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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
生産と借金生活、時々メイン
47/123

廃坑復旧

 魔術を交えながらプールゴーレムにダメージを加えていく。


「はあ!」


 すでにスモッグによって視界は完全に閉ざされていた。

 これ、探知系ないと攻略無理じゃないかな。


「《つむじ風》!」


 プールゴーレムの取り巻きである各ゴーレムは射程に入り次第駆除していっている。

 視界を塞ぐだけのコールゴーレムはスモッグに包まれた部屋では、最早その存在価値はない。ただ邪魔なので倒していくだけ。


「また、吸収」


 魔術により、プールゴーレムへの攻撃量は増えたがLFが半分を下回ったところで、まだ倒していないマッドゴーレム及びアイアンゴーレムを吸収した。

 それから一定時間経過でマッドゴーレムとアイアンゴーレムは再度ポップする。それも暫くしたら吸収し、プールゴーレムが強化されていった。

 軟膏や水薬、さらには回復井戸水を次々に消費してLFが三割になった所で漸く気が付く事ができた。

 前半は倒したら吸収し強化していたプールゴーレムだったが、後半は倒したら吸収せず、逆に倒さなければ一定時間経つと吸収されていった。

 倒さなければ無視してボスを攻撃すればいい時間は終わった。

 今は時間内に取り巻きを倒して、リポップまでの僅かな時間でボスに追撃を加えなければいけなくなった。


「せい!」


 左手の爪が一枚割れて、若干攻撃力が下がっているように感じるが、魔術と物理で持ってなんとかさらに一割を削ることには成功した。

 既に一時間は戦っているんじゃなかろうか。


「はあ、はあ」


 残りLF二割になったプールゴーレムはここでコールゴーレムの吸収が追加された。

 コールゴーレムは単体は弱いが、消滅時に灰を撒き散らしてスモッグを置き土産にしていく特徴があった。吸収しても大した強化にはならない。

 僕には無意味だけど、変化が現れた。絶えず口からスモッグを吐いていたらしい。一定時間経つと僅かに晴れる視界が一向に変化がないことによって気付く僅かな変化。だけど、探知のない者にとっては致命的な効果だ。


「基本《気配察知》は覚えてるみたいだけど……」


 前衛は基本修得している技能なので、大体の位置は把握できる。だけど、それでは精密な攻撃は行えない。

 《勘》以外に《聴覚強化》をフルに使用している僕ですら泥弾などの攻撃は全て躱すのは困難。


「後で探知系増やさないとダメかな」


 以前講習を受けた探知系の数はかなり多岐に渡る。《視力強化》や《空偵》による物理的なものから、《精神力察知》や《生体探知》。《熱源探知》や《超音波探知》、《振動探知》など多すぎるくらいに存在する。さらに《六感》や《予知》など探知としても使える技能まである。最後の二つは《勘》の上位技能みたいだけど。


「それよりも、今はボスだねっ」


 頭上を泥の腕が通り過ぎる。かなり僕の移動範囲が制限されてきた。

 マッドゴーレムの泥による拘束がプールゴーレムの泥弾に付与されている。拘束力はマッドゴーレム程ではないが、隙が生まれるのは確実。さらに、弾自体は小さいが今まで打ち出された数が数だ。視界が塞がれている現状では回避すら出来ない。

 いくら《獣走》で加速しても急に足を捕られると、その機動性は喪われる。ただでさえ低い智力が下がることも《獣走》の弊害でもある。その為、既に二足での移動も取り入れている。そしてプールゴーレムの足元は泥弾の影響が及んでいない事に気が付けた。ただ、直接攻撃や吸収などを避けなければいけないけど。


「つ……《つむじ風》!」


 ソロなので援護は当然ない。その為スタミナの消費は止まらない。獣人はスタミナも多いらしいが、流石に空腹域を越えている。

 もはや時間との勝負。先に倒さなければ、僕が殺されるかスタミナが尽きて過労死するか。

 料理にはスタミナ回復効果もあるみたいだけど、借金のある僕は購入していない。そもそも食べる時間もないしね。ただ、水薬と井戸水でお腹は重たい。でも、これじゃ空腹感もスタミナも変わらない。


「予備もあと僅かなのに」


 自分用は全て使い、納品用の予備に取ってある軟膏も後僅か。それなのにプールゴーレムのLFはあと一割弱もある。


「だけど、ここまで来たら諦めれない」


 アイテムはまた補充したら良いだけ。

 いかに早く取り巻きを倒して強化をさせないか。そしてボスを倒すか。僕のスタミナもが尽きる前に決着を付ける方法はもうないのか。

 どう考えても思い付かない。火力のない獣系と僅かな《格闘》と魔術。この戦いで魔術レベルは上がったけど、智力が低い為に決定力に欠ける。やっぱり地道に削るしかないかな。最近は戦闘系技能を伸ばさず軟膏作りばかりだったのが悔やまれる。

