味付け水薬
薬師スレッドで水薬の草っぽい味の改善として、香り付き、味付きの情報を見て試作を重ねること数日。
「ふふっ、やった。できたー。ファル先生、見てみてー」
魔術を購入してから、素材を集めてあとはファルの工房でひたすら開発の日々。ついに配合が決まった。食品に利用できる素材ごとに比率も変わるので、それぞれの配合値を探るのが大変だった。
「どれどれ。これは甘い匂いですね。これは……焼き肉?」
「うん、フィールボアの串焼きを使ってみて、なんとか料理でも出来たよ」
「そう…………ですか」
串焼きの香りと味がする水薬を見て複雑そうな顔をしている。
「ですがなかなか良い出来ですね」
そっと串焼き味を一番遠くにやりながら柔らかく微笑んでくれる。
「えへへ、これ売れるかな?」
「ええ、効果は落ちていても売れるでしょうね」
参考までに【治癒水薬】は販売価格八十リゼ。使用効果は一本飲むとLFが20回復する。
対してブランド化した【LiLiの体水薬】が販売価格千リゼ。飲むとLFが148回復する。いかに店売りの効果が低いかが解る。だけど、初期に於いては店売りを使用した方が効率が良い。
しかしLFも増え、メインクエストも進んで行けば店売りの物は効率が非常に悪い。幸にも、軟膏と回復魔術のおかげで至急にも効率が高い水薬が必要という訳ではない。それも時間の問題だが。
攻撃力の高いモブとの連戦やボス戦ではチマチマと回復は行えない。一回で回復するなら、それだけ隙を与えず、さらに攻撃にも専念できる。だから、開発は急務。そう見守り隊から話を聞いていた。
「ほんとに、なんで生産職が固まる配置にしたんだろ」
運営の考えが解らない。攻略が停滞する可能性もあるのに、あまりにも非効率であり、誰にとっても不都合しか生まない種族配置。考えても仕方がなくても、どうしても不満が出てしまう。
「効能だけを考えると値下げですけど、飲みやすさと素材の追加を考えると値上げしても良いでしょうね」
難しい所だ。またゼメスや薬局などと相談するべきかと頭を悩ます。その前に見守り隊にもテスターとして協力を仰ごうか。あんまり係わり合いたくないが、その意見は非常に有効。オリヒメたちにも意見をこれからは聞くべきか。
「それで、どれを売る予定ですか?見た所、薬以外もありますし」
「うん、出来たら全部だけど……」
数々の失敗を重ねる内に、別の商品となりブランド化の証明ともなる名前付きが出来上がってしまった。
薬を含めてブランド化したアイテムがこれら。
【LiLiの蜜水薬】:薬師LiLiが作った蜂蜜味の水薬。使用にてLF131回復。
【LiLiの乳水薬】:薬師LiLiが作った牛乳味の水薬。使用にてLF125回復。
【LiLiの肉汁薬】:薬師LiLiが作った肉汁味の水薬。使用にてLF88回復。技能《肉食》所持にてさらにLF29回復及び十分間攻撃力7上昇。
名前にツッコミたいけど、回復薬はこんな感じ。料理である【草猪の串焼き】で回復量は下がったけど、面白い効果になった。僕以外に使えそうにないけどね。あと、香りもそれぞれの匂いとなっている。
「これとかは女性向けかな」
【LiLiの蜜蝋薬】:薬師LiLiが作った化粧品。唇や爪に使用することで、艶と甘い香りを付与。効果時間十時間。
【LiLiの蜜化粧液】:薬師LiLiが作った化粧品。肌に使用することで、艶と甘い香りを付与。効果時間十二時間。
【LiLiの乳化粧液】:薬師LiLiが作った化粧品。肌に使用することで、艶と甘い香りを付与。効果時間十二時間。
「化粧品だよ。蜜蝋薬は軟膏の作り方で出来たよ。あとは化粧水と乳液って感じかな」
【LiLiの潤滑液】:薬師LiLiが作った薬品。差し油として使用するなど工業向き。
「化粧水と潤滑液はローションの応用みたいだったよ」
一通りファルに説明していく。なにより、見た目と名前がエロい【ローション】がこんなに活用出きるとは思わなかった。元は水薬作成で出来た失敗品なのに。
だけど、【ローション】も地面に巻けば相手が滑って行動を妨害できるとなかなか侮れない一品。使用法はスレッドで知ったんだけどね。
「効能は解りました。水薬と化粧品は薬局で充分売れるでしょうね。潤滑液は建築や鍛冶に利用出来ると思いますよ」
「ほんと?やった」
最後の潤滑液の内容が工業向きとあったので心配だった。確かに言われたようにそちらに売れば売れるかもしれない。鍛冶にどう使用するかは不明だけど、棟梁やキンリー、それと炭鉱長に聞いてみたら良いかな?あとは、鍛冶プレイヤーか。
「いくらくらいになるかなー」
自分の出来映えについ笑みが零れる。そんな自分は今、化粧品を使用してすごく甘い香りと艶で何時もより妖艶。いや、背伸びして親が使う化粧品を勝手に使った子供のように微笑ましい。
基礎化粧だけだが、下手ではない。数年、スキンケアをしていたLiLiはメイクの仕方を心得ている。背伸びした子供よりはやや大人っぽく、妖艶な美女と言うには子供すぎる。そんなチグハグで微妙なお年頃の女の子を見て、ファルも優しく髪を撫でてあげて癒される。決してロリコンではない彼だが、毎日の研究の日々にいつしかLiLiは心の癒しとしてファルに大切にされていた。
「LiLiちゃん、蜂蜜ミルク飲みますか?」
「うん!」
自分には妻も子供もいない。昔から気になったことに没頭する癖があった彼は、身の回りに頓着しない。だが、LiLiが来てからは服を整え身体を清潔にしている。
ごちゃごちゃだった工房はLiLiによって使いやすく整理されている。それだけではなく、休憩室として解放していた部屋も掃除してくれている。
「娘がいたらこんな感じなのでしょうか。いえ、私の血を引くならもっと雑な性格になりますかね」
ミルクを温め、蜂蜜を加えていく間にも幸せを感じる自分に驚くファル。今までは一人暮らしだったので、料理を作るにしてもこんなに幸せな気分にはならなかった。それなのに彼女の事を考えながら、彼女の好きなものを作るのがこんなにも充実した気分になるとは思ってもいなかった。
「素材を分けて貰って、試しに作って差し上げた時の彼女の顔はまだ忘れませんね」
薬品として使おうとしていたLiLiを見て、全部薬品にするには勿体ないと思ったファルは一部の素材を使って蜂蜜ミルクを作りった。それは、ファルの思い出の味。蜂蜜パイと蜂蜜ミルクの甘い組み合わせ。だけど子供だった頃のファルが一番好きな食べ物だった。それをLiLiにも味わって貰いたかった。
パイの作り方を教えてもみた。だけどどうやら料理は苦手なようだった。
「昨日のパイが残ってなかったかな。あればそれも付けてあげましょう」
甘甘な組み合わせに、幸せそうな顔をするLiLiを思い浮かべる。それだけでファルは満たされた気分になっていく。
【自家製蜂蜜ミルク】:薬師ファルが母の味を受け継いだ、優しい味。三十分間、運5上昇。
【自家製蜂蜜パイ】:薬師ファルが母の味を受け継いだ、優しい味。一時間、MS10・運3上昇。