友人たちの進捗具合
「よっ、ユーリ」
「久しぶり」
「うん、おじゃましまーす」
五月五日、ゴールデンウィークも後半。今年は五日が土曜日にあたるので、一日休みも多いのは嬉しい。ただ、僕としてはゲーム三昧でなんだかなと言う連休に自分でも思う。楽しいんだから、仕方ないよね。
「ユーリ、さらに女っぽくなってないか?」
「そうかな?」
樹の部屋に向かう途中で僕を見て樹が話し、同じく玄関まで出迎えてくれた満光が頷く。
「服、それ女物だろ」
「あと髪伸びてないか?」
そう言えば、最近美容院に行っても整えるくらいしかしてないかも。
「髪は伸びてるかも。あと、これ別にレディースじゃないよ?」
デザインが女性寄りかもしれないけど、ユニセックス。ゲームや桜たちの影響でレディースに抵抗が無くなってきているのは秘密。
「そうか?ま、ユーリはユーリか」
「女の子みたいなのは今さらだし」
「う、うん?」
友人たちが嬉しい事を言ってくれているのか不明だけど、あんまり差別的に見られないのは小学校からの教育のお陰か。それでも、この友人たちは変わらずに接してくれて好きだね。
「そんなことより、さっそく見るのか?」
「見るだけだと面白くないと思うけどなー」
今日も人間領での様子を録画した物を交えなかがら雑談して過ごす。
テーブルに出されたチップスを食べながら、樹からオレンジジュースを貰う。二人はコーラだけど、炭酸が苦手な僕に気を利かせてくれる所も好きな部分だ。
「ほら、再生すんぞ」
「うん、お願い」
「ユーリ、獣人領の見せてくれるのか?」
「後でね」
樹が機材を弄って戻ってくる前に、満光からの催促に答える。
今までは機材が壊れてと言って僕が映る可能性があった録画は避けてきていた。だけど、肩越し視点なら基本映らない。たまに髪が映るけど、リアルの僕よりやや長いくらいなので許容範囲。問題は音声だったけど、それもオリヒメからミュート設定のことを聞いてクリア。僕の名前だけじゃなく、『LiLi』って名前が樹に知られる訳にはいけないしね。
「お、ユーリ。ようやく獣人領の撮影してくれたか」
僕らの話を聞いて、樹も興味を示す。
ネットには観光スレッドにおいて有志が動画を投稿している。だけど、二人が興味があるのは観光ではない。
樹は言わずも、各領のロリ。満光は装備や戦闘の仕方。あと、お姉さん。
二人が心配です。
「とりあえず俺らの領だな」
僕は定期的に考察様に録画しているものを見せて貰うだけなので、内容は色んなのを見られて楽しい。
「で、今いる奴らはユーリも見たことあるだろ」
「うん」
「で、次に……ああ、こいつら。十人でギルド作る予定だ」
「こっちは最近入れないこともあって悪いけどね」
樹の見せてくれたメンバーは男性ばかり。その中に満光の『glow』も映っている。
「なに、友人省くなんてあり得ないだろ。他の奴も良いって言ってくれてるしな」
「だけどな。部活がハードでこれからさらに入れなくなってくると思うけど。もうレベル差も5は開いてたはずだし」
テニスの実力校に進学した満光は部活疲れでログインが減ったとぼやいているが、充実感も抱いているみたい。このゴールデンウィークには試合もあったけど、最終二日は休養期間として休みだと説明してくれた。
「満光、今何レベルだったか?」
「34だったはず」
「俺が38でメンバーで高いのが40だし、まあ大丈夫だろ。レベル上がりにくくなってるしな」
現在の僕がレベル32だと考えると、かなり差が開いている。ただ、最近は軟膏素材集めで生長していない。
そう考えると満光もレベルは上だが、メイン進行度をみると当たり前だと思える。メイン4が現在推奨レベル37だと言われている。ソロでの推奨レベルがまだある以上、パーティーで進めている二人ならもっと効率良く進められる。それを考えれば、満光のレベルは充分だと言える。
「ギルド作るなら、もっと良い奴いるはずだけどね」
「レベル低くっても文句ないって。リアル優先って言ってるんだし、俺たち以外社会人て話だろ」
「まあ、邪魔になったら切ってもいいしな」
「ああ、そんときは相談するわ」
二人でギルドについての会話をしている。画面の中では、建設中の橋が両生類みたいなモブに占領され、それの排除を十人で行っていた。橋の向こうは草原なので獣人領かな。
「えと、ギルドの作り方分かったの?」
「なんだ、知らなかったか?」
ギルドの情報が集まってきているのは知っているけど、興味がないので詳しく知らないと答える。
「攻略とギルドスレッドに公開されたぞ」
満光がスレッドを開いて見せてくれた。
ギルド設立には以下の条件が必要みたい。
・メインクエスト4をクリア。
・ギルドメンバーは最低八人用意。(初期ギルドメンバー上限十五名)
・メインクリア後、チュートリアルNPCよりギルドについて話を聞く。
・指定ミニダンジョンでそれぞれ貴重品【○○の理】を一個奉納し【団証の守】を受けとる。(ギルドメンバーで特殊パーティー結成)
・チュートリアルNPCに【団証の守】を渡し【団証の旗】を入手。(パーティーリーダーの貴重品に入る)
・ギルド紋とギルド名を【団証の旗】に登録して、ギルド設立完了。
