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土地開拓計画(慰霊碑に向けて)

 首都の中央広場は相変わらずプレイヤーを含み大勢の人で賑わっていた。

 だが、その賑わいが静まり、すぐにざわつきに変わる。


「あ、あ……や、見ないで…………」


 全ての中心に僕と有翼馬のルーンが立ち、沢山の視線が注ぎ込む。

 辛うじて漏れた呟きは余りにも小さく掠れており、誰の耳にも入らない。そしてもう声にすらならない。

 聞こえる囁きにはルーンの事と僕のこと。特に僕の姿についてプレイヤーが話している。

 しばらく自分の土地で活動していたので言われるまで忘れていたのだ。僕が全裸だったことを。

 だけど言わせて欲しい。これには理由があるんだと。決して露出狂の変態ではないと。【ヌーディスト】が便利過ぎるのが悪いのだと。


「──────きゃーーーー!」


 どれだけ呆然と立っていたのかは分からない。スクショを撮られることにも意識が向かない。僅かに戻った理性が羞恥心を呼び起こし、悲鳴と共にルーンに飛び乗り空へ羽ばたいて貰う。飛び上がるまでの数瞬に装備を整える早業。


「み、みられた。みんなに、みられたよー!」


 女性になら別になんとも思わなくなってきたが、男性は別だ。特にプレイヤーには一層恥ずかしく感じる。


「うーー」


 首都から離れた場所に降りて、一旦リアルへ戻りその日は結局プリハには行けなかった。

 この日の一部スレッドは祭りと化していたから。


「今日は大丈夫だよね」


 翌日もスレッドには書き込みがあったけど、プリハでの僕に対する様子も気になり様子見を兼ねて棟梁に会いに行こうと決めた。

 初期ファッション装備の変装も繰り返す間に周知となってきたので、ファッション装備を外して純粋な戦闘装備を反映させる。ほぼ初期の防具だが、たぶん気付かれないと思う。思いたい。気付かれないといいな。


「こんにちはー」


 周囲を警戒しながら建築工房にやって来て、大工に小さく声を掛ける。

 ずっとここまで来る間、見つからないかドキドキしていたけど僕の変装は完璧だったみたい。ルーンを連れて歩いているけど、商人は荷馬車として有翼馬を連れているので目立ってはいないはず。


「ん?お嬢か。棟梁なら中にいるぞ」

「ありがとう」


 棟梁が僕のことをお嬢と呼ぶので、大工たちも同じ呼び方をしてくる。他のプレイヤーをどう呼んでいるのかは知らない。


「お嬢……と馬か。聞いたぞ。一昨日は広場に直接降りたって噂になってるぞ。しかも裸だったと」

「あう。その、えへへ」


 なんて答えればいいのか分からず笑って誤魔化したら、ため息を吐かれた。


「後で族長の家に行くようにな」

「え?」

「直接街に馬で降りたら危険だから、禁止されていることは知ってるだろ?」

「えーと、その知らなかったよ」


 そんな決まりがあったんだね。棟梁の表情が固くて、今までみたいに甘やかす感じじゃないのもそれが原因かな。


「あ、害獣かな。だから、そんなに恐い顔してるのかな」


 その事実に気付き、シュンとなる。また、あの恐怖が待っている。なにより、今まで親しかった棟梁が他人行儀なのが一番悲しい。


「害獣か。まあ、罰金と注意はあるだろうな。それよりも……」

「それよりも?」


 まだ何かあるのかな。


「お嬢は子どもでも女の子なんだ。それなのに、みんなに気安く肌を見せたら駄目だろう!」


 棟梁が他人行儀ではなく、怒りを抑えていたみたい。

 それから一時間は棟梁の説教が続いた。女の子として自分を大事にしろと怒りながらも心配してくれた。最後には襲われなくて良かったと言ってくれた。話の中で、棟梁が僕を孫娘のように感じていた事実には驚かされたけど、大切にされていたことを知り泣きながら謝った。


「もう泣くな」

「うぐっ、ひぐ。うん、ありがど」


 涙声で感謝を伝えてると、頭をポンポンとされた。

 まだ害獣については不安だけど、今は僕を気遣ってくれる棟梁に何度も感謝を伝える。


「分かったから。お嬢は泣き顔より笑ってる方が可愛いぞ。ん?」

「うにー」


 軽く両頬を摘ままれて無理矢理笑顔にさせられる。


「それで、俺に何か用があって来たんだろ?一昨日すぐに逃げていなくなったって聞いたし、今日来たってことはここに用があって直接来たんだろ」

「うん」


 プリハ時間がリアルよりも時間進行が二倍になったことで、リアルで半日経つとこちらでは当然一日が経過している。その事で多少クエストなどで齟齬が生じていたが、現在ではプリハ時間が浸透しており特に問題は発生していない。だが、僕にとっては借金返済の期間が半減したことを意味するので、非常に死活問題だったりする。それも余裕持っての返済が続いていれので、まだ大丈夫なのだが。