 まあ、借金あるし金策に走るのは仕方ないか。漸く軌道に乗って、納品も増やせばすぐに借金がなくなる目処が建っているんだし。


「こんな所で負けれないねっ」


 デスペナで活動時間が削れるのはゴメンだ。ここは何としても勝たないと。本当にどちらが先に倒れるかの勝負なのに、お金の事を考えるなんて。自嘲の笑みが漏れてしまった。


「あと一割!勝負だよっ!」



     ***



「………………」


 装備を整えるのもダルく、僕はボス部屋で大の字で寝転がっている。

 辛うじて勝てた。回復アイテムは【LiLiの薬軟膏】が一個と井戸水が僅かばかり。スタミナも残り一割だけ。空腹の為、インベントリを漁り【蜜蝋の樹】を見付けてしゃぶっている。

 仄かな甘みが咥内に広がるけども、嗜好品に入るからかスタミナの回復には至らない。時間経過でMSやスタミナは回復するけど、空腹域まで突入したらいくらスタミナが回復しても何も食べなければ餓死するシステムが地味に死の到来を告げてくる。まあ、空腹から二十四時間猶予あるみたいけど、そんなに我慢も出来ない。


「何か食べないと……」


 脳の負荷による倦怠感もあるなか、インベントリを再度探して【シンラッタ肉】や【グリースネーク肉】、【平原キノコ】や【ビーの幼虫】など食材アイテムに分類される物があったけど、調理前の素材だ。これでスタミナが回復するか不明だけど、流石に食べたら負けじゃないかな。


「…………えーい!」


 ここじゃ調理も出来ない。空腹域になってからどれくらいで餓死になるかは不明だけど、お腹の感じからそろそろヤバイ。グーグー音がなるお腹の演出は要らないと思うけど、これが警告音の役割みたい。

 せっかくボスに勝てたのに餓死は嫌なので、意を決して【平原キノコ】にかぶり付く。毒茸じゃないことは《鑑定》で解っているけど、インベントリの中には毒茸もある。


「草っぽい……」


 肉厚の草を食べている感じだけど、僅かにスタミナが回復した様に思える。時間経過の回復かと思ったが、キノコを全て食べきると素材でも微々たる量だけど回復しているのを実感する。でも、グーグーとお腹は鳴る。


「生肉大丈夫かな……」


 肉二種に悩むけど、もうキノコは食べたんだ。


「大丈夫だよっ、死にはしない!」


 食べないと死ぬなら、試して見るだけ。

 【シンラッタ肉】はやや筋っぽく、【グリースネーク肉】はやや固いも鶏肉の感じでもある。

 だけど、どちらも獣臭くて鉄味。なに、この再現。しかし、キノコよりは回復しているみたい。


「んぐんっ、技能?《肉食》って」


 軟膏素材のグリースネークとこの廃坑に出るシンラッタ。どちらもキノコより量があったので食べていたら変な技能を修得してしまった。


 《肉食》:肉素材及び肉料理摂取によりスタミナの回復量上昇(小)。また、料理効果5%上昇。


「どうせなら、もっと早く欲しかったよ」


 なんせ残り【グリースネーク肉】が二個しかない。でも本当に回復量は微々たる物だ。素材だけじゃ、まだ一割も回復してないんじゃないかな。

 グーグー音がグー音になった。空腹はやや軽減したけど、まだ空腹には変わりない。


「でも、流石に幼虫は……」


 グー。生肉も最後は気にせず食べれたけど技能効果かな。でも、幼虫は肉?それよりも、この幼虫は動いているんだよね。


「……………はうっ!」


 摘まむのも嫌なだけど、もうここまで来たら今さらと眼を閉じて一匹。

 プチっ。


「うっ……あまい?」


 イクラが潰れた感触と、中からトロッと溢れる舌触り。あまり味わいたく無かったけど、舌に広がった味は濃厚なコクと甘み。

 気が付いたら完食してました。


 《野生》:素材摂取によるスタミナ回復量上昇(中)。


 また新たな技能が手に入った。だけど、幼虫の数が少なかったからか完全に空腹は無くならない。


「もうここまで来たら行くとこまで行こう」


 変な覚悟が固まり、インベントリの毒茸や直痺草(ちょくひそう)など毒食材と言うより薬素材も食べる。うん、毒は《応急手当》でLFダメージの対処出来る。素材だからいいけど麻痺はピリピリするね。

