返済生活とLiLi見守り隊
連休明けからは学校生活にもプリハ生活にも特に変わったことなく過ごしていた。
日曜日となった今日はフルで生産活動をする予定。
納品分は製作して卸したけど、自分用と納品の予備が手元にないので、今日一日を使って軟膏を作ろうと思っている。
それと言うのも、納品数がまた増えたことと、フレンドを始めそのフレンドへと僕の素材不足を聞いて売ってくれてその量がかなり増えた為。
クエスト報酬と売上げで初月分の返済は完了。僕の爪を始めケアなどでお金を使った以外はほとんど素材に残金を消費した。残金といえば、工房を借りる分しかない。
ちなみに、ゴーレムを倒してからも素材集めをして漸くレベルが35に到達した。無事に廃鉱のゴーレムを一掃したのでここまで上げることが出来た。今は作業再開の為、炭鉱長たちが整備しているはず。
『LiLi』
レベル35
成長率07
種族:獣人
階位:なし
生命力860
精神力300
攻撃力131
防御力128
智力64
命中力108
素早さ117
器用さ70
運24
レベル30からは上がりにくくなっているけど、現在は満光にかなりレベルは近付いている。
最近は軟膏製作の為に器用さをかなり集中してあげている。それでも種族補正もないので低いんだけども。
それから、嫌なことに『LiLi』という綴りが樹に知られた。まだ僕とは思っていないのは救いだけど、【LiLiの薬軟膏】がサイトにも書かれており、リリと『LiLi』が他の領にも確かな認識として広まった。そのことで二回も樹からスクショの催促があって辟易している。マナー違反ってことで断っているけど。
「リリっちも大変だね。はい、ギルメンから集めた素材」
「うん、ありがとう。やっぱり生中継で注目浴びてからの軟膏販売は目立つみたいだしね」
「……生中継ってより、内容がアレだったからなんだよね」
「ん?どうしたの?」
「なんでもないよ。あ、そろそろギルド結成に向けて集まるから。じゃね」
「ありがとうね。がんばってー」
ヴィーナスが手を振って駆けていく。今日がギルド結成日だと楽しそうに話していた。
ギルドか。別にソロだからって寂しくなんてないよ。気ままなソロを選んだのは僕なんだし。
でも、樹やオリヒメ、さらにヴィーナスからギルドについて楽しそうに嬉しそうに話すと、少し良いなって思っちゃう。いつかは入るかもしれないけど、まずは借金完済が先だ。
【LiLiの薬軟膏】がハジリ村での現在の納品数は六十個で、首都では百個。さらに炭鉱街で五十個。
【LiLiの魔軟膏】がハジリ村での納品数は四十個で、首都で二十個。炭鉱街でも五十個。
「首都は手数料高いし、魔軟膏が売れ過ぎたら赤字なんだよね。ギルド増えるなら、水薬の販売も早めにした方がいいかな」
首都と副首都『アネサス』の手数料が同じなので、とりあえず首都にだけ販売をしている。
試験的に【LiLiの体水薬】をハジリ村で五本販売している。売れないと思っていたのに、何故か二本も売れていた。嬉しいけど、千リゼと高額な値段に悪いかなと思う。一応、薬師ファルやゼメスの意見や市販品と薬師スレッドなどを見ての価格設定にはしている。それでも、やっぱり売れるとは思わなかった。買ったのはプレイヤーらしいし。
「今は軟膏作りをがんばらなきゃだよね」
ファルに挨拶をして、奥に行ったのを確認して装備を全て解除する。そのあと、借りた【白衣】を身につける。いつも裸エプロンだけど趣味じゃないよ?階位効果の恩恵が凄いからだよ?
