金策の日々、初めての校外部活道
軟膏作りを終わった日にスレッドを回った結果、やはり小人領なら僕よりも効能が高いものがあるらしいことが解った。ただどんな効能かは書かれてなかったので、真偽の程は不明。でも、実際にあると思っている。
また店売りはあくまで初心者向けらしく、効能がよい物が出来たら住民の店にも卸す事ができるらしい。そしてここがミソなのか、武器と違って薬に自分の名前が付いていることがブランド化して信用性が増す。それがより多くのお店から注文が入り、値段も上がると言う形になっているらしい。しかし店売りに追われて、自分の好きな物を作れないというジレンマが発生するみたいなので、人気商品も考え物。
あとは僕が作ったクラスの品は運が良くて技能レベル3で、安定した製作にはレベル4が必要らしいので階位の恩恵が大きい事が分かった。
ファルの買い取り金額は、初回オリジナル品成功時に発生する報酬らしく、以降は地道に作る必要があるみたい。
「でもゼメスが定期的に買ってくれるみたいだし」
あのクエスト報酬では一回あたり三百五十リゼを受け取れたが、ファルから聞いたのかゼメスが【LiLiの薬軟膏】の販売を依頼してきた。一つ四百リゼもの値段を付けてくれたのには、LF50%回復が魅力だからとの事。すぐに回復しないけど、水薬との併用もできるので重宝するみたい。
同じく【LiLiの魔軟膏】が一つ六百で売れた。こちらはMS45%で時間もやや掛かるけど、店売りよりも効能が高い。名前付きなのでブランド化したけど、まだ店売りの話しは来ない。自分で売り込まないといけないのかな?ブランド化軟膏は別扱いなのでクエストで納品出来なかったから、見せてはない。
「でも、薬作りばっかりもなー」
稼げるからくりは分かった。あのクエストが金策向きなのは、《製剤》技能持ちにだけ分かるようにした結果だと思う。ブランド化してしまえば、稼ぎが安定してくるから。でも、規格品ばかりしか作らないと儲けはほぼない。そう言う意味では、生産職になる人は品質の追求をするので気付くようになっていた。
「頭金も払えたし、あと十二万ちょい……」
軟膏製作の翌日はオリヒメが助っ人に来てくれて、可能な限り素材集めに付き合ってくれた。
オリヒメが入手した素材までくれたけど、対価が三十分ハグと頭を撫でるだけで良かったのかは疑問。まあ、オリヒメらしい対価だけど変なことされなかったから心配。別にされたい訳じゃないよ?
それにオリヒメはすでに中学生くらいの姉妹とパーティーを組んでいるみたい。その三人でギルドを立ち上げるとか話してくれた。別に嫉妬じゃないよ?
「僕の軟膏も成功ばかりじゃないし、頑張って借金返済しなきゃ」
オリヒメに手伝って貰って二日が経ち、すでに棟梁に頭金を支払って契約をしたのだ。返済出来ずにお金だけ消えるのは嫌だ。別に購入に後悔はないけど、借金地獄なのが痛すぎる。装備の新調出来なくなったしね。
支払いは五万リゼごとじゃないと受け取ってくれないみたいなので、すぐに溜める必要があるのでやはり店売りも考えないといけないかもしれない。
「注目されるのは苦手だけど、仕方がないよね」
ブランド品は住民からプレイヤーに伝わっていく。この獣人領だと、まだブランド品は登場していないので注目されるのは目に見えている。
「でもやるしかないかー」
ゼメスに二十個納品して代金を受けとり、村の雑貨屋に交渉に行った。
手数料の5% を上乗せし、とりあえず十個を委託。二週間経っても売れなかったら、手数料分を支払わないといけないみたい。もちろん、軟膏も引き取りになる。
さらに出費が嵩む恐れを抱きながらログアウトして、この日は眠った。
***
四月二十七日金曜日。この日、始めて部活として訪問活動をする。
行き先は地元小学校傍の児童館。保育園と違い、小学生の方が多いので専ら遊ぶことになると説明された。体力勝負だ。
「一年は始めてだけど緊張しないでいいから」
「ちゃんと遊んで、ちゃんと注意して、しっかり楽しんで。子供たちとただ遊ぶだけじゃダメだから、解った?優理、瑞樹」
部長の皐月が優しく声を掛けてくれて、副部長のひなたが注意をしてくる。でも、なんで名指し?