 お陰で技能《悪喰》を修得し、階位【雑食】を授かった。


 《悪喰》:毒効果半減及び回復速度二倍。

 【雑食】:毒性素材及び毒料理摂取に於いて毒性効果無効。および、プラス効果10%上昇。



 とんでもない階位が手に入った。毒食材でもスタミナの回復はして、辛うじて餓死は免れた。

 これで駄目なら軟膏や水薬の素材まで食べていたかもしれない。


「ふぅ……餓死回復したし、あとは原因調査かな」


 漸く落ち着いたお腹を擦りながら立ち上がる。ここで未だに裸だったことを思い出して装備を身につける。


「何ヵ所かポイントも見れるし掘りながら探そう」


 木箱の中身は復活してなかったけど、《採掘》ポイントは少ないながら復活している。

 僕の身長より高い場所は泣く泣く諦めるが、四ヶ所の《採掘》には成功した。【紅水晶】一個出たのは嬉しいが、残りは【炭石】と残念な結果となった。

 そんな中、中央の壁に色の違うポイントがあった。僕の膝くらいの低さだったので以前は見逃していたのかもしれない。


「これかな?」


 軽く【ピッケル】で掘るだけで簡単に採れた。それを《鑑定》して目的の物だと確信する。


 【石人の産核】という、長い年月を掛けて大地の力が蓄えられて形成されるもので、これがある限りゴーレムが発生するみたい。ゴーレムの種類はその土地によって違うみたいだけど、掘り出せばゴーレムは生まれない。すでに存在するゴーレムは消えないと《鑑定》で出てくる。


「間違いないみたいだし、早く持って行って今日はもう帰ろう」


 システムのスタミナは回復していっているものの、精神的な疲労が感じられるので今日は報告してリアルに帰ろう。

 疲れたけども帰り道に邪魔するモブは倒していく。ゴーレム一掃しないといけないのかもしれないけど、今は報告する為に迷いながらも出口に辿り着く。うん、マップ機能欲しいです。


「ただいま」

「お、どんな感じだった?」


 炭鉱長に【石人の産核】を手渡す。まだ名前思い出せない。周りの鉱夫からは炭鉱長や監督としか言われてないしね。


「これは、確かに。発生源はこれで間違いないだろう。壊さずに掘ってくれたのか」

「うん」


 あれ、壊してよかったっけ?調査だけだったはずだし、持って来なくても良かった?かなり放置してたから、細かい内容忘れちゃった。クエストメニューには簡潔にしか書いてないしなー。


「これは買い取らせて貰っていいか?」

「いいけど、何かに使えるの? 」

「ああ。魔石は非常に高い属性効果をもたらせてくれるんだ。これはそこまで大きくないから二万リゼでどうだ?」


 二万!高いね。でも、僕は相場が判らない。


「相場が判らないんだけど」

「ああ、大きいものは十万以上するな。これは中より小さいから二万前後だな」


 手でサッカーボールくらいが大きい物だと教えて貰う。それを考えると、これは手のひらより少し大きいくらい。


「あとは土の魔石だからな。こう言う場所なら稀に出るから安いな。火と水の魔石に比べたら半額くらいだ


 火は火口付近や溶岩が固まった中から出るらしく、水は海や湖に川等から見つかる。その二種類の魔石は生活の中でも有用なのと、見つけるのが大変だから最低でも土の魔石の倍はするらしい。

 土の魔石は洞窟や炭鉱などで見つかる事が多いので、火と水よりも数は多いらしい。大きい物は家や砦などの強化に用いられるが、小さいものだと武器や防具に流用するくらいなので活用の幅が少ないのも安い理由とのこと。

 あとは風の魔石があるが、これは高山や強風吹き荒れる谷底など一番探すのがむずかしく、かつ魔石自体の量も少ないとの事で希少価値で土の魔石の十倍は最低するらしい。用途は通気くらいだけど、もとよりそんな構造の建物は作らない。様はコレクターアイテムでしかないみたい。


「そうなんだ」


 お金は稼げそうだけど、魔石はこれから手に入ったら持っておこうかな。今はお金必要だし、売っちゃお。


「なら、二万でいいよ」

「そうか、ありがとな。あとは、依頼の報酬か」


 魔石二万と調査で一万。


「あとは廃坑がまた使える様になったら、採掘権を渡す」

「え、いいの?」

「ああ、このまんま廃坑になっているよりいい。ただ、あんまり掘りすぎるのは止めて欲しいがな。出来れば、そのままこちらに売ってくれればより助かる」

「うん、解ったよ」


 これであの廃坑が整備され、再び鉱夫達が働く様になったら採掘しても問題なくなった。


「最後に、廃坑のゴーレムの一掃を依頼してもいいか?」

「いいよ。でも、今日は疲れたから明日以降でいいかな?」

「問題ない。核が取り除かれたから、追加で溢れる事はないからな」

「うん。じゃ、今日はもう帰って休んでいいかな?」

「ゆっくり休んでくれ」


 そうして廃坑に関しては一掃のクエストが新規で追加され、僕はリアルへと帰った。

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