「建築材料の販売か?なんなら家を建てにいくぞ」

「僕が建てるからいいよ」


 その為に《建築》を修得したのだしね。


「建設予定が建ったのか?転移装置の設置か?」

「それはもうすぐ決めるよ」


 何をするにも移動時間がネックなので、簡易転移装置─通称ポータル─を設置するのが前提にある。


「まずは……」


 そしてまず棟梁に会う事にしたのは、設計の不備を無くす為に助言を貰う為。


「温泉を掘ったのか。周囲を炭毛などと組み合わせるのは良いな。湿気対策はそれでいいだろう。ただ、建材は湿気に強い木材がいいな」


 現在は【LiLi の犬小屋】を持ってきて、それを見て貰いながら建設構想を詰めていく。犬小屋は非常に品質が良いと褒めて貰えた。


「小川を中に通すのか。なら、川を石で囲う必要があるな。それと、手前に堰を作らないと雨が降ったら大変なことになるな」


 気軽に水源を確保する為に家の中にそのままある小川を埋めずに建てようと思っている。料理や薬品作り。鍛冶や染色など水場は非常に重要になる。


「鍛冶工房か。火を扱うなら、石材が良いな。熱が居住域に広がらないようにするには石材で解決出来るしな」

「うん。炉も組み込む積もりだし」

「それに地下室と氷室か」


 氷室は単に暗所を利用しただけのものと、水の魔石を設置したものがある。僕が目指すのは高価な魔石を利用したものなので、これはまだまだ先になる。


「地下基盤さえきちんとやれば大丈夫だろうな。他に調合室と室内栽培室。家畜小屋か。お嬢は生産を全部覚えてるんだな。その、すごいな」


 そう言いながら頭を撫でてくれているが、目が笑っていない。言葉からも戸惑っていると言うか、呆れていると言うニュアンスが伝わってくる。


「あれだけの土地があれば大丈夫だろうが……。ああ、あと堤防は言った感じの土手で大丈夫だろう。北側の川沿いと流れが速い場所に石で補強で決壊はしないはずだ。昔は矢避けに川沿いの要所にしか壁がなかったって記録があるからな」

「それでも、今から金額が心配だよ」

「お嬢なら大丈夫だ。首都の売上だけでもかなり稼いでるじゃないか」

「うーん」


 現在は味付の水薬の販売を各街で限定販売しているが、評価は上々。そして、首都の売上はそのまま棟梁に渡すような契約をしてもらっている。


「まあ、販売数増やせば二ヶ月掛からないかもしれないけど、毎日作れないし」


 このまま味付の水薬を量産すれば完済まで二ヶ月は掛からないと思う。ただ、材料の購入をプレイヤー販売による入手だけなので入手量が不安定だし、毎日薬品作りも出来ない。なにより、首都への有翼馬直接降下の罰金が不安だ。


「お嬢なら大丈夫だ。それで、家以外に相談とは?」

「その。慰霊碑を作りたいと思って」

「慰霊碑って、洪水の被害に遭った奴らのか?」

「うん」


 僕が買った土地はかつて川の氾濫によって滅んだ街の跡地。只でさえ、防衛拠点として人死にあった曰く付きの土地。

 幽霊は恐いが、何よりも少しでも何かをしてあげたい。偽善心と罪悪感から逃れる言い訳かもしれない。これから、家の残骸を漁り使える物を探すのだし。地下室らしき場所は当然掘り起こす。骨は見付かってないが、割れた陶器など生活の痕跡は残っているので、ただのデータとして無視は出来なかった。


「穴を掘って遺留品を埋葬か」


 棟梁には見つけた剣や割れた皿等をインベントリから出して見せる。インベントリの圧迫になるが、まだそこまでアイテムの種類がある訳ではないし慰霊碑のことを決めてから遺留品は見つけたら仕舞うようにしていた。


「その上に石を置くのか。なら石もそこにある岩を利用した方が良いな。移動以外に現地の物を使えば良いだろう」

「そっか。購入より、現地の岩を加工した方が良いんだね」


 本来の慰霊碑は何処から持って来るのか分からないが、庭石みたいなのを買って置けば良いと思っていた。


「《石工》で加工も出来るが、文字を彫るなら《美術》にある《彫刻》の方がきちんと彫れるだろう」

「《美術》?《彫刻》?」


 そんな生産技能なんて知らない。技能スレッドでも見たことがない。


「知らないのか」


 その眼は語っていた。全ての生産を覚えてるのに、知らないのかと。


「《美術》はサドロイ村の芸術家に教えて貰える。俺も《彫刻》を覚えるのに師事したしな」

「生産技能なんだよね?」


 生産技能は大まかなジャンルに細かな技術が複数含まれている。例えば《建築》には《鑑定》や《石工》に《木工》など様々な技能がある。そして家作りには例えば《彫金》で鍵を取り付けるなど他のジャンルも関わってくる。建築には立ち入り許可設定があるが、敷地や家全体の設定だけ。室内の鍵は他の技能が必要になる。


「生産に使えるが、《美術》は趣味の範囲だな」

「趣味技能なんだ」

「ああ。ただ、俺のように他の技能にも応用が利く便利な物だな」


 趣味技能とはプレイヤーで名付けた文字通り趣味に繋がる技能。

 僕のように《犬掻き》や他の領で確認された《水泳》や《釣り》など。やっぱり、僕が犬だから《水泳》じゃないんだね。


「建築には《彫刻》以外にも《絵画》なども有用だぞ」


 壁紙代わりに絵を描く《絵画》など棟梁は《美術》と《建築》の組み合わせる事で生まれる相乗効果がいかに有用か語ってくれる。

 当然、慰霊碑に彫る《彫刻》の有用さも。《石工》だけでは細かな細工彫りが出来ないみたい。彫像だって作れる。《石工》は石の切り出しやレンガ作りなどには向いてはいるが、細工には不向きらしい。やろうと思えば出来るみたいだが。

 さらに話を聞くと《硝子工芸》などで窓も作れるとか。もう《建築》に組み込もうよ。


「他に相談はないか?」

「いまはないかな?」


 棟梁との話しは終わり、農家で仔犬を売ってくれるか聞く前に《美術》を修得しようと、目的地を変えて工房から出ようとする。


「族長の家に行くんだぞ」


 すっかり忘れてました。

 害獣になるかいなか、戦々恐々としながら落ち込んで歩いて行く。

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