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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
生産と借金生活、時々メイン
43/123

姉弟子と説教

 キンリーの家には何時振りに来ただろうか。


「チビか、まあ入んな」


 そんな素っ気ない反応の割りに僕の頭を撫で回すキンリーのツンデレっぷり。久しぶりの再会でいきなり骨抜きにならない様に気を確り保ち、挨拶を交わしてから奥の工房へと向かう。


「師匠、お客さまですか?」


 工房には白い狐の獣人が高炉の前より、視線だけを此方に向けてまた火に視線を戻した。僕には気付かなかった様子。


「あんたと同じ弟子だよ」

「あっ、前に話していた二番弟子ですか‼」

「余所見しない」

「はいっ」


 狐のお姉さんはそれでも気になるのか、僕をチラチラと見てくる。


「僕って二番弟子だったの?」


 今まで見たことが無かった兄弟子。いや、姉弟子って言うのかな?ただの狐ではなく、尻尾が二本ある。


「言わなかったかい?あんたより一年ほど先に来た変人さ」

「変人?」

「弟子にしてくれなんて奇特な奴なんか変人さ。あとは、アルク自身が鉱石収集が趣味の変人。チビが来ていた間は、砂漠地帯まで鉱石を探しに行ってたしね」


 かなり活発な人なのかな。それに、砂漠地帯って今のトッププレイヤーでも即死するほどの高レベルフィールドだったはず。


「アルクは特種な種族だって言ってたね。見た目は若いがあれで百年は生きていたらしいね。ただ、精神的には二十歳くらいにしか感じないけどね」

「師匠ー。年齢禁止ー。あと、溶けました」

「なら、少しは貫禄があってもいいんじゃないかい?…………この炉の高火力で辛うじて融解するくらいか」

「とりあえずコレクション以外の量が少ないので指輪にしちゃいますね」

「ああ」

「えと、何してるのかな?」


 何か実験しているようで気になるね。でも、年齢のことの方が知りたいんだけどね。


「アルクが砂漠に埋まっていた岩盤を見つけて採掘してきた物らしくてね、それの性質を調べてるのさ」

「キンリーも始めて見る鉱石?」

「鉱石の中の宝石含有量が多いからね。これだけで魔導具の性質を発揮する鉱石なんて始めてさ」


 ここで新素材の発見!とフラグが立ったと今までは思っていたけど、最近はプレイヤーが関わらないうちに事態が進む例もあるみたいだから、今日たまたま僕がこなくても新素材の検証は進んでいたと思われる。住人だって日々の生活を送っているのだから、不思議じゃないよね。だから僕の軟膏も売れているのだし。


「たまに変わった物や珍しい物を探してくるから、楽しみでもあるんだけどね。なにせ、中の年齢と趣味がね」


 はあと溜め息を吐く様子から、結構問題を起こしているのかな。キンリーはアルクにも子供に向ける視線を送っているから、面倒を見ている感覚なんだろうね。弟子ってだけじゃなく、先代と何か関係あるのかな?


「鉱石に関係するからか、飲み込みは早いんだけどね。それ以外ときたら……」

「師匠、出来ました‼やっぱり、魔導具の性質ありますよ。いちいち宝石嵌めないでもいいなんて、画期的で手抜きですね!」

「あんたは一言多いね!」


 あ、この流れはお仕置きのお尻叩きもあると思ったけど、そんなことは無かった。

 手抜きってマイナスイメージを追加した見も蓋もないことに対する説教だけで終わった。


「まったく、やり方だけ見れば手抜きかもしれないけどね。だけどこれは革命的なんだからね。これに宝石を取り付けるなり、合金にするなりでさらに性能を向上させられる可能性がある。合金が可能かはこれから検証なんだけど……もう実物がないかい」

「それなら、また取りに行きますよ。あ、でも今日はお風呂に入ってゆっくりしたいですねー」

「すぐにとは言わないさ」

「はいっ。じゃ、師匠も今からお風呂行きましょう。汗掻いちゃったし。妹ちゃんも行こう‼」


 妹ちゃん!?