「実習服は着たね」
「エプロン忘れてないかなー?」
二年のみどりが僕らの服装を確認し頷き、同じく二年の美夜がおどけながら僕らの荷物を確認。
でも着替えが部室なんて。先に僕が着替えて二人が入れ替わりに着替えたけど、なんで二人して一緒でも気にしないって言うかな。先輩たちは先に着替えていた。机には、部員全員の制服が畳まれて置かれている。ロッカー置くなら、色んな道具置くと説明された。
それぞれ購入したエプロンにはワッペンで名前と動物の型やリボンなどを装飾して持参してきている。
他には絵本や紙芝居なども一応持たされた。荷物運びは一年の担当と決まってはいないけど、進んで持つことにした。先輩に持たせるのは何だかね。名前呼びは慣れてきたけど、流石にこういうのは下級生がしたほうが良いよね。
「準備は出来ました?」
「はい」
そして一昨日始めて挨拶した顧問もここにはいる。やはり外部との接触は色々と責任が増えるので顧問同伴。
凛々しい表情と反してその姿は着ぐるみ。なんで、着ぐるみ?しかもすでに首下は白いヒヨコのようなものを着用していた。
飯田 美里。二年の副主任で社会科教師。年齢不明だけど、およそ三十半。独身。見た目は綺麗だけど、美夜によれば酒癖悪いと他の教師が話していたとか。性格も自堕落。築四十年のアパートに独り暮らしの独身。彼氏の気配もない独身。
「ユーリ、ちゃん」
「はひっ!」
「後で二人っきりでお話しましょう」
「えーと、あ、早く行きましょう。そうですよね、皐月さん」
「どうしよっかー」
なに、僕の心読んだの?皐月は黒い笑み浮かべてるし。
「指導は今度にして、今は行きましょう」
飯田先生がそう言うなり、ヒヨコの頭を被った。え、ここからそれで行くの?
「さて、私たちもエプロンを着けましょう」
先輩たちが次々に装着し、実習靴などを持ち準備を終える。どうやら、僕らもここで装備を整えて行くみたい。
準備が完了したら児童館に向けて出発。校内では生徒に、校外では歩行者たちの視線に晒されて恥ずかしい。それも僕の後ろ、最後尾を闊歩する白いヒヨコのせいだ。
「先生はどうして着ぐるみなんですか?」
「今はセッピーと呼んでピヨヨ」
え?いま、なんて?
「セッピーだピヨヨ!」
「セッピー?」
「ピヨッ!」
「………」
「…………、子供受けと、君たちの先生て設定で現実を直視しないためピヨー。あ、子供に夢を見せるためピヨッ!」
「はあ」
「テピッ!」
ポフッと頭を叩かれた。なんか、負のオーラが背後に見える。
「愛と夢と平和と愛の使者セッピー!」
「愛を二回言ってますよ。それに、使者なら自分の愛も他に渡すんじゃ」
「ピヨーッ!ピヨッピヨッ!」
「セッピー、静まって‼」
「ユーリ、セッピー追い込んじゃダメ!」
部長と副部長に取り押さえられ、宥めている間も着ぐるみからはフーフーと荒い息遣いが聴こえてくる。
「こーら。ダメでしょ、セッピー苛めちゃ」
「幾ら独身で愛に飢えているからって、そこを直接抉るのはダメー。やるなら、もう少しスマートにね」
「美夜。面白がらない」
「ごめーん」
「ユーリも」
「ごめんなさい」
僕となぜか美夜がセッピーに謝って、なんとか落ち着いた一行は児童館へと向かった。
「こんにちはー」
児童館の館長に挨拶して、それから遊戯室で子供たちに挨拶をする。
実習室で勉強中の子供の邪魔にならないように、そちらには挨拶を控える。
「セッピー!」
「ハロッピー!みんな元気にしてたっピヨ?」
低学年の子供は僕らの挨拶を無視してセッピーに群がった。そんなに人気なの?え、なに勝ち誇った顔でこっちを見てくるのかな?