※特殊パーティーのリーダーがそのままギルドマスターに就任。特殊パーティーのリーダーは一人二回までの制限があると説明される。また、ギルドホーム的なのは拠点購入後、所有者をギルドにする必要があると説明あり。
「リーダー上限は作っては潰すって行為の対策だろうな」
「理はアップデートで導入したアイテムだね。これでガチャも出来たから、他にも用途はあるかもね」
アップデートで配布されたアイテムは一人ずつ個数が違って議論が上がった。ただし、現在は入手方法が一部判明したことで反発はない。クエストクリアで【○○の欠片】が手に入るので、アップデート前のクリア数も反映していると予想されている。
また、メインクエストや一部クエストでは【理】が手に入る。【欠片】十個で【理】一個になり、ガチャ一回も【理】一個を消費する。
このアイテムは各領で名前が違うようで、人間領では【繁栄の理】が、獣人領では【生命の理】。エルフ領は【叡智の理】で小人領は【創造の理】となっていた。
「明日ギルド作る予定なんだ」
「ゴールデンウィークでも、社会人だと仕事あるみたいでね。明日の夜じゃないと揃わない感じだしね」
「そなんだ。樹がギルマス?」
「んなわけないだろ。社会人のシャチクさんがギルマスで……ギルド名が『リベラシオン』」
「フランス語で開放って意味らしい。シャチク……社畜さんとか皆が何を望んでいるのか痛いほど伝わるよな」
「なんで俺ら、ここに入るんだっけ」
樹が遠い目をする。社会人に混じって学生が二人。青春だとか、出会いだとか羨ましがられるみたい。
「みんな良い人だし、年齢も二十代で話も合うからだったろ」
「パーティー組んで長いのもあるが、こうギルド名とかな。なんか場違い感が強いんだよ」
「確かに」
二人で溜め息を吐く。ソロでよかったー。
「そろそろ終わるな。ユーリ、準備」
「うん、これだよ」
結局話ばかりで録画をあまり見ることはなかった。
「んじゃ、再生するぞ」
「おう」
「う、うん」
映しだされるのは、首都『アルナード』。そこを行き交うプレイヤーと住人たち。時折画面に入り込む橙色の髪。
「プレイヤーやっぱ少ないな。でも、女性の割合は多いな」
女性にまっさきに興味を示す樹。
「この髪がユーリか?あっちでも同じくらいか?」
「向こうのほうが少し長いかな?」
僕の髪に興味を表す満光。まだ僕の名前や姿は教えてないので、興味あるのだと思う。
「なんで無音なんだ?」
「えーと、プライバシー保護?」
嘘じゃない。僕を守る為には必要な措置なんだから。
「で、さっきから映ってるこの女性は?」
「前に話した危ない性格の人だよ」
ミュート設定を聞くに辺りに、オリヒメが興味を示して僕に会いに来ていた。同じ趣味の樹ではなく、お姉さん好きの満光が興味を持ったみたい。
「今度会いたいけど、領が違うなんて」
女性プレイヤーが多いのは人気領を二分している人間領よりもエルフ領のほうが多い。だけど、所属領の人口割合からして獣人領よりも出会いが少なくなるのは仕方がないのが現状。
「お、この娘は‼」
「たぶん、僕よりも年齢上だよ」
分からないけどそうやって予防線を張る。画面にはヴィーナスがオリヒメと入れ替わって映っている。
なんでこう言う時に限って知人に会うのだろうか。
「なあ、ユーリ」
「なに、かな」
「なんで女性とばっか知り合いなんだよ!」
「お姉さんも知り合いなんて、なんて羨ましいんだ」
その後も入れ替わりに知り合いだったり、向こうが知っているだけだったりと近付いてくるのは女性プレイヤーばかり。いくら変装していても気付く人は気付く。特に女性プレイヤーには気付かれやすい。
プレイヤー以外にも、知り合いの獣人のお姉さんや子供たち。お婆さんなど女性がこの日には大挙して遭遇。ミュートにしていて本当に良かった。
「ユーリ、なんなんだ?」
「この女たらし」
「う……」
「まあ、どうせユーリのこと女と思って近付いてきただけだろうがな」
「アバは自動作成だったはず。でも、女顔は人間領にもいたし」
「満光も童顔アバだしな」
満光が不満あるかの様にやや顰める。
「とりあえず、次はフィールドだよ」
僕自身はメインを進めてないのであまり参考にはならないと思いながらも、満光の要望で戦闘の様子も録画している。もちろん肩越し視点。
日を改めての撮影にもオリヒメが協力してくれた。ロックタートルよりも弱いが、ファイアリザードのレアドロップも兼ねての戦闘風景。
「他の奴らもだけど、クロー使ってるのはユーリのみか?」
「不遇武器だしね。それより、なんで映像がこんな低視点なんだ?」
「あは、あはは」
《獣走》での戦闘に慣れすぎて、録画しているこを忘れて技能発動したままの戦闘風景に当然疑問に思われた。
「えと、身長低くて……」
「ユーリの身長から引いてもこれは低すぎだろ 」
「下アングルが樹が好きだと思って」
「俺をなんだと思ってる」
「ひひゃあ、ひつひ、はひゃして」
「それに、かなり速いしね」
満光は冷静に観察するだけあって、知っている技能や獣人のステータス補正を口にしていく。
その間も、僕の頬は色んな形に変わる。痛いよっ。
「ユーリ、言えない技能使ってるのか?」
「はん」
「樹、そろそろ放してやったら?」
「ああ堪能したしな」
遊んでたの!? 堪能って!
