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土地開拓計画(美術を求めて)

明けましておめでとうです。

短いです。

 まずは族長の家に行き、罰金五万リゼと説教を受けた。初犯だからこれだけで済んだけど、次は罰金十万と二日間拘留されるみたい。もうやんないよ。

 街の外て降りて、馬を引いてくるように気を付けよう。


「はあ、余計な出費出ちゃった」


 こう言うルールは族長に聞けば教えてくれるのだろうか。全ての領で集まった法律に関するスレッドにも載っていなかったはず。馬所有がいないからかな? でも、人間領ではテイム出来るみたいな情報もあったと思うんだけど。


「生産に関する法律は確かに少なかったけど」


 また調査が必要かもしれない。


「でも先に《美術》だよね」


 所謂趣味技能だけど、生産関連とは相性は抜群に良いと思う。単に慰霊碑を建てるだけだったが、思いがけない収穫になりそう。


「サドロイ村だったよね。ん、そう言えば誰に習うか聞いてなかった」


 まあ、行って聞いて回れば解るよね。

 そう気軽に村へ移動することにしたが……。


「なんで、みんな知らない振りするんだろ」


 村を回って手当たり次第に聞いたけど、みんな顔を背けて立ち去る。村長からは名前を聞けたけど、すごく嫌な表情をしていた。


「えっと、ここがアームルさんの家だよね?」


 そこは村の外れ。朽ちたと言っても良さそうな木造に蔦が覆っている。かつては庭だったのか、延び放題の雑草に紛れて綺麗な花が咲いている。


「生きてるんだよね」


 まさに廃墟。こんな場所に人が住んでいるのか疑問に思う。庭には人が通った痕跡がない。普通は歩けば踏み均されて道になるはずなのに、それが一つも見当たらない。


「大丈夫かな」


 皆が顔を背けるのが解る。きっと、プリハ世界でも屈指の濃厚キャラに違いない。

 ゴクッと喉が鳴るような気がする。ボス部屋に入るような緊張感が全身を包む。


「行かなきゃ行けないんだよね」


 出来れば関わりたくない。このまま帰って《石工》で無理矢理でも文字を彫りたい。

 だけど、《美術》の有用性は教えて理解できる。これからもお世話になるのは確実。なら、何時かは関わるはず。


「だけど、うーー」


 どれだけ一歩を踏み出しては引っ込めてを繰り返したか。逡巡するのは仕方ないよね。なんだか、ラストダンジョンに挑む前の気分。だって、こうする間もカラスみたいのが屋根に降りたと思ったら、コウモリのようなのが飛び立っていったりしてるんだもん。

 つい、何度も装備や技能を確認してしまう。まだ、レベルが足りないかもしれない。アイテムが不足しているかもしれない。ラストダンジョン前の限定イベントを見落としているかもしれない。これが本当に最強武器なのか。このステータスで辿り着けるのか。ソロじゃ不可能かもしれない。パーティー、いやギルド。それでも足りない。レイドを用意しないといけないかもしれない。

 気が付いたら夕方になっていた。


「あれ、あと一割でラスボス倒せたような?あれ、レイドメンバーは?」


 シュミレートが幻覚レベルまでになっていたことに、ようやく気が付き恥ずかしくなる。


「時間ないから、早く行かないとね」


 夕暮れになり、より不気味になった廃墟に気合いを入れて足を踏み出す。


「生きてますように」


 先生が幽霊なら僕にはハードルが高すぎる。

 一歩一歩を慎重に接近し、今にも外れそうな扉をノックする。


「すいませーん」


 返事はない。続けてノックをした表紙に扉がギイィと内側に開いていく。


「ひいぃ!」


 驚かせないでよ。少し濡れちゃったじゃない。


「あの、アームルさんいますかー? 生きてますかー?」


 吸い寄せられるように、一歩を踏み出して、さらに一歩。

 ミシッと床が軋んだと思ったら、一気に床が抜けた。


「ぴゃゃゃゃ!」


 変な声が廃墟に響く。だけど、僕はそれどころじゃない。

 必死に手足をばたつかせて、何か掴む物がないか探るも直にバキバキと何かを潰しながら地面に落ちる。


「うー、お尻に刺さって痛いよ。もうやだ。帰りたいよー」


 落ちた場所が木箱があったお陰で大事には至らなかった。中が空だったのもダメージの軽減になっていた。


「暗いよー」


 《夜目》で周囲を見渡すが、物が多過ぎてよく解らない。

 お尻も積まれた木箱を突き破って、上から二段目の木箱に嵌まって抜け出せない。もがいたら更に深く嵌まって身動きが取れなくなった。


「このままミイラにならないよね」


 虫や鼠がいないだけマシだけど、動けないで暗闇に入るのは精神的にかなりダメージがある。


「うー、ダメだ。オリヒメお姉ちゃんもヴィーナスもログインしてないよ。見守り隊とはフレ登録してないし……」


 怖いけど、今までのトラブルによりすぐにフレンドリストを開く癖が着いており開くがヘルプを呼べる状態ではない。

 ソロではあるが、やはりプレイヤーとの交流が少なすぎるよね。


「このままリアルに帰っても、また戻ってきたらこのままだよね」


 フィールドなら、最後のセーフエリアに戻されるがここは村の中。時間経過で自分の状態が変わることがあっても、ここは誰もいない廃墟。つまり、助けがないとずっとこのまま。


「だれかー! 助けてー!」


 外に聞こえるか解らないが、ありったけの大声で助けを求める。

 すると、何かを引き摺るような音が聞こえてきた。


「ひっ!」


 声が聞こえたとしても早すぎる。なら、この音は何か。


「来ないで。お願い、来ないで」


 先ほどの大声から一転、声が掠れて上手く口が回らない。

 徐々に近付く音。ゾンビだろうか。幽霊が死体でも引き摺っているのだろうか。そんなホラーな想像しか浮かんでこない。

 ポタッポタッと僕の下から聞こえる水音が更に不気味さを生む。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


 だから、来ないで。

 そう思うと、引き摺る音が止まった。


「あ…………良かった……」


 安心したのは一瞬。

 鈍い音を発てて、この倉庫のような狭くて雑然とした部屋の扉が開く。


「い…………いやーー!」


 僕はそのままリアルへとなんとか戻る事が出来た。馴れた手付きで濡れて汚れた布団を片付ける間も、背後が気になって仕方がなかった。

 あの扉から現れたらのは、発光した毛むくじゃらの何か。

 あんなもの、絶対に幽霊に決まっている。

 この時にはもう、《美術》の事なんて吹き飛んでいた。

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