


 残念ながら英傑の文字が分からず、チャットで文字変換をして調べた。間違えてヴィーナスに送ったけど、どう思っただろう。


「これから、この土地に住みます。草花で綺麗にするから、ゆっくり休んで下さい」


 手を合わせてそう口にすると、何時か感じたような優しい風が吹いた。


 ──ありがとう。貴女にも幸あらんことを。


 どこかで声がしたと思ったら、インフォメーションが流れた。


『階位【慰霊者】を授かりました』

『技能《戦士の安らぎ》を修得しました』

『技能《水魔の鎮魂》を修得しました』

『技能《神秘属性魔術:鎮霊》を修得しました』

『【戦乙女の聖衣】を獲得しました』


 突如流れた大量のメッセージ。


「なに、これ」


 予想外の事で茫然と慰霊碑を眺める。


「あ、確認しなきゃ」


 何かの隠しイベントだったのだろうか。そんなつもりじゃなかったんだけどな。しかも、売地限定なんて。


 【慰霊者】:アンデッド系に対しての攻撃に鎮霊を付与。また、アンデッド系討伐による獲得経験値及び熟練度上昇。

 《戦士の安らぎ》:非戦闘時にMS及びスタミナの自然回復量増加。

 《水魔の鎮魂》:水属性の受ダメージ大幅減少。

 《神秘属性魔術:鎮霊》:範囲攻撃。アンデッド系特化魔術。

 【戦乙女の聖衣】:胴体・下肢防具。防御力55。LF自然回復(中)・精神系デバフレジスト(中)。


 なに、このチートの山。あり得ないでしょ。しかも、こんな限定イベント。他の購入した土地にも似たようなイベントあるのかな?あるよね、疫病の村とか不作で餓死が出た村あったし。ないと困る。とりあえず、これは黙っていた方がいいよね。公平じゃないもんね。土地購入特典イベントと思っておこう。


 この時もっと穴を確り作っていたり手を加えていれば、さらに防具などが増えたことは誰も知らない。


 こうして、一先ず拠点の開拓が始まった。

 公式イベントまであと数日。

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