表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
生産と借金生活、時々メイン
46/123

廃坑の主

 翌日、学校が終わり一通りの日課を済ませて『プリハ』へとやって来る。

 事前にオリヒメがログインしているか確認をして、不在なのを確めてボス部屋へ向かう。


「視察してから、もう一回オリヒメがいるか見ないと」


 ソロでは苦戦必須。いや、前回と同じ構成だとしたら勝ち目はないと思う。


「クエストで内容変わるのかな?」


 何段階に渡ってポップする取り巻きと、ボスのステンレスゴーレムのことを思い出す。うん、やっぱりあれだと無理だね。


「到着。えーと、ポップは……あ、マッドゴーレムのみ?」


 ボス部屋には事前にポップしている場合と、中まで入ってからポップする場合。あとは何らかのアクションを挟んでポップする事があるとのこと。

 今回は事前ポップらしく、それだけで前回と違うことが伺える。


「えっとオリヒメは……やっぱりいないかー」


 マッドゴーレムだけとは思えないけど、とりあえずチャレンジしてみようかな?始めからポップしている場合はまだ弱い部類みたいとも書いてあったし。比較対象が少ないので完全に信用はできないが、マッドゴーレムだけだとしたら挑まない手はない。


「とりあえず、最高火力で行ってみよっと」


 油断するつもりはない。《獣化》は魔術使用不可になるようだけど、慣れる意味合いと共にマッドゴーレムだけならなんとかなるのはここに来る過程で理解している。獣系技能と階位をフルに使う。ほんと、短剣の機会が減っているよ。


 斬撃と刺突系の《クロー》、刺突系ファング打撃系ヘッド、防御と打撃の《テール》と《格闘》が僕の武器。そこに《獣走》と《獣化》で攻撃と回避の強化技能。そして、階位をフル活用する。


 階位【闘犬】:獣系技能の強化。これは常に恩恵を受けている。これを授かる前後で1.5倍差の体感があった。強化や補正など細かい数値は明らかになっていないことが多いが、なんとなくで理解できるのは脳派とリンクする為だろうか。

 階位【ドジっ子】:運5付与し、初回時に修得技能のいずれか一つに特殊マイナス補正。これは不名誉な階位だね。運上昇は嬉しいが、特殊マイナス補正が不穏。いまだにどれが対象になったのか不明なので、あまり使っていない技能だと思われる。

 階位【ヌーディスト】:全装備(ファッション含む)解除中、全ステータス2.5倍上昇。ただし、異常状態耐性減少。不名誉階位二つ目。使い場所に困るけど、その恩恵はとてつもないので人がいない遠方や生産時にはかなり活用している。

 階位【なんでも屋】:全生産技能の成功率及び熟練度3%上昇。うん、現在かなりお世話になっている。これがなかったら軟膏作りがもっと苦戦する事態になっていたと思う。

 階位【初級薬師】:製薬技能の成功率及び熟練度1%上昇。軟膏制作生活で授かった地味な効果。だけど、水薬の成功率が上がったのはこれを授かってからなので、やはり地味に活躍中。


「最後の二つは生産向けだよね」


 そう言いながら、装備を次々に解除して一糸纏わない姿へとなる。ソロじゃないと出来ないことだ。

 ボス部屋と言うことで、強化されたマッドゴーレムの群れか、他にもいる可能性があるので強化しても損はない。むしろ保険が足りないかもしれない。


「軟膏も水薬もまだ少し残ってるね」


 裸と言っても貴重品アイテムであるショルダーバッグ型【使い古しの鞄】とランドセル型【大容量革鞄】、そして愛用の【水筒】は階位に影響がないので解除していない。その鞄に入った自作回復薬の数を確認して、準備を終える。


「よし、ごー!」


 自ら気合いを入れて《獣走》でボス部屋へ突入し、近くのマッドゴーレムに斬り掛かる。

 突然の闖入者に一体が融合すら出来ない程に斬り刻まれて残骸が転がっている。消滅も融合もしないことに違和感が残ったが、次の得物へと爪を振るう。


「感覚はなんとなく覚えてるけど、まだ無理なのかな」


 《獣化》が発動しない。予想外の事態だったが、各種ブーストでマッドゴーレムをなんとか物理で倒す事は出来ている。


「まだまだ集中。んん、集中じゃ甘いのかな」


 昨日はどうしていたっけ。試合の様に集中して、心を落ち着けて。意識すると、途端に難しくなってしまう。


「あと一体!」


 五体のマッドゴーレムもヒットアンドアウェイで四体減らすことが出来た。獣系技能が合計四倍とチート強化なのだから当然かもしれないが、ボス部屋なのに坑道と強さも大差ないお陰だと思う。

 残り一体と言う所で、簡単には終わらない。消滅せず転がっていたマッドゴーレムの残骸が最後の一体へと集まり、その体積を増やし四本の腕が形成された。体長も優に僕の三倍以上。

 さらに二体のアイアンゴーレムと、始めてみる黒いゴーレムが三体。


「コールゴーレム?」


 英語が得意ではないので聞いたことがない単語に造語かなと思うが、意味は石炭。この炭鉱街を体言したようなゴーレムだった。


「モロッ!」


 警戒しながら、様子見で数回攻撃しただけで灰を撒き散らして倒れていく。


「アイアンゴーレムは後回しで、コールゴーレムが先かな」


 マッドゴーレムのより集まってプールゴーレム。こちらも物理どころか魔術の効きも悪いので後回し。四本の腕から飛ばされる泥弾で遠距離攻撃が増えたので攻撃タイミングが変わったのもある。


