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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
生産と借金生活、時々メイン
39/123

エプロンと《建築》

 日曜日。今日はウサミミと優希の部員二名と共に安さで有名な全国チェーンでもあるファッションセンターにやって来た。

 目的は勿論部活で使用するエプロン。訪問時は基本的に、男女・学科で差異がない実習服を着ていくと説明されている。その上にエプロンを着用するみたいで、今日はそれを買いにきた。


「ユーリにも可愛いの選んであげる」


 ウサミミの言うように、選ぶポイントは子ども受けする可愛いものや人気キャラクターがプリントされている物。ただ、大人向けのエプロンだとなかなか条件に適した物がないので刺繍やアップリケなどで可愛く仕上げているらしい。


「ほどほどにね」


 どういう訳か、僕のエプロンを二人が選んでくれることになったので、今日の僕はマネキンとしてここにいる。


「えっと、エプロンはあちらですね」


 優希もさっそく移動して選ぶ気まんまんだ。

 まあ、この間のように下手に僕の服をコーデしないだけマシだけどね。優希は常識人だと思うから安心していられる。


「あ、ここですね」

「えっと、僕はこの辺ので」

「なに、シンプルなの選ぼうとしてるのかなー」


 男女兼用の装飾も少なめな物を見ようとして、直ぐに阻止された。刺繍で少し飾り付けようと思ったのに。まあ、僕よりも可愛いもののセンサーを有する女性に任せるつもりだったから良いけどね。


「私はこれにしますね」


 僕とウサミミで意見を言いながら見ているうちに優希が自分の物を選んだらしい。

 含羞(はにか)みながら手にしたエプロンは、青のチェック柄。ボーイッシュな服装をしてきた優希には似合いそう。これに少し装飾すれば充分だと思う。


「ユーリ、こっちこっち」


 そして、大人向けのコーナーでウサミミの感性にあった物が無かった様で、子ども向けのコーナーに。いや、確かにデザインは子ども受けだけどさ。


「私も手伝いますね」


 あっさり自分の分を確保した優希も参戦。ひょっとしたら、ウサミミに選ばせたら危ないと勘が働いたのかもしれない。こっちの僕にも《勘》があればいいのに。


「あたしはこれかなー」


 ウサミミが自分で選んだ物は、長年年代問わず好まれている猫のマスコットが描かれているもの。あれなら、僕も着れるかな。樹からそのマスコットのぬいぐるみを数匹貰っているから、僕としても好きなキャラクターだ。

 ちなみに、部屋にたくさんあるぬいぐるみのほとんどは樹からのプレゼントだけど変な意味はないよ。クレーンゲームの景品を貰ってるだけ。ベッドには抱っこ出来る子も二匹いるけど、抱いて寝てはないからね。


「ウサミミのなら僕も着れるかな」


 エプロンサイズは160なので僕でも着れるし、あれなら抵抗もないから、そう誘導する。


「ユーリはもっと子どもっぽいもので良いよ」

「ユーリさんにはこれなんてどうでしょう」


 優希が差し出したのは、僕がカードゲームで遊んでいる『アイドル☆エッグ』。通称『アイ(タマ)』だった。

 アイドルの特殊衣裳であるメイド服をモチーフにしたのか、フリルが多い。プリントはないけど、デザインで可愛さを出している一品。当然、シンプルな物よりも値段は高い。


「オミ、ピンクに白フリルよりも、黒に白フリルが王道だよー」


 色は二色。サイズは150であったらしい。それを二人して僕に向けて交互に見ている。もう、これで決定みたい。


「ウサミミさんの方が良いですね。ユーリさんにピッタリです」


 始めに見つけた優希もそれで納得したようだ。その後も、何種類か見てくれたけど結局はフリルが多いこのエプロンに決定した。僕からしたら、もっと変な物を選ばれると思っていたので文句はない。優希はともかく、ウサミミは場のノリで選びそうな感じだったから少しは心配していたんだよね。まあ、可愛すぎるのは否定しないけど、カードにあるものに近い物を見て僕としても嬉しい気持ちもあった。