 汗掻いたと言うわりに、いきなり僕に抱き付いてきた。顎で頭グリグリしないで、痛いよ。だけど、口が脂肪の塊によって防がれている。息苦しい。


「妹ちゃん、私妹いなかったから嬉しいよ」

「アルク、チビが息出来てないよ」

「大丈夫!?」

「わふぅ」


 大きく深呼吸し、なんとか呼吸を整える。なんか、暴走お姉さんって感じな人だね。窒息兵器の凶器所持だし、動向に注意しなきゃ。必死に空気を求めたからか、アルクの匂いは覚えることはできたけど。


「さてアルクも汗掻いてるし、この時間なら人は少ないだろうから、早速共同浴場に行こうかい」

「はい、師匠!」

「うん」


 来ていきなりお風呂に行くとは思わなかった。

 そして二人が準備して、移動しているのだけど……なぜかアルクに抱っこされながらの移動で恥ずかしい。


「んー、妹が出来て嬉しいよー」


 絶え間ない頬擦りに頬がすり減りそう。見た目は体力なさそうなのに、砂漠地帯まで行く能力があるから僕を抱っこして移動するくらい楽なのかな。でも、だからってこの移動は恥ずかしいよ。せめて手を繋ぐだけにしてほしい。


「アルク、あんまりはしゃぐんじゃないよ。チビが疲れるよ」

「はーい。ごめんねチビちゃん」


 キンリーのせいで、チビが名前だと勘違いしているし。


「着いたね。アルクは確り洗いな」

「分かってるよ。毛にも砂が入り込んでるし」


 帰ってきて、そのまま工房で検証してたのかな。アルクの性格から、してそうだね。


「あ、でも妹ちゃんを洗うのは私だからっ」

「はいはい。チビいい?」

「え、うん」


 普通に女性に洗って貰うのは恥ずかしいけど、すでに何回も色んな人に洗われてるし前ほど羞恥心を抱かなくなってきた。不味いかな。

 脱衣場で装備を全て解除してから、浴場へと足を踏み入れる。プレイヤーも含めて五人くらいしかいないから、かなりスペースが空いている。きっと五十人は余裕で入れる大きさの湯槽だ。


「チビも入る前にお湯で流してからね」

「分かってるよ」


 何度かキンリーと入っているけど、毎回そう言われる。うん、やっぱりお母さん的なのはキンリーだよね。


「確り砂落とさないとなー」


 僕らが掛け湯を浴びているうちに、アルクが洗身に向かった。


「チビは熱い方に入るんだったね」

「うん」


 獣人領の浴槽は二種類。一つはキンリーが向かった水風呂。もう一つはだいたい三十五度くらいのぬるいお風呂。熱いお湯が苦手らしいのは獣人通しての共通みたい。

 だけどプレイヤーはそんな温度には不満を感じる。そこでなのか、ぬるま湯と言っても温度の違いはある。そこは《建築》で知ったけど、原泉を出している箇所と水を出している箇所がある。お互いに近い場所に作られているので全体的にはぬるま湯だけど、もちろん原泉側は熱めとなっている。二人のプレイヤーもそこで固まっている。