「コール三体を速攻しなきゃ」


 こちらは接近攻撃のみ。他二種類よりも素早いが、僕よりは断然遅い。ただ、二体目を消滅して解った特殊効果。視界が暗い。


「スモッグ発生なんて、今までいなかったのに」


 消滅の際に灰を撒き散らしていたのは、このスモッグの置き土産だったみたい。《夜目》があるにも関わらず、微粒の灰が大気に巻き上がり物理的に視界を狭めてきて、技能の効果が弱い。

 《夜目》は夜や洞窟など光が入らない場所で効果を発揮する。しかし、スモッグにはそれが反映されないみたい。

 視界が狭い上に、ゴーレムには臭いがない。

 《聴覚強化》と《気配察知》によって位置は判るものの、視覚で確認する時に比べて殲滅速度が落ちている。

 コールゴーレムの討伐は楽なものの、体感で三十秒するかどうかで新たに三体が湧き出てくる。


「先にアイアンゴーレム」


 しかしこれは悪手だった。アイアンゴーレムを倒している間にスモッグが晴れると思っていたのに、自爆して広範囲に灰を撒き散らしてくる。

 《つむじ風》で一時的に晴らすも、すぐに灰がこちらにやって来る。おまけに、自爆した場合は間隔を置かずに追加されていく。三体が上限なのか、それ以上は増えないけどスモッグ発生装置なコールゴーレムの存在意味がそれしかないように思える。


「でもアイアン先だよね」


 耳を澄ませて、気配を探り攻撃を繰り出す。

 自然と集中していく環境に、皮肉にも《獣化》へと意識は昇華されていく。


「ぐるぅ」


 意識の片隅で魔術が使えなくなったと思いながらも、先鋭化した聴覚がゴーレムの位置を捉える。そして力任せにアイアンゴーレムの一体を沈める頃には、ゴーレムの種類によって音が違う事に気付く。

 本来なら判らないような音の違いだが、いまはハッキリと区別出来る。これで選んで攻撃が行える。

 もはや眼を閉じて、アイアンゴーレムに向けて《突進》からの《スラッシュ》のコンボを行っていく。無機質だからか、毒が通用しないのが痛い。


「があぁぁ!」


 《威嚇》も他のモブよりも効果が薄い。それでも、僅かな硬直時間に接近して攻撃を加えてアイアンゴーレムを倒しきる。

 次にどんな変化があるか解らない。視界を閉ざしているので、アイアンゴーレムの残骸があるかも確認出来ない。適宜自爆してスモッグを維持しているので、眼を開けても確認は出来ないだろう。むしろ、スモッグが濃くなっている可能性の方が高いのだから。


「…………」


 プールゴーレムに攻撃を加えようとして、音が変わる。先程のプールゴーレムの動作音に金属音が混じった様な。

 接近して、一度眼を開けてみるとアイアンゴーレムが吸収されていっていた。案の定、視界はさらに悪くなっていたので事実を確認して眼を閉じる。

 さて、どうしようか。防御力は上がったと思われる。

 思案していると、マッドゴーレムとアイアンゴーレムが一体ずつ追加された。

 時間経過で増えてくるみたい。時間を掛ける程に不利になるみたいだと思い、とりあえずプールゴーレムの直近にいたコールゴーレム二体を倒して、プールゴーレムへと爪を振り上げる。

 弱いながらコールゴーレムの攻撃も邪魔だったけど、吸収されない様なので安心する。

 振るった爪撃は金属音と共に弾かれた。体内でアイアンゴーレムの残骸を動かしているのか、性質を変えているのか不明。ただ、やりにくくなったのは確か。

 攻撃は通るものの、ボスと言える能力を持っていた。

 ていうより、これって俗に言うスライムの特性じゃないの?そう言えば、スライム見てないや。


「がうっ!」


 ボスとの戦いにマッドとアイアンの横槍が入り、そちらを仕留めると呆気なく吸収され強化するプールゴーレム。

 これ、どうしたら良いの?

 倒したらボスを強化する。倒さないと時間経過でモブの数は増えて、数の暴力を受ける。スモッグ発生装置なコールゴーレムみたいに上限があるとは思わない方が良いよね。

 一番良いのはボスを倒す事なのだけど、火力の低い僕には相当の時間が掛かる。その間に溢れたゴーレムたちに蹂躙される可能性が高い。


「いや、まだ試してないよね」


 あえて《獣化》を解く。物理でダメなら魔術でゴリ押し。

 《獣化》を解いたことにより、それぞれの音が判らなくなると思ったけどそんなことはなかった。きっと新しい技能を修得したのだろう。あの状態だと、インフォメーションに気付かないんだよね。

 設定で修得の旨を眼前に現れるようには出来るけど、そんな戦闘の邪魔になる設定はもうプレイヤーはしていない。各自、簡易ログにだけ記載される様にしているか、インフォメーション音のみ有効にしているかのどちらか。僕は簡易ログには記録が残るようにはしているので、流れ過ぎなければ後で確認出来る。もっとも、技能一覧を見た方が早いのだけど。


「さーて、《つむじ風》!」


 ここからが第二ラウンドだ。ソロでやれるだけやってやるよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