 値段は大人向けのエプロンよりも子ども向けのエプロンのほうが高いのには文句が言いたいけど、満足です。


「じゃ、また明日」

「はい、明日の部活で」

「今日はありがとうね」


 昼食を食べて、少し会話して別れる。二人とも、午後から予定があるみたい。



     ***



 そして、とくに予定もない僕は『プリハ』の世界へと降り立った。

 日曜日と言う事でプレイヤーも多いと思われるけど、さすがにフィールドだけでの活動には限界がある。耐久度も回復しないといけないしね。

 だけど、最近護衛としてパーティーを組んでくれているヴィーナスは用事があると言っていた。夜には時間取れるらしいけど、僕にばかり時間を使わせる訳にもいかない。

 それにしても、暇人は僕だけなのかな。別に寂しくはないもんね。


「残りの生産は首都だけだね。クエストの報告にも行かなきゃだし。逃げてばかりもいけないね」


 プリハ時間で朝の六時。獣人も起きて活動を初めている時間なので、今から首都に走っていけば丁度いい時間だと思う。

 ヴィーナスと向かった三つの街を含めて修得した生産を補足して説明すると以下の通りとなる。


 最初の村『ハジリ村』…《製薬》と《農林業》。

 交通中継の村『サドロイ村』…《裁縫》と《料理》。

 副都心『アネサス』…《彫金》と《魔装》。

 炭鉱街『アナスル』…《鍛冶》。


 ざっと大きい括りだけでこれだけある。メインクエストのお使いで各街に訪れた際に修得したけど、結構大変だった。手紙は無事に全部配達出来たのであとは報告だけとなった。『アネサス』の副族長は感じ悪い人だったけど、トラブルにはならなかった。


「さきに変装しなきゃ」


 変装と言ってもファッション装備を変更するだけ。LiLi=ワンピース姿がプレイヤーに浸透しているので、初期ファッション装備を着用する。これだけでも、人の目を誤魔化せるとヴィーナスにアドバイスを貰っているので信じてみる。


「じゃあ、首都に向けてレッツゴー!」


 首都までは安定の《獣走》で駆けていく。疾走感が気持ちいい。最近の移動に《獣走》を多用していて、二足歩行が疎かだけどリアルで歩いてるから大丈夫だよね。

 数十分使い首都に到着する。以前は移動だけで時間がなくなっていたけど、技能レベルがあがったのと、プリハ時間の導入でかなり時間に余裕が持てるようになった。


「まずは耐久度回復して、先に生産かな。メインに期日ないし」


 生産の基本講習だけでも数十分から数時間と内容によって変わるので、時間がある内に受けておきたい。《料理》は三十分も掛からなかったけど、《農林業》は幅がありすぎて実質六時間掛かったからね。基礎だけでそれだけ掛かるのだから、極めるにはいったいどれだけ時間を費やせばいいのだろうか。


「人が多いけど、まだ気付かれないね」


 通り過ぎる人は僕だと気づかない。なんだか、有名人のお忍びの様に感じるのはこの数日のせいだと思う。早く普通に歩きたい。

 【羽根つき帽子】を目深に被る様にしながら、ストリートの端を歩いて防具店へ入る。鑑定や修繕なども生産技能で行えるけど、場所がない。キンリーなど一部の生産者のように無料で貸してくれる人の方が珍しいのだから、仕方がない。


「防具一式の修繕お願いします」


 帽子も解除して店員に渡して、そわそわと辺りを見渡す。プレイヤーが九人はいるけど、幸いなことに自分の買い物に夢中みたい。自惚れてはないけど、騒がれた時を思うとドキドキして僕も商品を見る振りをする。


「お待たせ」

「ありがとう」


 料金を払い店を出る。

 途中の屋台で【蜜蝋の樹】と【草猪の串焼き】を買い、食べ歩きをしながら散策。


「あのボア肉がこんなに美味しく。レシピ教えてくれるかな」


 料理を始め、生産レシピは自分で開発する方法と住民に聞く方法がある。あとは本や宝箱などから情報を収集する方法だけど、これは前者二つよりも大変らしい。図書館なんてないし、本は高いしね。

 住民に聞く方法も、お店をしている人からは難しい。そりゃあ、商売の生命線だから仕方がないけどね。


「聞くだけはタダだよね」


 それでも、顔馴染みになれば希望があるとは料理の先生であるディルの言。だから、首都に来たときはなるべく買おうと思う。僕が作った料理を食べて顔をひきつらせたディルを見返してやる。

 生憎、蜜蝋は樹木の枝をそのまま販売しているので料理ではない。


「それよりも生産現場は……そこかな」


 生産職のネットワークなのか、どこで何を教えてくれるかは既に聞いている。

 この首都『アルナード』では《建築》と《製本》を修得できるらしい。《建築》はそのままだけど、《製本》が今いち分からない。本をつくる生産なんて意味があるのかな?まあ、コンプリートするつもりだけどね。


「大きい……」


 辿り着いた建物がまず大きい。族長の家よりも大きく、外観も豪華。そして、その横には丸太や石が(うずたか)く積まれており、加工場には屈強そうな獣人が何人も丸太を板に加工したり、石を研磨していたりする。