「で、言えない?」
「うん。ちょっと秘密。でも、たぶん獣人特有だよ」
「種族で取得できる技能の違いはかなり解ってきてるが、獣人はさらに細かいよな」
「それぞれの動物にちなんだ技能もあるみたいな噂も流れてたね」
「えーと、そうなのかな。……そうなのかも?」
じゃないと、昨日修得したのが水泳じゃなくて《犬掻き》だったのも説明出来ないよね。
「それでも、ユーリが他の獣人プレイヤーと違うのは分かった」
「ユーリはやっぱりドMだよね」
「うっ」
ファイアリザードに勝利した後、転んでしまった僕を録画中と知っているオリヒメが面白がって踏む真似をしている。僕は下からそれを撮影してしまった。ただ見ただけだと、変態的なアングル。しかし、転んだ時のカメラのブレなどから樹たちも故意に撮影しているとは思ってないのが幸いだった。
でも、次のオリヒメの行動でドMなんて言われた。踏まれる行為でそう思えるけど、満光が「羨ましい」なんて言うなんて思わなかった。お姉さんに虐げられたいのかな?満光の人格も残念なのだろうか心配になった。
「で、次が生産か」
「これはよく分からないな」
「ああ、ギルドメンバーでも生産取った奴いたけど《鍛治》だしな」
そっか、人間領でもきちんと生産修得できるんだね。当たり前か。生産職以外にも、僕みたいに自分用だったり鑑定狙いだったりて何人か修得はしている。
だけど修得してみて分かったけど、単体での生産技能だと限界が近い事が分かった。
例えば、《製薬》に《料理》の《発酵》を使用したり、弓を製作するには《建築》の木工ジャンル技能と《裁縫》の《製糸》など複数の技能が絡まる。住人の職人は工房内で分担作業をしているが、プレイヤーは特化型になってきている傾向がある。
すでにこのアイテムはこのプレイヤーと言う口コミも出てきている。
まだ獣人領だと関係ないけどね。
獣人領にも生産職が現れ始めた。でも判明している生産職は四人。内、《製薬》職が僕だと認知されている。首都でも軟膏がプレイヤーに認知されたお陰だけど、僕以外が《鍛治》職 と偏りがある。それもガチ生産職ではない様で性能は低く値段が高い。鉱石の値段が高いので、失敗分を取り戻そうとしているのだと思う。それに比べたら、階位抜きでも素材が楽に手に入る《製薬》は嬉しいね。失敗も恐れる心配が少ないので、どんどん作れるからね。
「まだ三時か。なんかして遊ぶか?」
「いや、帰ってゲームする。ギルメンに迷惑掛けられないし」
満光は帰ってレベル上げに励むらしい。
「僕は……うん、僕も帰るかな」
宿題はもう少し残ってるし、在庫はあっても軟膏は作っていたほうが良いしね。そだ、おこずかい入ったし、VR版『アイ卵』買ってもいいかな。
とりあえず、宿題終わらせてゲームかな。
「そか。なら満光。家に着いたらメールくれ。レベル上げ手伝うわ」
「ああ、んじゃな」
「僕も帰るね」
「変質者に襲われるなよ」
「樹みたいなのそんなにいないよ」
「ほう、なら襲ってやるか」
「うん、ごめん。んじゃねっ!ばいばい」
樹の暗い笑みに慌てて逃げる。あ、ディスク忘れた。
「ユーリは樹と仲いいよな」
「うーん、小学生の時からの付き合いだから良いとは思うけど。でも、満光のことも好きだよ」
「好きって。はいはい、ユーリだしな。じゃ、またな」
「ユーリだしってなんだよー」
樹の家を出て、満光と少し話し別れる。
帰宅後、宿題とお風呂や食事をして『プリハ』に行くと、相変わらず素材集めと軟膏作りをしてストックを増やした。