「僕はあっちで入ってくるね」

「他に迷惑かけないように」

「はーい」


 ジャブジャブとお湯を掻き分けてプレイヤー二人の近くへ行く。名前を言わなければ、たぶんバレないしね。動画や実際に僕を見て、きちんと覚えてる人なんてそういないはず。


「こんにちはー」

「こんにちは。ん?リリちゃん?」


 バレないはずだったけど、バレていた。


「オリヒメが言っていた幼女?」


 そしてオリヒメの知り合いだった。


「僕のこと知ってるの?」

「オリヒメから聞いてるよ」

「私たちのギルドになかなか入らないって言ってたしね」

「ギルド?」


 そう言えば、ギルドメンバーが二人いるって言ってたね。この二人なのかな?うん、同じ猫科で片方は僕より少しあるくらいだからオリヒメの守備範囲だね。


「オリヒメがギルドマスターする予定のギルドメンバーなんだよ。まだ名前は決めてないけどね」

「私がレインで、お姉ちゃんがサンライトって名前だよ」


 お姉ちゃんのほうが小さいんだね。姉妹とも聞いていたはず。


「リリちゃん、ギルド入らない?」

「こらっ、無理な勧誘しないって決まりでしょ」

「でもこんな可愛いとオリヒメじゃなくても手に入れたいよっ」


 ギルド勧誘は困るけど、オリヒメの知り合いならフレンドくらいならいいかな。でも、妹のほうがオリヒメ系の性癖なんだね。気を付けた方がいいかな。


「ギルドは無理だけど、フレンドなら……」


 釘を刺されてるみたいだし、サンライトがしっかり者みたいだし大丈夫だよね。


「フレンドお願い!」


 僕がそう提案するなり抱き付いてくるレイン。流石に裸で抱き付かれるのは慣れない。それよりも、サンライトが何か指を動かしている。あれ、スクショ……ムービーかな。


「レイン可愛い」


 うん、僕じゃなく妹を撮影してるんだね。まさかのシスコンだった。


「チビちゃーん。おーい、妹ちゃーん」


 レインに抱き付かれながらもフレンド登録を済ませていると、アルクが僕を呼びながら近付いてくる。呼び名は気分によって変えるのかな。


「あ、いたいた。妹ちゃん、洗うよー」

「あ、うん。ちょっと待って」


 レインを引き剥がし、アルクの元へ向かう。レインが洗うのを手伝うと言ったけど、断った。なんか危険な感じがしたしね。


「さて、頭から順に洗うよー」

「お願いします」


 人を洗うのは初めてなのか、今までの人たちよりもぎこちない手つきながらも頭から足まで洗ってくれた。気持ちいいよりも、くすぐったくて何回も笑ってしまった。


「妹ちゃんは洗いやすい身体していていいねー」

「それって、小さいってこと?」


 僕は全体的に小さいけど、アルクとの一番の違いは胸。別になくてもいいもん。


「どうだろーねー」


 睨んだからか、話を反らされた。

 泡を流して、プレイヤー二人の元へ戻ってくる。


「妹ちゃんはこんな熱いお湯によく入れるねー」


 やはり獣人は熱いお湯が苦手みたい。


「なら、抱っこしなくても」

「やだよ。妹が出来たのに勿体ない」


 アルクが胡座をかいた上に僕を座らせて、頭に顎を乗せている。逃げないようにか、お腹に手を回してしっかりガードまでしている。熱いのなら辞めればいいのに。


「いいなー」


 レインが僕を見てそんなことを言っているが、僕らをみたサンライトによってレインも同じように姉に抱っこされていた。

 それから他愛もない話を五分はしていたけど、逆上せたのかそうそうにアルクが水風呂へと退避していった。


「んー、今なら泳げそう……」


 お風呂で泳ぐのは気持ちいいよね。たまに素材集めした後に首都の共同浴場へ行き、人が少ないと軽く泳いでいた。もちろんマナー違反だと思うけど、その時も獣人は水風呂にのみ入っていたからか怒られなかった。


「泳ぐのはダメですよ」

「う……」

「私も泳いでみたいかな」

「…………ちょっとだけなら」


 シスコンぶりを発揮し、レインをその(かいな)から解き放った。


「リリちゃん、向こうまで競争しよう」

「う、うん」


 いきなりの水泳競争を言われて慌てる。リアルの僕は泳げない。こっちでも、文字通りの犬掻きで楽しむだけだったから負ける要素しかない。だけど、頑張ってみようかな。


「お姉ちゃん、合図お願い」

「一回だけだからね」


 どれだけ妹に甘いんだろ。ダメと始めに言っていたのに。今もムービーを撮ってるね。指で角度調節とかズームとかしてるみたい。


「ready……go!」


 そして必死の犬掻き虚しく、すぐに引き離される。それでも手足を動かしていると《犬掻き》なる技能を修得した。ここは水泳じゃないの?