「あのー、こんにちはー」


 恐る恐る尋ねると近くの男性の獣人が僕を見て近寄ってくる。大きい。ガッシリと筋肉で横幅もあり、身長も二メルスはあるかもしれない。


「なんだ嬢ちゃん。危ないぞ」

「えと、《建築》を習いたくて来たんですけど」


 僕がそう言うと、男性は僕の身体を見てくる。うん、言わなくても分かるよ。《農林業》や《鍛冶》とかで言われたしね。


「小さいし、筋肉もないが出来るか?」


 やっぱり、まず心配するのはそこらしい。リアルなら、まず無理だね。


「うん、大丈夫。だから、お願いします」

「ああ、待ってろ。棟梁を呼んでくっから」


 ここだと、実力主義なので年齢や見た目では判断されない。基礎講習に不真面目だと追い出されるみたいだけどね。当たり前かー。


「よう、お嬢が習いたいってか?大丈夫か?」

「はい!」


 さっきの男性はゴリラの見た目で力がありそうだったけど、棟梁は細身の豚。頭に鉢巻きをしている部分だけ、大工らしく見える。さっきの男性のほうが棟梁に相応しい雰囲気があった。


「では、すぐに取り掛かるか。まずは鑑定と製材だな」


 基礎講習の初めの取っ掛かりは鑑定が基本みたい。鑑定で品質を見て使えるかや種類を分けていく。

 木材には柔・普・堅と朽の四種類の状態がある。

 柔は飾り細工に使ったり、安い弓に利用するみたい。普・堅は建築や弓の素材。橋や船にも使用されるみたい。あとは木炭にすると説明を受ける。朽は腐った木材で、土に混ぜて肥料に使用。そのまま放置していたら幼虫の住処となるので、すぐに砕いて肥料用として販売するらしい。

 建物素材には防湿に優れた【ギルス樹】か防音と香りが良い【ヒルギル樹】の二種類が基本らしい。族長の家は稀少な防湿・防音、さらに衝撃緩和と温度調節がある程度効果があるチート素材の【カマシ堅樹】が用いられているとのこと。防火対策は石材、保温は椰子系の繊維質の樹皮を使用するらしい。


「種類と状態は分かったか?」

「はい!」


 僕が鑑定したものを再度鑑定し、間違えてはないか確認される。


「よし、ギルス樹を一本こっちに。移動したら、皮を剥いでノコギリで切っていってくれ」


 短めの丸太を指差してくるので、鑑定で確認して移動する。人によっては違う素材を指差してくるから、気が抜けない。

 専用道具を借りて皮を剥いで、厚さを設定して切っていく。《鍛冶》などもだけど、ハンマーで打ったりノコギリを牽いたりするときはリズムゲームを採用しているのか、光った瞬間にタイミングを合わせないと失敗や品質低下に繋がる。これがなかなか難しい。このあと、カンナを使用した時もリズムを合わせた。

 板を作ったら、溝を彫って組み立てたり扉を取り付けたり。建物は基本的に釘は使わないみたいだけど、扉には蝶番を使用した。鍵も取り付けたけど、どちらも《彫金》で製作するみたい。

 簡単なミニチュアハウスを作ったら、今度は石材を同じく鑑定し加工。こちらは、城壁のように石積のやり方や粘土を利用して接着し石室を作った。土壁や複合建設なども学ぶ。これだけで二時間もかかった。


「石室は暗所とも利用出来るぞ。地下を作るには確りと厚みを持たせ、硬いが割れにくい【アチヅ硬岩】を使用したほうがいい。次は風呂造りか」

「お風呂!?」


 ここでお風呂を聞くとは思わなかった。建設だからあっても不思議じゃないけどね。

 そして、聞いた方法は基本的に井戸掘りと同じ。井戸よりも深く掘るけど、汲み上げはしなくても溢れてくるらしい。水で温度調節。

 お風呂造りがまさか、温泉掘りだとは思わなかった。


「こことアナスルの共同浴場もこうやって作ったからな」


 僕がよく利用する共同浴場も棟梁たちの手によって造られたみたいだった。獣人はぬるま湯か水風呂を愛用しているけど、プレイヤーにはぬるいと不評だった。僕としては、入れるから文句はなかったけど、これで適温で入れるかもしれない。