「それよりも白衣に何か効果あるのかな?売ってるみたいだし……」
ファルは衛生面とか、汚さないようにとか考えて渡してくれるんだと思うけど、これの説明が『薬師の制服』としか書いてないんだよね。うーん、謎だ。まあ、そのお陰で全裸じゃないからいいんだけどね。前だけでも隠せているのは安心できる。お尻は自慢の尻尾でガード出来てるしね。
「ん、ふふーん。ららー」
もう慣れたもので鼻歌混じりに作る事が出来る。鼻歌聞いたファルが顔を顰めていたけど、きっと音痴だからじゃないはず。
「ふーうーうーらー」
うん、ウサミミよりは音痴じゃないよね。
四時間でかなり作れた。でも、まだ素材あるし六時間分お金払ったから、もう少し頑張ろうかな。
「でも井戸水ないや」
いつもなら大きな龜にたっぷりと入っている。少ない時も七割近くは入っているのに、今日はもう一割くらいしか残ってない。
「ファル先生」
「どうしましたか?」
奥に向かいファルを呼ぶと顔を出してくれる。この奥がファルの研究室で入室は禁じられている。
「あの、お水ないんですけど……」
「ああ、すまないね。補充を忘れていたようだよ。よかったら汲んで来てもらえるかい?一時間分、タダで貸し出すから」
「うん、いいよ。ファル先生は何か忙しいの?」
「ええ。君が貰ってきた薬草の栽培と効能の検査ですね」
「あー、あれ」
素材買い取り時に珍しい薬草や茸なども売って貰っている。これはファルの依頼みたいな物で、各地を歩くヤオロズから珍しい物や希少な物など手にいれる為だ。本人はほとんど家にいるので、代わりに僕が仲介として買い取っている。
現在はギルド設立時に赴くミニダンジョンから採集された薬草を研究しているみたい。
研究とは話しは変わるが、僕のこの姿を見なれたファルはもう何も言ってこない。ファルがロリコンじゃなくて良かったよ。
「もう少し数があれば良かったんですけどね」
「また買い取りであれば買っとくよ」
「お願いします」
買い取って、あとで値段を請求したら全額払ってくれるから僕としては手間じゃない。請求時に値段を増やしたりはしない。詐欺とかでまた害獣として捕まりたくないしね。
ファルと話して、僕はインベントリに空の龜にを入れて家を出る。許可さえ貰えばこうして持ち出せるみたいだ。
「あ、服そのままだ……まあ、いっか」
装備操作をするだけなんだけど、井戸の桶を引き揚げるのに力が強い方が早く終わる。すぐに終わると思ってこのまま移動する。
なんだかんだで、この村の人の大半が僕の裸見られちゃってるしね。主に農家に修得に行ったときや普通に井戸で水浴びしていた時にね。《獣走》の件もあるので、いまさら感もある。んー、麻痺してるのかな?ま、いいや。
「あ、こんにちはー」
井戸には二人の主婦がいた。以前、僕を洗ってくれた人だ。
「なんて格好してるの」
「ちょっと、時間なくて。えへへ」
「もう少し女の子らしくしなさいね」
「はーい」
僕が性別も気にならない程の子供だと思っている人が多いので、ちょっとした小言だけでそれぞれの話に戻っていく。うーん、やっぱりオリヒメやヴィーナスに毒されてるかな?
階位【ヌーディスト】が重宝しており、何かと裸になっていたので抵抗が薄くなっているのも原因かもしれない。まあ、男の人じゃなく同性だからなんだけどね。ん?
「んしょ、そりゃ!」
桶を引き揚げて龜に補充していく。何回繰り返したか解らないけど、漸く満タンになった。
「ふー。インベントリに入れて帰ろう」
龜を仕舞って目線を上げると、家の影に慌てて隠れる人影が見えたような気がした。
「気のせいかな」
たまたま住民が通っただけかもしれないし。
「ま、いいや。はやく続きしなきゃ」
ファルの家に向かう途中、再び人影が見えた。今度は二人。
「…………」
首都を始め僕を見てくるプレイヤーはいた。その類いかも知れない。でもね、こそこそ隠れて見るのはあんまり気分よくないよっ!
一瞬走って突っ込もうとして思い止まる。きっと逃げられるだろうと《勘》が告げている。
「すぅ、くんくん。くん、うん覚えたよ」
一旦引き戻って、先程の人影がいた場所の地面の臭いを嗅ぎそれを覚える。
名前は不明だけど、女性の臭いだと理解する。当然知らないプレイヤー。
「かくれんぼの始まりだね」
不敵に嗤い、《獣走》を使い臭いを追いながら駆ける。狭い村なので、あっという間に一人を視野に捉えた。
「みーつけたー!」
ジャンプ。そして、熊のお姉さんに抱き付く。
「ひゃっ!?な、なに!」
「こんにちは。僕の事探していた?」
この熊のお姉さん。実は首都や炭鉱街でも見掛けた事がある。熊のプレイヤーはあんまりいないしね。レア種族だったのが運の尽き。
「へ?あれ、LiLiちゃん?LiLiちゃんから抱き付いてくれた!」
「ふえ、ふぁあ!」
逆に思いっきり抱き付き返され、頬ずりされる。
「ふぁ!柔らかい、幸せー」
「うぎゃー!」
なんかこの人ヤバイ。オリヒメと同様にヤバイ。
「どうした、リーさん!」
「大丈夫ですか、マスター!」
「なにかありましたか?」
「今の声は?」
出るわ出るわ、熊を除いて十人の男女。
「な、LiLiちゃんだと?」
「マスター、規約違反じゃないですか!?」
「ずるいですよー。私もスリスリしたいー」
「こんな近くで三才児がみられるなんて」
「さっき買った水薬においしゃさんのサイン貰えないか?」
あれ、また変な呼称あったような?