「あんたら何している!上がりなさいな!」


 響く怒声。お湯を掻く手を止めてみると、仁王立ちしたキンリーと一歩下がって立っているアルク。


「チビとそこのあんた、早く上がりなさいな」


 レインもどうしようか迷っているなか、僕は抵抗の無意味さを知っているので素直にお湯から上がる。サンライトはなおも撮影を続けている。


「私は始めに止めたからね」

「お姉ちゃんが逃げた」

「ほら、あんたも!」


 僕ら二人が並んでキンリーの前に立つ。


「座りなさい」


 固いタイルに正座はキツいけど、有無を言わせないキンリーの眼光。


「泳ぐなんて迷惑なことしたのは理解しているかい」

「はい」

「うん」

「たとえ誰もいなくても迷惑だと習わなかったかい?」

「えーと」

「どうだったかな」


 レインと視線を合わせる。習った?と聞く雰囲気に僕も首を傾げる。きっと、常識として考えられるけど習った記憶はないから、いざ聞かれると返答に困るのは一緒みたい。


「他人に迷惑だし、温度の調節も変わる。お湯も無駄に流れる。それに、泳いであんたらに何かあったらどうする?足を吊ったら?お湯を飲んだら?もし、溺れても誰もいなかったらどうするつもりかい?他にもあるけど、それは親に任せるさね。ただ、チビはあとできっちり教えるからね」

「はい」

「うん、分かったよ」


 また怒られるのかな。でも、今はこれで終わりかな。


「最後にどっちが先に泳いだ?それか誘ったんだい?」


 またお互いに視線を絡める。僕は泳ぎたいとは言ったけど、レインは競争を提案している。サンライトもなら同罪だと思うけど、ちゃっかり距離を取って撮影している。助けないの?


「どっちもかい。アルク、そっちの嬢ちゃんの仕置きを任せる。数は最低で五十。あとは、あんたの判断で辞めていい」

「はいっ、師匠!」

「チビ、こっちに」

「う、うん」


 僕はもう何をされるか理解出来たけど、レインは理解しきれていない。

 「ごめんね」とアルクにいきなり体勢を反られ驚いている。砂漠地帯にいく能力の持ち主には敵わないようで、なすがまま。


「アルクは力があるからね。きっと五十で辞めるかいね。力の弱い私は釣り合うように百はしないとね」

「ひゃ、百?」


 キンリーが話している間に、既にバチーン!と言う音と悲鳴が浴場に響いた。他の三人の獣人は割れ関せず、水風呂に入っている。

 

「チビ、加減はしないよ」


 そして僕のお尻叩きも始まり、二人の悲鳴がこだました。

 力の強いアルクと数の多いキンリー、どちらが良いかは不明。だけど、キンリーだって決して力が弱い訳じゃない。僕よりもレベルは高いのは予想できるしね。

 二人のお仕置き中も撮影をするサンライトが異常なのか、こんな姿すら愛せるシスコンぶりを称賛するべきか。

 二人して横になることも赦されず、土下座して三人の獣人に謝罪し赦して貰う。


「これに懲りたら、こんなことはしないことさね」

「はい」

「わかりましたー」

「さて、チビには説教の途中だったね」

「い、いまっ」

「なんだい、文句でもあるかい?」

「いえっ!」


 引き続き僕は正座で説教をされる羽目になった。巻き沿いを食らわないようにか、さっさと二人は出ていった。レインの足取りがふらついていたけど、サンライトが肩を貸して出ていく。


「身内の恥を矯正しないとね。アルク、チビに五十」

「はーい」

「え、またっ!」

「追加で十」

「はーいっ」

「えと、流石に冗談……」

「冗談かは、その身体で確認することさね。アルク、百」

「え、師匠……」

「アルク、手加減無用」

「は、はい」


 そして、地獄の始まり。もう、声すら出ないくらいに容赦がない百叩き。

 ゼメスに匹敵する威力でされるそれに意識を手放したのは言うまでもない。

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