「次は柵作りや補修か」

「柵?」

「ああ。家畜の柵もだが、もっとも重要なのが魔除けの柵だな」


 魔除けの柵って、魔物が来ないようになるのかな。


「各街を囲む様に柵があるだろ」

「うん、逆茂木と柵に囲まれてるね」


 獣人らしさを出す演出だと思っていたら、どうやら違ったらしい。


「あれらは【魔抗木】と呼ばれる魔物が嫌がる臭いを放っている樹木だ。まあ、強い魔物には効果が薄いから逆茂木と巡回で警戒はしているがな」


 レアモブには効果が薄いのかな?どうやら、柵だけだと突破されることもあるみたい。


「自分の敷地を持てば、許可のない奴は入れないが強い魔物は入ってくる。そこで特殊な技能で封鎖することもあるな」

「特殊な技能?」


 許可のない人物が入れないのは、プレイヤーハウスを荒らされない対策だと思うけど、自然の災害には対処しないみたい。聞いておくべきことだよね。


「ああ、エルフどもが結界と呼ぶやつだな」

「えと、それって僕らには使えないってこと?」


 ファンタジーらしいけど、それは酷しい。でも、それが種族の特徴だから仕方がないのかも。


「いや、獣人にもどれだけか似た効果を使える奴がいるがな」

「似た効果?」


 そう聞いて、知っている技能を思い浮かべる。


「あ、《マーキング》?」


 いや、でもあれは探知と付与だったはず。しかも効果時間や範囲は狭い。まだ、レベル1のままだからどうか分からないけど。


「それを知っているのか?だが、ハズレだ。《マーキング》の上位技能だがな」


 そう言って棟梁が笑う。だけど、技能名は教えてくれなかった。貴重だし、それ以外にも理由があるみたいだった。

 悶々とするなか、柵作りを習い終える。


「もし、お嬢が土地を買ったら柵は土地の目安としてタダで付けるが補修は自分でやりな」

「うん。それで、どこで土地って買えるの?」


 技能が気になったけど、土地も気になった。

 だって、いつかはプレイヤーハウス持ちたいしね。


「ここで販売している。一覧を見るか?」

「うん!」


 ここで販売しているなんて思いもしない。いや、土地と建物を販売しているのは普通かな。不動屋さんと同じだし。


「これがこの街の一覧だ」


 一覧は一番高い物から順に載っている。


「一番安くて建物なしで五十万リゼ…」


 しかも十五メルス四方で。小さい家しか建てられない。庭は無くても、駐車スペースは心配しなくてもいいけど出来たら生産スペースは欲しいから広い土地が欲しい。


「もし、この五十万の所に建物建てたらいくらですか?」

「ん?地下や二階を作らないことを考えても二百万は最低するな。もちろん土地代とは別だ」

「そんなに……」


 獣人の家に二階が少ないのはお金が掛かるからなのかな?


「言っとくが、地価はこの首都が一番高いからな。一番安くて炭鉱街だが、あそこは鉱山で働く奴の場所みたいなものだしな」

「えと、他の街の値段も見れますか?」

「いや、街中の販売地はその街で取り扱ってる。街以外なら、共同で取り扱ってるが」


 他の街の値段が気になるけど、街以外ってフィールドかな?街中だと土地に限りがあるしね。


「フィールドなら、どこでも売っているんですか?」

「どこでもじゃないな。かつての集落跡などだな。住民にとって遠かったりで買い手が付きにくいし安めだが……」

「だが?」


 なんだか、いいよどむ棟梁の続きを聞くのは恐いけど。聞いた方がいいよね。


「曰く付きなことも多いからな」

「曰く付きって、お化けが出るとか?」

「アンデッドが出たら流石に売らねーよ。ただ、不作で村を離れたとか子どもが出ていって維持が大変など軽い理由から、疫病が流行ったとか川の氾濫で流されたとか色々な。一番安い土地が疫病の集落跡だ」


 聞けば五百メルス四方で二十五万と格安。いまなら、十七万にまけてくれるとまで言われた。そんなに安くても買い手が付かない。疫病の菌がまだあるかもしれないって思うと、僕も住みたくはないね。


「えと、一覧見せて貰っていいですか?」

「なんだ、興味あるのか?」


 そして見せて貰った土地は、首都なんかよりも広くて安い。以前何があったのか理由まで書いてあるので安心。これ、またその土地でイベントあるのかな?