それよりも何、この人達。
「えーと、【三才児】の【おいしゃさん】であるLiLi様ですよね。ギルマスがそんななので代わって謝罪致します。規約に反して接触し、さらにはその赤子のような柔肌を堪能して申し訳ありません。後程、その者にはギルドより制裁を加えますので、どうかご慈悲を」
「えーと、とりはへずこにょ人きゃら離ひてふれりゅ?」
「おお、舌足らずなんて貴重なお言葉を頂けるなんて」
「……ひいはら、はらく」
「はい、畏まりました。おい、ギルマスを引き剥がすぞ。そして拘束しておけ。後に裁判を行う」
「了解です」
「わかった」
「LiLi様は私が御護りする」
えーと、なんなのこの人達。あ、僕を様付けした人がどさくさに紛れて頬ずりしてきた。
「悪は取り除きました」
「あ、うん。ありがとう」
「いえ!そのような言葉は私どもには勿体なくあります」
「あ、そう?んで、あなた達何なのかな?」
「はい、我々はギルド『LiLi様見守り隊』であります。本来は貴女様のような女神が、私どもにこうして顕れるだけに限らずお言葉まで掛けて下さるような身分にはありません。私どもは影からこっそり見るだけで心を癒され、魂を救われるだけで充分なのです」
「さ、サリー!返事して!いくら神々しくても昇天するなんて」
どさくさに頬ずりした女性が地面に倒れている。なに、僕に触れて死んだの?僕、毒なの?
まあ、いいけどね。だって、お尻まで撫でてきていたし。
「彼女は本望な最期だったのだろう」
「ああ、そうだな。だが、彼女は地獄に落とさなければいけない」
「どうしてだ?」
「先程、ギルマスを引き剥がすときに三才児様の頬を堪能したばかりが、あの可愛いお尻まで撫でていたんだ」
「えー、なにそれー。私も、あの隙間に指を挿れたいのにー」
オリヒメなんて甘い。この人たちはさらにヤバイ。樹と同等には危険だ。
僕はそっと移動しようとしたが、五人は僕を直視しているので逃げられそうもない。いや、魅了されているのかな?
「それで、えと。なんで、こそこそと僕を見ていたのかな?」
わざとらしく小首を傾げて見ると、魅了中の五人の内三人が昇天した。
僕、そこまで可愛いのかな?いやー、なんか恥ずかしいね。
「それは、私どもは可愛いものが好きな人間たち。この世界に来て、暫くして貴女様の可愛い笑顔に魅了された者たちなのです。それからは個々で貴女様を見守っていましたが、蛇の道は蛇。何回もストー……見守っておりましたら顔馴染みとなり、話も合い、いつしか集団となっておりました。そこでギルドを立ち上げ、貴女様への危害の除去や布教など行っております。規約では、見守ることが主目的なので、こちらからの接触は違反だとしておりました。ですが先程ギルマスが自重出来ずに重罪を犯しました」
親の敵というか、テロリストに向ける眼というか危険な視線を拘束されたギルマスに向けている。
「あのギルマスは死刑でしょう。もしよろしければ、あの熊の毛皮を献上致します」
「え、いらないかな」
「左様、ですか」
落ち込んでるけど、PKするの?殺しても毛皮手に入らないよね?
それに布教とか不穏な言葉も気になる。そうして尋ねると、軟膏の布教をしてくれたらしい。
ここまで売上げが上がったのは彼らのお陰かもしれない。良い人達なのかな?まあ、僕自身には被害はないんだし。
「えっと、この村の水薬も君たちが?」
「はい!私が買いましたー」
「そうなんだ。ありがとう!」
「いーえー。あ、撫でても良いですか?」
「あ、うん」
「やった。あ、さらさらだし、柔らかい。あのー、お持ち帰り良いですかー?」
「あ、うん。……あっ、だめ!」
「えー」
胸顔に押し付けて来ないで‼トラウマが!
その後、結局全員に撫でられる事になった。疲れた。
間延びした彼女もどさくさに紛れて身体中撫でてきたし。
とりあえずこっそりと全員の臭いを覚える事は出来たから、近付かれたら解る。
ギルマスや昇天した人も臭いを覚える事は出来たので、用事があると言って走ってファルの家に駆け込んだ。
「はあ、疲れた。でも、時間残ってるし軟膏作らなきゃ」
軟膏が売れた事には感謝しよう。素材も身内?割引で安く売ってくれることになった。献上するってことには断った。身内割引が最大の譲歩みたいで、許可すると身内になれたと喜んでいたのでもうこれには無視する。
水薬は一人一個は最低でも欲しいとの事で、作製依頼もきたし。
変な集団だけど、良い人達なのかもしれない。別に可愛いって言われ過ぎて嬉しい訳じゃないよ?ほんとだよ?
こうして素材が尽きるまで、ニヤケながら鼻歌混じりに薬作りで時間が過ぎて行った。