上級生は数人いるようだけど、僕らのことを関係なく遊んでいる。男の子ばかりで恥ずかしとかかな。
中学年くらいが一番僕らに注目している。
「こんにちはー、今日はよろしく。いっぱい遊ばう」
セッピーを怒らせた罰で代表して挨拶をするはめになったけど、考えていなかったのだからこれくらいしか言えない。
「お姉ちゃん?」
「あ、ほんとだ」
僕の声が聞こえたのか、セッピーを囲む中から見知った女の子が二人こちらを振り返った。
「ゆりちゃんに、みわちゃん」
「やっぱり、お姉ちゃんだ!」
「お姉ちゃん、今日はどうしたんですか?」
ゆりが僕に抱き付き、みわが礼儀正しく「こんにちは」と挨拶してくれた。
「こんにちは。今日はここで皆と遊ぼうと思って」
「ねー、ユーリ。二人は知り合い?」
「お姉ちゃんって言ってますけど」
「あはは。うん、知り合いだよ」
ウサミミと桜海ことオミが僕に聞いてくるので、笑ってなんて説明しようか悩む。
「お姉ちゃんもお姉さんたちと同じ部活ですか?」
賢いみわが小首を傾げて聞いてくる。可愛い。
「うん、そうなんだ」
「今日はカード持ってきてないので、残念です」
「学校に持って来たらダメみたい。学校からそのまま来るから持って来てないんだー」
話ながらも僕をよじ登ってくるゆりのお尻を支えて落ちないようにする。怪我しないように気を付けないとね。
「二人はいつもここに来ているの?」
僕らが知り合いで話している間に、セッピーは子供に連行されていった。
先輩たちはそれに慣れているようで、僕に二人を相手にするように言って、それぞれ別れていくつかのグループとなり何かを話している。きっと遊ぶ内容について。
「いつもじゃなく、たまにです」
「うん。いつもだったらお姉ちゃんとも遊べないしね」
僕らは特に約束した訳ではなかったけど、放課後に始めてであった公園でカードゲームで一時間程たまに遊んでいる。もちろん、二人は一旦家に帰っている。
「今日は何して遊ぶ?」
「カードはないですし…」
「それより、お姉ちゃんのエプロン可愛いね」
「ん、ありがとう」
みわは真剣に考えているのに、ゆりは遊ぶことよりも僕に会えたことをまだ喜んでいる。嬉しいけど、みわも放っておけない。でも、可愛いって誉められて嬉しい。針で何回も指を刺しただけあるね。
「よかったら、宿題を見てもらえませんか?」
「えー、勉強?」
「今日はお姉さんたちが来てますし、ほら」
そう言って、遊戯室を指す。ドッジボールをするグループと縄跳びをするグループの二つで場所を大きく使いそう。子供たちもその二グループに別れていた。
「二人は皆と遊ばないの?」
「私たちはお姉ちゃんがいいです」
「お姉ちゃんが一緒ならいいよー」
僕のほうが良いって言われるのは嬉しいけど、皆と遊ばないのはどうなんだろ。始めて遊んだ時も結局二人だけ別れていたし。
皆とあんまり仲良くないのかな。まさか、イジメ?でも、そんな感じでもないけど。可能性はゼロじゃないよね。
「お姉ちゃん。まさか、イジメとか思ってますか?」
「えっ、まさか」
なんで皆僕の考え分かるのかな。今日だけで三回目だよ。ちなみに一回目は桜でした。
「イジメはないです。少し距離はあるけど、普通に話すし遊びますよ」
「そーだよー」
「まあ、お姉ちゃんが思うような事はないです。私はこんなだし、ゆりもそんなだから。そこは仕方がないでしょう。年齢が上がったら、そうなるかもしれませんがなんとかなります。いえ、してみせます」
みわが笑顔で話すけど、最後の笑顔はなんだか怖かった。
「えと、みわちゃんが大人っぽくてゆりちゃんは子供っぽいと?」
「そうです」
だから、始めのあれそれを聞いてみた。うん、さっきの笑顔は気のせいかな。
「お姉ちゃん、そんなことより宿題見てくれるなら実習室行こう。案内したげる」
ゆりは僕から降りて手を引いてくる。勉強が嫌みたいな言い方だったのに、僕がいるからするみたい。
やっぱり、二人が他の子と距離があるのが心配。あとで先輩に相談したほうがいいかな?
「今日は算数の宿題です」
「こことこの二ページ」
「えーと、う……」
なに数年でこんなに難しくなってるの?文章問題なのに、なんて分かりにくい文章なの?
「お姉ちゃん、もしかして分からない?」
「ゆりと一緒だねー」
英語の宿題じゃないだけマシだし、算数は僕も出来た。所詮二年生の宿題だ。うん、出来る。
「えっと……」
「ここは、この式で良いですよね?」
「え?うん、そうだね」
なに、この賢い子供。僕なんていらなかったんじゃないかな?スラスラ解いてるし。
「お姉ちゃん、助けてー」
僕に凭れて助けを求めるゆりが心の安らぎだ。
「これは、この式でいいはず。だよね、みわちゃん」
「はい、合ってます」
「良かったー」
そしてみわに確認を取りながら、一時間もせずに宿題は終わった。なんか疲れた。年下に教えるのって、こんなに精神的に疲れるの?間違えたらいけないってプレッシャーが凄すぎるよ。
その後、僕らは遊戯室へ再び戻り縄跳びをして遊んだ。みわは文武両道で、ゆりは運動が得意だと判明した。
子供たちと別れて、学校への帰途の途中で二人の関係を聞かれたのは言うまでもない。カードゲームまで話す結局となった。美夜が買ってみると言っていたので、カード仲間が増えそうなことを喜ぶべきなのかな。
この流れで二人と他の子供との距離を相談するべきだったけど、結局出来ずにいた。
心配しすぎかもしれないという思いと、ウサミミたちが始めの触れ合いで楽しそうに話していたので、雰囲気を壊す気には慣れなかった。また落ち着いた時に相談してみよう。
セッピーは帰りは無言。未だに息が荒い。不審者で捕まりそうなくらいに。歳だから?とセッピーを見て思ったら、悪寒がしてすぐに視線を前に戻しました。怖すぎる。