「どうだ?」

「軽い理由って言うのは高いね」

「まあ、そうだな。それでもここよりは安いがな」


 首都の最低価格と同じくらいか。だけど、土地の大きさが広い分、同じ首都の面積と同じ値段だとしてもまとまると百万以上はどれもしている。


「ここは分譲なんだ」


 いくつか分譲の土地もある。その中で目に付いたのは四区画に分けられた土地で、一つでも安い。理由は、川の氾濫。

 なぜ目に付いたかと言えば、二区画の川沿いに面しているほうには、所々熱源がありと書かれていたから。日本でも、川の砂を避けたらお湯が湧いてくる場所もあるし、確実に温泉が見つかるかもしれない。川沿いだから、水の心配もない。


「そこか。かつては街があった場所だな」


 集落ではなく、街。土地の広さから見ても納得。


「だが、川の氾濫で大部分が流れて人が避難したせいで廃墟になったな。当然何人も死んでる。他には、川の向かいが人間領なのも不人気の理由だな」

「人間領?」

「ああ、川幅が狭くても百メルス以上あるが人間が見えるかもしれないのはみんな嫌がるしな。以前は監視と兵士の拠点として発達していたみたいだが。それだって大戦時の話だし、氾濫から五十年は経っているな」


 川幅が狭い場所は当然流れも速いから、直接の侵攻はない。魔術はともかく、矢による攻撃は届くだろう。だけど、それも今はない。同じく向こうの街も流されてから開発の手がないらしく、同様に無人だとのこと。


「でも、また氾濫があるかも?」

「可能性はあるが、今は技術も発達したからな。きちんと防堤を気付けば大丈夫だ。街の時は川沿いのみ高い壁を設けていたらしく、川上からの濁流に呑み込まれたみたいだしな」


 土地を買ったら防堤を築いたらその分土地が減る。でも、それを考えてもお徳。お金ないけど。


「安くなったりはしますか?あと、分割払いとか……」


 値引きできるかな?疫病の所は安くなったし。川沿いの二区画を指差して質問する。


「川沿い五百メルス四方で二十七万。八百メルス四方で三十五万の土地か。これだけでも安いが、二十五万と三十三万か」


 合わせて五十八万なら安いけど。


「二つ買えば……うーん。よし、五十万で。これ以上は無理だ。四つ共なら九十万だが?いま、一部で土地を買おうとしているって情報もあるから、これから上がるぞ」


 プレイヤーが自分の家やギルドハウスを買う為に情報を集めているのは知っている。

 陸地側だと五百メルス四方が三十万と二百メルス四方が十八万。全部含めて九十八万だから、安くはなってるね。

 千メルス四方が九十万は確かに安い。首都で一番広い面積だと二百万メルスで四百万以上。それも首都の端のほうでだ。千メルスで一リース。つまり、一キロメートルの換算。


「首都からここまでどれだけ距離ありますか?」


 安くても立地がね。移動時間が掛かりすぎるのはね。首都から『ハジリ村』まで約十リースで十分くらい。小川まで約五十リースくらいかな。《獣走》利用だから三十分くらいだけど。それ以上だと、スタミナ回復も考えないといけない。


「だいたい百から百十リースくらいか。……それなら、簡易サークルを二十万の所、半額で販売してやる」

「簡易サークルってなに?」

「知らないのか?街中に石で出来たサークルあるだろ。他の街に行ける装置」

「うん」

「あれは太古のもので、まだ解析が十分じゃないが。主要な部分だけは解析が済んでる。それをもとに、小さいサークルで領地の首都にあるサークルにだけは来れるように開発が出来てる。大量生産はまだ出来ないが、それを売ってる」

「すごい。でも……そんな大金ない」


 五十万すらないんだけどね。


「頭金で十万。二週間で五万。一ヶ月で0.05パーセントの利子。一ヶ月以内に十五万払えば、その月の利子はなしで、翌月から再び利子を計算。一ヶ月滞納で、権利没収し金銭の返還なし。かなり優しいが、どうだ?」


 もし仮に百万としたら、利子は月五万。月十五万払う事を考えたら先に払えばいいよね。

 頭金で十万。月十五万。半年計画か。いや、後からならお金稼ぎはもう少し楽だと思う。なら、今だよね。すでに最低二区画は買うことは決定。隣接した土地を買われるのもなんか勿体ないから購入したい。

 初めの月をどうするか。頭金と月額で二十五万なんて、当然持ってない。


「川沿い二つは買いたいけど、残り二つはキープは……」

「流石に無理だ」

「だよね。うーん、ちょっと、待ってて下さい」

「ああ、確り考えな。ゆっくり過ぎても買われるかもしれないがな」


 向こうは商売だもんね。僕が買わなくても、きっとプレイヤーなら買うはず。でも、目先に興味を示している僕がいるのだから、買わせたい。売れなくても、五十年も買い手が付かない土地だったなら売れれば儲けものって感じなのかも。うーん、また流されているような?

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